「…マスター!」
萌えもんセンターにおいて回復を終えた私は職員さんにボールを受け取ってから話そうとしないマスターに呼びかける。ライもそんな様子のマスターを不安そうに見ている。
「…はっ!エ、エレ…。ここは…」
ここは…ってマスターが自分自身でここに私達を連れてきたのではないですか…。周りをキョロキョロ確認するマスターに私は場所を伝える。
「萌えもんセンターですよ。どうしたのですか。ぼーっとして…」
「………あぁ、そうね!うん!いやー、参ったわー…」
そう言ってマスターが空笑いする。そうしているとライがおずおずとマスターに尋ねる。
「マ、マスター…ウチ…」
「…惜しかったわね。ライ」
そんなライの様子を見てマスターがそっとライを抱き寄せる。確かにあのバトルは惜しかった様な気がする。もしライがあの時急所を当てていれば…最初の私の失態が問題な気もするが。
…すると急にライはマスターから離れた。その様子にマスターは驚いている。そしてライは口を開いた。
「………マスター、手紙をあの子に渡そうよ!別に戦う必要なんて無いんだから!目的はバッジを取ることじゃないし…!」
「ラ、ライ…?」
ライがマスター相手に捲し立ている。その様子にマスターは困惑している。ライ…
「…マ、マスターがバッジ欲しいならヤドさんを呼ぼう!ヤドさんならあの砂嵐に対しても距離を取って戦えるし、あのハガネールの硬さも関係無い!」
「ヤドさんとエレさんなら充分勝てるよ!エレさんの瓦割りもウチの辻斬りよりは効いてるし…!後は…後は………」
………。
私はマスターの方を見る。するとタイミング良くマスターと目が合う。今度はマスターが私を見て静かに頷いた。私はそれに対し頷き返す。
マスター、分かってますよ。マスターが言わないなら私から言おうと思ってます。…これが非効率的なことは分かってますよ。
でも…
こんなライの姿を見て…
楽な道は選べませんよ。
「ライ…」「ライ殿…」
「…え?」
私とマスターが同時にライの名を呼ぶ。…お互いに自分から言うつもりだったみたいだ。同時に名を呼ばれたライは私達の顔を交互に見て捲し立てる声を止める。
…ではマスター、同時に言います?タイミング合わせは…不要ですよね?
「…明日あの子にリベンジよ!」「私とライ殿…二人で勝つんです!」
~
「む、無理だって…!」
「…無理でもやるのよ!頑張りなさい!」
マスターがライの手を引っ張りながらアサギの砂浜へと足を進める。そんな二人の後ろを私は歩く。…どうやら砂浜で特訓するつもりらしい。
…特訓としては悪くないか。しかし相手が私しかしないというのは問題かもしれない。私では役不足だ。
しかし砂浜へと向かう途中、マスターの足が止まる。そして港の方に目を向けている。…どうしたのだろうか?私も港に目を向ける。
そこには二人の萌えもんが模擬戦をしている姿があった。その内容はとてもハイレベルなものだ。赤い服の方の萌えもんがもう一人の頭から角を生やした萌えもんに勢い良く突撃している…。あ…あの角の方の萌えもんは確か…
その様子を見たマスターはライから手を離し、模擬戦をしている二人の近くで釣りをしている男の隣に座り、何か話している。確かあの男はコガネルーキーカップ予選の…
ぎゅっ…
「…ん?」
私は自分の手をそっと掴まれる。…ライ殿だ。…先程から様子は変わっていない。そして角を生やした萌えもんの方を私の後ろから見ている…。すると角を生やした萌えもんはライの視線に気付いた様だ。彼女は珍しいものを見るような感じでこちらを見ている。
「…ストライク?お前………」
「………ヘラちゃぁぁぁん!!!」
「えっ?…どうした!?気持ち悪い!」
ヘラちゃん…あ、そうだ。あの萌えもんはヘラクロスだ。確かライ殿曰く自分と互角かそれ以上の力量と言って予選ではライ殿が辛うじて勝利した萌えもんだ。その彼女に対してライ殿は泣き付いている。
それに対してヘラクロスはライ殿を一旦受け止めはするもののその様子を気味悪がり攻撃を加えている。…が、ライ殿は離れる気配はない。…あれは照れ隠しみたいなものか。
「ええっと…これは…」
「あ、すみません。すぐ離しますんで…」
その様子を見てもう一体の萌えもんが呟く。私はその萌えもんに謝罪をし、ライ殿を離そうとする…。相手も困ってますし邪魔してはいけませんよ、ライ殿。私も離すのを手伝おうとするが…
「…二人共!日暮れまでこの子達と一緒に特訓しても良いみたいよ!」
マスターが嬉しそうに私達にそう伝える。横にいる男はライとヘラクロスの様子を少しだけ見ると再び釣りに目を戻してしまう。男は何処か肩を落としている様に見える…。マスター、それは有り難いですが彼に無理矢理お願いしたりはしてないですよね…?
「ヘ、ヘラちゃん…その…あの…えっと……」
「一旦落ち着け。…話は聞いてやるから」
まともに喋れてないライ殿をヘラクロスはぶっきらぼうだが相手をしてくれている。良かった。大丈夫そうだ…そう考えていると私の肩に手を置かれる。
「では私の御相手は貴女ですわね。一時の縁とはいえ手加減は致しませんわよ」
「え…」
そう言って赤い服の萌えもんが私をあの二人からちょっと離れた場所へと連れていく。そして一礼すると彼女は恐ろしい勢いで突撃してきた…!
えぇっ…!ち、ちょっと…!とりあえず電気ショックだ!私は体に電気を溜めそして…
ドカカカカッ! !!
