話はどうでもいい。
だが彼を蔑ろにする態度だけは許せなかった。
勝手に話を始め、そして終わらせたあの女をボールの中から睨む。幸いなのは私がボールの中なのであの女に会う必要がないこと、そして彼に私があの女を睨んでいることが見られないことだろうか。
「次はあんたの話だ。あんたが話したロケット団についてだが…」
「…おう。どうだった?」
そしてまた勝手に話を始める。あの女が勝手に始めた話に対しても彼は言葉を返し、話に応じている。そういう優しさがあの女を付け上がらせることを彼は分かってないのだ。
「ロケット団の大きな話は数年前のシルフカンパニー占拠以降は聞かないね。解散したって話が濃厚だ」
…どうでもいい。彼も既に把握しているであろう在り来たりな情報だ。
「大きな話は………ってことは小さな話はあるのか?」
「小さな話ならある。カントー地方の一部で活動を再開しようとして結局解散したとか…地下での闇商売でボールを売り捌いたりとかだ。比較的小規模なものだね」
「そうか…やっぱり残党とか小規模なものか。あの時も四人しか居なかったし、その後俺達へ報復にも来なかったしな」
彼はあの女の話を聞きながら手元にある空の茶器を小さく回している。…彼はあまりこの話には関心が無いようだ。…というより先程の地下洞窟の話の方が頭に残っているのだろうか。考えているのは三聖獣と呼ばれているあの萌えもん達のことか…
ほっとけばいいのに。
伝説級の萌えもんなんてろくな奴がいない。
………アイツを見れば分かる。………まぁ、アイツは正確に言うなら伝説級の萌えもんでは無いみたいだが。
ほっとけばいいのだ。その三聖獣とやらもアイツも。地下に、砂に埋もれてればいい。
「………そんなつまらなそうにしないで欲しいね。全く…」
「い、いや…。別に…」
あの女もそんな彼の様子から心境に気づいたのかそう愚痴る。その後、彼が手で弄っていた茶器をパッと奪い、急須から茶器へとお茶を注ぐ。大体、八文目くらいまと注ぐと茶器を彼の前に差し出す。それを彼は微笑みながら、受け取る。
「…ん、悪いな」
「…別に」
………。
………早く次の話をしなよ。どうでもいい話だろうが聞いてあげるから。私の無言の圧力が通じたのか、二人の間に変な空気が流れたからかは知らないがあの女が急に話を変える。
「…さて、ケイブ。良い話に入ろうか。私に連絡を取れって言ったあの子の件だ」
「おう。良い話ってことは…」
彼が怒り饅頭に手を伸ばす。お茶に合う茶菓子が恋しくなったのだろうか。
「…来てくれるそうだ。良かったね」
「そうか…!助かる」
………。
おい、何が良い話だ。…悪い話の間違いだ。余計なことをしないで欲しい。
私の気持ちとは裏腹に喜ぶ彼は、怒り饅頭を持った手を口へと運ぼうとする。その時…
「…ほぼ全員、来てくれるそうだ」
「え…?」
その発言に、彼の持っていた怒り饅頭が机の上に落ちる。………アノプスが見たら『勿体ねー』とか言いそうだ。…今の話を聞いてそんなことを思う余裕があるなら、だ。
「………マジか。アイツらも結構暇なんだなー」
彼は怒り饅頭の落とした部分を軽く手で払い、口にする。
暇…?そんな訳無い。彼が呼ぶなら急いで彼の元に来る…そういう連中だ。
………私自身がそうだから分かる。
むしろ全員では無いのか。そう考えてしまう。…でも誰が来ないのだろうか。…出来れば面倒臭い奴が来ないことを祈る。
「…ん?ほぼってことは誰が来ないんだ?」
彼も私と同じ疑問を抱いた様で、あの女に話の詳細を聞こうとする。
「─────が来ないらしい。…あの子が説得したらしいがね」
…ふーん。
「………あー、まぁ…アイツはなー…。じゃあここに来る連中は…えっと…」
彼が腰に付けている私とアノプスのボールを確認する。彼が何体来るかを考えている間に私もその答えを考える。全く…面倒なことになった。
これでは…
彼との時間が少なくなってしまいそうだ。胸が苦しくなる。
「九体…、今いるアノプスとリリーラ含めて十一体かよ………ハハ…」
彼が空笑いをする。そしてお茶に手を伸ばし、中身を一気に口に含んだ。
「…はぁ………」
彼は口に含んだお茶を飲み込んだ。そして溜め息を吐く。そして黙ってしまう。その様子を見たあの女も今は話をする気は無いらしい…黙っている。
「………ま、どうにかなるだろ」
彼は考えるのを止めた様だ。その現実から逃げる様にまた怒り饅頭に手を伸ばした。
まぁ…私は彼と一緒に居れるならどうでもいい。
………。
─────が居ないのか。
やっぱり伝説級の萌えもんにはろくな奴がいない。
…改めてそう思う。こんな彼の方から呼ばれる機会を逃すとはね。
ま、どうでもいいことか。
~
「ほれっ、怒り饅頭だぞ」
「…一個だけじゃん!ケイブさん食べ過ぎだよっ!」
その後も私にとってはどうでもいい話をした後、彼が研究所を出るとケイブさんが持ち帰った怒り饅頭一つをアノプスに渡す。…あの箱は六つ入りの商品だったみたいだ。
「全くもー…」
アノプスが愚痴を溢しながら怒り饅頭を口にする。すると愚痴を溢していたアノプスの機嫌が良くなった。…単純な奴だ。
………そして食べながら彼に質問をしてくる。
「で、どうすんだよ。ケイブさん」
「?…何がだよ?」
「えっと…地下洞窟のこととか…ホロさんのこととか…これから来る皆のこととか…」
………質問の内容が定まっていない。アノプスが馬鹿なのと考えることが多すぎるということが原因か。…私は別に考える必要はない。
彼に従うだけだ。
「………どうするかなー…ま、その場によってだな………うん」
彼がそう呟きながら肩を落とす。…落ち込んでいる様に見えるその様子をアノプスが気遣う。
「…ほ、ほら!饅頭あげるから元気出せって!」
アノプスが彼に食べかけで半分くらいの大きさになった怒り饅頭を差し出す。いや、あげるって…元は彼から貰ったものだろう。………違う。問題はそこじゃない。
「…ハハ、ありがとな。じゃあ少し………やっぱ美味いな」
「ぜ、全部は駄目だからな!」
彼はアノプスが差し出した怒り饅頭を受取り、口を付ける。そして半分の半分…元の四分の一くらいになった怒り饅頭をアノプスに再び渡した。………おい、待て。
「…結構食べられたなー…ま、いいや!」
そしてアノプスはその四分の一を一気に食べた。…その四分の一の怒り饅頭の価値を分かってない様だ。その様子を私はじっと見つめる。
「………」
「…あ、姉貴!…ごめん!もう食べちゃった」
「………」
「だ…、だってそういうのはいつも要らないって言ってるし………」
「………」
「な、何か怒ってる?…何でだよ?」
………。
まず他の子が彼の元に来る前にコイツをどうにかした方が良いかもしれない。
…そう思った。