暗殺教室 28+1   作:水野治

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約2ヵ月ぶりの投稿です。
後書きで近況報告などさせていただきますので本編をどうぞ。


第34話 始業の時間 2学期

 ~渚視点~

 

 二学期の始業式。夏休みから心を切り替え、勉強も暗殺も新しいステージへ。

 折り返しの9月。殺せんせーの暗殺期限まであと6ヵ月となった。

 

「久しぶりだな、E組ども」

 

 声のする方を見ると浅野君を除いた五英傑の4人がいた。

 

「おや…このような掃き溜めにも鶴がいる」

 

「「「?」 」」

 

 榊原君の言葉にE組のみんなが何を言ってるかわからない様子だった。もちろん僕にもわからない。

 

「君だよ、君。もったいない…学力があれば僕に釣り合う容姿なのに」

 

 そう言って神崎さんにボディタッチをしようとした榊原君の間に誰かが割って入った。

 

「神崎さんが困ってるだろ?」

 

「おや君は…たしか杉野君だったかな?球技大会では頑張ってたね」

 

「そんなこと今は関係ないだろ?」

 

「まあまあ榊原、こいつらに構ってないで行こうぜ」

 

「そうだね、では神崎さん。また声をかけるよ」

 

 そう言って五英傑は僕達から離れていった。残された僕達はと言うと──

 

「やるじゃん、杉野!」

 

「神崎さんを守るなんてやるじゃん!」

 

「杉野君、ありがとう」

 

 神崎さんを守った杉野を称えていた。みんなに声をかけられ、彼女からお礼を言われた杉野は照れ臭そうに笑っていた。

 ともあれ始業式があるため僕達は体育館に整列をした。

 

 

──

 

 

 夏休み中に活躍をした部活などが表彰され、つつがなく始業式は進む。校長先生の話も終わって式が終わると思っていると司会進行の荒木君が口を開く。

 

「さて、式の終わりにみなさんにお知らせがあります。今日から3年A組にひとり仲間が加わります。昨日まで彼はE組にいました」

 

 荒木君の言葉に僕達E組が動揺を隠せないでいるが、尚も話は続く。

 

「──では彼に喜びの言葉を聞いてみましょう!竹林孝太郎くんです!」

 

「「「!?」」」

 

 なんで竹林君が!?

 

「僕は4ヵ月余りをE組で過ごしましたが、その環境を一言で言うなら地獄でした」

 

 余りの事態に僕は竹林君のスピーチが一切耳に入ってこなかった。彼が話終わるとE組を除く全校生徒が一斉に彼を称えて、それで本当に竹林君がE組ではなくなったんだと思い知らされた。

 

 

 

 

 ~南雲視点~

 

「なんなんだよあいつ!」

 

 始業式が終わり、教室に戻ると同時に前原が黒板に怒りをぶつける。でも俺には竹林のことだけじゃなくて、別のことにも苛立ってるようにも見えた。

 

「ここの事地獄とかほざきやがって!」

 

「落ち着けよ、前原。たしかに言わされたにしてもないけどよ」

 

「でも南雲君。私は竹林君の成績が上がったのは殺せんせーに教えられてこそだと思う。それさえ忘れちゃったんなら、彼を軽蔑するよ」

 

 片岡も同様に静かに怒りというかやりきれない思いを抱いてるようだった。周りもそのような雰囲気で新学期早々にE組という学校の底辺である現実を突きつけられたような気がした。

 もしかして理事長は俺に声をかけたように竹林にも声をかけたのか?