電気を放つ前に凄まじい勢いで相手に攻撃のラッシュを浴びせられる。私はそれを受け地面に倒れるが相手に起こされる。そして彼女はこう言った。
「まだまだ行きますわよ……さぁ!」
………えぇっ。
日が暮れる頃までには無事だと良いなぁ…。私はそう願いながら意識を相手の攻撃へと集中した。
~
特訓は無事…といっても凄く痛かったが終わり、萌えもんセンターにて私達は体を休める…。どうやらライは少しだけいつもの調子に戻った様だ。あぁ、良かった…
そして翌日の朝…マスターがジムに足を踏み入れる。すると昨日の少女…ジムリーダーのミカンさんが私達が入るのを見るとこちらに駆け寄ってくる。
「…先日はすみません!私…ジムの挑戦者かと思って浮かれてしまって…ご用件は…」
ミカンさんがそう言うがマスターは何も答えず入口近くに置いてある紙に何かを書き込んでいる。マスターのその様子を見てミカンさんは更に慌てている。
「あの…今日は………」
マスターは何も答えずに紙にペンを走らせる。そしてペンが止まるとマスターはミカンさんに紙を押し付けた。
「アサギジムリーダー、ミカン…」
「貴女にジムバトルを申し込むわ!これが今日の私の用事よ!それ以外は無し!」
「え…」
受け取った紙とマスターの方を見ながらミカンさんは慌てている。そんな様子の彼女にマスターが言い放つ。
「…ほら!早く!」
「は、はいっ………!」
マスターの言葉を受け、ミカンさんが奥へと走り出す。…マスター、流石に強引過ぎますよ…。まぁそんくらいやろうとする気持ちは分かりますがね…。そしてミカンさんが暫くすると戻ってきた。どうやら準備が終わった様だ。マスターは私達が入ったボールを握りながらバトルフィールドへと入る。
「ミカンちゃん!貴女のシャキーン!!な鋼萌えもん…打ち砕くわ!」
「あ…あれは忘れてくださいっ………。でも良いんですか…?」
「OKよ!…さぁ始めましょう!」
マスターの言葉に対しミカンさんは恥ずかしがり顔を伏せてしまう。ミカンさんはまだ私達がジムバトルに来たのを疑問に思っている様で改めて聞いてくるがマスターを力強く答えを返す。それを聞いたミカンさんは顔を上げ、凛とした表情になる。そして軽くジムバトルのルールを話し始めた。大体マスターが書いた紙に書いてあることだ。
「…分かりました…。では貴女のジョウトバッジは現在一つ。今回は二対二のバトルになります…」
「では…よろしくお願いします…!」
そしてお互いにボールを構える。さて、まずは…
「お願いっ…コイル!」「行って…!エレ!」
予定通り私か。まぁ万が一相手の初手がハガネールだったら私は引くつもりだったが…都合が良い…!私は瓦割りの構えを取り相対する。
「エレ…瓦割り!」
「…コイル、………十万ボルト!」
コイルへと駆け出す私に対してコイルから強力な電撃が私の方に向かってくる。十万ボルト…か。良い技だが私相手は効果は今一つ…。ならば…
「エレ、このまま…」
「了解です!」
マスターも同じ考えの様だ。ダメージ覚悟で一気に突っ切る…!私は少し電撃に触れてしまうがコイルへの距離を詰める。…いや、でもマスターこれ結構痛いんですけど…!
だが泣き言は言ってられない。私はコイルへと鋭い手刀を当てる。よし、瓦割りを命中させた…!コイルはよろけながらも立ち上がる。な、手応えはあったのにっ…
「コイル、ソニック………いえ、十万ボルトです!」
「エレ、押しきって!後少し!」
よろけながらもコイルが立ち上がるのを確認したミカンさんからの指示を受けたコイルが再び電撃を放つ。マスターの言う通りコイルはもう虫の息だ。しかし今度の私はコイルの近くにいたのでその電撃をモロに食らってしまう。ぐっ…痛いっ!!これって今一つですよね!?
でも…
でもこれはライが食らうよりは全然痛くないのでしょう…!なら私が受けますよ…!
私は瓦割りの構えを取っていない左手で電撃を振り払い、それにより僅かに空いた前の空間に前進し瓦割りの構えを取った右手を目の前のコイルに叩き付ける。その叩き付けた勢いでコイルが地面に倒れた。
「…お疲れ様。コイル…ではお次は…」
「…エレ!」
…マスター、分かってます。
「ハガネールです…!」「戻って!…行ってきなさい、ライ!」
「………え…」
ミカンさんがハガネールを繰り出すのとほぼ同時に私はマスターのボールから放たれる光に吸い込まれる。そして新たに繰り出すのはライだ。その素早い交換に対してミカンさんは驚きの声を洩らした。
………素早い交換でしょう。実は最初から決まってるんですよ。あのハガネールはライが倒すと…!今日の朝、ライ自身がちょっと震えながらもそう言ったんですから…!
「…エレさん、ありがとうございます。昨日振りだね、ハガネール…さん」
「…ライ。行くわよ…!」
ライがバトルフィールドに出て私へのお礼とライバルへの挨拶を告げている。ま、今回はライに任せますよ…
そう心の中でこの後を私はライに託す…がライはチラッと私のボールの方を見る。何処か不安そうな表情で私に何か言いたげな感じだ。
ライ…。
………ここからは任せますからね!実は私も十万ボルト二回食らって既にボロボロなんです!そこからハガネールの相手とか絶対無理ですから!…そして私は少しでも体を休める為に目を閉じた。