たとえその気持ちに気付けなくても、届く想いはきっとある。

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※だが、そら×えーちゃんも多少あるんだ


そらちゃんがししょーのお見舞いに行くお話

「ししょー、大丈夫かなあ……」

 

「本人曰く軽い風邪だって言ってたし、数日しっかり休めば問題ないと思うよ」

 

「うー、でもでも! やっぱり心配だよお……」

 

 土曜日の午後、日も傾いてきた時間帯。

 とある収録スタジオでの会話。

 

 一人は今をときめく現役女子高生美少女YouTuber、『ときのそら』である。

 そしてもう一人はそのそらの親友でありマネージャーでもある『えーちゃん』。

 

 その二人が今話しているのは、そらが可愛い動きのお手本にし、師匠として慕い、プライベートでも親交の深いYouTuber『のらきゃっと』。

 日々キャラを模索し探求し、そしてプライベートですらYouTuber仲間と会う時には設定であるアンドロイドを押し出していく姿は、正にプロ魂の塊……そらには間違いなくそう見えていた。

 

 そんな『師匠』が、熱を出して寝込んでいる……と、そらが気付いたのはいつも見ているツイートからだった。

 曰く『いつものキレが無い様に見える』

 曰く『いつもよりツイート数が若干少ない様に見える』

 

 という些細な変化から、躊躇しながらも連絡を取り発覚したのである。

 

「……本当、何でのらきゃっとさんの事となると頭のキレが一時的に良くなるのやら」

 

「ふぇ?」

 

「や、何でもないよ。それよりお見舞い行きたいなら家族に連絡入れてから向かう事」

 

「……うっ」

 

「はぁ……そらは何にでも全力になれるのは良い事だけど、複数を同時にやるのは得意じゃ無いんだから。私も極力サポートするけど、気を付けてよ?」

 

「うー……わ、分かりました……でもありがとね、やっぱりえーちゃんがいないと私はポンコツだなあ」

 

 そうやって『えーちゃん』は毒づきながらも、そらに誰よりも、それこそ一番に憧れているのは内に秘めている。

 サバサバしていてクールな存在、頼り甲斐のある先輩でそらの姉の様な存在だが、スポットライトを浴び輝く幼馴染が眩しくて、それでいて尊敬していて。

 でも恥ずかしがりな彼女は、言動に示せられずにいる。

 

 だからせめて、全力で支えて行こうと、全力で幼馴染を輝かせてやろうと、そう思っているのだ。

 

 

 

 

 

(ФωФ)<ネコデス

 

 

 

 

 

「……そらちゃんには来てもらいたい、けど風邪が移ってしまうのは……い、嫌だな。それに緊張する……」

 

 ところ変わってその『ししょー』の自宅。

 普段YouTubeでは『魔性』と呼ばれている彼女ではあるが、素は臆病であまり人との関わりが得意ではない性格でもある。

 外で同業者と接する時ですらアンドロイド設定を敢えて持ち出すのは、そんな自分を出さない為である。

 

 そうこうしてどうしようか、どうしようかとのらきゃっとが悩んでいると、無情にも自宅のベルが鳴る。

 

 と、同時にのらの身体がビクッと跳ねる。

 

「ししょー……あの、お見舞いに来ました」

 

「うにゃ……」

 

 フラフラする身体を起こし、インターフォンのカメラから覗きこむとそこには心配そうな顔をしたそら。

 のらは思うのだ、「そんな顔をされて断れる訳がない」と。

 

 ところでだが、そらがのらを慕い、ししょーと言うのであればのらはそらの大ファンである。

 

 そんな、そらの大ファンであるのらが弱っている時に彼女の顔を見てしまえばのらが拒否など出来るはずがなかったのだ。

 

 何とか玄関のドアを開け、寒風と共にそらの顔が視界に入る。

 

「……わざわざ来てくれたんですね、そらちゃん」

 

「ししょー、身体は大丈夫ですか!?」

 

「心配要りませんよ、私は安藤ロードですから……」

 

 因みに言及するが、のらはそらの前でだけ『素』でポンコツになるのだ。

 ポンコツも一つの売りとしてやっているのらであるが、そらの大ファンである事、人と接する事が基本的に苦手な性格の持ち主故にこうなってしまう。

 

 幸い、のら視点から見てそらはキャラ作りと思い込んでいるのが救いではあるが。

 

「もー、ししょーは熱あるんだからこんな時くらいキャラ作りは休んでください」

 

「……そうは言われても、性格なので」

 

「そう言うところが心配なのに……」

 

 流石に罪悪感が湧くのら。

 天使の笑顔と言われているそらの悲しむ顔は、いくら誤魔化しているだけとはいえ心に来るものがある。

 

 何とか話題を変えようと、表情の起伏の少ない顔の下で盛大に青ざめながら思考する。

 

「……そうですね、えっと、いつまでもここに居てはそらちゃんが風邪を引いてしまいますし、取り敢えず中に覇気……入ってください」

 

「あ、はいお邪魔します……って今は私の事よりししょー自身の事を……」

 

