成長とか・・・なんか違くね?
「くそおおおお千手っ。よくもっよくも檜佐木をおおおおっ」
そう言ってクナイを投げる日比谷。足元には今しがた殺されたばかりの恋人が転がっていた。
この戦が終わったら祝言を上げる約束をしていた、大事な幼馴染だった。
そのクナイは途中でブレたかと思うと幾重にも分散し、括りつけられた起爆札が一様に燃え始める。
そして本来ではありえないであろう飛距離と威力を自身の風遁を伝導させる特殊な術式によって極限にまで上げたものだ。・・・本来ならこれに檜佐木の火遁が加わって相手の傷口を焼き付けることで治療困難な怪我を負わせるというえげつないものだったのだが、未完の技となってしまった。
「くらえ!!」
風遁の後押しによって広域に散らばり発射されたクナイが敵のものであろう部隊に向かって進んでいく。
この速さはさすがの熟練した忍でも避けられまい。
辺り一面に爆音が響き渡る。
拡がる爆煙の中から敵影は一つも見えない。
「や、やったっ」
仇を討ったぞ、檜佐木!!とぐっと拳を握りしめると。途端にぶちゅっと生々しい音が近くで聞こえた。
腹をみれば黒茶の何かが生えていた。腕、足とみても同様のものが生えている。
「え・・・?」
立っていれなくなって崩れ落ちそうになる。
が、何故かそこに留められているかのように身体が動かなかった。
ポロリと日比谷の目から一粒。雫が零れ落ちる。
「く・・・そ・・・」
倒れることも許されなかった彼はそのまま瞼を閉じた。
煙幕が晴れる。とそこには幾重にも重なった樹木が現れた。
日比谷の同僚であった忍達が驚きに声を失う。
それもそうだ、何せ木遁を使う忍は千手柱間が確認されているのみ。そしてそんな彼は今ここではなく別の、主力部隊と交戦中のはずだったからだ。
柱間が来ているなど聞いていない。これでは自分たちの全滅が決まったも同然ではないか、と。
中には「俺たち・・・実は陽動で・・・族長たちに売られたんじゃ・・・」などというものもいた。
しかしそれは此処にいるもののほとんどが心を同じくしていることだろう。
そんな時向こう側に騒がしい声が響く。どうやら伝令が来たらしい。
断末魔やら怒号やらが響くこの戦場の中でその声が一際大きくなってしまうのも仕方のないことなのだ。
「伝令!!お伝えします!!柱間様、扉間様。ともに目標地点を攻略!!よって撤退の運びとなるそうです。ご帰還を!!
伝令が告げた名に周囲がにわかにざわつき始めた。
「か、鏡間?鏡間って・・・」
「に、逃げろっ逃げるんだっ」
「し、死色だっ死色がでたぞー!!」
ここ数年で急速に広まった名があった。
千手には珍しいその金髪から、その色を見たら必ず死ぬとすら言われていた。
故に死色。死色の椿。
その存在は、そしてその戦場の跡から忍界は震撼することとなった。
何せその別名にある通り。彼の担当した戦場は今まで例外なくすべての敵対者の首が綺麗に刎ねられていたからだ。まるで、椿が自重によってその花を落とす様に綺麗になくなっていた。首は見つかっていないが。
敗走した忍はこの限りではないものの、皆口をそろえてこう言った。
「黄金に光り輝く、死神を見た。」と。
曰く、気付くと既に隣にいた仲間の首が無かった。
曰く、瞬き一つで千の首を飛ばす。
曰く、生殺与奪も思いのまま、生きた生首に話しかけていた。
etc・・・
敵側が一斉に退却していくと、やっと鏡間は木遁の壁を解いた。
「・・・思ったよりも早かったようだが。さて。」
敵の首級を取るよりも先に部隊が撤退してしまったため手持無沙汰になったらしき彼は仕方なさそうに落ちたクナイを拾うとそれを当たり前のように背後の黄金のゆがみの中にしまい込んだ。
「いささか物足りんが、まあ。いいだろう。」