 

「とにかくああまで言われちゃ黙ってらんねー!放課後竹林のところに行くぞ!」

 

 竹林のところに行くにもどうしたもんかなと考えてしまう。事情があるのかもしれないし、何を考えて本校舎に戻ったのかも本人しかわからない。

 それに竹林のことだけじゃなくて前原と岡野の件もある。二人の間だけの問題だけど、前原の苛立ちも含めて気になってしまう。岡野を横目で見ると夏祭りの帰り同様いつもと違って大人しい様子だった。

 

 

──

 

 

「おい竹林!」

 

「…」

 

 放課後になったので前原を先頭として俺達は竹林を訪ねに本校舎まで来ていた。当の竹林はというとこうなることがわかっていたかのような様子だった。

 

「竹林、俺達は別に怒ってるわけじゃないんだ。ただ一言の相談もなしに本校舎に戻ったからその理由が聞きたいだけなんだ」

 

「賞金百億、殺りようによっちゃもっと上乗せされるらしいよ。分け前が要らないなんて無欲だね~」

 

「……せいぜい十億円」

 

 竹林が答えた言葉に俺達は首を傾げる。

 

「僕単独で百億ゲットは絶対に無理だ。上手いこと集団で殺す手伝いが出来たとして…分け前は十億がいいところだね。僕の家は代々病院を経営していて、兄2人は揃って東大医学部。十億って金はうちの家族には働いて稼げる額なんだ」

 

 突然饒舌になった竹林の話をみんなは真剣な顔で耳を傾ける。

 

「E組に在籍していて落ちこぼれである僕は家族として扱われない。トップクラスの点数を取って成績の話を初めて親に報告できたよ。たったそれだけのためにどれだけ血を吐く思いで勉強をしたか…!──僕にとっては、地球の終わりや賞金よりも、家族に認められる方が大事なんだ」

 

 歯を食い縛るようにして自分の思いを吐露する竹林に俺達は何も言えなかった。先程まで怒りを隠せていなかった前原でさえも言葉を返さなかった。

 

「裏切りも恩知らずもわかってる。君達の暗殺が上手くいく事を祈ってるよ」

 

「ちょっと待て竹林!まだ俺達の──」

 

 振り返って帰ろうとする竹林を呼び止めようとしたところ誰かに腕を捕まれて止められた。

 

「…神崎」

 

「やめてあげて南雲君。親の鎖って…すごく痛い場所に巻き付いてきて離れないの。だから…無理に引っ張るのはやめてあげて」

 

「…そっか。ごめん、配慮が足りなかった」

 

 そう言って悲しげな、自分も経験してきたような顔で言った神崎に俺はそれ以上何も言えなかった。俺達が竹林と一緒に暗殺を続けたいっていう気持ちも、俺が個人的に竹林ともっと話したいという気持ちもエゴにすぎないと気付かされた。

 

「…俺達も帰るか」

 

 磯貝の言葉で俺達はその場を後にした。竹林にああ言われてしまっては俺達からはもう何もアクションが起こせない。SOSが出てるわけでもなく、自分の意志で本校舎に戻ったからだ。その事実がもどかしく感じて、中学生の今の自分の無力さを思い知らされた。

 

「南雲、一旦切り替えようぜ。竹林の件は俺達がどうこうできるわけじゃないし…一番熱くなってた俺が言うのもおかしい話だけど」

 

 隣を歩く前原が俺を宥める形で言葉をかけてくる。

 

「まあ、その通りなんだけどさ…。それより前原は大丈夫なのかよ?朝から竹林の事以外にも苛立ってる感じだけど」

 

「あーやっぱりわかっちゃうか。…南雲ってさ、口固いよな?」

 

「俺達は国家機密を抱えてるんだから口が固いに決まってるだろ?」

 

「そう言えばそうだったな。相談みたいな形になるんだけど、…実は岡野に告白されたんだよ」

 

「へー岡野に。いつ?」

 

 事前に聞いていたため反応が希薄になってしまったが、念のため初めて聞いたということにしておく。

 

「昨日。祭りの花火のときに」

 

「あー2人で行動してたもんな。それで相談って?」

 

「今俺は特に狙ってる子とかいない状況なんだよ。でも相手のことが好きでもない状態で付き合うとかそういう返事をするってのはどうなんだろうって思ってるんだ」

 

「茶化すわけではないけど、前原って意外とそういうとき簡単に付き合うって感じがする」

 

「いや、まあそういうイメージを持たれてても仕方ないけど…それでも俺はちゃんと好きな人としか付き合ってきてないよ」

 

