私達はヤド殿を追って、ヒワダタウンから少し離れたヤドンの井戸と呼ばれる場所へと辿り着いた。
今、そこの入口を塞ぐヤドンに対して主が説得している。それを私は後ろで見ていた。
…ヤド殿はどうしたのだろうか?その疑問が頭に浮かぶ。抵抗もせずにヤドン達に運ばれていく彼女を見るにこのことは承知だったのか?ならば予め言って欲しかったな。
…もしかするとこのままあの約束は有耶無耶になってしまいそうだ。あの約束とはコガネを出てすぐの時の話だ。あの時ヤド殿は『強い技を教える』と言ったからあの場は彼女の同行を許したというのに。
そんなことを考えている時にふと隣のつー殿が目に入る。彼女はぼーっと主とヤドンの方を見ている。…先程とは大違いののんびりとした瞳だ。
先程ヤドン達が私達に近付いた時…つー殿の瞳はとても鋭かった。私よりも早く戦闘態勢を取っていた程だ。まぁ結果として私とつー殿の考え…主を襲う敵かという予想は杞憂に終わった訳だが。
「…んー?どうしたのー?ろすろすー」
「あ、いや…主は大丈夫かなと…」
私がつー殿の方を見ていると彼女もこちらを向き、どうしたのか聞いてきた。それに対し私は今考えていたことをそのまま口にする。するとつー殿はゆっくりと答えを返した。
「………まー大丈夫でしょー。…いやー、ろすろすは主思いだねー」
…最後の方は私へのからかいだろうか。ニヤニヤしながら私に言ってくる。べ、別に心配してる訳じゃないぞ!…それに主思いなのはどっちだ。つー殿も同じ様なものだろう。
しかしつー殿の大丈夫という発言は信頼の出来るものかもしれない。主とヤドンの様子も見る限りは悪くなさそうだ。…つー殿はたまに普段ののんびりとした様子からは想像できない程鋭いのだ。………私と初めて会った時からそうだったな。
「つー、ろすろすー。どうやら入っていいらしい…よ?」
主が私達に呼びかける。…やはり大丈夫だったようだ。そして入口にいたヤドンが中に入り、私達を手招きしている。主が手招きに従い中に入っていく。それを見た私とつー殿も続き、中に入るのであった。
~
井戸と呼ばれているからには中は薄暗いものかと思ったが中は明るかった。そして私達が向かう先からは騒ぎ声が聞こえる。
「ささ、どうぞー」
騒ぎ声が聞こえる前の階層の場所で私達を案内していたヤドンが入口へと戻っていく。それを主は目で見送り、私達の方を向いた。
「…どうする?」
「どうするってさー、行くしか無いでしょー」
主の問いに対しつー殿が答えた。彼女の言う通りだ。行くしか無かろう。私は彼女の考えと同じことを口にする。
「だな、ヤド殿にはどういうことか話して貰おう」
「…だよね。よし、行こうか」
主が意を決して下の階に降りる。下の階に降りて見えたのはヤドン達が笑ったり、騒いだりしている姿だった。側には食べ物や飲み物もある。その様子に驚いていると私達はヤドン達に絡まれる。
「お頭のトレーナーさんだー、さぁどうぞー」「いや、僕はお酒は…」「むむ、ならこちらをー」「………これは中々」「でしょー」
主がヤドンに勧められた食べ物に目を引かれ、ヤドン達の輪に混ざっていく。…やれやれ、主は流されやすいからな。つー殿とヤド殿を探そう…
「…おー、うまー」
いつの間に貰ったのだろうか。つー殿は飲み物を手にしていた。…そしてヤドン達に新しい飲み物の容器を貰い、また口にしている。…これはつー殿も駄目かもしれない。
その様子に私は呆れて私自らが探すしかないなと決心する。…さて、ヤド殿は何処だ。私はヤドン達に勧められる食べ物や飲み物に目を引かれつつも我慢して辺りを見渡す。
………いた。ヤド殿が奥で何か摘まみながら大きな兜の様なものを被ったヤドンに似た萌えもんと話している。そこへと私は向かう。
すると近付く私に気が付いたのかヤド殿と兜の萌えもんがこちらを向き、私を呼ぶ。
「ようこそ、ろすろす殿。さぁどうぞー」
「…要らん。これはどういうことだ」
ヤド殿が食べ物と飲み物を勧めてきたが私はそれを拒否する。すると兜の萌えもんが小さく息を吐いた。
「…ようやく話が出来そうな奴が来たな。この馬鹿とは違って」
「…はは、酷いですぞ。ヤドラン」
「お前の様な奴は儂は知らん」
兜の萌えもん…ヤドランはヤド殿を一瞥して冷たく言い放った。一方、ヤド殿は全く気にしていない様だ。
「むむー、長年の付き合いなのに…」
ヤド殿がそう呟くと自分の容器に飲み物を注ぐ。そしてそれを手にした。
「えっと…ヤド殿。改めて聞こう。これはどういうことだ。貴女は…」
二人の関係に今一入りきれない私は改めて話を切り出す。すると兜の萌えもんが私の話に同調した。
「そうだ。…何故戻ってきた」
「…んー、質問が多いですなー。ではまずヤドランの質問からー」
「ヤドは戴冠の儀を受けに来ましたぞ」
そう言ってヤド殿は笑い、飲み物を口にした。