美少女に"格闘戦"をしかけるのは合法である   作:くきゅる

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第十五話 それぞれの方向性と限界突破

 ──(もってくれよ、我が肉体ッ! そして、我が魂ッ!)

 

 

 

 謎のSLB挟まれてきます宣言をしてから、着弾地点に向かって一直線に走りだしたシャロンさん。

 全次元世界を探しても、最上級の収束砲の相殺に割って入ろうとする人間はいないだろう。

 なんなんだ、ほんと。

 

 

 

 ──(未だ嘗て体感したことのない濃密な魔力の翻弄……こんなのに巻き込まれたら、俺の身体はどうなってしまうんだ……ッ!?)

 

 

 

 まぁ、なんとかなるんじゃないでしょうか。

 知りませんけど。

 

 

 

 ──(さ、さすがに、興奮を禁じ得ない! そして、特大の収束砲に挟まれて生還することで、俺の肉体は更に強くなることだろう!)

 

 

 

 最強の肉体。

 そう、別に収束砲に挟まれたら興奮の新境地に至れるからだとか、そういう理由だけじゃないのだ。

 年々……いや、日を重ねるごとにより強くなっていったシャロンの肉体。

 もう数年もすれば、変身せずともシャロンさんの肉体に追いつくことだろう。

 全ては、公式試合を心ゆくまで堪能するため。

 より長く試合を楽しむための最強の肉体が必要なのだシャロンには。

 とってつけたような建前に聞こえるかもしれないが、これは本当である。

 

 

 ──(外部魔力転換出力を極限まで引き上げる! 全てを受け止めて見せるぞ俺はッ!!!)

 

 

 なんと勇ましい。

 シャロンさんが今やろうとしているのは、魔法を魔力として吸収してしまおうというものだ。

 恐らく初等科の生徒でも冗談として言うことはあっても、本気で実行する者はおるまい。

 頭がおかしいというのは言うまでもないが、改めて言わせてもらおう。

 キチガイであると。

 

 どれくらいやばいかというと、常人なら魔力のオーバーフローでリンカーコアにどんな影響が出てもおかしくないレベルだ。

 

 ちなみに現状のシャロンの魔力量は推定"AAA~"であり、これで成長途中というのだから、将来はどんな化け物になるか想像すらできない。

 だが、どれだけ将来性があろうと現段階ではAAA程度なのは揺るがぬ事実。

 いくらシャロンさんでも、魔法の衝撃を受け止めつつ、二つの巨大収束砲を吸収するには明らかにキャパが不足している。

 

 

 

 ──(腹は括った。さぁ、来いッ!!!)

 

 

 

 が、数値を常識外のフィジカルとメンタルで超えていくがこの男だ。

 その手の学者が見れば、驚愕のあまり卒倒するのではなかろうか。

 

 

 

 

 

 

『スターライト────』

 

 

 

 

 そして、互いの収束砲は発射直前。

 大気中から集められた魔力が二方向に吸い寄せられてゆき、巨大な光の球体を成す。

 

 

 

 

『ブレイカーーーーッ!!!』

 

 

 

 

 

 遂に放たれた、両者の巨大収束砲。

 極大の破壊を伴う閃光がフィールド全体を駆け抜ける。

 離脱者、生存者問わず、桃色と橙色は全てを包みこみ等しく死──もとい、即脱落級のダメージを与えていく。

  

 言わずもがな、それはシャロンさんにとっても例外じゃない。

 

 

 

 

 

 ──(キタアアアァァァァァッ!!!!!!!)