「そうなのか、誤解しててすまん」

 

「大丈夫だ。…それより南雲はどう思う?」

 

「うーん…俺は…俺だったらちゃんと好きになってから付き合いたいかな。でも人それぞれだと思うし、色々な形があっていいんじゃねえの」

 

「南雲はそうなのか」

 

「うん。とりあえず返事に関わらずちゃんと答えるべきだな。自分の今思ってることを相手に伝えて、ちゃんと向き合うというか。そうしないと岡野が蛇の生殺し状態になっちまう」

 

「そっか、そうだよな」

 

「矛盾すること言うけど返事を焦る必要はないと思う。ちゃんと考えて、悩んで、前原の答えを出してくれよ」

 

「…ありがとな、南雲。お前も相談事があったら何でも言ってくれよ」

 

「そうさせてもらうよ」

 

 それからは岡野と竹林のことは話題に出さず、普通に話して帰った。互いにその事については口にしなかったけど、前原も察したような感じで今まで通りを装うように話題を探してる様子だった。

 

 

──

 

 

 翌日、学校に登校するとクラスが何となく大人しいような印象を受けた。やはり竹林がA組に行ってしまった影響だろうか。そう考えながら自分の席に着くとちょうど殺せんせーが教室に入ってきた。

 

「みなさんおはようございます」

 

「…なんで真っ黒になってるの殺せんせー?」

 

「アフリカに行って日焼けしてきました。完全に全身黒くなったことで人混みで行動しても目立ちません」

 

「「「恐ろしく目立つわ!」」」

 

 もっとバレない方法あるんじゃないかなぁ。ウォーリーみたいに赤と白の縞々模様の服を着るとか。…いや、これも恐ろしく目立つな。ウォーリー半端ねえ。

 

「でも何のために日焼けしたの?」

 

「もちろん竹林君のアフターケアのためです。自分の意志で出ていった彼を引き止めることはできませんが、新しい環境に彼が馴染めているかどうか見守る義務が先生にはあります。これは先生の仕事ですので君達はいつもと同じように過ごしてください」

 

 殺せんせーはやっぱりどこまで行っても先生だった。A組やE組だとかの境界線など関係なく見守ってくれているんだと思ったら、嬉しく感じてにやけそうになってしまった。

 

「俺等も様子見に行ってやろうぜ?」

 

「なんだかんだ同じ相手を殺しにいってた仲間だしな」

 

「竹ちゃんが洗脳でヤな奴になったらやだな~」

 

「殺意が結ぶ絆ですねぇ。では授業に入りますよ」

 

 どうやら竹林のことは心配なさそうだなと思い授業の準備を始める。鞄から教科書を出して机に入れようとすると机の中に何か入ってることに気づいた。中から出して確認するとメモ帳が四つ折りになっていて開いてみると矢田からのメッセージだった。それには短く──

 

 放課後一緒に帰れないかな?

 

 と書かれていた。次の休み時間にでも返事をしようと考えながら俺は教科書とノートを開いた。

 

 

──

 

 

 放課後となり、みんなが竹林の様子を見に行ったのを見送ってから矢田と一緒に帰っている。

 

「ごめんね、南雲君も竹林のところに行きたかったでしょ?」

 

「いや殺せんせーもいるし、何となくもう大丈夫なような気がしてるから。それで突然一緒に帰ろうってどうした?なんとなく察してはいるけど…」

 

「やっぱりわかっちゃうよね」

 

「たぶん前原と岡野の件でしょ?」

 

「うん。2人のこと何もしないでそっと見守ろうって言おうって思ってて。南雲君なら大丈夫だと思うんだけど…ってどうしてそんなに驚いた顔してるの?」

 

「いや、てっきり2人をくっつけるためにどうにかしようって言われるものかと」

 

「むっ、南雲君は私のこと何だと思ってるの?」

 

「ごめんごめん、でも本当に予想外だったんだよ」

 

