昔から何度も何度も何度も体験してきていることだから無意識に身に染み付いているのだろう。
ボクは表情を偽って生きているし、外見も小柄で全然男っぽくない。なんなら女の子に見間違われる時だってあった。始めのうちは誤解がない様に相手の間違えを指摘して修正していたが、ある日「その格好で男の子なの?なんか男らしくない」って言われてから相手の意見を否定するのを辞めた。
自分の意見は聞いてほしいけど、アナタの意見は欲しくないって人が多い世界に生まれてしまったことが失敗だったのだろう。人の話に意見や質問をして会話を膨らませるとだんだん話が脱線してややこしくなるし、話が長くなってその人といることが面倒になってくる。だから、ボクは人の意見を否定しないし肯定もしない。大体いきなり話しかけてくる人ってのは何か喋りたいだけで、その相手がボクじゃなくてもいいんだ。自分の思ったっことを他人に広めて意見を共有したいだけなのだ。
だから今回のこれもそういうことなのだろう。
「よう、お嬢ちゃん。見ない顔だな、ここは冒険者ギルドだぜ迷子ならパパとママを探すのを手伝ってやろうか?」
今さっき邪神様と契約を結び異世界に降り立ったボクであったが、この世界の基準に従い冒険者になるためにギルドに来ていた。
ギルドの入り口の門を潜り、案内してくれたウェイトレスさんの指示に従い奥のカウンターに向かう際、もう既に今日の仕事を終えた人たちであろうか酒を片手に語らいあう酔っ払いの集団に絡まれた。ボクの見かけが男に見えないことは否定しない、話がややこしくなるから。でも迷子じゃないことぐらいは伝えておかないといけない、さすがに酔っ払いとはいえ話しかけてきた相手を無視するのは悪いし、それに向こうは酒で酔っ払った何人かの大柄な男で機嫌を損ねて襲い掛かってこられたら対処できないだろう。
少しか弱い感じを演出しながら人見知りな感じで、尚且つ今から付き添ってやるよ、とか言われないように慎重に言葉を選ぶ。
「………い、いえ大丈夫です。ありがとうございます」
単純な一言で済ませて頭を下げる。無駄な言葉を並べないことで相手との会話するポイントやタイミングを作らない様にしてすぐにその場を離れた。
それにしてもそんなにボクってお嬢ちゃんに見えるのかな。これでも軽くだけど筋トレとかして体づくりをしているんだけど。やっぱ身長がないのと顔がよくないのかな、まだ声変わりとかもしてないし、そういった場所で未熟な子供にみえちゃうのかな。異世界に到着しての異世界人ファーストコンタクトは酔っ払いの柄の悪い大男さんでした。
「あの冒険者になりたいんですが………」
ギルドに入って一番奥のカウンターとその付近は冒険者がクエストを受注するスペースとなっていて掲示板には何枚かの依頼やパーティー募集の紙が貼られており近くのテーブル席では次のクエストに挑むパーティーやもうクエストを終えた人たちが座っている。
ボクは邪神様にこの世界のことをある程度聞いているし、異世界に来てからどういう手順で人間観察の仕事を進めてほしいかとかを伺っている。なのでボクはその指示を思い出しながらまずは邪神様に頼まれた仕事をこなすための準備を始める。
「いらっしゃいませ。えーっと、冒険者登録ですか?でしたら1000エリスになりますがよろしいでしょうか」
エリスというのはこの国のお金の単位。この国の国教であるエリス教の御神体である幸運の女神エリスからついているらしい。なお、この世界にはボクの様に転生してきた若い日本人だけではなく外科医を視察しに来た一部の女神もいるらしい。そして女神エリスも例外ではなく、名前と姿を変えてよくこの世界に遊びに来ているそうだ。
「1000エリスですね。これで足りますか?」
事前に邪神様に貰っていた何枚かの硬貨を受け付けのお姉さんに渡す。
ボクに第二の人生を与えてくれて、この世界のことも教えてくれて、事前に必要資金も渡してくれて邪神様。暇になったとかで世界規模の遊びをしてしまう軽々しさはあるけれど、元神様なだけあってとてもいい人だった。邪神とか魔王とか悪役に向いているタイプではないけど人の上に立って新人を育成するのに向いているタイプの上司みたいである。神様というより社長?
「はい、1000エリス丁度ですね。それでは準備の方を行いますのでこちらの紙にお名前と身体的特徴をお書き下さい」
名前はマガタマ ユキ。身体的特徴は小柄で黒髪。他に慎重と体重も書く場所などがあり、ボクはそれを記入する。そういえば邪神様がボクがこっちの世界で動きやすいように特殊な能力と身体能力に補正を与えてくれるとか言ってたっけな。どんな結果がでるんだろうか少しワクワクする。あ、それと助っ人を手配するとか言ってたような…………。
「それではこの魔道具に手を置いて下さい。ユキさんの情報を読み取り冒険者カードを制作します」
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「マガタマ ユキさん。貴方のご活躍をギルドスタッフ全員がご期待しております!これからよろしくお願いします!」
簡単に受付のお姉さんから説明された冒険者カードについてだが、冒険者カードというシステムは非常に興味深いものだった。
冒険者カードには自分の名前や冒険者としての職業やステータス、スキルを表示していて、それは偽ることができないらしい。前の世界での保険証や免許証などといった身分証明書のような感じ。
冒険者には職業があり、その職業によってステータスに補正がかかったり取得できるスキルが違ったりする。だが、その職業になるための適性がないとなれないらしい。
冒険者にはレベルという概念が存在し魔物を倒したり食材を食べることによって、その魂の一部が経験値として得られるらしい。経験値を貯めてレベルを上げるとステータスが上昇しスキルポイントが得られる。
スキルはスキルポイントを消費して取得できる。職業の系統によって所得できるスキルは異なり魔法使いなら魔法を戦士なら攻撃スキルを取得できるらしい。
ボクは邪神様に与えられた特殊能力と能力補正のおかげで初期のステータスがどれも平均以上で初めから上位職であるアサシンになることができた。アサシンは盗賊職の上位で隠密行動を得意とする職業でボクの与えられた仕事をこなすには丁度いい職業だった。と、いっても別に冒険者カードを作ってアサシンになったからと言って特に何か身体的に変わった訳ではないので、いまいち実感がわかない。
「さてと、じゃあ助っ人さんに会いにいこうかな」
当初の目的を済ませたボクはギルドに長いするのは時間効率的に良くないので次の目的である邪神様が手配した助っ人に会いに行くことにした。