リビングで本を読んでいると、キッチンの方からじゅ~じゅ~と食欲をそそる音が聞こえてきた。
ちらりと見ればコロッケを揚げている親父の横で、その様子を真剣に覗き込んでいる姉さんの姿。
(姉さん、頑張ってるなぁ)
料理が得意な姉さんだけど、実は揚げ物が苦手ジャンルだったりする。
この間も家庭科の授業で課題がコロッケだったのだが、だいぶ苦戦していた。
温度が上がりすぎて危うく油が発火しかけたところを、
李苺鈴、李にすーげぇ豪華なお弁当を作ってるところ見るに、料理得意なんだろうな。イメージ的にも、中華といえば揚げ物だし。
毎朝あの量と種類を作るの大変だろうに。……それが李への愛のでっかさ、ということなのだろうか。
ちなみに俺も揚げ物作るのは得意じゃない。
……というか、油に物を放り込むことに抵抗はないんだけど、以前豪快に入れすぎて跳ねた油で火傷をしたことがあるんだよな。
そのため、今のところ姉さんに揚げ物禁止令を出されている。
姉さんは「わたしがちゃんと覚えて、梅くんに教えてあげるからね!」と張り切ってくれているので、今は姉さんとのわくわくクッキングを楽しみにしつつ待機中だ。
(あ。そういやぁ、まだお礼してなかったな……)
ふと、少し前……マラソン大会の特訓時に、李苺鈴に背負われて帰ってきたことを思い出す。
姉さんが火傷をしかける、という由々しき事態も防ぎ助けてもらった事だし、借りを作ったままなのもなんだよな。
ここはひとつ、なにかお礼を考えておくか。
(うーん……。最近よく女子が話題にしてる、"おまじないカード"……とか?)
李苺鈴、姉さん達の会話を興味津々に耳を澄まして聞いていたような気がするし。姉さんにおまじないカードが売ってる、真紀さんのお店の事も聞いてたし。
(……あ、そしたらもう自分で買ってるか)
だとしたら、きっと買ったのは恋愛のカードなんだろうなとなんとなく想像する。
月峰神社で恋愛成就のお守りを買ったのを知ってるのもあって、妙な確信があった。
(……自信満々です、って豪語してる割には臆病というか。自信が無さげ、というか)
李苺鈴が李の事を大好きなのだというのは、傍から見ててもすごく伝わってくる。
だけどことあるごとに垣間見える自信の無さは、普段の堂々とした様子とは真逆に思えた。
(好きな分、不安にもなるって事かなぁ)
うーん。恋って、どんなものなんだろうな。
いつかは俺も、姉さんや李苺鈴のように……誰かを好きになるのだろうか。
姉さんと同じかそれ以上に誰かを好きになるなんて、今はまだ想像もできないけど。
(っと、考えがずれた。お礼だ、お礼。んー……何にしよっかなぁ……)
いくつか思い浮かべるも、どうもしっくりこない。
「……。ま、そのうち考えればいいか」
「何がだ?」
「お、兄貴。おかえり~」
「ただいまー」
何とはなしに独り言をつぶやけば、思いがけず返事が返ってきた。
兄貴、今日は返りが早いな。さっそく揚げたてのコロッケをつまみ食いして、姉さんに怒られている。
……そうだ。
「なあ、兄貴。ちょっと相談いい?」
「相談? また筋トレか」
「それはまた今度是非教えて! えっとさ……。ちょっとお礼をしたい子が居るんだけど、どんなものがいいかなって。女の子なんだけど」
「へえ。女の子に、お礼か。なにがあったんだ?」
「ほら、ちょっと前のマラソン大会の時さ、俺練習中にばてて倒れたじゃん? その時に俺を背負って、家に連れ帰ってくれた女の子」
そう言うと兄貴も思い出したのか「ああ、あの子か。力持ちだったな」と頷く。
「つい最近もさ……調理実習で姉さんが怪我しそうなところを、助けてくれたんだ。だから、お礼」
「そうなのか。……食べ物か、普段使い出来る文房具とかがいいんじゃないか」
「あ~、なるほど。うーん。そしたら文房具かな?」
相手が料理得意な分、食べ物だと内容で迷いそうなんだよな。好みもよく知らないし。でも兄貴のおかげでなんとなくあげるものは絞れた。
「梅くん、そういうことならわたしも一緒に考えたいな。……そうだ! 今度真紀さんのお店へ一緒に行ってみない? 可愛い文房具もたくさんあるし、おまじないカードも見てみたいし!」
ひょこっとキッチンから顔を出した姉さんが会話に加わる。
「あ、いいかも! あそこは女子が好きそうなもの、いっぱいあるもんな!」
おまじないカードも気になっていたし、一石二鳥である。
なんでもそのカード、叶えたいお願いそれぞれに対応する絵柄があるらしい。…………筋トレにいいカードとか、ないかな。
女子の間で流行るような物なら、多分可愛かったり綺麗な絵柄だと思うし、姉さんの衣装づくりの参考にもなりそうだ。
大道寺大先生に提案する衣装や小物のラフスケッチに、俺は常に気合を入れている。
それはこういった日々の情報収集などの、努力の上に成り立つのだ。
姉さんの常に更新される魅力には、スタンダードを踏襲しつつも最新のトレンドも取り入れたデザインで対応しなければならないからな!
