いい目をした少女だった。
ホロという名の先程会った少女のことを思い出す。彼女ならば本当に怒りの湖でギャラドスを集めて湖周辺に人払いをしているギャラドスの親玉を止められるのではないかと思える。
「ま…やってもらわないと困るね」
そう呟き、町中を歩く。すれ違った人々は私を奇妙なものを見る様な視線で見ている。その視線を私は我関せずと言わんばかりの体で受ける。見るだけで何も言ってこない奴等なんか相手にする価値が無いからだ。
…やっぱりあの少女を見るためだったとはいえ、外に出るもんじゃないね。私はこの様な視線を受けている原因である自分の立場に嫌気が差す。もっと自由に空を飛び、地を駆ける。そんな昔のことを思い出す。
今の私は自身立場に相応しい振る舞いとそれにを保つ為に見栄を張ることをしなければならない。
見栄を張る…か。
そういえば………私は用事を思い出し、町中のお店の一つに足を踏み入れて、店内を見渡す。そして目的の品が入っている箱を見つけ、手に取りレジへと持っていく。
レジを担当している店員は先程外ですれ違った人々と同じ視線で私を見ている。…おい、私が怒り饅頭を買うのが可笑しいことなのか?
私だって自分がそんな柄じゃ無いことは分かっている。だがこれは見栄を張る為だ。部下との話の際に茶菓子の一つくらいは出せないとな。
…茶か。怒り饅頭を購入した私は足早にこの町の中でも有数の大きさの建物の中に入る。そして周りの人間との会話も無しに建物内の私の部屋へと辿り着く。
ドアを開け、中に入ると私の机の上に少し書類の散らかりが見える。そういえば調べものをした後に片付けをしていなかったな。そんなこと思い出しながら私は書類を整理する。こんなことは自分の柄では無いが部屋を汚い状態にしておく訳にはいかない。…これも見栄を張る為だ。
私は整理が終わると怒り饅頭を購入した際に思い出した茶について部屋に置いてある棚にある茶缶を確認する。その見た目は上品な作りをしており、その中身の茶葉もそれに相応しいものだ。…量も問題なしだ。部下との話の際にも私の立場に相応しいレベルのお茶を出さないといけないからな。…これも見栄を張る為だ。
確認を終えると私は買ってきた怒り饅頭が入った箱を入口側と部屋の応接机と椅子側からは見えない場所に置く。…わざわざ用意したものかと思って部下が気後れするのを防ぐ。…これも見栄を張る為だ。
これで大丈夫だろうか。私は部屋を入念にチェックする。………よし、大丈夫そうだ。
これで私は今日ここに戻って来るであろう彼………
………違う。ここに戻って来るであろう部下に対して私は所長という立場で接することが出来そうだ。