閃乱カグラ~この眼の先に何がある~   作:Die六天

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第1話 流れた時間と遭遇する影 前編

『進んで他者と交わり、触れ、涙を流す?他人とのつながりだぁ?お前は何を言っている』

 

『結局のところ他人だろう?そいつが何かしたところで、己となんの関わりがある?』

 

『知ったことではないだろう』

 

『分からんね、分かろうとも思わんし分かりたくもない』

 

『俺はそれが不快なんだよ』

 

 

 

お前()はなんだ?」

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

生まれてからもう何年ほどたっただろうか。

俺は相も変わらず地下にこもっている。変わった事と言えば…

 

「塵がそこら中に転がっていることくらいか」

 

俺は閉じていた瞼を開けずに眼下の動かない肉塊と化した妖魔を観る。

今から数か月前、上の奴等が別の人間どもと争っていたようだ。おそらく抜け忍狩りというものなのだろう。そこまではよかった。しかし、問題はそのあとだった。

 

忍結界なるものを展開した忍達の血の臭いにつられて大量の妖魔が村に押し寄せたのだ。その結果、忍を含め村は彼を除いて全滅。当然妖魔たちは残った彼を殺しにくる。それが理性無き獣共の最初で最後の過ちだった。

生まれ落ちた時から人を超え何年もの間、相対することのなかった妖魔に対し極大の憎悪をつのらせていた彼の目に妖魔が移りこんだ瞬間、何もない地下の部屋から一つの風が吹いた。

風にその身をさらされた村を全滅させた妖魔たちはまるで象に踏まれるアリのようにつぶれた。別に彼は何か特別なことをしたわけではなく、腕を横に振っただけ。風はその風圧のようなもの。そのあまりの弱さに彼は口が塞がらなかった。

 

「こいつらが、今までオレを不快にさせていた?…ギャハハハハハハハハ!なんだぁこりゃあ、俺はこんな屑に憎悪を抱いていたのかよ。あっけなさ過ぎて潰したことにも気づかなかったぜぇ?」

 

笑う、笑う。悪魔は笑う。

しかし、其処に歓喜はない。落胆、失望、嫌悪感。空っぽの嘲笑う声に含まれた感情はその程度だった。

 

「…つまらぁん、バカバカしい」

 

笑うのをやめると床に散らばった肉塊を足で払うと冷たい石の床に座り込んだ。

 

「そういえば、外の奴等が居なくなっているな。こいつらが消したか…ありがたいことだ、感謝はせんが」

 

彼が他者に興味を抱かないのは取るに足らない存在だからというものもあるが、それ以上に自分に対し恐怖を抱いていることが何よりも気に入らなかった。生き物は自分よりも圧倒的な力を前にすると恐怖に駆られる。それは本能であり度合いは違うにしろ誰だって感じている。別にほんの少しの恐怖も抱くなとは言わないが、恐れ怯えるくらいなら初めから不干渉であって欲しいというのが彼の本心だった。

 

ちなみに、地下は彼自身が掃除などする訳がないので当時のまま、妖魔の死体なども放置されている。初めのうちは片付けるのも面倒だと思っていた彼だったが、いい加減に漂う腐臭にイラついていたりする。

 

「…臭い(ボソッ)」

 

先程まで胡座をかいていたはずが、いつのまにか三角座りになって貧乏ゆすりが止まらない。ガンガンと踵をなんども床に叩きつけストレスがマッハで上昇中。

(ちなみにこの時、近辺では震度3の地震が観測されていたりする)

掃除?何年も引きこもりをしているだけの彼がそんなことをできるはずがない。一応知識はあるが、実践ができないのだ。

ぶっちゃけ、箒どころか雑巾すら無く道具がないのでは掃除のしようがないのだ。仮に力ずくで『掃除』しようものならゴミだけじゃなくて色々なものが木っ端微塵になることになる。

 

ここにあるのは俺のみ、俺と言う個が全て、俺だけの平坦な凪。

その何もない静寂に一つの波紋が起こった。

 

「近づいてくる、あの塵共じゃない。これは…人間、それもそれなり強いようだ」

 

