「どちらさんも、よござんすね?」
姦しい通りとは裏腹にその場は静まり返っていた。
進行をする中盆の声とツボ振りのサイコロを振る音のみが響き渡る。
周りにいる客たちは次々に声を上げた。
「半!」
「半。」
「半!」
「半だ!」
「半!!」
「半ぞ!!」
「あ、じゃあ僕は丁で。」
「勝負!!・・・ピンゾロの、丁!!」
周りから「ぐわあああっまたかよっ」とか「有り金全部すっちまった」とか断末魔的な叫びとか聞こえてくる。
そして、この状況を冷たく見ている僕の横には、これまた周囲とは一線を画す落ち込み様のおっさんが一匹。
「何故ぞー!?」
この最早ふんどし一丁になっているおっさんは千手柱間。
そして僕は今は他人の振りをしたいところだけれど、残念ながらこのマダオの甥にあたる千手鏡間。
・・・僕らは今、鉄火場に来ています。
□ ■ □
遡ること、今朝の噺。
執務用の机を挟んで父上が僕を呼びつけたことが始まりだった。
「修行の最中だったろうに悪いな。鏡間。」
先日の戦が終わったばかりだというのに事後処理だのなんだのと執務に戻った父の顔は心なし悪い。
てか、土気色になってきてるんだが大丈夫なのかコレ?
「いえ。父上こそお加減が優れないようですが。」
「儂のことはいい。・・・それよりも、お前に頼みがある。兄者を探してほしい。」
ああ、またかと空・・・と言ってもここは室内なので天井を仰ぐ形になる。
とうとう僕にこの番が巡ってきてしまった。そう、鬼ごっこの鬼役である。
伯父上の賭け狂いにも困ったものだ。
報奨が出るとすぐに近場の賭場に行ってしまう。さらに言えば弱い。滅茶苦茶弱い。
少し目を放すと見事にカモられて帰ってくる。否、帰ってこられるかも妖しい。
かと言って並大抵の感知タイプの忍ではすぐに撒かれてしまう。主に野生の勘で。
「すまんな・・・今は猫の手も借りたい状況で・・・ほかに頼めそうなやつもおらんのだ。」
酷い顔色に負けず劣らずの濃い隈を浮かせた父ははああっと組んだ腕に額を付けて俯いた。
動かない。・・・せめて夢の中でだけでも安眠できますように。
「う・・・ま、まだ・・・奴の・・・晴れ・・・見るま・・・で・・・。」
酷くうなされているようだ。
・・・掻い巻きを掛けておいた。
□ ■ □
「鏡間ー次はあそこに行きたいぞー。」
まるで年頃の少女のようにキャラキャラと笑いながら、これまた鉄火場を指差すマダオ。
ちなみに奴の剥がれて質に入れられかけていた身包みは取り返したもののお金の類は持たせてはだめだろうと結論が出たため僕が持っている。要するに何が言いたいのかというと・・・あのマダオは今無一文である。
「駄目です。もうそのセリフ5回目ですよ。いい加減帰りましょう。」
「ええーそんなこと言わずにーお願いぞー」
あれで最後にするからーと僕の袖を引っ張りながら言うマダオ。
当の僕はと言えばこの混ざったののおかげかは知らないがとんでもなく当たりばかり引いている。
もう結構稼げたから個人的には帰りたいんだが。
さて、この往来で10満たない子供に泣きつくマダオをどうすべきか・・・。
そんなことを思案しているとある店の看板が目に入った。
「・・・いいですよ。伯父上。」
「な、何っ本当か!!」
途端に顔を明るくする伯父上。
そんな伯父上に僕も微笑みを返した。
「はい。そこで相談なんですけど・・・・・・リードと迷子紐とゼッケン。どれがいいですか?」
「・・・へ?」
チャリン チャリン
「父上ー。ただいま戻りましたー。」
「おお、思ったよりはやか・・・何やっとるんだ兄者。」
僕らの姿を見た父上は即座に固まって、優しい顔は一変。
睨むだけで人が殺せそうな形相で伯父上を見る。
「?何って、連れ戻してきただけですよ?」
「あ、あのだな。扉間。これには深ーい訳が・・・。」
「言い訳無用だ。覚悟しろ兄者。」
「鏡間。ご苦労だった。もう部屋に戻っていいぞ。」といつもの優し気な声音で言った父の手にはクナイが握られていた。
「はーい。」
あ、そうだ。と追い打ちをかけてみることにした。
「伯父上。また行きましょうね。機会があったら僕。またあのお店に行きたいです。」
じゃあ。と言って今度こそ部屋を出ると背後から「どういうことだ兄者あああっ」「ご、誤解っ!!誤解ぞ!!」という掛け合いが聞こえてきた。
やっぱりこの世界でもイイ年したおっさんが首輪付きリードで少年に散歩させられているような構図はこの世界でもアブノーマルの類らしい。なんか、新しい扉開きそうになった。危なかった。
明日こそ河原に行こう。