大きな湖が近くにある田舎町。そこに住むポケモントレーナーに憧れる少年……コウタ。今年で十歳になるコウタはその日、父親から突然引っ越しの話を聞かされる。
 彼が親友の少女に別れを告げに行くと……


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僕の親友は○○○○○

 

 

 

 ある日の朝、家族三人で朝食を食べている時だ。突然父は僕にそれを告げた。

 

「コウタ、大事な話があるんだがちょっといいか?」

「どうしたの父さん?」

「実はな、父さんがやっている研究者としての仕事の都合で、今度引っ越すことになった。突然ですまないがこれが決まったのもつい昨日のことなんだ」

 

 僕が驚いて母さんの方を見るとゆっくり頷かれた。どうやら冗談の類ではないらしい。

 

「本当に突然だね……出発はいつ? 場所はどこなの?」

「引っ越しは二日後だな。行き先はカントー地方だぞ」

「カントー地方って……」

「ああ、お前も知っての通り、あのポケモン研究の世界的権威であるオーキド博士がいる地方さ」

 

 それだけじゃない。父さんは触れていないけれどカントー地方といえば、僕がすぐに思いつくのはとあるトレーナー。原点にして頂点の存在だ。

 

「父さんはね、ここでの働きが評価されてオーキド博士の所で働けることになったのよ」

「あの人は俺たち研究者の憧れだからな。素直に嬉しいよ」

 

 一応出世ということなのだろう。オーキド博士の所でってことはマサラタウンへ行くのかな?

 

「ふふ、だから新しく住む場所はマサラタウンよ」

 

 ビンゴだった。

 ……まさかあの地へリアルで行くことになるとは。こ(・)の(・)世(・)界(・)に(・)来(・)る(・)前(・)か(・)ら(・)の(・)ファンとしては喜ばずにはいられない。

 

 ここで一つ、僕の話をしよう。

 突拍子もない話だけど、僕には所謂別世界の記憶というものが存在している。

 そして僕が元々いたこことは異なる別世界では、現在生きているこの『ポケモンの世界』はゲームやアニメの中の存在であった。

 それがどうして今こんなことになっているのか僕にはさっぱり分からない。休日の自宅でポケモンのゲームをやってて寝落ちして、次に目が覚めたらこの世界だった。

 

 最初の頃は何故か体が子供時代に戻ってたことや現実のポケモンの存在に驚いたりしていたけれど、今ではすっかり慣れて、この世界の人間として馴染んでしまっている。

 今の自分はポケモントレーナーに憧れるどこにでもいるような少年の一人だ。

 ちなみに今年で十歳になるので、トレーナーになって旅に出ることも考えていたりする。というかほぼ確実に旅に出ると思う。そのためにこれまでトレーナーになるための勉強を一生懸命やってきたのだ。

 

 その旅のスタート地点があのマサラタウン。そう聞いて一流のトレーナーを目指す者として嬉しい気持ちになったけど、一方で素直に喜べない部分もあった。

 

「……お別れ、言いに行かないといけないなぁ」

 

 頭の中に思い浮かぶ一人の少女。

 自分が違う地方へ引っ越すことになったと知ったら彼女はなんと言うのだろう。

 

 

 

 僕の住んでいる田舎町のすぐ近くには大きな湖が一つある。そこは僕のお気に入りの場所。本来ならば僕のような自分の戦えるポケモンを持っていない子供が来てはいけない危険な場所。しかし家族などに内緒で昔からこっそり通っているのだ。そうまでして通う理由はここで見られる景色が好きなのと───

 

「───あ、やっぱりいた」

 

 岸辺に座り込み、脱いだ靴を脇に置いてぼんやりと湖を眺める少女が一人。おそらく同い年くらいだというのに、その横顔はどこか大人びて見える。

 桃色の美しい長髪を頭の両サイドで結び、半袖の白いワンピースを着た彼女は僕の存在に気付いていたのか、こちらへ振り返って口を開く。

 

「おはよう」

「……うん、おはよう」

 

 少女の可愛らしい微笑みに少し見とれながら僕も挨拶を返した。

 

「今日も来てくれたんだ」

「暇だからね。勉強も一段落着いたし」

「もうすぐトレーナーになれるんだっけ?」

「そうだよ」

 

 そっと彼女の隣に腰を下ろし、湖を眺める。

 頬を撫でる優しい風。

 ざわめく木々に混じって聞こえてくる鳥たちのさえずり。

 青々とした空を鏡のように水面に映しながら、日の光をキラキラと反射する湖。

 うん……やっぱり綺麗だ。この自然に触れているだけで心が洗われていくような感じがする。

 どことなく神秘的な雰囲気を感じるこの場所の美しい景色は初めて見たあの時からいつまで経っても色あせない。

 

「……でもこの景色もしばらく見れなくなるのかなあ」

「……?」

 

 思わず呟いてしまった独り言は彼女には聞こえなかったらしい。きょとんとした顔でこちらを見る彼女がなんだか可笑しくて、僕は小さく笑った。

 

「綺麗だよね……」

「ふぇっ!?」

「いつ見てもこの景色は綺麗だよ」

「あ…そ、そっちね……」

 

 何故かがっかりしたように肩を落とす彼女。何だろう、今の発言に何か……?

