森鴎外の執筆した舞姫。その二次創作。
国語の課題で書いた作品を転載。

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エリスの元を尋ねた豊太郎が倒れたあたりから。
前半相沢視点後半豊太郎視点


相沢ルートBAD

 豊太郎が倒れたとの知らせを私が受け取ったのはその翌日の事でした。

 慌てて病院に行くと、天方伯はまだ来ておらず、代わりにエリスと名乗る少女がいました。

 そういえば……と思いました。豊太郎には彼女と別れるようしっかりと釘を刺した筈ですが彼の事を考えるときっとまだ伝えてないのだろうと思います。きっと今がそのチャンスなのでしょう。

「貴女エリスと言ったわよね?」

「は、はい。えっと……貴女は?」

 彼女は少しおびえながら聞き返してきます。

「私? 私は相沢。そうね……豊太郎の彼女と言ったところかしら」

 少し嘘をつきました。私は豊太郎と付き合っている訳ではありませんが、こうしておいた方が思ったのです。

「彼女? えっと、それはどういう……」

 エリスは非常に困惑しているようでした。それもそうでしょう。なんせ豊太郎と付き合っているのは自分だと思っていたのに私という自称彼女が現れたのですから。

「あなた豊太郎と別れたのでしょう?なら私がとっても良いじゃ無いですか」

 きっと本当は別れてなどいないのでしょう。それは彼の性格を考えれば分かりますし、そうで無くても彼女の顔を見れば一目瞭然です。

「そんな……それじゃあお腹の中のこの子はどうするんですか!」

 その言葉はあまりにも破壊力を持ちすぎていました。サッと血の気がひいたように感じます。私の何回ものアプローチも一切気にかけなかったと言うのに、出会ってからあまり時の経っていない異国の少女を彼は孕ませていた。その事実はあまりにも衝撃的だったのです。

「でも貴女、彼からあまり手紙の返事を貰えなかったのでしょう?」

「それはそうですけど……」

「つまりそう言うことなのよ。それにもうすぐ私達は日本に帰国するわ。勿論貴女の旅費が出るわけが無いけれどね」

「そんな……」

「もしも豊太郎と結ばれたいと言うのなら貴女もお金を貯めて日本へ来たらどうかしら。でも、あんまり遅いともう私と結婚しちゃってるかも知れないわね」

 たたみかけるようにそう言います。彼女にそんなお金の余裕が無い事はこっそり読んだ手紙によって知っています。今度は彼女が青ざめる番でした。そして涙を流しながら部屋を飛び出していきます。その姿を見ると勝ったと言う優越感と共に申し訳なさが芽生えました。ですが、そんな事では彼女に勝てません。

もう立てないように。いっそ精神病にでも——

 

 

 私が目を覚ましたのはあれから何週間か経った後だった。目を開ければそこには医者の他天方伯と相沢の姿があった。エリスの姿が無い事に違和感を持ったが、きっと天方伯がいるから遠慮したのだろう。そのことについて相沢が口を濁していたのがいささか不可解だったが……。

 やがて天方伯は席を外したが、相沢はそのまま看病を続けてくれていた。結局エリスは会いに来る事が無かった。

「ねえ豊太郎。どうしてまだエリスと別れて無かったの? 私言ったよね。貴方は今すぐ別れるべきだって」

「それは……」

 突然の事に詰まってしまう。確かに別れると約束はしたが……

「あの時貴方は約束してくれた。必ず別れるって。なのになんでまだ別れて無いの? どうして? なんで私との約束を守ってくれないの? それもいつの間にか赤ちゃんまで作っちゃってさ……」

 そうまくし立てる彼女の目には光が無かった。まるで深淵を覗き込んでいるような恐怖感さえも感じられる。それに彼女の言い分は決して間違っていない。私は確かにそう約束したのだから。

「貴方がいけないんだよ。私の事全然見てくれないから」

 彼女の手が私の顔に伸び、彼女の方を向かされる。その表情に、その目に、吸い込まれてしまうような感じがした。

「だから……」

 ゆっくりと彼女の口から紡がれる。

「私が壊しちゃった♡」

 絶望へと誘う言の葉。

「え?」

 脳が理解を拒否した。そんなはずは無いと。

「ほんとだよ。あの子は今精神病院にいるの。ただ本当の事を伝えただけなのに壊れちゃうなんて。そんな弱い子貴方には相応しくないもの。貴方がいけないんだからね。私の気持ちに何時までも気づいてくれないんだから」

 だけど——現実はあまりにも非常だった。

「嘘だ……」

 そんな言葉が漏れる。

「嘘じゃ無いよ」

 たったそれだけの返事。その言葉を紡ぐ彼女は楽しそうに笑っていて、そしてあまりにも狂気的だった。

「今の彼女には会えないわ。だって私も貴方も我を忘れた彼女に殺されてしまうもの。それに貴方は私だけを見ていれば良いの。それが出来ないなら……そんな目いらないわよね」

 嗚呼。私は何処で間違えてしまったのだろう。今となってはもうすべてが遠い昔の話のようで。

 

 その後どうなったのか。詳しい事は覚えていない。気がつくと帰りの船の中だった。

 首には取る事も出来そうに無い首輪。

 

 きっと今日の夜も激しいだろう。

 




きっと救われない。

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