「おい見ろ。例の餓鬼だ。」
「全く族長も一体何を考えて・・・」
「そもそもやはりあの時点で長にするには時期尚早だったのでは」
ボソボソとミギワとその身内への陰口が叩かれる。
ミギワは丸太に叩きつけていた拳をチャクラで強化しつつ地面に叩きつけた。
瞬く間に、まるで地震でも起こったかのような揺れとともに巨大な地割れが出来上がる。
それをまじかで見たうちはの老人たちが蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。
「・・・陰口叩く暇があんなら修行の一つでもしろや。クソ老害どもが。」
ちっと舌を打って、腹いせと言わんばかりに丸太を割り潰す。冗談でも大袈裟でもなく木端微塵だ。
そして、そんな彼女の元に先程とはまた違った嫌な声が聞こえてきた。
「お、今日も力自慢かい?いっそここじゃなくて見世物小屋にでもいたほうが似合ってるんじゃないか?」
「そーだ、そーだ。メスゴリラ。ぶぷっ」
声のした方にはミギワより幾分か年上らしき少年たちがニヤニヤとミギワを見ていた。
そんな次から次へとやってくる迷惑な客にはあっと溜息を吐いたミギワはだるそうに整えられていない伸び放題の髪を掻いた。
この手の輩はやはりどんなところにもいるものらしい。大元が「力」を指針として構成された武闘派集団だったためかミギワが強者だとわかると態度を軟化させたものがほとんどだった。が、それでもやはりというか、混血という事もあってかミギワを排したがる輩も少なからずいる。
主に血と仕来りにこだわる古参とミギワが来るまでその腕に自信を持っていたであろうミギワと同年代か少し年上の少年たちである。ミギワとしてはどうでもいいことであり、自分に構う暇があるならその余暇をもっと生産的なことに使ってくれと思う。主に修行とか、女性陣の手伝いとか。
いい加減相手をするのが面倒くさくなってきたミギワは片手を地面にやって、いくつかの砂を掴み上げる。
「あー取り敢えず。避けんなよ砂利ども。」
「あ?なにい、っひ。」
ビツッという不思議な音とともにぐいぐいと服が何かに引っ張られる。
否、引っ張られているのではない。とんできた砂・・・泥の塊によって服が背後の壁に縫い付けられているのだ。
千本のような形状のそれによって完全に磔の状態にされた少年たちはみな一様に半べそという様を晒しているわけだが、そんなことはやはりミギワにとってはどうでもいいことの延長上でしかないのでそのまま放置・・・しようとして足を止めた。
―――このままだとオレが悪いことになんのか?
それは本意ではない。免罪云々以前に族長のところに呼ばれること自体が今の彼女にとってはあまりよろしくない。ぶっちゃければ苦痛ですらある。
この数年間で一応知り合いくらいまで距離を縮めることはできたとは思うが、裏を返せばそこがミギワの取れる一番近い距離だったのだ。正直今でも一対一では辛いものがある。
絶対に会いたくない一心でミギワはクナイを取り出した。
・・・その日の夕刻。ある屋敷の一角で数人の少年が磔にされて動けない所を発見された。
当人たちは必死にミギワにやられた。あいつは危険だなどと言っていたが、その言葉に耳を貸す者はいなかった。
何故ならその少年たちのいた壁には「僕たちはおとつい女湯を覗いてしまいました。反省します。」という文が彫られていたからである。
更に言うなら、この少年たちが女湯の近くにいたのを通りかかった他の女性が目撃しており、恐らくその時に入っていた誰かからの報復だろうと言われて相手にされなかった。
□ ■ □
「お願いします少し、ほんの少しでいいので・・・。」
集落の入り口辺りで足を止めると見張りと、おそらく外部の人間が言い合いになっていた。
相手は近寄って来たミギワを見てギョッとした後、あからさまに安心したような顔でミギワを指差した。
「わ、私っ彼女の友達です!!ね!そうよね、ミギワ!!」
見張り・・・改め自身の叔父にあたる人物に軽く挨拶をしたミギワは、そのまま馴れ馴れしく話し掛けてくる女の爪先から天頂部まで目を通して口を開いた。