 

 

 

 

 

「ウオオオォォォアアアアァァァァァッッッ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 これは断末魔なのか、雄叫びなのか。

 

 

 

 

 ──(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬいや死なな……やっぱ死ぬ! でも死ぬほど痛気持ちいい! あー死にそう達しそう内側からなんかでそう。内臓というか、なにかがでそう。きもちわるい……けどそれが気持ちいい! なんだこれ! うおおぉぉおれすげぇ! たえてる! おれつええぇぇ! きもちちい! はきそう! きもちわるい! でもそれがいい! ばぐばぐ! くるいそう! あはは! みてるかヴぃヴぃおーはーるにゃん! ひかりがいっぱいおほしさま! うおーおれおれおれすぎる! ────────)

 

 

 

 

 多分、前者だ。

 なまじ身体が丈夫過ぎるせいで、気を失うこともできないまま、本当の意味でトリップしかけているシャロンさん。

 転換された膨大という言葉を通り越した魔力が、だばだばと全身から頭へと駆け上がり、脳内物質を洪水のように溢れさせていた。

 とめどなく湧いてくる感情に対し、言語化が追いついていない始末。

 

 

 

 

 ──(……狂気の沙汰ほど気持ちがいい……ッ!!!)

  

 

 

 

 理性を取り戻して一言目の感想がソレなら、やはり問題なかったのだろう。

 

 永遠にも等しい一瞬刹那の時間が終わり、次第に周囲の状況も明らかになってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これ、なんて最終戦争?」

 

 

 

 と、セインの一言。

 

 

 

「……それよりも、シャロン君は大丈夫なのかしら」

 

 

 

 と、メガーヌも一言。

 

 "俺が最終戦争を止めるぜ!"と言わんばかりに突っ込んだシャロンさんに対し、二人とも顔をひきつらせていた。

 

 

 

「とりあえず、あいつを真っ先に回収して休ませた方が良いんじゃない?」

 

 

「そうねぇ。じゃあ、みんなの状況を……ッ!?」

 

 

「奥様、どうかした?」

 

 

「……生きてる」

 

 

「え?」

 

 

「シャロン君、まだ"生存"してるわ」

 

 

「は……え? 嘘でしょ?」

 

 

 

 完全に死人扱い──試合上での判定の話だが──のシャロンさん。

 

 当たり前だ。

 どこの世界に収束砲同士の衝突に巻き込まれて生き残れるやつがいるんだって話だ。

 まぁ、いたんだけども。

 

 メガーヌが映し出すディスプレイには、ぷすぷすと黒煙を昇らせながら肩で息をするシャロンさんが映っていた。

 

 

 シャロン・クーベル

 

 DAMAGE 2050

 

  ↓

 

 LIFE 150

 

 

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 

 

 絶句である。

 

 

 ここで、両チームの状況を確認してみよう。

 

 青組、なのは・エリオ・スバルは、SLB─PSを防ぎきれず撃墜及び戦闘不能。

 赤組、ノーヴェが撃墜されるも、コロナとティアナは首の皮一枚繋いでいた。

 つまり、青組の残りメンバーはシャロンさん。

 赤組はコロナとティアナとなった。

 

 LIFE100以下の者は行動不能扱いとなり、他者の回復が施されない限りは戦闘行動は行えない。

 シャロンさんの余力はほぼないのもあり、実質残り一人である。

 

 

 

「……どうして、直撃食らって立ってるの?」

 

 

「魔法を魔力に転換して吸収してたのは間違いないみたいだけど……過剰過ぎる魔力が内側で暴走するはず……本当にどうなってるのかしら。考えられるとすれば、絶え間ない超速の肉体再生……これも現実的ではないのだけれど……」

 

 

 

 メガーヌのご推測道理。

 内側から破壊されるという発狂しかねない苦痛に耐えながら、肉体を壊れた傍から再生させ続けていたのである。

 肉体的才能以上に、その執念が恐ろしい。

 執念というか、そもそも苦痛を快楽に変えてしまう人種なので、この言い方も正確ではなさそうだ。

 

 なんなんだ、ほんと。

 いい加減にしろ。

  

 

 

 

 

 

 

 

 ──(……残りは、コロナとティアナさんか。うまい具合、残ってくれたな)

 

 

 

 赤組二名の首の皮が辛うじて繋がっているのは、シャロンさんが緩衝剤としての役割を果たしたのが大きい。

 

 

 

 ──(いやはや、さすがに無茶が過ぎたかと思ったら、なんとかなるもんだ。ぶっ壊せばぶっ壊す程、我が肉体が強靭になっていっていくのは知ってたが、これは想像以上の効果が得られたみたいだ)

