穏やかな音ではなかった。
その音を聞いたアタシは立ち上り、音が聞こえた方向をじっと見る。アタシの急な動作に周りの奴等が驚く。
「…姉さん?どうしました?」
「………お前らは何も聞こえないか?」
アタシを座りながら見ているコイツらの見る限りあの音はコイツらには聞こえないのだろうか。アタシの気のせいか…?いや、でも確認はした方が良いか。
「…ちょっと散歩でも行ってくる」
「あ、姉さん!?ならお供しますぜ!」
周りの奴等が私に付いてこようとしている。しかしあの音はコイツらには聞こえてない様だ。ならば連れていくのは邪魔になりかねないし、コイツらを傷付けてしまうかもしれない。
「…別に要らねぇ。散歩だからな…付いてくんなよ」
「で、でも…」
「くどい。…ここにいろ」
尚食い下がるコイツらに対して釘を刺してアタシは…
怒りの湖の水中から姿を現した。
~
気のせいなら良いんだ。アタシは軽く潜り、水面から周囲を見渡す。だが今はアタシの計画の最終段階…油断は出来ない。この状況を邪魔する人間も現れるかもしれないし、アタシの物珍しさに近付くトレーナーも現れるかもな。
アタシは自分の髪を見る。…赤だ。頭の飾りとこの長く伸びた赤髪はアイツら…普通のギャラドスとは異なるものだ。だがこの姿に少しは感謝しなくてはならない。
ここ…怒りの湖において赤いギャラドスというのは伝説の存在らしい。ホロン地方からここへ迷いこんできたアタシを慕い、頼りにしているコイキングやギャラドス達からも分かるがその伝説というのはアイツらにとって偉大なものの様だ。
頼りにされるというのは悪くない。ここまで大きく頼られるのはこれで二回目だ。
一回目の箱入り娘の白いドレスの少女…アタシのトレーナーを思い出す。…姉さんは無事だろうか。アインスやツヴァイやドライが付いているのだろうか。
…ツヴァイは付いていても駄目だな。アタシはあの情けなく甘えん坊なアイツを思い出し、軽く笑う。
そう…今、湖の水際で湖に入ろうとするがビビって入れないアイツみたいだ。それを見守るトレーナーと萌えもんの姿も見える。
………
………何でここまでトレーナー通してんだぁ!!アイツらは!?
見張りを任せた部下のギャラドス達に心の中で毒づき、あのトレーナー達を見る。どうにかして追い払わないとな…ガキみたいだから申し訳ねぇが…
…ちょっと脅かすか。アタシは更に深く潜り、あのトレーナー達に近付く。ガキみたいだし目の前でちょっと水か炎でも吐いてやればビビって逃げ出す筈だ。
そしてあの情けない萌えもんが再び水面に近付いた時、アタシは姿を現して大きく吠えた。…これで逃げな。やっぱりガキ相手に攻撃は悪ぃからな…
しかしその萌えもんはアタシに引っ付いてきた。…おい、予想と違うんだが!?
それを見守っていた萌えもんはアタシの方を見据えている。…そう、そんな感じのリアクションが良いな。………あれ?アイツはまさか…
そしてトレーナーの方はアタシを確認するとこちらに詰め寄って来る。アタシを見ても怯んで無い。………嘘…だろ?その活動的な服装を纏った少女は…
「あ、姉さん!?どうしてここにいるんですかぁ!?」
…姉さんだ!服は違うが顔は姉さんだ!じゃあアイツはドライか!…でアタシに引っ付いてるコイツは誰だ?まぁそれはどうでも良い。アタシは驚愕の事実に固まる。そんな中でも姉さんはアタシに詰め寄って来ている。
「フィーア…あんたね…」
「………誰が胸が貧相よ!!!」
アタシはぶん殴られた。
あぁ…
姉さんだ。これは間違えなく姉さんだ。あの時みたいにこう怒る姿は姉さんだ。アタシは殴られながらも感極まり、目頭が熱くなる。
殴った勢いで姉さんがアタシに寄り掛かる。そして小さく呟いた。
「………心配したのよ。大丈夫だった?」
「…こう言えば姉さんはアタシを殴りに来てくれるかなと密かに願ってました」
「そんなことせずとも行くわよ…馬鹿」
~
「で、コイツがツヴァイであの音はお前が!?………でっかくなったなー、お前…」
無事姉さんと再開したアタシは姉さん達と話を始める。どうやら最初に聞こえた音はツヴァイの電撃らしい。今のツヴァイにそこまでの力量があるのか…やるじゃねぇか。
しかしこれでアタシの計画…ギャラドス達を率いてホロン地方へ進出する計画は中止だ。アイツらにはどう話そうか…。目の前の大きくなったツヴァイの頭を軽く叩く。
「…う、うん。フィーアねーちゃんは相変わらずだね…」
叩かれながらもツヴァイは満更でも無さそうだ。続けてドライの方を見る。こちらを冷たく見つめている。
…んだよ。その目は。お前は変わってねぇな。そのことに少し嬉しくなる。が、その目は気に入らねぇな…!
「おい、何見てんだコラ」
「…貴様が面倒な奴だから呆れているんだ」
「…あぁ!?テメェ…!」
「…二人とも!止めなさい!折角会えたのよ!」
姉さんがドライを睨む私を止めるが、それをアタシは軽く受け流す。
「ま、軽い腕試しっすよ。なぁドライ…」
部下のギャラドス相手じゃアタシにビビってまともにバトルにならないからな。ドライ相手なら良い腕試しだ。…バトルの勘を戻すにはな!
「お嬢…」
ドライは姉さんの方を見る。そして姉さんが軽く首を振るとドライがこちらを向いた。
「…軽くな。いいだろう」
ドライが構える。アタシはそれを確認すると近くのツヴァイに対して離れる様に手でサインをし、それを受けたツヴァイが姉さんの後ろに離れる。大きくなっても変わらねぇなアイツ…
「…行くぜっ!」
アタシは噛み砕くを狙うため、ドライとの距離を詰める。詰めすぎは駄目だ。アイツのサイコカッターの間合いに入ってしまう。以前の経験から私はドライへの作戦を立てる。非公式戦だ。やりたいようにやらせて貰うぜ…!
一発牽制で二回目を本命にすっか。どうせ避けられんだろ、ドライ相手なら…。軽い攻撃で動かし、そこを噛み砕くで突くか。アタシは距離を詰めると右前に飛びそちら側からドライへと噛み付くを…
おい。
何ビビってんだよ…
ドライはアタシの攻撃に対し、体が固まった様に動きが鈍くなり、アタシの噛み付くがヒットする。牽制目的の軽い攻撃だったからかダメージはあまり入っていない様だが…
そのドライの様子にアタシは追撃の噛み砕くを忘れてしまう。ドライは態勢を立て直しているがこちらを見ているだけで仕掛けてこない。…こちらが攻撃を忘れている状態だぞ?ドライ…!
なぁ、お前…
「………弱くなった?」