『おかしい、俺にまとわりついた塵を払ったのにそれが減る気配がない』
『それどころか溢れるように湧いてきやがる』
『なんだこれは…気持ち悪いぞ消えてなくなれ』
『ここには俺だけあればいい』
―――――――――滅尽滅相ッ!―――――――――
何時からだったか、俺が一人であることに満足できなくなっていたのは。
俺はこの唯我に満たされていた、それは疑いようのない事実だ。だが時間が経てば経つほど、いつしか満足感は心の穴を広げる空虚感に変わっていった。
そうだったのかと認められたらどれだけ良かっただろう。
だが、俺にはそれが認められなかったのだ。俺の中の何かがそれを頑なに認めようとしない。
『いらない、いらない、そんなものは求めちゃいない』
延々と俺の頭に響く『聞き覚えのある』言葉、それが誰がどこで発したものだったのかは知らない。
だが、おれは何故かその言葉に納得していた。理由などなくそれが当たり前のように、それがごく自然なことのように俺は納得していた。同時に否と思った。
俺が満たされていないという事実が何よりの証だからだ。認めてしまいたいと言う心と認めてはならないという心が反発し続け俺の心は疲れはてていた。
もう一つの声が憎いとは思わない、しかし腹立たしいと思った。
「うるさい、うるさい。なんだよてめぇは!ゴチャゴチャとほざきやがって…黙りやがれ塵が!」
堪らず大声で思っていたことを叫んだ。少しは気が紛れるだろう程度に考えていたが、そこからはもう声は聞こえなくなっていた。
「なんだったんだ?」
突然消えてしまった声、結局あれはなんだったのかと頭を働かせるが直ぐにそれを放棄した。理由はそれについて考えたところでいらつくだけだから。
「(ギュルル~)…腹減ったな」
もう一つは空腹を満たすためだ、今までずっとそこらへんの雑草や木の皮で我慢してきたがそれにもいい加減『飽きた』のだ。以前、人が大勢いる町に言ってカレーとやらを食したのだが、そのあと金がいるらしいことを知り当然そんなものを持ち合わせているわけがなく店から逃亡した。
それ以来ほかの町でそれを繰り返していると俺が出入り出来るところがなくなってしまったのだ。別に行けなくはないが行くと警察と言う人間達が俺を追ってくるので面倒くさい。
そして苦悩の末、俺はある考えを導き出したのだ。『自分で作ればいい』と。しかしここでまたある問題に直面する。それは材料を買う金がない。
「また金、うんざりする。何をするにも金金金…」
俺は貧民街と言われる所を歩きながらどうやって金を手に入れようか考えていた。 方法として稼ぐ、盗む、のいずれかだが当然1つ目は無理だ。というか盗むほうが単純に楽だ。面倒な手続きもいらないし、何より見つからなければいいだけだから。ここから少し遠いところに銀行(金が沢山あるところと聞いた)があるからそこから盗むとしよう。
「あうッ」
「あ?」
そうしてあらかた目的を固めたところでドンと俺に何かが当たった。目線を下に向けるとボロくてただの布切れにも見える服を着た少女が倒れていた。こいつが俺にあたったんだろう。
「あ、えっと……ごめんなさい」
それだけ言うと少女は立ち上がって逃げるように去っていった。去っていく少女の背中を見ながら俺は一瞬『観えた』ものに付いて考えていた。そびえ立つ城、成長した彼女と4人の仲間、そして巨大な
「こういうのを棚からぼた餅と言うんだったか?」
しかし、この光景はもうしばらく先の事のようだ。即ち今では手の出しようがないのだがいずれ現れると分かっただけ幸運だと考えよう。
「おっと、忘れるところだった。銀行強盗するんだったな」
そして運良く彼の襲撃から逃れられるかもしれなかった銀行の運命はたった今絶たれたのであった。
20分後……
「これだけあれば足りるだろう」
そう言う波旬の手には諭吉が20枚程握られていた。そう、
そしてカレーの材料を買ったところでその大金が尽きるわけもなく波旬の手には大量の食材と諭吉が2枚余っていた。
「これだけあればひと月くらいは持つ、無くなったらまた盗むか」
この場にもし警察がいたなら問答無用で連行されるような事を言って彼は再び貧民街を歩いていた。心無しかその足取りは軽く相当機嫌が良いことが傍から見てもわかる。
「これからずっとカレーが食えると思うと笑いが止まらんなぁ。はっははははは(ドンッ!)は…?」
またなんかあたったぞ。しかもさっきもこんなことがあったような…。
「あ、さっきの…」
しかもさっきのガキかよ、一日に二回も同じ奴とぶつかるなんて妙な日だ。まあいい、いいものを観せてもらったし何より今の俺は機嫌がいい。
「おい」
「え?なんですか」
俺は前と同じように走り去ろうとしている少女を引き止める。少女は驚いて体を一瞬震わせるがそんなことはお構いなしと、手にもっていた二枚の万札をその手に握らせた。少女はいきなり二万円を手に持たされ大きく動揺していた。しかし、食材が入ったビニール袋を見た瞬間ある一点のみをじっと見ていた。どこを見ているのかと俺もそこを見るとどうやらもやしが入った袋を見ていたようだ。
「……欲しいか?」
「いいの!?」
そういった少女の眼は生き生きとしていて、先程までの弱気な姿が嘘のようだった。もやしの袋を取り出し手渡してやると大喜びしていた。
「もやしが好きなのか?」
「うん!安くて美味しいから。お兄さんは?」
「俺か?そうだな…嫌いじゃないな」
「そうなんだ。ありがとう!」
今度こそ少女は走っていった。
「………………変わったな。俺も」
帰り道、誰にも聞こえないような大きさでつぶやいた。
「あぁ、変わった」
それを確認するかのようにもう一度言った。
作者は何故か波旬はカレーずきなイメージがある。ドラマCDでもそんな感じだった気がする。