オール・フォー・ワンがこんな感じの過去だったらいいな
 & 個性出始めたら世界こうなるんじゃねって妄想

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リヴァイアサン またはAFOは如何にしてヒーローを止めて悪の道を進むようになったか

 床ずれ上等な拘束椅子に座りながら、僕は一息吐く。

 

 身体はそう動いていないはずだが、それだけでタレットが僕を睨んできた。

 

 赤外線に関する能力がもう少し強くなればセンサーにジャミング仕掛けてみるのもいいかもしれないが、今は我慢。世の人々のために、しばらくの間は大人しくしていよう。

 

 ようやくここまで来たんだ。少し休憩したってバチは当たらないだろう?

 

 と、こんな事をやり始めた元凶に愚痴ろうとしたのだが、既に顔も名前も思い出せなくなっている。

 

 実の弟だというのに酷い話だが、何しろアイツが死んだのは遠い昔の話だし、個性を使った際に取り込まれる記憶のせいで、自意識だってあやふやだ。ここにいる僕が俺なのか私なのかも不確かでは、その道程だって揺らいでくる。

 

 だから舞台裏にいる間に、その辺を整理しておこう。

 

 幸いな事に考え事をするには最適な環境だ。静かで、寒々としていて、誰も来ない。思考の海に埋没するのを邪魔するのは、忘れ形見の元継承者くらいだ。

 

 奴が来る事は早々無いだろうが、良いところで邪魔をされても困る。善は急げのことわざに従い、早速始めるとしよう。

 

 では、Q. 私は誰か

 

 A. 僕はオール・フォー・ワンである。そして俺は転生者だ。

 

 

 

*

 

 

 

 オール・フォー・ワンに転生したと気付いたのは、世界中で個性が発現し始めてからだいぶ経っての事だった。

 

 勿論そうなる前から個性の存在は知っていた。例の中国で生まれた世界初の個性持ちのニュースだってリアルタイムで見ている。

 

 ただ第一報がバイラルメディアだったせいで、くつろぐ猫動画の山の中に埋もれてしまっていた。Youtubeに光る赤ん坊の動画が流れても、中華おもしろ動画と紹介されるだけで、まともに取り合う人間はオカルト雑誌を読む人間の中ですら一部だっただろう。

 

 だが個性持ちの数がどんどん増えてゆき、学術雑誌の権威であるネイチャーに記事が寄せられるにあたって、個性という能力が現実に存在する物なのだと人々はようやく受け入れた。私がヒロアカの世界なのではと思い至ったのも、大体その頃だ。

 

 ここがヒロアカの世界であると思いつくの鍵だったのか。それまで何の疑問も無く僕として生きていた私は、漫画を知る俺という記憶も持つ事になる。そしてそんな記憶を持ったならばやる事は一つ。馬鹿な転生者の常として、自分にどれだけ力があるのか探り始めた。

 

 そしてめでたく、自分がオール・フォー・ワンだと知った訳だ。

 

 当初はどうしようもないウェブ小説のように俺TUEEな善人プレイを興じていた。個性を使った犯罪というより暴走を止めては、その駄賃として個性を奪っていったのだ。プロヒーローなんてプの字も無い時代だから必然的にヴィジランテとなる訳だが、地元の人に感謝されたりハーレムが出来たりと、中々に充実した日々を過ごしたと思う。

 

 このまま悪の道は無視して原作崩壊させよう、なんて考えを積極的に持ってはいなかったが、同じくらい原作ルートに進もうという気持ちも無かった。

 

 闇の世界に君臨しても、いつかは身体を破壊され、檻に囚われる。例えワン・フォー・オールを生み出さなかったとしても、少年漫画誌の世界で悪が栄える事は無いだろう。そんなご都合主義(強制力)を忌避してそもそも悪の道に向かわなかった訳だが、これは僕の考えが足りなかったと言わざるを得ない。

 

 具体的に言うならば、人類の排他性を過小評価していたのだ。

 

 想像して欲しい。ある日隣の家に、顔にまで入れ墨をしたスキンヘッドの大男が越してきて、銃を持ちながらにこやかに引っ越しの挨拶に来た時の事を。

 

 例え三跪九叩頭(さんききゅうこうとう)の礼で出向いてきたとしても、挨拶を終えた瞬間あなたは引っ越しの準備を始めるだろう。

 

 ましてやこの世界では人間以外が近付いてくるのだ。肌の色が違うどころか生まれた村が違っただけで相容れぬと殺し合えるのが人類である。目をカタツムリのように伸ばせれば、虫扱いして避けないと言い切れる人間がどれだけいる事やら。

 

 事実、世界は彼らを拒絶した。

 