姉さんは姉さんであるだけで素晴らしく魅力的で妖精で天使で宇宙一可愛いのだけど、それをより彩るために俺と大道寺先生は魂をかけて衣装作りをしている。
おまじないカード……是非とも参考にしたい!
「梅、おい梅。お前なんか目がぎらついてるぞ」
「おっと、つい姉さんの愛らしさ美しさかわいらしさをより素晴らしいものにするという我が生涯における誇り高き使命について考えていたら……」
「梅くん、梅くん。なんか、口調が変」
滾る思いがこぼれ出ていたのか、兄貴と姉さん二人から突っ込まれてしまった。
ともかく、メインはお礼の品選びだけどおまじないカードは要チェックだな!
そして、翌日。
苦手な跳び箱を見事に成功させた柳沢が持っていたおまじないカードを見せてもらっていた俺達だったが、それをあからさまに気になるそぶりで見ている奴がいた。
当然ながら李苺鈴である。
こいつめっちゃ顔に出るよな。
「苺鈴ちゃんも見る?」
姉さんに問われると李苺鈴は「全然興味はない」などと言っていたが、それは無理あるだろってくらい目が泳いでいた。
声も変に上ずってたし、マジで何かを隠す才能がないと思う。……こいつ、色んな意味で素直なんだよなぁ。
にしても、おまじないカード。見た目がクロウカードにそっくりだよな。
李苺鈴はそれが理由で気になっている説も思い浮かんだけど、まあ普通に効果の方が気になってんだろう。
本当におまじないカードのおかげかどうかはともかく、柳沢が効果を実証した場面を見たわけだし。
……というか、興味を示すってことは、もしかしてまだ買ってない?
ならお礼の品はやっぱりおまじないカードか? と一瞬考える。……だけど俺から恋愛のカードもらってどうすんだよと、思いとどまった。
欲しいカードが丸わかりだとしても、それを他人に見透かされてるってのも嫌だろうしな。
うん、無し無し。
やっぱ文房具だよ文房具。店主の真紀さんに相談すれば、きっといいものを紹介してくれるだろう。
放課後、俺はさっそく姉さん達と真紀さんのお店を訪れた。
店内は俺達と同じく学校帰りの友枝小の制服を着た女子たちであふれており、その賑わいに一瞬気おされる。
こ、この雰囲気は、やっぱり男一人じゃ来にくいな……。
そして行動が早いというか、なんというか。
いや情報を仕入れたタイミング考えると遅いのか? 店先でしっかり"恋愛"のカードを購入した李苺鈴と遭遇した。
「わ、私は別に……とっくに小狼は私のものだから、恋愛のカードなんてなくてもよかったんだけど! とりあえず。とりあえずね! 本当に私と小狼は大丈夫なんだけど! お、おほほほほ!」
「あ、うん。わかった。わかったから。風強いから飛ばされるぞ」
わざわざ買い物袋の中から恋愛のカードを取り出して喋りまくる李苺鈴。……そのタイミングを見計らったように、ひゅるりと吹いた風が彼女の手からカードをかっさらっていった。
ほら見ろ、言わんこっちゃ無い!
しかもカードの行く先を目で追うと、遠くまで飛ばされずにすぐ落ちたのは良いけど……場所があまりよろしくなかった。
「クロウカードに似てる……」
(あ、あちゃー!)
