高く見積もっても二割。
そう頭の中で分析してしまった自分の思考に嫌気が差す。私の昔からの臆病な考え方だ。…その思考を振り払う様に私は目の前の相手に眼をやる。
…ハガネールがどっしりと構えている。既に戦闘態勢だ。
「…エレさん、ありがとうございます。昨日振りだね、ハガネール…さん」
その状況から目を逸らし、エレさんが戻っていったボールを見る。…また私は現状から目を逸らしてしまった。
エレさん、せめてアイツに瓦割りを入れてからチェンジして下さいよ。…口に出す直前でその言葉を飲み込んだ。これも臆病な考えだね。…そして再び前を見る。
…ハガネールがどっしりと構えている。既に戦闘態勢だ。
何も変わってない。自分の卑しい心も、相手の勝利へと進む心も。
『…勝つ気が感じられんな』………昨日あのハガネールと最後に交差した際に呟かれた言葉だ。その言葉は昨日の私の心中を見抜いており、それに心を揺さぶられた私は相手の攻撃を食らい、負けた。
「…ライ?」
「…ん?何、マスター?」
「いや…私が行くわよって言ったけど貴女は黙ったままだから…大丈夫?」
「…大丈夫だよ。ちょっと機を伺ってたのさ」
…嘘だ。しかしそう言うと不安そうに私を見ていたマスターの表情が和らぐ。…マスターは何時も通りでいて欲しいな。私の最後まで勝ちを諦めないでいてね。…よし、行こうか。私はハガネールへと意を決して一気に駆け出す。その動きに応じて砂嵐がフィールドに吹き始める。…やはりあの戦法か。
何も変わってない。マスターの勝ちを諦めない心も、相手の勝利へと進む心も。
後は私だけだ。
~
「ハガネール…、岩落としです…!」
「ライ、見切りよ!…機を逃さない様に!」
…とうに相手の攻撃は見切っている。私は砂嵐の中で落ちてくる岩を悠々と避ける。…こんなことだけは完璧だな。…ではまず一発頂きますか。私は姿勢を低くくしてハガネールとのすれ違い際に辻斬りを命中させる。
キィン…!
…浅いね、今のは大したダメージにもなってない。だが私の今の攻撃の目的はそれじゃない。
『…今日は勝ちに来たよ』…それを相手のハガネールに伝えたかった。ま…口角を上げたことと去り際の私へのアイアンテールが相手なりの答え方なのだろう。私はそれを距離を取り回避する。…もっと優しく答えて欲しいなぁ。
「ハガネール、そのまま岩落としを…!」
「ライ…!タイミングは任せるわ!」
砂嵐の中で戦う私達へのトレーナーの指示が通る。…マスター、指示が任せるってさぁ…。私は少し呆れながらも思考を巡らせる。
…岩落としかアイアンテール。どちらかだ。
どちらかの技を食らおう。
…そして叩き込む。チャンスは一度だけ。砂嵐が吹き荒れる中でのタイミングはとてもシビアだ。あの頑丈な体を砕いてやる…!
そう思考を巡らせて再びハガネールへの距離を詰めていく最中もも容赦なく降り注ぐ岩を避ける。…これは避けられているから良いがもし当たったら致命傷だね…。
…アイアンテールかな。こちらへの距離が近い技なのも良い。アイアンテールにわざと当たって直ぐ様仕掛けようか。
「………ハガネール、油断はしないように…落ち着けば大丈夫です…」
………感づかれたか?いや…相手のハガネールの動きは現状維持。なら大丈夫…。さて…アイアンテールに当たりに行く為の二撃目、行こうか。
キィン…!
ハガネールの体に辻斬りを命中させる。…そのすれ違い際にハガネールがアイアンテールを放っている。…今度は距離を取らない。私は離脱に遅れた振りをしてアイアンテールを腹に食らう。その尻尾に私は力を振り絞ってしがみつく。
ゴッ…!
