「……暇だ〜……」
炬燵に入って、適当に流しているテレビを見ながら呟く。
天気のいい日曜日の昼下がり。今日はテニス部は休みで、ハロハピの活動もない。お昼前にのんびり起きて、特に何もせず今に至っている。
折角のいい天気だし、どこかへ出かけようかな。
そう思ったところで、携帯が鳴った。着信だ。発信者は弦巻こころ。
「はいはい、今出ますよーっと」
何を言いだされてもいいように心の準備をしつつ、電話に出る。
「はい、もしもし」
「美咲、海に行きましょう!」
「……は?」
うん、流石こころさん、いつでもこちらの予測を超えてくる。
「……なんでこの時期に海?」
「なんで? う〜ん、なんでかしらね。 今日の天気を見ていたら、なんとなく海が見たくなったの! だから一緒にどうかしら、美咲!」
「……まぁ、暇だしいいけど……」
「決まりね!今美咲の家の前にいるから、待ってるわ!」
「え、もういるの?」
慌てて上着を取って来て外に出ると、こころが家の前に停めた車の横で待っていた。
「お待たせ、こころ」
「美咲! 来てくれて嬉しいわ!」
無駄に広い後部座席にこころと2人で座る。最近ようやくこの広さにも慣れてきた。それでもまだ落ち着かないけど。
「それじゃあ行きましょう! 楽しみね!」
着いてみると、やはり時期が時期だけに誰もいなかった。そりゃそうだ、こんな寒い日に海に来たがる人なんて沢山はいないだろうし。
「わぁ、誰もいないのね! まるで貸切みたいだわ!」
「海に貸切なんてないけどね……」
コンクリートブロックに2人並んで腰掛けて、水平線を眺める。
特に言葉は交わされなかったけど、それでよかった。
時々吹く潮風が少し冷たい。そう思っていたら、こころがくっついて手を握ってきた。
「こうすれば、寒くないでしょう?」
そう言って、こころが微笑みを向ける。触れている部分から、身体がじんわり暖かくなっていくのがわかる。
「うん、そうだね。あったかい」
そう言って、私も微笑みを返した。
「そうだわ! 私やってみたいことがあるの!」
太陽が傾いてきた頃、こころはそう言うと、ぱっと手を離して、コンクリートブロックから飛び降りて砂浜に着地した。……繋いでいた手が惜しいなんて思ってない。
「やりたいこと?」
私もこころに続いて砂浜に降りる。こころは砂浜に落ちていた流木を手に取り、砂浜に立てて言った。
「ビーチフラッグよ! 前にテレビで見た時、とてもおもしろそうだったの!」
「いやいやこころさん、あれって普通もっと大勢でやるものじゃない?」
「大丈夫! 2人でもきっと楽しいわ!」
「あー、これはやるしかない流れだ……」
こうなったら諦めるほかない。溜息をひとつ吐いて、立てた流木から距離を取っていくこころに着いていった。
「これくらい離れればいいかしら?」
「いいんじゃないでしょうかー」
「それじゃあここからにしましょう! 合図は私がするわね」
「はいはい」
嬉々として準備するこころを横目に、私もうつ伏せになる。こころより速く走れる気はしないけど、砂浜でならわからない。
「それじゃあいくわよ? ……位置について、よーい……ドン!」
反転して走り出す。砂浜はやっぱり足を取られて走りにくい。こころもそれに影響されたのか、私の方が先行する。
目標の流木の目の前まで来て、よし勝った、と思ったら小さな金色の塊が飛び込んで来て、先に流木を取っていかれてしまった。
「やったわ! 私の勝ちね!」
「あー、絶対勝ったと思ったのに……」
「……ふふっ」
起き上がったこころが小さく笑った。
「なにさー」
「いいえ、なんでもないわ?それじゃあもう一回やりましょう!」
「今度は負けないからね」
結局その後もう何回か勝負した。勝ったのと同じくらい負けた気がする。
「あー、もう無理、これ以上走れない」
何回目かの勝負を終えたところで、ギブアップしてへたり込んだ。
「あら、もうお終い? 残念だわ」
「むしろなんでこころはそんな元気なのさ……」
「だって楽しいんだもの!」
空はもうオレンジ色から黒色になろうとしている。すると空を見たこころが指差しながら言った。
「見て美咲! 一番星よ!」
「あ、ほんとだ。よく見つけたね」
「光が少ないから見つけやすかったのよ!」
キラキラした瞳で星を見つめるこころと、海と、空。
しばらく私は、それに見惚れていた。
ある寒い1月の終わり日の、夕暮れだった。