 

 

 

 と、不敵に笑うシャロンさん。

 純粋に己の武力の向上で笑うというのは、何気に超レアシーンである。

 それもその筈。

 

 

 

「滾る……滾るぞォッ!!!」

 

 

 

 多少、外部へ逃がしたものの、二つの収束砲の魔力を吸収しきったシャロンさんの熱量は計り知れない。

 苦手な射砲撃の魔法でさえ、今なら雑に飛ばすだけでも局員顔負けのモノを何発も放ててしまう。 

 恐ろしいのが、これが単に一過性の強化ではないというところだ。

 極限状態までリンカーコアと肉体を甚振った結果、シャロンさんの魔力量はSランクの大台に突入しようとしていた。

 加えて、再生能力の向上している。

 

 早いとこ、誰かこの男を止めてくれ。

 

 

 

「素晴らしい! 最高の気分だ! この力で今年こそは、あのワールドチャンプを……」

 

 

 

 因縁の相手を口にしていると、ティアナの魔力弾が飛来する。

 

 

 

「……っと、いけない。まだ試合(おたのしみ)中だった」

 

 

 

 目視することなく回避すると、赤組両名の位置を見据える。

 

 

 

「あははははは、今行きますよ! 首洗って待っててください!」

 

 

 

 試合の判定上では、ほぼ死に体であるのにも関わらずこの余裕。

 なのはが魔王で、フェイトが死神と評されるなら、シャロンは何と例えよう。

 言葉が見つからない。

 

 強いて例えるなら、変態大魔神だろうか。

 

 

 

 

 

 一方、こちら赤組残存勢力はというと。

 ティアナは苦虫を百匹くらい口に放り込まれた表情で、未だ健在どころかパワーアップしたかのようなシャロンさんを睨んでいた。

 

 

 

「……コロナ、魔法は使えそう?」

 

「な、なんとか~!」

 

「残りはシャロンだけだけど、正直一番残ってほしくないやつが残ったわね……」

 

「ていうか、収束砲が直撃してたのに何で生きてるんでしょう……」

 

「……考えないようにしましょう」

 

「……そうですね」

 

 

 

 さすが、頭脳派二名。

 シャロンを常識では測れない存在だと即座に認識した模様。

 場合によっては、思考放棄も必要なのだ。

 

 

 

「ぎりぎりってとこだけど、一応最後まで足掻いてみましょう! 悪いんだけど、コロナは囮になってくれるかしら? 作戦があるんだけど……」

 

 

「任せてください!」

 

 

 

 そういってコロナに耳打ちをするティアナ。

 

 大魔神VSティアナ&コロナの最後の決戦の行く末や如何に。

 

 

 

 

 

 

「んー、何か企んでいるようだが」

 

 

 

 目視でティアナとコロナを捉えたシャロンさんは、即座に二人の挙動の違和感に気付く。

 プレイスタイルは脳筋だが、頭の出来は相当よろしいのだ。

 

 

 

「ま、正面からねじ伏せるか」

 

 

 

 結局、脳筋プレイでごり押すからあまり関係ないが。

 

 そしてまず正面に立ちはだかったのは、巨大ゴーレムゴライアスに搭乗したコロナ。

 事前の作戦通り、囮としてシャロンさんを抑えるつもりらしい。

 

 

 

「ティアナさんの所へは、行かせません!」

 

 

「へぇ、まさかコロナが立ちはだかるとは思わなかった……捻りつぶしてやるよ」

 

 

「……ッ!!!」

 

 

 

 元々、シャロンに対して尊敬以上に畏れを抱いていたコロナ。

 今だって、痛い思いをする前に逃げ出したい気持ちであったが……。

 

 

 

「ゴライアスッ!!!」

 

 

 

 その恐怖を噛み殺して、シャロンさんへ立ち向かった。

 心境の変化の原因は、ヴィヴィオやアインハルトの雄姿によるものか。

 なんにせよ、及び腰になられては退屈だと懸念していたシャロンさんも、これは嬉しい誤算だった。

 

 

 

「あぁ、いいぞコロナ。よく向かってこれた」

 

 

 

 

 素直な称賛を送ると、迫りくるゴライアスの巨腕を拳で迎え撃つ。

 結果は言うまでもなく、ゴライアスの粉砕である。

 

 いやだって、シャロンさんがゴーレム如きに敗れるわけないの分かるでしょ?