そう言って部下に指示を出しつつその場から退却する。
本人は知らぬことだがこの戦いでさらなる別名が鏡間につけられた。
その名も『蓬莱の鏡間』である。恐らく竹取物語辺りからの出典なのだろうが・・・。
本人はその名を聞いたとき内心でうわあ厨二臭いのがまた増えた・・・と頭を抱えていた。
□ ■ □
「鏡間様ーおかえりなさいっ!!」
「鏡間ー後で木遁見せて木遁ー」
「こら!!鏡間様でしょ!!すみませんいつもいつも。」
集落に帰るといつものように子供たちが寄ってくる。
「ん、ああ、今帰った。あ、芳。抱きつくんじゃない。こら、芽。汚いからまた後でな。」
手を振って別れた後、風呂に入るために服を脱いでいく。
鏡に自身が映る。金髪赤眼、そして無駄なく引き締まった美しい造形の肉体に、これまた恐ろしいほど美しい貌。
そこに映っているのはやはりあのよくわからない女神(笑)の空間で見た青年であった。
ペタリと鏡に手をつく。・・・どう足掻いても変わらない事実だが、せめてこの偉そうな口調だけでもなんとか幼いうちから矯正したかった。できなかったが。
考えても仕方ないかと考えて溜息を吐いているとがらりと扉の開く音がした。
「あれ?今日は鍵が開いて・・・てぇ!?」
戸口のところに立っている女と目が合った。ガシャンという風呂道具の落ちる音とともに「い、いやああへ、変態!!女湯に変態が!!」という声とともに駆けていった。いやここ我専用の風呂なんだが。
あれ?たしかあの方向は・・・。
声を掛けるべく戸口から半身だけ出して声を掛けようとする。
「おい。そっちは今試作のトラップが」「いやああああああっへるぷっヘルプミイィぃィっ」
・・・言わんこっちゃない。その先は我と父上の共同実験場だ。
結局女を救出したはいいものの、更にパニックになった女に横っ面を思いっきり引っ叩かれた。
何故だ。
そして、現在。我は絶賛先程の女の父親に土下座されていた。
「まこっとにっ。申し訳ありませんでした!!」
これどうすればいい?と父上と伯父上の方を見ると目をそらされる。自分で何とかしろってか!?チクショウ!!
「別段気に「こら!!ゾウカ!!お前も謝らないか!!」
いや最後まで喋らせろや。
「嫌よ!」
言って女はこちらをきっと睨みつけた。カルシウムか糖分取った方がいいと思う。
「だって私っ何も悪くないもの!!ちゃんと案内されたところのお風呂に行ったし!!むしろ・・・そのっ」
この変態と鉢合わせしてみたくもないもの見てしまったんだから私の方が被害者よ!!と女は主張した。
もう被害者でも加害者でもどっちでもいいから早くしてくれと切に願う。子供たちと遊ぶ約束もしているし、いい加減疲れた。だるい。はよ終われ。
我の様子を察したのか父上が割って入る。
「あー話は分かったが今日はひとまずこの辺でいいだろうか。こいつも戦から帰ってきたばかりでな。」
もう一度父親の方が深々と頭を下げ申し訳ありませんでしたというとまだ納得いかなさそうな娘を引き連れて廊下へと消えていった。めんどくさい嵐が去った。
「父上。さっきの奴らは?」
ふうっと溜息を吐いて仕方なさげに父上が口を開いた。
「まあ、なんだ。同盟相手・・・というか、何というか。」
父上にしては珍しくはっきりしない物言いに眉根を寄せると、すかさず伯父上が口を開く。
「俺はいいと言ったんぞ?ただ扉間がもう少し様子を見たほうがいいといって聞かなくてな。保留中なんぞ。」
ふうんと言って部屋を出ようとすると父上に呼び止められる。
「・・・気付いているか。鏡間。」
「・・・一応木分身を三体ほどつけている。今はおとなしく部屋にいるようだが・・・。」
「そうか、くれぐれも警戒を怠るな。儂も独自に調べておく。」
さて、鬼が出るか、蛇が出るか。
お手並み拝見といこう。