 

「……何よもう。私の顔を見て言うもんだからてっきり……」

 

 彼女は俯いて小声でぶつぶつとそう呟いていた。

 ああ、なるほどと僕は言葉を続けることにした。

 

「……もちろんエリちゃんもね。まあエリちゃんはどっちかと言うと可愛いって言った方がいい気がするけど」

 

 これも本当のことだ。彼女は文句なしで美少女と呼んでも良いほど整った容姿をしている。将来はきっと美人確定だな。

 僕の発言を聞いて顔を上げた彼女は言われた内容を理解すると、リンゴのように赤くなって再び俯いてしまった。

 

「ふふっ……」

「むぅ……」

 

 彼女の頭を軽く撫でるとジト目でこちらを睨んできた。何かしらの文句を言いたいのだろうけど、僕の手をどかそうとはしてこない。そういうところも含めて彼女は可愛いと思う。

 そんな彼女の様子を微笑ましく見つつ、僕は彼女との出会いを思い出す。

 

 

◇

 

 

 彼女……『エリちゃん』と出会ったのは今から四年ほど前のことだ。

 この世界にやってきて馴染んだのはいいが既に精神は高校生レベルだった当時の僕は、同世代の子供たちの行う遊びに混じる気が起きず、一人でいることが多かった。

 そんなある日、『一人で町の外には出ない』という親の言いつけを破って、町の近くにある湖へと一人でこっそり向かい……彼女と出会った。

 

 初めて彼女を見た時に僕が抱いたイメージは『湖の精霊』だ。可憐な彼女を中心に様々な野生ポケモンが集まって寛いでいるのを見てそう思った。

 野生ポケモンは危険だと常々言われていたけれど彼女と出会ってから襲われたことなど一度もない。むしろ現在では懐かれてしまっているくらいだ。一人で街の外へ出てはいけない一番の理由が『野生ポケモンの危険性』だっただけに驚いた。けれどおそらく、この付近の野生ポケモンたちが特別なだけなのだろう。

 

 初めの頃は会話らしい会話はほとんどなかった。

 当時の僕は彼女に軽く会釈してから、地面に座り湖を眺め始めた。初めて見るその神秘的な景色に僕が心を奪われていると、いつの間にか近寄って来ていた彼女が僕に話しかけてきたのだ。

 

「こんなところに何しに来たの?」

「みんなと遊ぶ気になれないから一人で過ごせる場所を探しに来たんだ。まあちょっとした探検だよ」

「ふうん……」

 

 初日の会話はこれだけで終わり。後はずっと暗くなるまで彼女と二人、静かに湖を眺めて過ごした。

 

 それから僕は暇になるとよくこの場所を訪れるようになった。そしてたいていこの場所にいる不思議な彼女との仲を少しずつ深めていった。

 彼女はあまり自分について語らない。

 住んでいる場所を聞いても秘密だと言われ、教えてくれたのは『エリ』という名前くらい。内心密かに良いところのお嬢様なんじゃないかなあと思っている。……あくまで想像だけれども。

 

 

◇

 

 

「どうかした?」

「ちょっと昔のことを思い出してた」

「……ねえ、もしかして何かあった? コウタ、いつもとちょっと雰囲気が違う……」

 

 ふと気がつくと、エリちゃんはなにやら真剣な表情で僕の顔をじっと見つめていた。少し気まずくなって僕は目をそらす。

 

「え、そ、そうかな?」

「そうよ。もう四年の付き合いだもの、それくらい分かるわ」

「……そうだよね」

 

 さすがにこの子には隠せないなぁ……

 僕は思い切って今朝の出来事を打ち明けることにした。

 

「悩みがあるなら───」

「引っ越しが決まったんだ」

「え」

 

 言った瞬間彼女が固まった。

 

「本当に突然決まったことなんだ。引っ越し先はカントー地方のマサラタウンって所らしい」

「……」

「僕はそこでポケモントレーナーとしての旅に出ることになるし、この地方にもいつ戻ってくるか分からない。別の地方だから簡単に行き来出来ないしね」

「……」

 