 

 

 

 

「きゃああああ!!!」

 

 

 

 

 衝撃に呑まれたコロナは悲鳴を上げながら、容赦なく地面に叩きつけられる。

 

 

 

 

「その勇気は買ってやるが、もう少し戦技に幅を持たせて火力にも磨きをかけることだな」

 

 

 

 コロナ 

 

 LIFE130→0 撃墜

 

 

 

 ──(触れるまでもなく落ちてしまったのは、残念でならない……が)

 

 

 

 コロナの即撃墜を残念がりつつ、砂埃がカモフラージュとなって見えない筈の魔力弾を全てシールドで防ぐ。

 彼女が身を犠牲にして生み出した好機は、訪れる前に存在しなかったようだ。

 

 視界が晴れると、デバイスを構えているティアナが姿を現した。

 

 

 

「さすがに分かりますって。取れる手段なんて、容易く想像できます」

 

 

 

 その後、何発か魔力弾が飛んでくるものの、防ぐまでもなく回避して詰め寄る。

 

 

 

 

 

 

「これで────」

 

 

 

 

 

 

 ティアナの目前まで達したシャロンさん。

 

 

 

 

 

 

「────終わりだ」

 

 

 

 

 

 が、そのまま目前のティアナを無視して突っ走った。

 すると、映っていたティアナの姿は霧散して消失する。

 その正体は、幻術魔法だ。

 

 

 

 

「うそ、どうして……!?」

 

 

「いや、直前まで気づかなかったんですけどね」

 

 

 

 幻術のさらに背後の物陰に隠れていた本物のティアナに詰め寄るシャロンさん。

 本命の魔力弾を発射寸前でキャンセルされ、代わりに生成した魔力刃で応戦するも、白兵戦でシャロンさんに勝てる者は存在しない。多分。

 

 

 

「顔見た瞬間、なんか違うなと……"本物"目の前にしたら、やっぱり"高まる"ものですから」

 

 

「どんな、勘、してるの……よッ!」

 

 

 

 まさか、長年の性的興奮の中で培ってきた直感で見分けましたとは言えないし言わない。

 

 赤子の手を捻るかのように、刃を捌いてティアナの胸倉を掴むとグイッと引き寄せる。

 

 

 

「ッ!」

 

 

「捕まえた」

 

 

 

 ──(やはり、本物は表情も匂いも何もかもが違う。芸術だなこれは。あと、"張り"具合も素晴らしい!)

 

 

 

 なんの"張り"が素晴らしいのか、というのも野暮なのでこれも言わない。

 

 

 

「大丈夫、一撃で意識を飛ばすんでそんなに痛くないと思いますよ。多分」

 

 

「ちょっと小突くだけでいいんじゃ……って、まってまってまって!」

 

 

「はい、待たない」

 

 

 

 掴んだ胸倉を乱暴にアスファルト目がけて叩きつける。

 "ぐぅ!?"と、明らかに大丈夫じゃなさそうな声を出すが、シャロンさんは特に動じない。

 無駄にシステムを把握している分、セーフティの減算値を計算して、ヴィヴィオやコロナ、ティアナが無事であることは確信しているからだ。

 

 

 ティアナ

 

 LIFE110 → 0 撃墜

 

 

 

 最後に立っていたのは、シャロンさんのみ。

 

 

 

「とても有意義な時間だった……しかも、あと二戦も楽しめるとはな」

 

 

 

 もっとも、シャロンさんと対峙した面々にはそんな体力残ってなかったりするが。

 

 かくして、波瀾万丈の練習会第一戦はこうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、予定通り練習会は三度行われ、マッチアップ相手や組み合わせ自体を変えたりで、皆十分以上に魔法戦を満喫していた。