他人事なのに思わず内心で頭を抱えた。
カードが落ちたのは、たまたま通りかかった李の足元だったのだ。
李苺鈴はすぐに李の拾ったカードを取り戻しつつ、「別に小狼の心を疑ってたわけじゃなくて……!」と慌てながら取り繕っていた。
(が、頑張れ……頑張れ李苺鈴……!)
その慌てっぷりに、つい心の中でエールを送ってしまう。
俺にはまだ分からないけど、恋愛って楽しいだけじゃないんだな。大変なんだな。
そんな一幕があったわけだけど……。その日はお店に寄らず、帰ることになった。
店先で真紀さんに聞いたところ、姉さんが目当てとしていたおまじないカードは品切れで翌日入荷とのことだったからだ。
どうせまた明日来るなら、お礼の品や俺が気になってるカードもその時見ればいいしな。
でもちらっと見た感じ、本当に色んなカードがあるみたいだ。
見た目が似てるし種類も豊富だから、あの中にしれっとクロウカードが混じってても気づかないかもしれない。
まあ前に
(いやいやいや、つい最近あったじゃん!)
そういや
真紀さんのお店はそういった霊的な場所ではないけれど、クロウカードは"カード"。それぞれに意志があるとはいえ、普段は物として存在している。
だから真紀さんのように、お店の商品を大事に扱う人の元に集まる……という可能性も、あるのではないだろうか。
おまじないカードの大きさや絵柄、文字の配置はかなりクロウカードに近い。だから仲間に囲まれてるみたいで安心する~……とかいう理由で、紛れ込んでる奴が居るかもしれない。
(こ、これは明日……ちゃんと一枚一枚見る必要があるかもな)
しかし俺はその検証を今日やっておくべきだったと、早々に自分の迂闊さを後悔することとなる。
翌日、昼休み。俺達は屋外で、大道寺お手製のサンドイッチに舌鼓を打っていた。
学校の敷地内でも、外で食べるとちょっとしたピクニック気分だな。
「やっぱり知世ちゃん、お料理上手だよね!」
「ね。それにこう、流石というか彩のセンスの良さがこういう所にも出るっていうか……。見た瞬間に美味そう! ってなる見た目してるよな。さすが大道寺大先生だぜ」
「まあ! ふふっ、さくらちゃんも梅倖くんも、ありがとうございます。嬉しいですわ」
ちなみにフェンス越しに声をかけて来た兄貴と雪城さんも一緒だ。
高校と小学校の敷地が隣合ってるからたまにこういうことあるけど、姉さんが月城さんとお昼を一緒できて非常に嬉しそうなのでナイスタイミングである。
これはお弁当を作ってきてくれた大道寺に感謝だな。
姉さんは月城さんがコロッケ好きだと聞いて、ぐっと拳を握っていた。
きっとコロッケ道を究めてみせると決心したのだろう。俺は応援してるぜ、姉さん!
そんな中、李と李苺鈴が通りかかった。ちょうどあいつらも昼飯を食いに出て来たらしい。
「おめぇは……! あ」
李を見て兄貴が立ち上がるが、隣の李苺鈴に目を止めて軽く会釈した。
「この間は弟が世話になった」
「え!? あ、いえいえ……? え、世話?」
「マラソン大会の特訓の時、助けてくれたろ」
「ああ、そんなこともあったわね」
まさか兄貴に声をかけられるとは思わなかったらしい李苺鈴が狼狽える。
理由を聞いて納得していたが、兄貴と面識がある様子の李苺鈴を見て李が不思議そうな顔をしていた。
「えっと……桃矢、その子は? 僕は、はじめましてだよね。こんにちは! 月城雪兎です」
「こ、こんにちは。李苺鈴、です」
「李?」
あ、そうか。兄貴、そういえば李苺鈴の名前は知らないんだっけ。
李と李苺鈴を交互に見て不思議そうな顔をしている。
「雪兎さん、紹介しますね。クラスメイトで、香港から引っ越してきた李苺鈴ちゃん。李くんの従兄妹で……」
「婚約者よ!」
「!!」
姉さんの紹介の途中、自ら誇らしげに名乗りを上げ胸を張る李苺鈴。
俺はそれを見て昨日とは別の意味で「あちゃ~」という気持ちになる。
その「あちゃ~」の対象は、本日は李苺鈴ではない。李苺鈴の発言にあわあわ顔を前後左右に動かしながら月城さんを見る、李に対してだ。
「~~~~~~!」
「あ、小狼!?」
走って行っちゃったよ……。
な、なんというか……なんていえばいいんだ? これ。
