実際にやってみると難しい。
萌えもんに適した指示を出し、その結果から次の指示を出す。
それを繰り返そうとするが、何処かで指示の手は止まってしまう。…というより曖昧な指示が多くなってしまう。
「…つー、次も来る…!」
………相手の萌えもんから繰り出される攻撃を察知はしたものの、それへの対応する一手を指示出来てない。相手がつーの目前まで迫る…
だがそれで間に合う。
つーは『守る』の構えを取り、後ろに退きながら相手の攻撃を左手で弾き、受け流す。そして右手から予め力を溜めていたのでいたのであろう毒々を相手に放った。
………その毒々は相手の足元に当たり、直撃には至らなかった。だがその攻撃は相手との距離を取り、態勢を立て直すのに充分な時を与えてくれる。
…相手の萌えもんを見据えるつーと僕を見てくる相手の萌えもんが向かい合う。
「…よし、今日はここまでにしようか!お疲れ様、ドラ君!」
相手の萌えもんの後ろにいる小柄な少年の声が聞こえた。相手の萌えもんが構えを解くとつーも構えを解いた。
…僕もそんな二人の様子を見てから、彼にお礼を言った。
~
「ちょっとまだ判断が甘い…かな?自分と相手の次の動きを考えてみるといいよ」
「…はい。でも連続で攻撃が来ると戸惑ってしまうんですよ」
「それは相手の動きが読みきれてないからさ。…まぁそこは経験だね」
そう言って僕に微笑む。この人は中性的な顔立ちから少女に見間違われそうな少年…ツクシ君だ。
萌えもんの特訓ではなく、僕…トレーナーの特訓をしている。…そう感じる。
恐らく僕やホロさんと同い年くらいにも関わらず、ジムリーダーという立場に付いているツクシ君は僕が持ってきた手紙を見ると、僕にトレーナーとしてのいろはを教えてくれるそうでここ数日の間、暇を見て指導をしてくれている。
聞いた話によるとツクシ君はケイブさんとアルフの遺跡関連の話で繋がりがあるとか…一時期、彼に虫萌えもんについて教えたりとか…らしい。年上のケイブさんが教えて貰う側なことからツクシ君の凄さが分かる。
…手紙持っていく時にジムバトルと勘違いされなくて良かったな。…まぁ、普通は勘違いされないか。
「…じゃあ明日のこの時間にね!少しずつ良くなってるから頑張っていこう!」
「あ、ありがとう…」
ツクシ君はこの後にジムリーダーとしての仕事がある様で特訓はここで終わりになる。彼を見送ると、息を吐く。
「つー、大丈夫?」
「大丈夫ー。…ドラちゃんの方はー?」
つーに気を使ったつもりが逆に気遣われる。…その質問に対し、僕は軽く答える。
「大丈夫だよ。さて…ろすろすの方はどうかな?」
「まー、大丈夫でしょー。………問題はヤドだねー」
このジムでの特訓とは別にヤドンの井戸で訓練している二人は大丈夫だろうか?…ちょっと見に行くかな。
~
「…たぁーっ!!!」
ヤドンの井戸へと辿り着くとろすろすが声を上げ、拳を地面に叩き付けた。………何をしているんだ?それを見たヤドランがろすろすへとアドバイスをしている。
「違う。殴るのではない、…揺らす形だ。それでは只のパンチだぞ」
「………分かった。やってみよう」
ろすろすが先程と同じ様に拳を地面に叩き付けた。…その振動が地面から僅かに伝わってくる。
「…筋はいい。………あの馬鹿よりは早く完成しそうだな」
「馬鹿とは失礼なー」
ヤドランの小言に目を瞑って瞑想しているヤドが答えた。…頭に王者の印は付けたままだ。
「…正直に言おうか。お前は今のままだと厳しいぞ。…諦めた方がいい」
「…諦めるのは出来ませんぞ」
「だろうな。だからとりあえずは教えてやる」
ヤドの諦めの悪さをヤドランも分かっている様だ。ヤドは何をやろうとしているのだろう?…前に話したあの技というものかな?
その二人の様子を見ているとヤドランが僕達に気づいたのか、僕に話しかけてくる。…つーは先日の酔っ払った件があるからかヤドランに対し、顔を伏せている。…気にしなくていいと思うけど。
「来ていたか…。少年はどうだ?」
「ぼちぼち…ですかね」
正直僕のトレーナーとしての力量が上がっているか僕自身、よく分かってない。そう答えるとヤドランは僕に顔を向けずにろすろすとヤドの特訓を見ている。
「…少年、儂は君を高く評価している。本当のヤドのトレーナーで無いにしてもだ。…頑張れよ」
「あ、ありがとう…」
僕はヤドランの冷たい様に感じる素振りから急に褒められて照れてしまう。…すると隣のつーが僕の腕を引っ張った。…どうしたのだろうか?
「どうした?つー」
「…別にー」
………つーがヤドランに闘志を燃やしている。あ、なら…
「…つーも何か教えて貰う様に言おうか?」
「…いや、いいー」
「だろうな。儂もお前に教えるものは無い」
「………ほー?」
ヤドランの言葉につーが伏せていた顔を上げた。ヤドランの方を見ている。
「お前の技、戦術…バトルへの心構え…、心技体の内の心技は充分に完成している。後は経験を積み、力量を上げるだけだ」
「…その力量でよくここまで完成させたものだ。…苦労しただろう」
「…別にー」
その言葉につーが頬をかいている。…ヤドランの中ではつーの評価も高いみたいだ。…確かにつーは僕には勿体無い程、優秀な萌えもんだ。贔屓目に見てもそう思う。
「欠点は主人想い過ぎることか…随分と慕っているな。しかし詰めは甘そうだ…」
そう言って、ヤドランがつーを一瞥すると再びろすろすとヤドの特訓に目線を戻した。
頬をかいていたつーの手が止まる。そしてその手を口元に当てた。そして隣の僕でも微かに聞こえるかどうかの声量で呟いた。
「やーっぱ、いけ好かないなぁ…」