非常事態だということを理解した。
…この地響きは普通の萌えもんの力によって起こされたものではない。それほどの規模を持ったものだった。
「…はい。市民にも………かしこまりました…!」
私との特訓中だったミカンちゃんもこの地震が起こるや否やすぐに特訓を中止。そしてジムトレーナーにアサギシティの市民への避難と警戒の呼掛け、そして萌えもん協会だろうか…?何処かに電話をかけ、そしてまた違う電話番号に電話をかけ…を繰り返している。
そんなミカンちゃんの姿は初めて会った時や私がからかっている時からは想像も出来ない程、しっかりしていた。…流石はジムリーダー…いえ、ミカンちゃんと言った所か。
「はい…。ありがとうございます………失礼します」
…そしてまた何処かへ連絡を終えたのだろう。ミカンちゃんが受話器を置き、一息ついた。するとその姿を見ていた私に気づいたのか軽く笑いかけてくる。…その表情から私に心配させまいという気遣いを感じた。
「あの…すみません。ちょっとお仕事が…」
「…分かってるわよ。私は気にしないで良いから。…特訓は中止でしょ、もう充分よ!」
………この子はこんな状況でも私に気遣うのか。その優しさに少し呆れるが、私も彼女を心配させまいと虚勢を張る。
「…ありがとうございます、………ネール!」
ミカンちゃんが特訓中だったハガネールを呼ぶ。するとすぐにハガネールは側にやって来た。地震の際にくっつく状態になったライからもすぐ離れての行動だ。………普段だったらこのハガネールは喜びそうだが、流石に状況を分かっている様だ。
「…はい!…お姉様、失礼します」
「あ、ごめん…」
…普段はライがハガネールから離れるのだが今回は逆の状態だった。くっついていたライが離れていくハガネールに謝っている。…それに対してハガネールは離れ際にライに一言言い残した。
「………お姉様、鋼の心です。…これが最後の教えです。お忘れなきよう」
「鋼の…心…」
ライがハガネールの言っていた言葉を反復している。…何か思い当たる節があるのだろう。
「…そうだ、セーレさん…!」
「…え!?何?」
ミカンちゃん達がジムを出ようとするのを見送るしか出来ない私に対して最後に何か伝えようとしてるみたいだ。…一字一句聞き逃さない様にしっかりと聞く。
「私からも一つ…このストライクが強くなるかはセーレさんとこの子次第…いえ」
「強くなる…とは違いますね。…変わるんです」
「えっと…その…変わる為の特訓はしたつもりです。…だから後はセーレさん達次第です」
「…うん」
………とりあえず頷いたものの正直な話、あまり意味を理解していない。…強くなるじゃない?だってその為の特訓だって…ケイブさんもその為に用意してくれて…
「あ、あの……あんまりうまく言えないけど」
「……頑張って下さいね」
「……了解!今までありがとうね!…また落ち着いたらここに来るわ!」
…あ、分かった。
先程の彼女の言葉の意味が分かった。…彼女の言葉を借りるならあんまりうまく言えないけど………伝わった。
…これをどう解釈して受け止めるかは私の頑張り次第だ。
~
そしてジムを飛び出したミカンちゃんを見送った私達はそのまま萌えもんセンターに向かう。その道中には人通りは少なく、萌えもんセンター内においては不安そうなトレーナー達が多く存在していた。
『………これで二回目だ』
…人々の噂からそんな言葉が私の耳に入る。二回目…?前にもこの様な地震があったのだろうか?………カントーから来た私には分からない話だった。
私はセンター内の空いているパソコンを見つけ、アクセスを開始する。…他の人に連絡システムを使って連絡するためだ………といってもドラ君、ケイブさん、ホロちゃんくらいしか連絡先は無いのだが。…ちょっと悲しくなる。職場でも会社用の電話番号やアドレスしか無かったわね………
…って!そんな場合じゃない!…幸いなのはこのパソコンの連絡システムが今やアナログな代物なことか。…今はポケギア等の持ち運び出来る携帯端末があるからだ。こんな状態でもパソコンが空いていたのはそれが影響してるのだろう。
「………アナログ万歳…っと」
昔の私が聞いたら一蹴されそうな独り言を呟きながら、パソコンの画面を開く。すると…
『新着メッセージ:1件』
…やっぱりあった。…恐らくケイブさんかホロちゃんだ。…ドラ君は無い。何故なら私が前から送っているメッセージに返信をしてこないから。………使い方が分からないとかそんな感じだろう。行方不明とかは無いと思いたい。
…メッセージ欄をクリックする。すると差出人と件名が表示された。
『差出人:ケイブさん 件名:安否確認と今日の地震について』