李は月城さんの事が好きで、だけど月城さんの事は姉さんも好きで。
……だから姉さんの恋路的には李苺鈴は防波堤になりうる。それは本来喜ばしいはずなんだけど、なぁ……。
李苺鈴の手を引いて逃げるように去って行った李を見て、俺の心にはしょっぱいものが残るのであった。
そんなこんなありつつ、あっという間に放課後だ。
俺達は予定通り、再び真紀さんのお店へと向かった。
そして、だ。
前日感じていた俺の予感が、まさかの的中である。
「! 姉さん」
「梅くん、これって……」
店に入った瞬間、俺と姉さんは顔を見合わせた。クロウカードの気配だ。
姉さんがお店の商品ひとつひとつを真剣に見ながら、手をかざして気配を探ろうとする。俺はその服の裾をちょいちょいっと引っ張って、おまじないカードの商品棚を示した。
「もしかして……とは思ってたんだけど。似た見た目だし、仲間だと思ってまぎれてたり、とか」
「! 梅くんありがとう! あそこだよ」
位置を示されたことで、俺よりずっとカードの気配に敏感な姉さんのアンテナが定まったらしい。姉さんは俺に頷くと、カードの商品棚に手をかざして一枚一枚見分を始めた。
俺も姉さんとは逆から確認をしていく。
「う~ん……ないね。一番気配が濃いのは、間違いないんだけど……」
しかし残念ながら棚にあったカードは全ておまじないカード。
姉さんは首をひねりつつ、はっと閃いたように空白の出来ている商品棚にあったカードはどうしたのか真紀さんに訊ねる。
(そっか。おまじないカードだと思って、誰か買って……!? それって、まずくないか)
脳裏をよぎるのは、以前ブローチに擬態していた
その時は姉さんの機転がバッチリ決まったが、
姉さんもそれを思い出しているからか、その表情はひどく真剣だ。
そして嫌な予感ほど当たるもので。
……カードはよりにもよって、俺達と同じクラスの誰かが買っていったらしい。
さっき店から出て来た三原と柳沢に会ったから、もしかしてどっちかか……!?
知らない誰かだったら追いようがないから不幸中の幸いかもしれないけど、クラスメイトに危険が及ぶ可能性に冷や汗が出る。
いや、誰が相手でも危険な目に遭うのがいいわけないんだけど!
それが知り合いとなると、どうしても心臓がぎゅっとなってしまう。
「確かショット……だったかしら」
「ショット?」
「撃つ、という意味ですわ」
真紀さんから何のカードだったかという情報も得られたが、撃つって……弓とか鉄砲とか、どうも物騒な印象しかない。
(昨日、確認しておけば……!)
俺は真っ先に店を飛び出した姉さんの後を大道寺と追いつつ、昨日の自分の判断に後悔を覚えるのだった。
店を出た姉さんはすぐにケロ吉に電話をし、嫌な予感が当たっていたことが確定する。
どうも
ケロ吉の焦った声からも、それが危険なカードであることが窺えた。
「姉さん、まずは柳沢と三原をあたってみよう!」
「うん! さっき別れたばっかりだし、この辺に居るかも」
「そしたら、別れて探そう。もう帰ってるかもしれないし、俺二人の家から尋ねてみるよ」
「わかった。お家の場所、わかる?」
「あ……」
「わたくしが覚えておりますわ」
「! 助かる! けど、よく覚えてるな!?」
「ふふっ。年賀状を出したので」
「それでもぱっと出てくるレベルで記憶してるのすごいって!」
あらためて大道寺大先生の有能さに尊敬と感謝の念を抱きつつ、ノートのきれっぱしに二人の住所をメモする。
「じゃあそっちは任せるね! わたしは
「了解。じゃあ、また後で! 大道寺は姉さんの方を手伝ってもらっていいか? 」
「わかりましたわ。梅倖くんも、無理はなさらず。連絡をきちんと取り合いましょう」
「うん!」
数分とかからず方針を決め終えると、俺達はそれぞれクラスメイトの行方を追った。
もしその途中で他のクラスメイトに会えば、そいつらにも尋ねてみるつもりだ。
誰が買ったか、まだ確定では無いんだし。
その後俺は大道寺に書いてもらった二人の住所を尋ねてみたが、両方とも不在。
柳沢はピアノ教室らしいので、そちらかもしれない。
全力疾走して回ったため、汗だくだし息も切れている。だけど、見つかるまで休むわけには……!