「…私だって上手くいってほしいって思うけど、周りが勝手に盛り上がってもそれってどうなんだろうなって思ったからさ。だから2人を見守ろう」

 

「俺は元からそのつもりだったけどな。…でも、わかったよ」

 

「じゃあ指切りっ!ほら指出して!」

 

 急に子供っぽく笑う矢田にギャップを感じて反応が遅れた俺の手を、彼女は軽い物でも持つかのように簡単に持ち上げて勝手に指切りをする。

 

「じゃあ約束したからね?」

 

「一方的な約束感があったけど…まあいいか」

 

「南雲君はないの?恋の相談とか」

 

「俺はないよ。そういう矢田は?」

 

「私は…ないよ。うん、ない」

 

「そっか。お互い寂しいな」

 

「どう?寂しい者同士付き合う?」

 

「寂しさ2倍になるんじゃない?」

 

「あはは、冗談だよ」

 

「矢田のことは好きだけど、俺自身が誰かと付き合うってことを考えたことないからさ。どっちにしろ寂しい思いをさせることになると思う」

 

「そっか。でも南雲君って尽くしてくれそうなタイプだと思うな!」

 

「まあそりゃ好きな人には尽くすでしょ。矢田も一途そうだけど」

 

「女子は男子の前だったらそうじゃなくてもそう言うよ?」

 

「じゃあ違うのか」

 

「一途だから!」

 

「まるで違うみたいな反応が返ってきたけど」

 

「女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来てるの!」

 

「答えになってないけど」

 

 そう返すと2人して大きく笑った。竹林の事があって学校に来てから笑えていなかったので、久しぶりに笑ったような気がした。

 

「矢田はそれの男バージョン知ってる?」

 

「そんなのあるの?」

 

「マザー・グースの中に"What Are Little Boys Made Of?"ってのがあるんだけど、それによると男の子は蛙とカタツムリと子犬の尻尾で出来てるんだとさ。そのあとにみんなが聞いたことある女の子が砂糖とかで出来てるってのに続くんだよ」

 

「マザー・グースってたしか童謡の総称だっけ?それにしても女の子に対して男の子可哀想過ぎない?」

 

「俺は言い得て妙だと思うけどね。小さいときって虫でも何でも好きだったし、目の前にあるもの全部に興味示してた記憶あるから」

 

「へぇ~。虫で騒いだりする南雲君が想像できないや」

 

「カブトムシとか好きだったよ、今はそうでもないけど」

 

「ちゃんと男の子の時代があったんだね」

 

「テレビでやってたりしたら今でも童心に返っちゃうのあるよ」

 

「待って!当てるから!」

 

 そう言うと矢田はむむむと言いながら色々と考える素振りを始めた。

 

「よし、わかった!当たったら何かあるよね?」

 

「えっ景品みたいなの?」

 

「うん!」

 

「当たったときに考えるよ。それでは答えをどうぞ」

 

「恐竜!」

 

「あー惜しい。正解はUMA、UFOでした」

 

「恐竜ってUMAじゃないの?」

 

「UMAは未確認生物のことだから」

 

「むー、釈然としない」

 

「まあまあ、飴でも食べて落ち着いて」

 

「まあいいけど。飴はありがたくもらっておくね」

 

「矢田の好きなものってなに?」

 

「私はパンケーキが好きだよ」

 

「おっ女の子って感じがする。磯貝がバイトしてる店のハニートースト美味いから今度行くか。パンケーキじゃないけど」

 

「あっ凛香が3月頃言ってたお店かな?」

 

「たぶんそうだと思う」

 

「楽しみ~、陽菜ちゃんとかも呼んでいい?」

 

「どうぞどうぞ」

 

「やった!」

 

 話の流れで一緒に出かける用事ができたが、矢田と行動することが多いなと何となく思った。

 

「じゃあ私はこっちだから」

 

「おう、気を付けて帰れよ」

 

「送ってくれてもいいんだよ?」

 

「送ってほしいの?」

 

「うん、ちょっとだけ」

 

「なにそのお願い、ビッチ先生にでも習ったの?」

 