「…ライ!」
フィールドに鈍い音が響く。その後にマスターの私を呼び掛ける声もする。…マスターは私が何処かで攻撃を食らうのは知ってるでしょ…。今日の朝に話したことだ。
昨日、ヘラちゃんから見様見真似で教わった技…見様見真似と言っても私…というかストライクにはその技の適性があるらしい。だから充分に形には出来た。
「………!ハガネール…振り払って!」
「………ライ…やっちゃいなさい!」
マスターもミカンさんも私の狙いに気付いた様だ。…マスターは私の狙いを既に知ってたけどね。…でもミカンさんも察するか、ジムリーダーってのは怖いね。
私はハガネールのしがみついている尻尾に対して全身から力を振り絞って全身をぶつける。…やはりこの技は不思議だ。アイアンテールを食らった際の痛みの分だけ全身から力がみなぎってくる。
「…ぐっ!!」
ハガネールはとっさに両腕を顔の前で組み、防御の構えを取りながらも吹き飛ぶ。それに伴い尻尾にしがみついている私も同じ様に宙を舞う。急所である顔を守ったのか…関係無いね!
「…よし!」
「っ………ハガネール…!」
私の技、『起死回生』が炸裂した。
…どうだ!無事攻撃が成功したことに私は微笑む。私の攻撃を食らってまでも攻めに転じた執念の勝ちだ……!相手が巻き起こしていた砂嵐の勢いが弱くなっていく…!
「………」
「………ふっ」
「………やった…ハガネール!…アイアンテールですっ……!」
ハガネールがその体勢のまま吹き飛び、地面に叩き付けられながらも小さく息を吐いた。そしてしがみついている尻尾に力が込められていくのが私の腕から伝わってくる。依然として防御の構えを取っているハガネールの顔は見えない。
…何で倒れないんだ?アイアンテールのダメージ量では足りなかったのかな?…岩落としなら起死回生でのダメージ量は充分だったりしたのか?結局私は適当な理由を付けてアイアンテールというダメージの低い技を食らう方を選んでしまったのか…?
………ハガネールは私のことをまた笑うのか。いや、笑っているのか?…彼女の顔は見えない。
…止めて。お願いだから。心の中での願いに反して尻尾に力が込められていくのが伝わってくる。…もう一回のアイアンテールを耐えるのは無理だ。今の私の体と…心では耐えられる気がしない。ハガネールは防御の構えを解かずに確実に私を詰ませに掛かっている。
これ以上、私から勝利を、希望を…
…奪わないで。
「…っ、ライ!………モーモーミルク!」
「…へ?」
…マスターの言葉とミカンさんの間の抜けた声が微かに耳に入る。
………!
………マスターの素晴らしい指示だ。私は指示の意図を察して行動に移る。…後はアイアンテールまでにそれが間に合うかだ。私はダメージのある体に力を入れ、顔を守っているハガネールの両腕を叩く。…それにより出来た腕の隙間から垣間見えるあれは…!
…任せてよマスター。…これは私が変わる必要が無い手慣れた一芸だから。
「…よこせっ!」
私はハガネールの両腕の隙間に手を入れ、直ぐ様隙間から手を抜く。これは一瞬の動作だ。ま、これくらいしか芸の無い萌えもんなんでね。…悪いけど奪うのは私の方だっ!
「…ハ…ハガネール…!?まさかっ…」
ゴッ…!
…腹に固いものがぶつかる感触がする。その衝撃に私は気を失いかけるがそれとほぼ同時にハガネールの隙間から奪った…
齧りかけのオボンの実を口に入れる。
………。
………何も考えられない。…多分この状態が絶好の起死回生のタイミングなんだよね、ヘラちゃん。私は気を失いかけながらも力を振り絞り、全力でハガネールの尻尾にぶつかる。
気を失う私が最後に見たのは…私から離れていくハガネール…。
…そしてジムの天井だ。
気を失う私が最後に聞いたのは…マスターとミカンさんの声…。
…そしてエレさんの…
「わ、私はまだ戦えますっ…!」
という宣言だ。