ここ最近、聞き慣れた音が機械から鳴った。
その音が鳴り止むと椅子に座っていた目の前の少女が立ち上がり、その機械の中から四つのボールを取り出し、こちらに戻ってくる。
「はい…。お待たせしました」
四つのボールの内、二つを私の前に置く。残りの二つは少女が手にしたままだ。私は目の前に置かれたボール二つを手にする。
「ありがとね、ミカンちゃん」
「ミ、ミカンちゃんは止めて下さい…」
お礼を言うと少女…ミカンちゃんは照れて顔を伏せてしまう。…呼び方はミカンちゃんでは駄目かしら?でも呼び捨てとかミカンさんって呼ぶのも何か違う気がする。
「ジムにも萌えもん回復の機械があるのね。羨ましいわ」
「日によっては何度もバトルすることもありますから…私はあまり無いんですけど…ね…」
「…だから私を挑戦者だと勘違いしたの?」
「そ、そのことはもう忘れて下さいっ…!」
私が笑いながらそう言うとミカンちゃんは更に照れて顔を伏せてしまう。
………どうやらミカンちゃんはあまりジムにバトルをする人が来ないせいか珍しく来た人を挑戦者だと勘違いしてしまった様だ。普段からアサギシティのことでジムに居ないこともあるらしいのが挑戦者が来ない要因の一つみたいだ。理由は萌えもんの体調管理?…らしい。
「ほ、本題に入りましょう…!この手紙についてです!」
「…中身は何だったの?私も詳しくは知らないのよ」
これ以上弄られたくないのかミカンちゃんは強引に話を切り替える。先程ミカンちゃんに渡した手紙の中身は私もよく分かってない。どうやらライが強くなることについての話らしいのだが…。私はそう伝えてきたケイブさんのリリーラを思い出す。
「えっと…まずこれを…」
ミカンちゃんが私の前に小さな金属の固まりを置く。…何これ?私はじっとその固まりを見る。
そんな私の視線に気付いたのかミカンちゃんが言葉を続ける。
「…それはメタルコートです。彼の手紙にこれを渡す様に書いてありました」
「………ふーん」
私はその金属の固まり…メタルコートを軽く指で弾く。…コンコンッと小気味の良い音が鳴った。
「………ねぇ?手紙に書いてあったとはいえ、貰っていいの?これ?」
「大丈夫です。…正確にはこれはケイブさんの物なんですよ。…彼はこれを何処かの洞窟で発掘した様で私が預かってたんです」
「へー…」
また私はメタルコートを指で弾く。こんな物を貰ってもなー…という思いもあるがその好意を無下にするのも悪いので受け取っておきましょうか。
「後…少し私と特訓をしましょう。普段はこういうことはしないのですが…」
…こっちの方がライが強くなる為の方法の本体かしら。ジムトレーナーとの特訓とは…贅沢なものね。それを取り付ける彼………ケイブさんって何者なのかしら?
「良いの?………じゃあお願いするわ」
「丁度バトルフィールドもありますのでそこで…」
私はミカンちゃんに良いのか聞くがミカンちゃんが頷くのを見て、お願いすることにする。そしてミカンちゃんに続き、先程戦ったバトルフィールドへと足を運んだ。
~
「お姉様ぁ!!」
「えっ…あの…ハガネールさん…?」
「いいえ!ネールとお呼び下さいまし!お姉様っ!」
「あの…距離が近い…。というか本当にさっきのハガネール…?」
「えぇ!先程、お姉様に初めての唇を奪われ、体中を蹂躙されたネールです!!」
「…待って!ウチそんなことしてない!」
「…そんなっ!ワタクシの……キャッ!恥ずかしい!そういうプレイですか、お姉様!」
「…何これ!?…てか誰!?…あの時の『…勝つ気が感じられんな』とか言ってた君は何処に!?」
「あの時のワタクシはお忘れ下さい!今のお姉様からはワタクシを泥棒し、蹂躙する気しか感じませんわ!」
「…そんなことしないよ!め、面倒臭いなぁ…」
「お姉様?」
「………」
「…お姉様?どうしました?」
「………」
「…も、もしかして…」
「………」
「…これが俗に言う放置プレイですか!?これ…凄く興奮します!!流石お姉様ですっ!!」
「なんだこの鋼鉄メンタル!?マスター助けて!」
…楽しそうねー。私はハガネールに引っ付かれるライを見ながら他人事の様にそう思う。…隣のミカンちゃんは信じられないものを見る様な目で二人を見ている。そして大きく息を吐いた。
「ネール…あんなに良い子だったのに…何故っ………」
「えっと…ごめんなさい」
「いえ…別にセーレさんが悪い訳じゃないですから………」
とりあえず私はミカンちゃんに謝っとく。というか凄い豹変っぷりねー。ジムバトルの時とは大違い…。あ、ライが押し倒された。………ライが私の方を助けを求める様に見てるけど…間に入れる雰囲気じゃないわね。…私は目を逸らす。
離れた位置ではミカンちゃんのコイルとエレが戦っている。…というよりエレがボコボコにされている。………まぁあの二人よりは特訓しているみたいに見えるしOKかしら。
「ソニックブーム…ソニックブーム…!」
「ちょっ…止めて下さい!」
「ソニックブーム…!」
「くっ、このっ…!」
「………サマソッ!」
「うわー、うわー…ウワー………」
………コイルの十万ボルトを食らったエレが吹っ飛んだ。壁際でミカンちゃんのコイルが待ちの戦法を取り、エレがそれに立ち向かう訓練…の様だ。あのコイルの戦い方は素人の私から見ても非常に完成された戦術だ。…あれを破るのは容易では無いだろう。逆を言えばエレがあの戦術を破ることが出来れば、かなり成長したとも捉えられるか。頑張りなさい…エレ!
「………あ、忘れてました!セーレさん、こちらを…」
ライとハガネールの光景から目を逸らしていたミカンちゃんが私に何かを渡してくる。…うん、あの光景から目を逸らしたくなる理由はよく分かるわ。
「ん?…これは技マシンかしら?」
「はい…中身は鋼の翼です。是非あのストライクに…」
「…ワタクシ達のお揃いの愛の証ですね!お姉様!」
「うわ、覚えたくない…」
「………!そんな…」
「…あ、愛の証って言われても…ねぇ?」
「…やはり中途半端な鋼技でなくワタクシと一緒のアイアンテールが理想なんですね!流石お姉様ですっ!!」
「………やっぱりこの子面倒臭いっ!!…ウ、ウチは絶対嫌だからな!」
「………お、覚えさせるかどうかはそちらで相談して下さい…」
「うん…」
エレはともかく、ライはあれで特訓になってるのかしら…。あ、でもあのハガネールを振り解く為に力を使ってるから結構良い訓練…なのかも?
………こうして私達は一日の間ミカンちゃんとその萌えもんに特訓して貰った。因みに特訓が終わると最後にはスチールバッジをくれたわ…!そうだ、一応ジム戦に勝ったんだったわ…忘れた…。
…よし!鞄の分かりやすい所に付けて、今日は萌えもんセンターに戻りましょうか!