"不退転のシャロン"
その名が広まったのは、二年前のDSAA。
当時だった無名のシャロン・クーベルは、初出場にして本戦進出及び入賞を成し遂げた。
翌年も同様に入賞を果たす。
DSAA魔法競技戦においては、性差による有利不利は無いに等しい。
魔力の親和性の高さ故に、女性選手が多い魔法競技戦においては珍しい男性選手、しかも美形というのも相まって一躍その手の界隈では有名となった。
鬼のような形相で直撃をもろともせずに突き進む様は、正に不退転と呼ぶに相応しい。
時折、"キエエェェェイ!!!"という奇声のような雄叫びも相手を畏怖させる所以となっていたりいなかったり。
そんな彼は名門St.ヒルデ魔法学院の中等科一年生。
家柄も良く、銀糸のように美しい髪と切れ長の目が特徴的な美少年。
いつも窓の外を憂いた表情でぼんやり眺めている姿は、半端なく様になっている。
当然、異性からモテるのだが、それも断り続けるという。
"てめーはどこの少女漫画の主人公だよ"
クラスの男子達の嫉妬も、当の本人は露知らず。
だって────
(あー俺も実技の方に混ざりてぇな。美少女の汗と石鹸の匂いを嗅ぎながら、くんずほぐれつ……はぁはぁ……!)
──四六時中、見た目麗しい少女との絡み合いを妄想しているむっつりド変態であるからだ。
彼にとっては、純粋な異性との付き合いは興味がない。
プラトニックな関係には微塵も興奮しないからだ。
それに、特定の一人を選べというのもシャロンにとっては酷だった。
とにかく、自分の性に正直な少年なのだ。
そも、シャロンが格闘技、それもわざわざDSAAの魔法競技に参加したのは己の欲を満たす為だ。
余程、露骨な触り方でなければ接触も許される。
しかも、ミッドはレベルの高い美少女達がこれまた際どいバリアジャケットで参加しているのだ。
それ目当ての観客も多い。
選考会やノービスクラスの予選は男子もちらほらいるが、エリートクラスは殆どが女子である。
──男とやるのは萎えるが、シード枠に入ればハーレム状態じゃないか。
成熟の早かった幼き日のシャロンはこう考え、すぐに実行に移した。
いやいや、無茶だし無理だろ。
普通の人はこう考えるかもしれないが、シャロンの熱意はそんなものじゃなかった。
加えて、神は二物を与えないというが、恵まれた容姿以外にも魔法と強靭な肉体を彼に与えていた。
──才能ある者が、並々ならぬ情熱をもって努力した結果。
あらゆる射砲撃も真っ向からぶち破って接近戦をしかける規格外インファイターが完成した。
……いや、してしまったのだ。
糞迷惑な話である。
~~♪ ~~♪
外の実技授業を堪能していたら、ちょうど終了を告げるチャイムが鳴った。
「はぁ」
──(ちょうどいいところだったのに)
と、溜息を吐いてみせる。
その仕草を目で追っていた女子なんかは、胸をときめかせていた。
年頃の女子が、気になる美男子を目で追う。
正に青春の様相。
外面だけ見れば。
世の中、知らない方が幸せなこともあるのだ。
そして、休憩時間となった。
少し前に進級したばかりで、周りは新しい友人と語らったりして過ごしている。
シャロン少年はというと、デバイスを起動して魔法戦技の試合を観戦し始めた。
「さすが、(雷帝。古代ベルカの由緒正しき乳の威力は)何時見ても凄まじいな」
ヴィクトーリア・ダールグリュン。
かの雷帝の血を引いている、これまたDSAAの強豪選手。
いわゆる典型的なお嬢様なのだが、その豊満な肉体は鎧越しでも誤魔化しきれない。
シャロンも対戦したことがあり、戦績は一勝一敗。
タフネスさは互角であることから、彼女との試合は泥試合になった。
フルラウンドを使った取っ組み合いは、シャロンの望む所だ。
心の底から。
「今年も存分に楽しませてもらうとしよう(その豊満な肉体を)」
フッと不敵に笑って見せる。
単なる下卑た笑みなのに、シャロンの無駄に整った容姿がそれっぽくしてしまう。
──そこに近づく一人の少女が。
「あの、シャロン選手……だよね? それ、こないだのヴィクトーリア選手の試合……」
「……そうだけど」
──(やっべー今超笑ってたけど見られてないよね?)