先程の言葉の端々から旅人か難民かと思ったがおかしな事に女は然程汚れているわけでもなく、端々をよく見てみればそこはかとなく着飾っている様なふうですらあるその格好はとても奇妙なものだった。どう見ても寝食に困っていそうな人間の身なりには見えない。
そして何より向こうはミギワを知っているかの様な口ぶりだが残念ながらミギワは一切彼女との記憶は無かった。
「・・・誰だお前?」
「え・・・?」
途端に女の顔が絶望に歪むがそんな事はミギワにとってはどうでもいい事なのでそれはそのまま放置してひたすら記憶を模索する。
「だってさ、というわけだから他をあたってくれない?宿場町の方には送って行くから。」
「そ、そんなっ。私よ!同じ集落にいた仲間じゃない!!ねえったら!」
という事は前の集落の同世代のうちの1人かとまで絞り込むと探すのをやめた。前の集落関係ならどのみちどんなに探そうが覚えていないため無駄である。そこでやっと意識を隣に向けて拳を握る。勘違いしてもらっては困るが別に目の前の女が気に食わないから殴る準備をしているとかではない。断じて無い。むしろこれから起こりうるであろう事を止めるための準備だ。
「ふうん。そうなんだ・・・君この子の前の集落の・・・」
叔父がにこりと人好きのする笑顔を女に向ける。と、何を思ったのかその女が頰を染めて先程よりも高めの鼻についた声音でシナを作りながら叔父の方に距離を詰める。
「はい!そうなんですうっ。もしよ」
女が言い終わる前に女を軽く後ろに引っ張る。と、さっきまで女の首があった位置を目にも留まらぬ速さでクナイが通過した。
そのまま後ろへと尻餅をついた女は何があったかわからなかったらしく不思議そうな顔をしていた。
どうやら女はついさっき目の前の美丈夫が自身を殺そうとしていた事など露ほども気づかなかった様だ。
おめでたい奴だ、むしろなんでここまで生きてこれたのだろうかと溜息を吐きつつ、チラリと女に向けていた視線を叔父に移した。
ミギワの咎める様な視線にイタズラがバレた子供の様に叔父は首を竦めてみせる。
「全くもう。ミギワは兄さんに似て優しいなあ。」
「オレとしてはアンタが潔癖すぎるだけだと思うがな。イズナ叔父さん。」
えー、そうかな?とへにゃりと笑って首を傾げるミギワの叔父・・・改めうちはイズナはあ、そうそう。とまるで思い出したかの様な口ぶりでミギワの方に向き直った。
「受け入れるにしろ受け入れないにしろ族長へのお伺いは立てておかないとね・・・というわけで「嫌だ・・・じゃなかった無理だ。」まだ用件の途中じゃ無いか、というか即答だね。」
そこで女に気取られないように「オレはこれ持ってまだ回んなきゃなんねーんだよ」と開いた巻物に『絶対怪しいと思うが、泳がせるのか?追い出したほうがいいんじゃ無いか?』と書いてみせると「あ、じゃあ。先に僕が印つけるよ」と言ってイズナが『うん、だってこんな怪しい奴生かして返すなんて僕は反対だけど、ミギワは消すのは反対だろ?じゃあいっそ兄さんや古参の人たちに決めてもらおうかなって』とサラサラと書いて自然な動作でミギワの手に乗せた。
「アンタが行けば全部丸くおさまんだろ」
「ダーメ。なんせ僕は今見張りだからね。ほら、仮にも族長の腹心が職務放棄って駄目だろ?」
「・・・。」
「あーあ。僕超忙しいんだけど。こんな時ミギワが手伝ってくれたらなあー、すっごく助かるんだけど・・・はあ。」
「・・・。」
「手伝ってくれたら今夜はミギワのために衣笠丼作ろうかと「わーったよ!!行ってくりゃいいんだろ!」わー助かるー」
面倒くさいからこの際クナイに巻物括りつけて投げ込めばいいかと後ろ手で忍具を漁るミギワに「あ、投げこむとか駄目だよ。あの後兄さん落ち込んじゃって宥めるの大変だったんだから」とイズナが先手を取って注意した。
それに本日2回目となる舌打ちをしたあとミギワはその場から姿を消した。
叔父?族長?へ?といつまでも頭の整理のついていない女と先程までの朗らかな笑顔を消して冷たい目で女を見るイズナを残して。
千手と違ってうちはは血に対するプライドが高くてそんなに開けてないイメージ。
ただし、一度身内だと認めると滅茶苦茶尽くしてくれる。
ちなみに叔父はミギワを迎えに行っときに集落を見て親子の置かれた環境を知ってる。
遺骨の方はミギワの数少ない私物と一緒にうちはの家に納められている。