そう思っていた時、大道寺から着信が入った。
『梅倖くん、こちらで二人のカードは確認し終えましたわ! 両方ともクロウカードではありませんでした』
「! そっか、よかった。でも、そうなると誰が……」
『千春ちゃんに聞いたところ、苺鈴ちゃんがカードを買っていったそうです。なのでわたくし達は、これから苺鈴ちゃんを探すところですわ』
李苺鈴が!?
柳沢や三原と違って戦いの心得はあるし、万が一見つからなくても帰宅すればきっと一緒に住んでいる李がクロウカードの存在に気付くだろう。
けど、危ない事に変わりはない。
前者二人より「撃つ」って言葉使いそうだし……例えば李のハートを狙い撃つとか……。
い、いやぁ……流石に言わないか。
…………。言わないよな?
「わかった! そしたら俺も李苺鈴を探してみる」
『お願いします。わたくしはこれからさくらちゃんと分かれて、苺鈴ちゃんのお家に向かいますね』
「おっけ! なら今度は俺が街中だな!」
聞いたところ、俺が今いる所より大道寺の方が李宅に近そうだからな。
そっちは任せよう。
でも人一人を街中で探すって、思っていたより大変だ。
俺も姉さんみたいに、空から探す手段があればいいんだけど……。今日連れている依り代に入れたカードは……。
『…………』
「あっ、いや! 別に不満とかでなくてな!?」
他のカードと違って無機物っぽい見た目をしていることから、いまいち性格の掴めない『
ちなみに依り代もその見た目に合わせてマスコットではなく、手首にはめているミサンガだ。
丁度ミサンガ作りが少し前に流行っていたこともあって、俺も作ってみたんだよな。
ともかく人捜し向きのカードではないし、俺は自分の足と頭を使って李苺鈴を探すしかないようだ。
う~ん。けど、そうなると何処探せばいいかな……李苺鈴が良そうな場所……。
「街中は空から姉さんが探すだろ? 家の方は大道寺。なら俺は……」
ひとつ頷き、俺はある場所に向けて走り出した。
李苺鈴は引っ越してきたばかりで行動範囲はまだ狭いはず。そうなると、もし帰宅していない場合は行く場所は限られる。
マラソンの練習をしていたペンギン公園か、もしくは……まだクラブ活動などする生徒のために開いている学校へもどっているか。
そのどちらかの可能性が高い。
ペンギン公園より近いのは学校だ。
まずそちらへ行ってみよう!
放課後の学校へ戻ると、まだクラブ活動で居残っていた同級生に李苺鈴を見なかったかと尋ねる。
違うクラスの奴らなのだが、見た目や言動、香港からの転校生という事もあって李苺鈴は結構目立つのだ。
「お団子結びの子? あの子可愛いよな」
「誰か見た奴居るかー?」
「ボク、見たよ。階段下りてる時にすれ違った」
「! サンキュ!」
学校に居ることが分かっただけでもありがたいのに、向かった場所が分かったのは助かる! 少なくとも一階や中庭は探さなくて良さそうだ。
俺は汗だくで息切れする体を引きずって校内へ入ると、二階へ向かいつつ姉さんへ電話をかけた。
数回のコールのあと、通話が繋がる。
「『姉さん(梅くん)! 見つけた!』」
ほぼ同時に重なった言葉に、通信越しでお互い息をのんだ。
「! 姉さんも、学校!?」
『……! うん! 李くんの羅針盤で、クロウカードの気配を探してもらったの! 今
「学校の何処か、わかる!?」
『屋上! 苺鈴ちゃん、見えた!』
「わかった! 俺もすぐ行く!」
どうやら途中で李と合流していたらしい姉さんとの通話を終えると、俺はすぐさまもつれそうになる足で踵を返し、屋上へ通じる階段へ向かった。
「はッ……はぁッ、うえ」
街中をずっと走って、校舎に入ってからも動きっぱなし。その上とどめの階段は屋上に続くものだけあって長くて、俺のなけなしの体力をこれでもかと奪っていった。
息は切れているし足は鉛のように重い。
だけど目的地は分かってるんだ。あと少し、頑張れ俺……!
