閃乱カグラ~この眼の先に何がある~   作:Die六天

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第2話  流れた時間と遭遇する影 後編

「黒影…ねぇ。変わった名前だ」

 

「忍としての名だからな」

 

それは本当の名前と忍の名前は別ということなのか、これが本当の名前なのかわからない。

もっとも、名前を聞いたのはこちらだけ答えるのはずるいと思ったからだし、名前自体はほぼどうでもいい。

 

「で、てめぇなんの用でここに来た?真っ当な神経をもったやつなら『此処』の異常さにすぐ気づくはずだが」

 

「やはり、あの視線はお前だったのか」

 

視線とは天眼を指しているのだろう。通常なら違和感に気づくことも出来ず、出来てもそれの正体に気づけないのが当たり前だ。だが、視線と断定出来ている分実力があるらしい。

 

「お前はなぜ俺を見ていたのだ」

 

「なぜ?最初は意図的に見ていたわけではない。偶然お前が『視界』に入ってきたんだろうが。最も、そっちは気付いてなかったようだが」

 

「最初はだと?」

 

「そうだ、そっちが気づいていないとは思っていなかったからな。自分から俺に近づいてくる奴がどんなものなのか見てやろうと思ったのだ」

 

しかし、俺はなぜこんなことを言っているのだろうか?と思う。生来自分は他人になど興味はなかったはずだ。今も俺は気でも狂ったのだろうかと感じているくらいだ。

だが今俺は他者を知りたいと思っている。渇望と矛盾した欲求、かつての(・・・・)俺だったらこんなことは天地がひっくり返ろうと思わなかっただろう。

 

「…あ?」

 

「ッ!?」

 

謎の違和感に触れたソレが声を発したと同時に黒影は思わず身構え、それを見て思考の海から脱出する。

 

「…そうだ、お前にもあるのか?」

 

「なにがだ…」

 

「お前が求めるモノ、未だ手に入らず焦がれて止まない貴様の渇望は一体何だ?無いなどとは言わせんぞ。もしそんな戯けたことを抜かすようなら即刻この世から永久退場させてもらう」

 

「俺の渇望…この世界に存在する全ての悪を消し去り善のみの世界を作ることだ」

 

「……」

 

善のみの世界?それはまた妙な物を求めた物だ。しかしなるほど、たしかにこの願いはただの欲求ではなく渇望と呼ぶにふさわしい。なにせ、『そんなモノは絶対に実現しないのだから』。

 

「くっくくくくく…」

 

「?」

 

「ハハハハハハハハハハ!ッアッハハハハハハハハハハ!なるほどなるほど、これはまた厄介な願いを持ったなぁ人間。貴様が、世界の悪を?取り除き、善のみに満ちた世界を、クハハ…作るだァ?馬鹿馬鹿しい、愚かしい、見事なまでに狂った渇望だ。だがいい、おもしろいぞ黒影とやら!」

 

笑いが止まらない、それは愉悦か呆れかさっぱりわからんが俺は腹を抱えて嗤う。

 

先程までしかめっ面で座り込んでいたソレが突然笑い出し石の床をバンバンと叩いているのをみて黒影はあっけにとられてしまうが、自分の理想が侮辱されたと理解したとたんそれに掴み掛ってもおかしくない程の気迫で怒りをぶちまける。

 

「貴様に何がわかる!両親を悪忍に殺された俺の怒りが、悲しみが!」

 

「わからんよ?そもそも俺にとって親なんてのはただそこにあっただけの存在だったのだから。逆に問おう、貴様は俺の何を知っているというのだ?生まれたことを祝福されず人間共から恐怖され赤子だった俺を隔離した塵屑共に愛を抱けと?」

 

 

 

 

 

「なんだと?」

 

俺は目の前の人の形をしたものが言ったことに驚愕したが、同時に納得してしまった。

たしかに此奴は三目という奇形だし、常に放たれる威圧感も人の域を超えている。まともな者なら、いや、まともでなかったとしても此奴は排されていただろう。

何より、こいつ自身の声には悲しみや怒りなど欠片も含まれず、まるで他人事のように言っていた。

 

「どうして…」

 

「ん?」

 

「どうしてお前は何も感じずにいられる。一体なぜ」

 

俺はそう聞かずに入られなかった。愛し愛されることのないそんな生き方をして何故平然としていられるのか、己のことだというのにそんなどうでも良いことのように言えるのか。

 

「一言で言うならどうでもいいから、だ。ほら満足か?」

 

「それだけか?」

 

「ああ、それだけだ。納得できないなんて言っても俺は知らん。しかし、そろそろお前との会話にも飽きてきた。そろそろご退場願おうか」

 

退場と言う言葉を聞いた瞬間俺は真っ先に自分の死が頭に浮かんだ。生物としての生存本能からか、退場と言う言葉からなのかわからないけれど恐らく今まで生きてきてこれ以上ないくらいの汗が吹き出した。

 

「じゃあな」

 

奴がそう言った瞬間体に凄まじい衝撃が伝わり意識が刈り取られる。

 

「俺の暇潰しに付き合った礼だ。俺の名前くらいは教えておいてやるよ、俺の名は――――」

 

薄れていく意識の中かろじて聞き取れたその名は…

 

『波旬』

 

第六天魔王の名だった。

 

次に目を覚ましたときにまず見えたのは、三途の川ではなく病室と思われる真っ白の天井だった。

看護師に聞いたところによると背丈の小さい男が俺を担いで来たそうだ。にわかに信じられんが、奴、波旬のことだろう。

 

「…結果オーライというやつか?」

 

いろいろあったが奴のおかげで病院に来れたわけだが。大分疲れた、今はゆっくり休むとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

光とは、闇があってこそ存在する。善もまた同じ、悪があるから善がある。善のみとなった世界にもはや善はない。すべての存在には対照となる何かがある。悪が消えたとき世界に一体何が残るのか、あの男は気づくのだろうか。

 

波旬は病院からの帰途、そんなことを考えながら倉へ戻っていった。




まず感じたのは憎悪と悲嘆、求めし物は善なる世界。


ぶっちゃけ今回は黒影との接点を作るための話だった。
飛鳥たちの登場はまだまだ先になりそう…
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