 思考の中で試行錯誤しながら辿り着いた答えでも小言を言われるものの、最低限の任務は達成した感でのらはホッと心の中で一息つく。

 

 そして一息ついたところで、自分がそこそこ高い熱を出して寝込んでいた事を思い出したのらに頭痛が再び襲い掛かってくる。

 時間差攻撃と言わんばかりに忘れていた時の痛みまで上乗せで襲ってくる頭痛に、平静を保ちながらも今度は違う意味で青ざめるのら。

 

「……ししょー?」

 

 異変に気付いたのか、顔を覗き込んでくるそら。

 いつもならその自分より背も少し高く、スタイルも良い、端正な顔立ちも持っているとのらが評する完璧美少女に見つめられれば顔が多少なりともニヤけてしまうものなのだが、今ののらにはそんなご褒美ですら満足に味わえずただ平静を保つのがやっとであった。

 

「南ですか、そらちゃん」

 

「無理……してないですか?」

 

 そんなギリギリのところに、いつもは天然でフワフワしている様な子からの鋭い指摘。

 驚くな、と言う方が無理があった。

 のらはその精神的衝撃、そして反射的硬直による脳への衝撃にプロ根性で多少は耐えた、耐えたのだがやはりのらも人間。

 適当にポンコツを交えあしらおうとするも、精神よりも先に肉体が限界を迎え、振り向いて応えようとした瞬間に、のらの視界はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

(・(ェ)・)

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 はて、自分はさっきまで何をやっていたのだろう……と目を覚ましたのらは一番にそう思考した。

 現状を見る限りでは自分は寝ていた、それは分かる。

 

 しかしその直前まで何をやっていたのか、その空白の五分程度が脳が活性しない事、まだ熱がある事で上手く思い出せない。

 

「……まだ少し痛むかな……あれ?」

 

 頭を振りながら、まだ痛みがある事を確認すると額から布が落ちてきた。

 その湿った布を見て、のらはぼんやりと寝る直前の事をじっくり振り返り、またもや青ざめベッドの横にゆっくりと目を移す。

 

「……ししょー……死んじゃ嫌だよぉ……」

 

 そこにはベッドにもたれ掛かり、寝息を立てているそらの姿があった。

 次の瞬間、のらは寝る直前の五分間をようやく全て思い出したのだ。

 

 そらが来た事、自分が無理をし過ぎて倒れた事を……

 

「……心配、させてしまったみたいですね」

 

 それによって、自分の額に乗っていた布もそらの看病の証だと納得する。

 

「全く……心配させてはいけないと痩せ我慢していたのに、逆にそれ以上に心配させてしまうなんて……ダメですね」

 

 大切な人だからこそ心配させたくなくて。

 だからずっと痩せ我慢をしていたと言うのに逆効果。

 のら自身、自らに呆れるより他なかった。

 

「目を覚ましてよぉ……」

 

 それはそうと、とのらはそらに再び目を移す。

 のらが倒れた時のショックが相当大きかったのか、先程からうなされてばかりである。

 顔色もかなり悪く、目元を注視すると若干泣いているのも見える。

 

「そらちゃん、心配掛けてごめんね……大丈夫、大丈夫だから。私はここにいますよ」

 

 キャラ作りも何も無い、親族と一人の時にしか出さないと決め込んでいた『素』の自分。

 だが今は、そんな些細な事よりそらを安心させる事の方が最優先……のらはそう思い、演じていない自分で、そらに優しく語りかけた。

 

「んにゅ……ししょー、良かったぁ……」

 

 頭をゆっくり、優しく撫でているとそらの顔は穏やかなものになっていった。

 それを見て安心したのか、のらの顔もリラックスしたものへと変わっていた。

 

 しかし気が緩んだのか、寝込んでいて少量の水分以外何も口にしていなかったのが災いしたのか。

 のらのお腹から『ぐ~』と、音が鳴った。

 当たり前だ、もう一度言うがのらは今日一日もう夜である今の今までほぼこのベッドから動いていないのである。

 

「……流石に、何か作らないとですね」

 

 身体こそまだ気怠いが、頭痛はそこそこ引いていると判断したのらは何とか起き上がろうとする……そして、肩をガシッと掴まれた。

 

 勿論ではあるが、そんな事が出来るのは現状一人だ。

 

「……ししょー」

 

「そら……ちゃん」

 

 あ、これまずいやつだな……のらがそう思うには余りにも簡単であった。

 そらの表情は俯いていて見えはしないが、肩が小刻みに震えている事から完全に怒らせたと本日四度目の顔の下での青ざめ。

 今回ばかりは弁解の余地も無く痩せ我慢のせいだと言うのは百人が百人そう答えるレベル、八方塞がりだ。

 

「じじょおおおおおおお!! 生きてて良かったよおおおおおおお!!」

 

「……あれ?」

 

 しかしそんなのらとは裏腹に、号泣しながら抱き着いてくるそら。

 そこに怒りなんて感情は無く、ただただ子どもの様に泣いているだけだった。

 

「……ごめんね」

 