「あはは、そんなところ。本当は送ってもらわなくても大丈夫だよ」

 

「なんだそれ。明日は創立記念日で集会あるから早めに登校だからな」

 

「はーい。それじゃあまた明日ね」

 

「また明日」

 

 

 

 

 そして翌日。俺達は集会のために本校舎に赴き、体育館に整列していた。始業式同様に校長先生の長い話が終わると司会の荒木が口を開く。

 

「それでは次は竹林君のスピーチです。お願いします」

 

 また竹林がスピーチ?そう思っていると原稿を開き竹林は口を開く。

 

「僕の…僕のやりたいことを聞いてください」

 

 やりたいこと?若干の声を震えを残しながら言葉を続けるを

 

「僕のいたE組は弱い人達の集まりです。学力という強さがなかったために差別待遇を受けています。でも僕はそんなE組がメイド喫茶の次ぐらいに居心地が良いです」

 

 …竹林は一体何を言ってるんだ?

 

「僕は嘘をついていました。強くなりたくて、認められたくて。そんな役立たずで裏切り者の僕をE組の皆は何度も様子を見に来てくれました。先生は僕のような要領の悪い生徒でもわかるように工夫して勉強を教えてくれました。家族や皆さんが認めなかった僕の事をE組の皆は同じ目線で接してくれた」

 

 前に立っている莉桜が俺の方を振り向き笑いかけてきたので、俺も笑い返す。対照的に本校舎の生徒は困惑した表情を浮かべている。

 

「世間が認める明確な強者を目指す皆さんを正しいと思うし尊敬します。でも、僕はもうしばらく弱者のままでいい」

 

 壇上の横から浅野が出てきたと同時に竹林は自分の胸元から盾のような物と対先生用ナイフを取り出した。

 

「これは理事長室からくすねてきたもので私立学校のベスト経営者を表彰する盾です」

 

 竹林は振りかぶってまるで何かを断ち切るかのようにナイフを振り下ろした。盾はガラス製だったらしく今までに聞いたことのないくらいに綺麗な音をたてて粉々に割れた。

 

「浅野君が言うには過去これと同じことをした生徒がいたとか。前例から合理的に考えれば僕もE組行きですね」

 

 そう言うと晴れ晴れとした笑顔で竹林は壇上を去っていった。俺達E組は竹林が帰ってくるという事実が嬉しくて、全員笑顔が隠せないでいた。

 

 

──

 

 

 いつもだったら集会が終わるとすぐに旧校舎戻るけど、俺達は本校舎の校門前で竹林が来るのを待っていた。少し待っていると竹林がバッグを背負ってこちらに向かってきた。

 

「おかえり竹ちゃん!」

「いやースカッとした!」

「伊達に眼鏡かけてねえな!」

 

 みんなは笑顔で思い思いの言葉を口にする。すると竹林はフッと笑いながら話始める。

 

「壇上では涼しい顔してたけど、盾を割ったときに指を少し切っちゃってね」

 

 そう言って竹林は絆創膏を貼った指を俺達に見せてきた。それを見てまた笑って、俺はやっとE組の2学期が始まるなと思った。

 旧校舎に戻る道中は竹林が主役で、みんなは彼を囲みながら色々と話をしながら裏山を登っていく。そんな中、全員に聞こえるか聞こえないかわからないくらいの声の大きさで前原が口を開いた。

 

「なあ岡野!」

 

「…どうしたの?」

 

「放課後時間あるか?」

 

「あるけど…」

 

「じゃあちょっと話があるから一緒に帰るぞ」

 

「…わかった」

 

 短いやり取りですぐに会話は終わったが俺の耳には確かに届いていた。竹林が決心したように前原もまた決心したんだなと思った。前原に話しかけるのは野暮だなと思っていると向こうから声をかけてきた。

 

「今日の竹林を見てさ、俺も決めたんだよ。普段大人しいやつが勇気出してるの見たら、黙ってられねえよな」

 