 もちろん一番楽しんでいたのは、シャロンである。

 

 

 

「あ~う~……」

 

「ううっ腕が上がらない……」

 

「起きられないー……」

 

「動けません……」

 

 

 

 特に後輩組が肉体の限界以上に身体を酷使したせいで、一度ベッドに倒れ込んでからは動けなくなってしまっていた。

 

 

 

「限界を超えてはりきりすぎるからよー」

 

「いや、限界は超えるものだろう?」

 

「シャロンは黙ってて」

 

 

 

 後輩の手前、余裕ぶってはいるもののルーテシアもシャロンとの戦闘が響いていたりする。

 本当の意味で余力がありあまっているシャロンをジト目で睨むも、当の本人はまったく気付いていない。

 というより、ようやく念願の女子部屋に入れてその事でいっぱいいっぱいなのだ。

 無理もない。

 

 

 

 ──(楽園の中の楽園だなぁ、ここは。改めてこうもまじまじと彼女等の寝間着を見ると、何か達するものがある……これはなかなか……)

 

 

 

「……なんで、シャロン先輩は平気なんですか~!」

 

 

「いや、全然平気じゃないが」

 

 

「まったまたー!」

 

 

「ほんとだ。結構やばい」

 

 

 

 シャロンなりに気を遣っているのかと周囲は誤解したが、当然両者の会話は一切噛み合っていない。

 

 

 

「はぁい、みんなー! 栄養補給の甘いドリンクだよー!」

 

 

 

 なのはとメガーヌの差し入れと同時に、話題はDSAAインターミドル・チャンピオンシップに移る。

 若かりし頃の武勇をメガーヌが語り、上位選手の試合記録を映して後輩組は憧れの大舞台に夢を膨らませる。

 アインハルトもアインハルトで、己の未熟さや視野の狭さを恥じると共に、インターミドルで覇王流の強さを証明したいと望んだ。

 

 

 

「シャロン君含めて、上位選手って本当に強いよねぇ」

 

「そのままプロになる子も多いんです!」

 

「先輩もプロになるんですかー?」

 

「……さぁ、どうだろうな。俺は俺に相応しい仕事が出来れば、なんだって構わない」

 

「かっこい~!」

 

「そんな事言って、ほんとは何も考えてないだけでしょ」

 

 

 

 進路について常々考えてはいたが、シャロンが頭を抱える数少ない案件の一つである。

 色々と悩んだ結果、"なるようになるさ"と"この一瞬刹那の快楽に溺れていたい"という楽観視と欲望が合致して、お茶を濁して現状維持するスタンスを取っている。

 

 完璧なイケメン男子と思いきや、意外とダメなところもあったりするのだ。

 

 性癖については何も言うな。

 

 

 

「それよりも」

 

「あ、話変えた」

 

「やかましい。アインハルト、お前も出場するならクラス3以上のデバイスが必要になってくるが、もってるのか?」

 

「…………」

 

 

 

 強引に話題の矛先をアインハルトに転換するシャロン。

 結構、せこい。

 

 

 

「……もって、ないです」

 

 

 

 水をぶっかけられたかのように、シュンとなるアインハルト。

 ルーテシアが相変わらず非難がましい目で見てくるが、シャロンはスルーする。

 

 

 

「デバイスなんて、最低限の基準満たしてればなんでもいいんじゃないのか。それこそ、パーツだけ適当に揃えて組んでしまえば……」

 

 

「シャ~ロ~ン~? それ、私に喧嘩売ってるのかしら~?」

 

 

 

 才女ルールーは、デバイスマイスターでもある。

 一流シェフの前で、料理なんて腹に入れば一緒! と言っているようなものだ。 

 

 

 

「まてまて、どうしてそうなる。第一、格闘技者にとってデバイスは最低限の防護機能があれば、それで十分だろうが」

 

「それもそうだけど、やっぱり個人にあった機体をちゃんと見繕ってあげるべきでしょ! 上位選手はオリジナルデバイス持ってる子が多いし!」

 