 カツラも飛ばせない程弱まっていたトランプ旋風が吹き荒れた。シリア北部に押し込められたダーイッシュが息を吹き返した。EUに滞留した難民達が地中海に叩き出された。

 

 中国は自国民の監視と弾圧を強め、日本は戦国時代の意識まで回帰する。おらが村に生まれた者以外は人間では無いという、閉鎖的な世界の再来だ。

 

 そんな状況において、俺はあまり積極的に行動を起こさなかった。勿論自分の周りの安全を保つくらいならしていたし、実際に小さな街くらいのコミュニティを作り、実質的な権力者として君臨した事もある。だが小市民の俺が自発的に動こうとしたのはその辺りまでで、それ以外の場所は自力救済で頑張ってもらうしか無いと思っていた。

 

 その考えを打ち砕いたのが、中東における小規模核戦争だった。

 

 ダーイッシュ、当時の日本ではイスラム国という名で知られたテロ組織が、シリア国内の核開発施設を占拠。その状況を嫌ったイスラエルが核を放ったのである。

 

 当初はイスラエルもいつものように空爆を行おうとしたようだが、個性発現に伴う混乱で軍が上手く機能していなかった。パレスチナ問題がより深刻なテロを引き起こすようになり、紛争一歩手前まで進展していれば、他国にちょっかいを出す暇は無かったのである。

 

 さりとてアメリカなどの支援も期待出来ない。人種差別問題どころでは無く分断された国内情勢を抑えるのに必死で、モンロー主義が復活を遂げていた。その上周りの中東諸国が国内の不安を和らげるために外敵を必要としだしたなら、中東戦争のトラウマを抱えるイスラエルに選択の余地は無かった。

 

 予防攻撃がシリアの砂をガラスに変え、報復で約束の地に光がともった。聖戦(ジハード)となった理性なき戦争は周辺諸国を巻き込む第五次中東戦争となる。

 

 この様子は、ネットを介して世界中に流れた。通常兵器だけではなく、個性を使った荒々しい虐殺のシーンが、数千数億と再生される。個性は危険なものだという意識がそれまで目を背けていた人々にまでしっかりと突きつけられ、選択を迫ってきた。

 

 このまま奴らを野放しにしていいのか? 次にあのようになるのはお前とお前の家族だぞ? と。

 

 信じられるのは自分だけ。全ての人間の全ての人間に対するかのような闘争が始まった。

 

 異形系は徒党を組んで部族となり、自分を焼こうとする人の手を噛み砕いた。精神に作用する個性持ちは人々を使役して、奴隷帝国のようはものを作り上げた。肉体強化系は単純に暴れ回り、その原始的な強制力で周りを制圧した。

 

 初めは混乱を抑えようとしていた国家も、その中枢に個性発現者を抱えるようになる頃には瓦解した。シビリアンコントロールは意味を為さなくなり、自衛隊ですらやむなく駐屯地単位の軍閥へと成り下がる。そうなると後は各人の良心に頼む事になるのだが、それは国民意識を手放すのと同義だった。

 

 そんな中で、俺のコミュニティはマシな部類だと判断されたのか、人々が庇護を求めてきた。俺はそれに応じ、ある程度の秩序を彼らに与えた。

 

 だがそんな俺の王国の中でさえ、不和の花が咲く。配給の量の不平等に憤り、労働量に文句を言い、隣人の異能に戦いている。

 

 アイツは俺たちとは違う。だから排除しなくては。”イジメ”のような気軽さで仲間を殺す申し出をされるにあたって、僕は人類社会の終焉を明確に意識した。

 

 いっそ俺が救世主にでもなって、みんなをまとめようか。そんな冗談を漏らすくらい、世界は息詰まってたのだ。

 

「それは良い案かもしれないですね、兄さん」

 

 そう言ってきたのは、この世界における実の弟だった。

 

 私と違って、彼は無個性者だった。正確には違うのだが、その時点はそういう扱いをされていた。

 

 ワン・フォー・オールを作らないためにも彼に個性を分け与える事は無かったが、それで仲が拗れる事もなく、実務は俺が、政務を彼が、と良好な関係を保ってきていたはずである。

 

 そのせいだろうか。コミュニティの、ひいては世界の行く末を僕以上に弟は案じていた。なまじ原作の未来を知っている分、俺には危機感が足りなかったのだが、現在しか知らない弟にとっては、人類絶滅すら視野に入っていただろう。

 

「誰かが立ち上がらないと、この世界は終わってしまう。それは個性のせいかもしれないし、撃てると分かってしまった核のせいかもしれない。方法なんてそれこそ人の数だけ出来てしまったんだ。間に合ううちに何とかしないと」

 