そうして息も絶え絶えにたどり着いた、屋上へ出る扉の前。
友枝小の屋上は背の高いフェンスに囲われているため、特に出入りが禁止されていることはない。人気のお弁当勢ランチスポットだ。俺も何回か利用したことはある。
そしてそんな屋上から、俺でも感知できるほど濃くなったクロウカードの気配。
ドアノブを握る手が緊張で汗をかく。
この感じ、下手したらもう発動して……。
「姉さん!」
意を決してバンっと扉をあけ放つ。
すると扉のすぐ横の壁に、何かが強く当たって跳ねていった。
「!?」
「梅くん、
驚く俺に杖を構えた姉さんが慌てたように声をかける。
見れば姉さんが今使っているクロウカードは
だけど李はすぐさま姉さんが張った
「
「でも!」
「小狼!」
叫ぶように李を呼ぶのは、さっきまで探し回っていた李苺鈴だ。
どうも状況を見るに俺は一足遅かったらしく、彼女の手によって李を標的として
光る線くらいでしか目で捉えられない
(くそっ、どうすれば)
李を狙って動き回る
さっきも少しでもずれていたら、
……だけどその中で、現在狙われている李は隙を作り出すために果敢にも
(なにか。……なにか、方法は!)
俺が現在打てる手は
「いやぁっ!」
「!」
「あかん!
李苺鈴の叫び声と、足元を射抜かれた李のくぐもった声、いつの間にか合流していたらしいケロ吉の声。
それらを聞いたとき、周りの音が一瞬だけ全て遠のいて、焦っていた思考が逆に薙いだ。
そして。
「姉さん、俺にまかせてもらっていいか!?」
気づいたら、同じく考えを巡らせている姉さんに声をかけていた。
「! ……いけるんだね?」
「うん! でも確実じゃないから、その時は時間稼ぎだ。姉さんは次の手を考えてて!」
「わかった!」
きっといつも機転の利く姉さんのことだ。俺の策が失敗に終わったとしても、それで稼いだ時間で確実に何とかしてくれるはず。
俺は
「李苺鈴! ちょっと手ぇ貸せ!
「え!? わ、わたしにも何かできるの!? 小狼を、助けられるの!?」
「ああ!」
時間が惜しくて説明している暇もないが、俺を返答を聞いた李苺鈴が涙目のままキュッと表情を引き締めて頷いた。
「わかった! なにをすればいい!?」
「おい、苺鈴に何を……ぐぁっ!」
こちらの様子に気付いた李が焦ったように声を上げるが、その一瞬が隙となったのか
しまっ、李の動きが止まってしまったら……!
「! 彼の者を包み動きを助けよ、
しかしそこでさすがの反応速度を発揮したのが姉さんだ。
意外と早く動ける
た、助かった……!
「それで!? 私はどうすればいいのよ!」
「梅くん、こっちは!?」
言い出しっぺの俺へと矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
一瞬焦ったが、李が
「李、思いっきり"壁"の方へ走れ! "繋げて"逃がす! 李苺鈴は
「! そういうことか」
「動きが止まる!? 本当でしょうね! ……わかったわよ!」
李は流石と言うべきか、俺の無茶な注文の内容を一言聞いただけで理解したようですぐに頷いた。言っておいてなんだけど、よくわかったな!?
李苺鈴は疑わしそうにしているものの、李が行動に移すとすぐに頷く。
足の痛みに顔を歪めながらも、
その思い切りの良さに、あいつなりに俺を信じてくれてるんだと思えて気合が入る。……失敗できない!
普通ならこのまま壁にぶつかって、痛い目を見るのは李だ。
しかし、ここで今日の相棒を発動させる。
「頼むぜ、お前が頼りだ。……
まず一発目!
壁にぶつかる直前の李の目前に
あと俺の力が未熟だから、マラソン大会みたいな範囲は無理だけど!
でもって……とどめの二発目!
「そこ! 出てくるから、その瞬間つかまえてくれ!」
「まかせなさい!」
俺は間を置かず再度
上手く行くか心配だったが、幸いなことに
『!?』
空中に投げ出された
すると今まで姿が見えなかった
ピンクの髪に黄色がアクセントに入っている、女の子の姿だ。
「今!! ……木之本さん!」
それをすかさず李苺鈴が押さえつけ……彼女の呼びかけで、姉さんが杖を振り上げた。
「汝のあるべき姿にもどれ、クロウカード!!」
姉さんが杖を振り下ろすと、いつものようにキィンっと宙に波紋のような光が広がった。
その中心へクロウカードが吸い込まれ……カードの姿へと収束する。
……成功だ!