「…それ、俺に言う必要あるか?岡野に言えよ」

 

「岡野にはもちろん言うよ。でも、これを南雲に言うのは逃げ道を無くすためだから」

 

 そう言った前原はいつもよりカッコよく見えた。でもそれを言ったらいつもの前原に戻りそうな気がしたから俺は意地でも言わなかった。少しでもカッコいい状態で放課後を迎えてほしかったから。

 

 

──

 

 

 翌日登校すると前原と岡野の両名とも吹っ切れたような顔をしていたので俺はなんだか安心した。どのような話をしてどのような結論になったかはわからないけど、あの顔を見たら大丈夫な気がした。

 前原に朝の挨拶をすると放課後一緒に帰ろうぜと誘われたので俺は快諾した。柄にもなく放課後が楽しみで、竹林が火薬の取扱いを学ぶことになったが全然授業内容が頭に入ってこなかった。

 そして放課後──

 

「よし南雲、帰るぞ」

 

「うーい」

 

 教室を出て、2人並んで裏山を下る。

 

「それで?昨日の報告だろ?」

 

「おう、岡野と色々と話したよ。それこそ今の俺の気持ちもちゃんと言った」

 

「具体的には?」

 

「岡野のことは好きだけど、友達として以上には見たことなかったって」

 

「それ岡野のこと振ってない?」

 

「いや待て、続きがある。でも今は意識するようになったってところまでがセットだ」

 

「へ~、それで結論を言うと?」

 

「彼氏彼女の関係ではない」

 

「へ?」

 

「だから、まだ付き合ってない」

 

「お前は昨日の竹林を見て何を決心したんだ?」

 

「俺の気持ちを正直に岡野に話すことだよ」

 

「あーなるほど、そういうことか」

 

「まさか南雲は付き合うか否かの2択しかないと思ってたのか?」

 

「…そのまさかだよ。早合点だった」

 

「これだから恋愛初心者は」

 

「悪かったな。とりあえず前原も岡野も納得してるんだろ?ならいいのか」

 

「ああ。好きになる努力って言い方が正しいかはわからないけど、俺も岡野を意識するようになったし何かが変わるのは確かだよ」

 

「ちょっと聞きたいんだけど岡野のこと1日にどれくらい考える?」

 

「そりゃ何回も考えるよ」

 

「ふーん。どんなこと?」

 

「手繋いだらどんな反応するのかなーとか。…ってお前何言わすんだよ」

 

 夏休み前半に前原と出かけたときの会話を思い出して、思わず笑ってしまった。

 

「おい今言ったこと絶対に他の人に言うなよ!何言われるかわかったもんじゃねえ!」

 

「大丈夫だ、誰にも言わないから」

 

 俺は心の中でお前自身にも言わないよと付け加えた。俺が親友だと思っている前原には自分自身でその気持ちに気付いてほしいから。

 




本編とは全く無関係の作者の近況報告ですので、そんなの興味ないよっていう方は飛ばしていただいて構いません。

さて、久しぶりに投稿した訳なんですが投稿間隔はまた少し空いてしまいます。ですが、今回ほど期間は空きません。
理由としましては私生活が現在非常に忙しいからです。
今の仕事が楽しすぎて、残業させてくれとお願いしたら残業できるように手配してくれたということで平日にあまり時間が取れなくなってしまいました。それでも20時には帰宅してるんですがそこから家事などをすると就寝までの時間が2時間しかないので、ゲームなどをやるとなると平日に執筆が出来ないわけです。あと筋トレもやっています。
休日は野球の指導者をやっているので日中帯はほぼ確実に潰れます。夜は友人とスプラトゥーン2やPUBGをやっているのと筋トレで時間が取れないです。

じゃあ今回なんで投稿できたんだっていう話ですが会社の昼休憩でコツコツ書いてました。塵も積もれば山となるってやつです。

結論を書くと残業をやらしてもらえるのが8月いっぱいなのでそれ以降は確実に投稿間隔は縮まると思います。
長くなりましたが楽しみに待っていただけたら幸いです。

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