「俺は市販の既成品にパーツ組み込んでアレンジしただけだが、結果を残しているぞ」

 

「うぐ……それを言うのは、卑怯じゃないかしら!」

 

「知るか」

 

 

 

 "仲良しねぇ~♪"と、なぜかメガーヌは嬉しそうに微笑んでいる。

 

 実際のところ、シャロンの言い分は間違っていない。

 なんせ、武器を形成する必要がないのなら、保護機能さえ搭載していれば十分なのである。

 しかも、オーダーメイドで通常の型から外れた物を注文するとなると、一体どれだけふんだくられるか分かったもんじゃない。

 ヴィヴィオのセイクリッドハートはなのは等のコネで融通利かせたようだが、それでも相応の値が張った筈だ。

 コロナのブランゼルはルーテシアがアマチュアの試作という体で無償提供したようだが、これは例外中の例外。

 その点、シャロンは自らの肉体の強さもあり、普段使いのデバイスを競技用に簡素な改造を施した物なので安く仕上がっている。

 しかも、丈夫で壊れにくく、メンテナンスも自分でできてしまう程楽だ。

 

 

 閑話休題。

 

 

 ルーテシア、シャロン共に、デバイス制作と魔法戦技の造詣に詳しい者同士白熱した議論を続けていた。

 議論の発端となったアインハルトでさえ、"あの、私の事ならお気になさらず"と止めに入るが聞く耳持たず。

 

 何気にくだらない妄想抜きにして、真面目に語り合った異性はルーテシアが初めてだったりする。

 

 

 

「と・に・か・く! アインハルトのデバイスは私に任せなさい!」

 

「……まぁ、専用デバイスの方が有利なのは間違いないが、お前エンシェントベルカ仕様のデバイスなんて組めるのかよ」

 

「ふっふっふ~! 私の人脈を甘く見てもらっちゃ困りますねぇ~。私の一番古い親友とその保護者さんってば、次元世界にその名も高い、バリッバリにエンシェントベルカな大家族!」

 

「というと、もしや八神司令か?」

 

「ご名答~!」

 

 

 

 八神はやて。

 かのJS事件解決の立役者の一人であり、とある一級ロストロギアの所有者でもあるらしい。

 過去の因縁でなにかと批判されることも少なくないが、その人柄や容姿の良さ、なによりも魔導書による広域型魔導師としての能力が高く評価されているのも事実。

 最近は、雑誌インタビューなどによるメディアへの露出も増えている。 

 

 当然シャロンも有名な美女局員として、チェック済みである。

 

 

 

「で、手伝ってもらうと?」

 

「いや、そこは丸投げしちゃおうかと」

 

「お前……」

 

「だって、さすがの私でも、エンシェントベルカ仕様のデバイスなんて組んだ事無いし!」

 

 

 

 なぜだろう。

 こうしてシャロンが普通の会話しているだけで、違和感を覚えるのは。

 

 なにはともあれ、アインハルトのデバイス問題は解決した。

 

 

 

「あ、シャロン先輩!」

 

「今度はヴィヴィオか。どうした」

 

「えっと、インターミドルの話なんですけど……」

 

 

 

 ヴィヴィオが聞きたかったのは、ずばり自分達はどの程度のものなのかということ。

 確かに、気にはなるだろう。

 同世代では負けなしの彼女等といえど、世界中の十代が集うインターミドルでは井の中の蛙に等しい。

 だからこそ本物の強者であり、上位選手であるシャロンの目から見た自分達を知りたがっていた。

 

 

 

「そうか、気になるか」

 

「気になります!」

 

「まーす!」

 

「ます~!」

 

「あの、私も!」

 

 

 

 

 ──(美少女のレベルであれば、文句なしで上位選手確定なんだがなぁ……そうか、真面目な見解を述べなければならないか……面倒だな)

 

 

 

 

 面倒、というのは述べるのがかったるいという意味ではない。

 

 というのも……。

 

 

 

 

 ──(年齢とか知り合いだとか、何もかも差し引いて見た彼女等はあまりに未熟過ぎて、大して評価できん)