 彼女は捨てられた子犬のような目をしていた。

 それが目に入り、チクリと胸が痛む。僕がここを去ることで彼女が寂しがるかもしれないという心配は見事に当たってしまった。でもこれは僕にも言えることだ。

 

「そう…なんだ……」

「……うん」

「……」

「……」

 

 そのままお互いに黙ってしまい、しばらくの間無言だった。何となしに湖を見つめる僕の横で、彼女は何かを考え込むように俯いていた。沈黙がつらい。

 僕はなんとかこの暗い空気を変えようと、何か話をすることにした。

 

「あ、あのさ……これはまだ家族や知り合いの誰にも話したことのないことなんだけど」

「……」

「エリちゃんはさ、この湖のどこかに住むって噂のポケモンを知ってる?」

「え?」

「僕がたくさん知っているポケモンの中でも、個人的にかなり可愛いと思っているポケモンがこの湖のどこかにいるらしいんだ」

 

 どうやら何かしらの彼女の琴線に触れるものがあったらしい。顔を上げて興味深そうにこちらへ身を寄せてきた。

 

「へえ……なんてポケモンなの?」

「エムリットって言うポケモンだよ」

「ぶふうっ…!?」

「僕がポケモントレーナーになったらぜひとも会ってみたい伝説のポケモンの一匹でね、とっても可愛い姿をしてるんだ!」

「そ、そうなんだ……えへへ」

「うん。もしゲット出来たら思う存分に愛でるつもりだよ」

「あぅ」

「……でも結構可愛いポケモンだから、もしかしたら既に誰かが捕まえちゃってるかもしれないけどね……」

「そ、それはないと思う! コウタは持ってる人がいるって話を聞いたことがあるの?」

「無いよ。けど伝説のポケモンだし、持っててもバレないようにしてるのかも」

「……なら諦めるの?」

「いいや。持ってるって人の話は聞いたことがないからまだ野生で存在していると考えて頑張るつもりだよ。なんたって僕が一番欲しいポケモンだしね」

「う、うん……」

 

 好きなものの話だったからか、つい興奮気味に話してしまった。ちょっとびっくりさせちゃったかもしれない。話し終えて落ち着くとなんだか恥ずかしくなってきた。

 ……よく分からないけどエリちゃんの顔がすごく赤い。熱でもあるのかな?

 

「ね、ねえ、コウタは引っ越すのよね?」

「え? そうだよ。だから残念だけど今の話のポケモンを探しにはいけないんだ」

「……私も一緒に行っていい?」

「はい?」

「私、このままここでコウタとお別れするなんて嫌……」

「き、気持ちは嬉しいけど、親御さんの許可なく決めちゃうのはダメなんじゃないかな……」

「私にはま(・)だ(・)親なんていないわ」

 

 親なんていない……そう聞いて、彼女に悪いことを聞いてしまったと思った僕だけど、すぐに何かに引っかかり彼女の言葉を反芻する。

 

「……ま(・)だ(・)?」

 

 まだって一体どういう───

 

「コウタ、あなたに私の本当の名前を教えてあげる。『エリ』っていうのはこの姿をとっている時の仮の名前なの」

「エリちゃん……? おわっ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 僕は思わず変な声を上げてしまった。なんとエリちゃんの背後から突然二本の尻尾のような物が姿を見せたのだ。

 だけど慌てる僕の中のどこか冷静な部分が何かを必死に訴えている。……そうだ、僕はこの『尻尾のような物』に見覚えがある。

 

「これ、先に渡しとく」

 

 そう言われた直後、僕は自身の胸元へとどこからともなく飛んできた小さな物体をキャッチした。それは上下が赤と白の二色でカラーリングされたモンスターボール。

 

「あ……」

 

 カチリと頭の中で全てのピースが当てはまる。

 

 彼女の体が光りに包まれ、光が収まるとそこにいたのは……

 

『まださよならなんて言わせないんだからね……!』

 

 念話で届けられた言葉に苦笑する。

 どうやら僕と彼女の関係はこれからも続くらしい。

 

 

 

 

 

 




ここまでお目通し戴き、ありがとうございました。

皆さんが初めてプレイしたポケモンのゲームは何でしたか?私はDPのパールでした。それがきっかけで当時からずっと好きなポケモンが一体。強さ弱さは度外視でその子はいつも手持ちに入れていました(笑)
はい、その子がこの話のヒロインちゃんです。

この話は私が自宅の掃除中に発見した昔の落書きが主な原因で、書きたくなって書きました。本編に載せてるやつです。
しかし語彙力不足のため、短編とはいえ途中で何度も筆が止まりそうになりました……

三湖のポケモンたちはみんな可愛い。

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