「そうは言うがな大佐。ここまで人心が分断されれば、誰かの振りかざす正義は誰かの悪になるぜ? 例えば殺されそうになってた人を助けたとして、そいつを殺そうとしていた奴にとって俺は悪になる」

 

「分かっているよ。でも悪の方をまとめるとしたら? 他人を害したい奴のやる事なんて殴る、殺す、犯す、奪うの数通りしかない。それを集めて教化するなら監視がしやすいし、そんな集団が生まれたなら、他人と協調出来る人間は対抗してひとまとまりになる。確かに制御は難しいだろうけど、兄さんだったら出来るでしょう?」

 

「お前、俺にリヴァイアサンにでもなれってか?」

 

「正確にはその供物かな。リヴァイアサンは国家の方だし」

 

 リヴァイアサン。旧約聖書に登場する海の化け物。その巨体は渦を作り、火を吐き、煙を吹き上げる。

 

 勿論私達が話しているのはそんな伝説の方では無い。旧約聖書が編纂(へんさん)されてから時流れる事二千年、トマス・ホッブスというイギリス人の提唱した必要悪という怪物の方の話をしていた。

 

 雑に要約すると、人間は何の制約も無い状態では万人が万人にたいして争い続けるから、各々で妥協して社会契約しないといけない。ただ約束しただけだと破る者も出てくるから、それを抑制する存在を作るために、一切の力を権力者へと譲り渡す必要があるという内容だ。そうして生み出された力の事を、ホッブスはリヴァイアサンと呼んだ。

 

 この世界にも元々リヴァイアサンはいた。大小合わせれば無数に存在したが、大きなものは大体200程度が世界を回遊していた。

 

 それが個性発現のせいで千と千切れ、臣下を戒める暴力を持たなくなったせいで、今のような世界となったのだ。

 

 怪物を作り上げねばならない。世界が求める、地球を二分する怪物を。そう弟は言っているのだ。

 

「だが悪だけでは、正義の方が乱立するぞ」

 

「そっちにも偶像を作り上げればいい。分かりやすい悪がやってきて、そこを助けたなら、英雄が多少違った正義を持っていたって迎合するものさ。ついでに食を保証出来たら最高なんだけど」

 

「パンとサーカスか。そりゃそこまでやれば人を集められるだろうが……」

 

 正直なところ、根は一般人の自分には想像もつかない話だった。確かに私はそのコミュニティのトップとして振る舞っていたが、やっている事はパワー型個性持ちと同じようなもので、ブレインとしては弟に頼り切りというのが実状だったのだ。だから特段、この世界でやりたい事も無かった俺は、彼の提案に異を唱えるつもりもなかった。

 

 フォールアウトな世界で自由を満喫するより、現代的な刑務所の方がまだマシだろうという思いも無かったとは言わない。

 

「まぁ悪は俺がやっても良い。だが正義はどうするんだ?」

 

「兄さんには個性を移す能力があったよね? それを僕に使って欲しい。僕が、正義の御輿になろう」

 

「嫌な響きだ。それはそうと、俺の力で個性を移せば廃人になる可能性がある。そこのところ分かっているのか?」

 

「それは大丈夫だと思うよ。だって兄さんが止めないんだし。成功すると思っているんでしょう?」

 

「勘の良いガキは嫌いだ」

 

「お互いガキって年でもないでしょうに」

 

 そうはにかんだ弟は、次の日からヒーローとなり、それもそうかと苦笑した俺は、夜に紛れてヴィランとなった。

 

 世界中の人々に、一生残る恐怖と衝撃で、一生残る愛と勇気を。

 

 共同脚本家はそう誓い合い、袂を分かった。

 

 これがオール・フォー・ワンとワン・フォー・オールが生まれるまでの物語。私が、俺が、僕としてあるようになった物語。

 

 ”僕の”ヒーローアカデミアを作るために強制されたご都合主義な物語だ。

 

 

 

 

 

 

 隔壁の開く音がする。

 

 過去に思いを馳せていた時間はそう長くないはずだが、誰かが面会にくる程時間が経っていたのか。

 

 太陽の見えない世界にいると幾らでも感覚は狂ってくる。もっとも、この檻に閉じ込められていなかったとしても、太陽とは数年以上ご無沙汰であったが。

 

「やぁ、オールマイト。また来たのかい? 教師というのは、案外暇なものなんだね」

 

 僕の宿敵……という設定で教導していた元ヒーロー オールマイトに、僕は笑顔を向けた。向こうにそれは分かりはしないのだろうけれども。

 

 弟と僕の物語を強烈に演出してくれた素晴らしき俳優に敬意を表しながら、僕は彼との会話を存分に楽しむ事にした。

 

 

 

 


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