 

 

 

 そう。

 素直な感心や称賛も、全て贔屓目によるところが大きいのだ。

 

 

 

「……やや辛口評価と、辛口評価。どっちが良いか選んでくれ」

 

「先輩! 甘口はないの!」

 

「それだと何の参考にもならないと思うが、それでもよければ」

 

「うぅ……」

 

「シャロン、お前の思った通りの印象を語ってやれ。あたしの主観よりも、ずっと役に立つ」

 

 

 

 ノーヴェの一言で、難色を示していた後輩組も納得する。

 

 

 

「辛口でお願いします……」

 

「私も……」

 

「お願いします」

 

「分かった」

 

 

 

 ──(本当は、真面目に語る柄でもないんだがなぁ……あー、妄想の海に溺れてたい。それか、後輩達のベッドで一緒に寝たい)

 

 

 

 良かった、いつものシャロンが少し戻ってきた。

 

 

 

「じゃー、まずヴィヴィオ」

 

「オッス!」

 

 

 

 ──(かわいい)

 

 

 かわいい。

 

 

 

「お前とは特訓もしたし、打たれ弱さや精神力も少しはマシになったとは思う」

 

「えへへ~、ありがとうございます!」

 

「で、結論言わせてもらうと────」

 

 

 

 シャロンに褒められて照れくさそうに笑うヴィヴィオ。

 周りも少し羨ましそうにしているが、笑っていられるのも今のうちだ。

 

 

 

 

「──予選の前半で即敗退だろうな」

 

「え……」

 

「評価が不服か?」

 

「いや、そういうわけじゃ……」

 

「意地悪だったな」

 

 

 

 慢心。

 それは誰にでも持ちうる感情である。

 

 特に、才気溢れる未だ世界を知らない子供達なら尚更に。

 

 

 

「もう少しいけると思ったかもしれんが、甘すぎる。そもそも、U19は年齢差が顕著だ。何年も研鑽を重ねてきた連中に敵うとでも? 馬鹿言っちゃいけない。勝ちたいのはな、お前らだけじゃないんだ」

 

 

 

 この男、こんな事言っておいて別段勝ちたい気持ちもないのだから性質が悪過ぎる。

 

 

 

「後輩三人、これはお前ら全員に共通してるから他人事だと思わないよう」

 

「は、はい……」

 

「き、きびしいよぅ~……!」

 

 

 

 スパルタの者、シャロン。

 後輩といえど、容赦はしない。

 

 

 

「といっても、ヴィヴィオにはそんなに言う事ないんだがな」

 

「そんな~! 何か、アドバイス下さいよ~!」

 

「勝ちたいだけなら、今すぐ格闘技やめて純粋な魔導師になることを勧めよう」

 

「そ、それ以外で!」

 

「動体視力を磨きつつ、膨大な反復練習による反射神経を身体に覚え込ませろ。あとは、筋力ももっとつけた方が良い。強打者じゃないにしろ、今のままじゃヒット時のリターンが薄すぎる。ヴィヴィオは典型的な器用貧乏だ。一般人なら十分だが、選手として活躍するにはあまりにも中途半端に尽きる。特化した武器よりも、まずは全体的に水準以上の能力を身につけるべきだ。今まで以上に」

 

 

 

 なんだよ。

 けっこう言う事、あるじゃねぇか。

 

 

 

「と、思うのですが、どうでしょうノーヴェ師匠?」

 

「お前まで師匠呼ばわりするな! ……それはともかく、あたしも似たような意見だよ」

 

「あ、ありがとうございました! 頑張ります!」

 

「じゃあ、次コロナ」

 

「お願いします!」

 

 

 

 ──(ゴーレム操作なんて門外漢だぞ……もう酷評しかできないが……)

 

 

 

「ヴィヴィオ以上に格闘技向いてないのはお前だよ。言わなくても、分かってるとは思うが」

 

 

「……はい」

 

 

「格闘技をやる上でのアドバンテージは皆無どころか、マイナスなところしかない。純粋な格闘技者としての道は、諦めた方が良い」

 

 

「…………」

 

 

 

 

 辛口どころか、絶望しかない評価に皆閉口する他なかった。

 

 

 

 ──(俺が悪いのか?)