 自分が思っていた以上にそらを心配させてしまった事に気付いたのらは、そう一言呟き抱き締めるより無かった。

 

 

 

 

 

 

「……ししょー、ほんとーに心配したんですからねっ?」

 

「ご、ごめんなさい……まさか倒れるなんて思わなくて」

 

 そらが泣き止むまで約十分、ずっと穏やかな顔で抱き締めていたのらだが、内心はやはりそらの大ファンと言うべきか脳の思考回路がショートしかける程になっていた。

 それでも尚表に出さないのはプロ根性故か。

 

「ししょーが倒れた時……本気で死んじゃったんじゃないかって。もう頭が真っ白になるくらいショックで」

 

「……相当、心配させてしまったんですね」

 

 のらが倒れた時のそらを思えば、どれだけ怖かったかなんて立場を置き換えれば容易く分かる。

 

「痩せ我慢なんてするからですー! 今度無理したら許さないですからねっ!」

 

 腕をパタパタと上下に振る動作を見て、のらは今まで隠していた素を多少なりとも出しても良いのかも知れない、そう感じていた。

 

 何せその腕の動きと言うのは、初期からのらが動画で上げたものの中で使われていた振り方にそっくりだったからだ。

 勿論振る時間感覚は違うが、素でそれが出ていると言う事は普段から使っている証拠に他ならない。

 

 流石にそこまでされて自分の事を慕っていない……等と思える程のらも鈍感ではない。

 ここまで慕ってくれている存在に、果たして素を見せないのは正解か否か……

 

 と、のらが難しく考えていると再び脳が空腹を思い出したのかまた鳴った。

 

「……」

 

「……今日、なに食べました?」

 

「……お水を少々」

 

 そらがジト目になったのを見てのらはこう思った。

『ああ、今度こそ怒らせた』と……

 

「しーしょー! それじゃ身体壊しちゃいますよ!」

 

「……な、なので今から作ろうと」

 

「ダメです」

 

 何時になく強気に出るそら。

 一度目の前で倒れられたらそうなるのも仕方ないのかも知れないが、のらが倒れたのはそれだけ不安材料という事だろう。

 

「ししょーは休んでてください。私が作りますから」

 

「……でも、そこまでしてもらうのは気が引けてしまいます」

 

「だいじょーぶです! 私がやりたいから、ちょっとでも役に立てるなら何だってやりたくなっちゃうんです」

 

 それは正しく、間違い様も無いそらの本心だ。

 だがそれとは別にもう一つ、『もっと近くにいられる存在になりたい』……そんな気持ちもある。

 

 そらにとってのらは『ししょー』だ。

 だがそれと同時に大好きな、大切な存在である。

 だからもっと近くにいたい、もっと仲良くなりたい……そう思ってしまうのは必然だった。

 

「……そうですね、それじゃあ今回は少し甘えちゃいましょう」

 

 何度も言う様に、それに対してのらももっと仲良くなりたい気持ちはそらと同じくらいにはあるのだ。

 

「はい! それでは簡単に三品程度作っちゃいますので待っていてください」

 

「あっ……そう言えば」

 

「どうかしましたか、ししょー?」

 

「家の方には連絡、入れましたか? もう夜も遅いですし」

 

「……えーちゃんにも同じ事、言われました」

 

 思い出したかの様に聞いてきたのらに、そらは苦笑いで答える。

 収録が終わったのはいつもより早いとはいえ、気付けば既に20時を回っている。

 これから家に帰る……と言うには女子高生には些か危ない時間とも言えるだろう。

 

「なのでお父さんとお母さんには『ししょーの家に泊まる』って言って、軽く荷物も持ってきたんです……迷惑、でしたか?」

 

 確かにいきなり『泊まる』と言われて驚かない人間はまずいないだろう。

 それはのらも然り……だが、今日に限ってはそれがとても嬉しく思えたのも事実。

 

 ふふっと笑ってからこう返した。

 

「迷惑ではありませんし、私は一人で暮らしているので遊びに来てくれる事はとても嬉しいです。ですが、今度からは事前に連絡はくださいね?」

 

「は、はいっ! ありがとうございます!」

 

 のらの返しに、太陽の様に微笑むそら。

 

 

 二人の想いはそれぞれ一方通行で、両想いなのに片想いで。

 

「……ありがとう、か。私こそそらちゃんに会えた事に、そう言いたいな」

 

「ししょー、何か言いましたか?」

 

「……いえ、そらちゃんの制服エプロン、良く似合ってますよ」

 

「も、もーししょーったらー!」

 

 だが、片想いに見えるその気持ちは。

 無意識に双方に届いているのかも知れない。

 

「ふふっ」

 

 今度の週末はきっと、遊びに誘おうと秘かに決心するのらであった。




ちょっと臆病なのらちゃんと、世話焼きお母さんで幼馴染属性持ちで妹っぽいけど姉っぽいところもあって、そんなそらちゃんのお話

キャラ崩壊あるかも知れないけど、そう感じたら申し訳ない

お陰様で短編日間11位です、アザース!


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