(あー……しかたないけど、これは実際に捕まえた李苺鈴のもの、だよなぁ……)
李がこれ以上怪我することなく納まったのだから上々だと思いつつ、俺一人ではどうにもできなかったことで、今回のカードはあちら側のものだろう。
姉さんだったらもっと別の手を考えて、もっとうまくやれていたかもしれない。
……そんな、キャプターサポーターとしての自信の無さがふと過る。
しかし。
「……え?」
ストンっと。
俺の手に一枚のカードが納まった。
「え?」
もう一度手元を見てから、周りのみんなを見回す。
そして、もう一度手元を見た。
……ある。
「えええええーーーーーーーーーーー!?」
今日一番の俺の叫び声が、夕日に染まった屋上でこだました。
「
「今でも信じられない……」
「まっ、人間その気になればなんでもできるっちゅーことや! さくらのコロッケみたいにな。さくら、なかなかいけるでこのコロッケ」
「えへへ! ありがと、ケロちゃん」
あの後怪我をした李と、無事に終わってほっとしたのか腰の抜けた李苺鈴を送ってから俺達も帰宅した。
そして姉さんは父さんに見てもらいながら、見事にコロッケを成功させて今はそれを姉さんの部屋でケロ吉と頬張っている。
いつもなら姉さんの努力と成功をあらん限りの言葉で褒めたたえる俺なのだが、今はまだ手の中のカードに現実味が無くてどこかボケっと上の空だった。
「姉さん、本当にこれは俺が持ってていいの?」
「もちろん! 梅くんの初めてのクロウカードだもん」
「まあ梅が持っとる分には、さくらのもんと変わらんしな。これからまだまだキャプターサポーターとしてきばってもらわんとやし、お守り代わりにもっとき」
お守りにしては攻撃的というか物騒なカードだけど……うん。
せっかく二人がこう言ってくれてるのだし、ありがたく使わせてもらおう。
そういえば李苺鈴になにかお礼しようって考えてたけど、今回ので貸し借り無しって事でいいだろうか。
……いや、李苺鈴の手を借りて捕まえたカードだし、それはまた別か?
なんて、考えていたのだが。
翌日。
「今回はあなたたちにクロウカードを譲ったけど……。でも今度は私達が勝つんだからね!」
「ありがとう、苺鈴ちゃん! 大事にするね」
言葉そのものも本心なのだろうが、照れ隠しなのも見え見えな李苺鈴がお礼のつもりなのか渡してきた「料理」と「筋トレ」のおまじないカードを見て……俺と姉さんは顔を見合わせて笑い合う。
「コロッケは作れるようになったけど、もっと上手になりたいし……。苺鈴ちゃんがくれたのだし、嬉しいよ」
そんな晴れやかな姉さんの笑顔を見れたのもあって、手伝ってもらったし今回のは今回の分だけで貸し借り無しだなと思った。
だから俺は俺で改めて後日、李苺鈴にマラソン練習の時のお礼としてちょっとした文房具と、ついでに俺からもおまじないカードを一枚贈ったのだが……。
「ちょっと、"冷静"のカードって何よ! 私に落ち着きがないって言いたいの!?」
「うん」
俺なりに心を込めて贈ったつもりなのだが、何故かほっぺを左右から引っ張られることになるのであった。
素敵なイラストを頂きました!
柴猫侍さんから頂いたもの
【挿絵表示】
【挿絵表示】
パッキリとしたアニメ塗りが印象深くてとっても可愛いさくらちゃんと、ぬいぐるみ化した梅倖!ぬいとなって姉に抱きかかえられている梅倖、間違いなく幸せです。
原作の雰囲気でロゴまで描いていただけました。どちらもとっても素敵!
めありさんから頂いたもの
【挿絵表示】
キラキラでふわふわな少女漫画感たっぷりでものすごく可愛い双子を描いていただけました……!さくらちゃんが可愛いのはもちろん、男の子用にアレンジされた梅倖の衣装も素敵!
最新話の更新が遅くなり頂いてから時間が経っての掲載となってしまいましたが、お二方とも本当にありがとうございました。