不意打ちだった。
まさか話しかけてくるとは思ってなかったシャロンは、内心焦りながらも冷静に答える。
「知ってると思うけど改めて! ユミナ・アンクレイヴです! 私、格闘技者のファンで……えっと、握手とかってしてもらってもいいかな?」
えへへ、と照れている彼女はシャロンのクラスの委員長である。
紺色の髪とポニーテールに、他者への思いやりや気配りを欠かさないクラスの中心人物の一人。
「どうぞ」
観戦者側なのが惜しい。
シャロンがそう思えるほど、魅力的な少女であった。
「……クラスメイトなのに、何だか変な感じだね? 手を洗うのが勿体ないなー、なんて!」
「言ってくれれば、握手くらいいつでも」
──(めっちゃ柔らかくてすべすべ。今日は手洗わないようにしよ)
冗談で笑って見せるユミナだったが、対するシャロンの内心はマジであった。
真顔なのが普通に気持ち悪い。
「ふーん……やっぱり、ヴィクトーリア選手とはライバルって感じなのかな?」
「そうだな。まだ二度しか戦えてないけど、彼女との試合は心が躍るよ」
これは本心である。
重ねて言うが、本心である。
ユミナと一緒になって画面を見ると、対戦相手がヴィクトーリアにバインドを仕掛ける
複数の拘束具が四肢に──胸に食い込む。
「これは……」
真剣な表情で記録映像を眺めるシャロンは、外面だけはライバルの試合の行く末を見守る格闘技者。
拘束具の締め上げが最高潮に達した時、思わずシャロンも目を見開く。
(えっっっろいなぁ……)
実際は、切磋琢磨しているライバルを身体で興奮している変態野郎なのだから救えない。
(シャロン選手、いつもは興味なさそうに外見てるけど、試合を見てる顏はとっても真剣。これが、一流の格闘技者の面構えなんだなぁ……!)
まごうことなき、変態の面構えである。
勝手に感動されているともしらないで、瞳孔は興奮で開きっぱなしである。
多分、本音を伝えると彼女は卒倒しかねない。
それで済むならいいが、きっともう純粋に格闘技者を見れなくなるかもしれない。
それくらいの爆弾だった。
さすがは不退転のシャロン、天晴れである。
そして、画面のヴィクトーリアは拘束具を解いて相手をKOダウンに追い込んだ。
「相手選手にはもう少し頑張ってもらいたかったな」
「はは、さすがに手厳しいね。でも、真っ向からあの雷帝に突っ込めるのはシャロン君くらいだと思うけど」
「鍛え方と気合が足りないんじゃないか? あれくらい、男なら余裕だ」
台詞だけ聞けば、いっちょまえの漢だ。
しかも、それをやってのけるのだから言葉の重みが違う。
「凄いなぁ!」
「別に」
単純に欲望につき従っているだけなのだから。
普通の人間からすれば、わざわざ試合に出なくても、それこそアダルトな記録映像で十分満足なのだろう。
しかし、シャロンの性癖は並じゃない。
露骨なものには興奮しないのだ。
──曰く、真剣勝負の最中、相手の意図せぬ所で勝手に想像を巡らすのが最高に興奮するのだと。
こちらを倒そうとしてくる相手を見て沸いてくる罪悪感もまた、興奮のスパイスなのだと。
ギャップが良いのだ。
決してルール違反はしないし日常で犯罪行為には手を出さない所は褒められるというべきか。
「それじゃあ、また! 今年のDSAAも応援してるよ!」
「ありがとう。頑張るよ」
次の授業が始まる。
教科書を並べながら、ふとシャロンは気づいた。
(あんな可愛くて良い娘に、応援されながらというのも……フフ)
──今日もミッドは平和である。