閉じたままの額の眼が瞼(?)の下で違和感の正体を知るべく忙しなく動きている。

昔に比べて俺の天眼は敏感になっていた。それもこれも妖魔共の進行が何度もあったせいなのだが自分へ近づいているものがいると自然に気づけるようになった。

 

「面白い、この距離でも相当な圧力が掛かっているはずだがそれでもなお向かってくると。いいだろう、どうせ退屈していたのだ。『眼』ではなく、この目で見てみようじゃないか」

 

何年もの間開かれることのなかった両目はゆっくりと開かれ来訪者を待つ。

 

 

 

 

「まさか俺がしくじるとは…」

 

既に日が落ち、静まり返った森林の中を走り抜ける影があった。しかし、負傷しているのか動きが不安定で危なっかしく見える。

 

「あの程度の数なら俺一人でどうにかできたはずだった。あの時全員倒しきったと油断しなければこうはならなかったというのにっ!」

 

どうやら影の正体は忍の男性であり何かを行なったあとのようだ。そして突然、男の足がもつれ地面に倒れ込む。疲労がたまりもう体が言うことを聞かないのだ。

 

「はぁ、はぁ、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。俺は、善だけの世界(・・・・・・)を作るのだ。それまでは、死ぬわけには」

 

そして顔を上げた男の視線の先に偶然建物らしきものが見えた。

 

「村か?しかし、もう夜だというのに明かりがついていないのが気になる。とにかくあそこで一度体を休めよう」

 

 

 

 

「これは一体…」

 

俺は見つけた村らしき場所に辿り着き、唖然とした。村は壊滅状態だったが、明かりがついていない時点である程度予測はしていた。だが俺が驚いているのはそこじゃない。

 

「なんだ?この異様なまでの妖魔の死骸は」

 

村の地面のほとんどは妖魔の死骸で埋めつくされていた。腐臭を放つ肉片、歪な骨格のようなものがそこらじゅうに転がっている。これだけの妖魔が襲ってくればこんな小さな村では一溜りもないだろう。しかし、解せない。

 

「この村が妖魔に滅ぼされたのはわかる。だが、誰が妖魔を殺した?」

 

この数だ。もしも忍が討伐に成功していたらそういう話が流れてきてもおかしくない。しかし、そんな話は聞いた覚えはないし、大勢の忍が死んだとも言われていない。妖魔との戦闘はいつだって理不尽だ。部隊の中にカグラが何人いても死ぬときは死ぬし、運が悪いと壊滅すら十分にありえる。

 

「一先ず、今は眠るとしよう。調べるのはあすの朝でも遅くはないだろう」

 

俺は汚れの少ない小屋の隅で壁に背中をあずけて眠りにつこうとしたその時。

ドクン!と心臓が跳ね上がるような感覚を覚えた。

 

「なんだ!?」

 

敵意それとも殺気?いや、そのどちらでもない。これは視線だ、何者かが俺を見ている。それも今さっきではない。この視線は俺がこの廃村に入る前から俺を見ていたのだ。なぜ今まで気づけなかったのか自分でもわからないがこの視線の主は危険だ。

 

「あの倉の下からか」

 

俺に突き刺さる視線を感覚を頼りに探っていくと、札や板などで入口を封じられていた形跡のある倉にたどり着いた。地下に通じる階段を降りていくたびにまるで心臓を直接掴まれるような苦しさが増していく。

奥にたどり着いた時、そこに居たのは。

 

「きたか、名前も顔も知らない来訪者よ」

 

「お前はなんだ?」

 

俺は目の前から伝わる力に屈指そうになりながらもそう問わずに入られなかった。

 

「抑えているとはいえここまで近づいて意識を保っている。しかも誰じゃなくて何と来たか。面白い」

 

「答えろッ!お前はなんだ!」

 

「生まれながらの化け物、としか言えん。ほら、答えたぞ?今度はそっちの番だ」

 

「なに?」

 

「なに?ではない。俺は何か答えたんだからお前が誰なのか言えと言っている」

 

「あ、あぁ。俺の名は、黒影だ」

 

 

 

 

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