 

 

 

 

 そりゃ、そうでしょうよ。

 

 

 

 

「早まるな、早まらないでくれ頼むから! 別にやめろって言うわけじゃない! 格闘技の心得がある事自体はプラスだ! ……ゴーレム操作との組み合わせも悪くないしな。が、中途半端だ。ゴーレムも、今日相手したみた感じだとまだまだ脆すぎる。本番の創成時間のリスクの割に、あまり効果は期待できんぞあれじゃ」

 

 

「脆い、ですか?」

 

 

「あぁ。アインハルトやリオあたりなら、そこまで苦労せずに破壊できると思う。動きは緩慢で、図体も大きいから良い的だ。そもそも、完全なゴーレムを創るのに固執するのが視野を狭めているんじゃないか。コロナは機転が利くし、誰よりも応用の幅が広がるスキルを持ってる。鍛えるなら、格闘技ではなくそっちをメインに伸ばせ」

 

 

「……わ、分かりました!」

 

 

「はい次、リオ」

 

 

「お、お願いしますー!」

 

 

 

 なんだかんだ、面倒見が良いのか悪いのか。

 己の欲望本意な態度を見せつつも、悪人には成りきれないのがシャロンという少年だった。

 

 

 

「魔法戦技者としての資質は十分。身体的な才能もアインハルトに匹敵するものがあるよ」

 

「ほんとですか!」

 

「資質はな。あー、確か異世界のことわざに……宝のなんとやらって言葉があったような……」

 

 

 とある異界のことわざを用いようとしたが、うろ覚えのシャロン。 

 

 

「……それって、宝の持ち腐れじゃないかな」

 

 

 心当たりのあったなのはが、おずおずと発言する。

 

 

 

「それですね。地球の言葉でしたか」

 

 

 

 余談だが、なのはにフェイト、はやてといった有名人の故郷とあって、管理外世界であるにも関わらず地球の文化や言葉はこのミッドチルダにも普及していたりする。

 

 

 

 

「ちなみに、意味は……」

 

「言わなくても、分かりますー!」

 

「なら、話は早い。才能にモノ言わせて、魔力運用も何もかも雑だ。磨けば光るのは間違いないが、磨かなければ路傍の石ころと同じだよ。春光拳にしてもそうだ。素人目でも、巧くないのは何となく分かる。ヴィヴィオやコロナと違って、才能と目指しているスタイルが噛み合ってんだから、ノーヴェさんに師事してこれまで以上に地力を底上げしていけ」

 

「うぅ~! 悔しいけど、がんばります~!」

 

「じゃあ、最後にアインハルト」

 

「……はい!」

 

 

 

 それっぽい言葉を見繕うのにも、限度がある。

 複雑な事情やスキルを抱えるアインハルトへの言葉選びは、誰よりも面倒と言わざるえなかった。

 

 

 

「言うまでもなく、後輩三人よりは頭一つ抜けてるよ。年齢差加味してもな。悪くない動きだし、インターミドルでもそこそこ活躍できるんじゃないか。あくまで、上位選手には届かない程度のその他大勢ってとこだがな」

 

「…………」

 

 

 

 ──(俺がなんか言う度に空気重くなるの、まじでやめてもらえないだろうか)

 

 

 

「アインハルトは巧い方だし、力や他の能力も水準以上にはある。けど、そのレベル帯の選手は沢山いる。なんなら、まだ魔力親和性の低い同世代男子だってそこそこいるくらいだ。……忌々しいことにな」

 

 

 

 同世代ではないものの、シャロンはとある因縁の男子選手を一瞬思い浮かべた。

 だが、なんでもない素振りで話を続けるシャロン。

 

 

 

「そもそも、アドバイザーじゃないから上手い事は言えないが……土台はしっかりしているお前には、色んな相手と実際に戦っていくのが良さそうに見えるな。これからの鍛錬を、魔法戦技向けにシフトすれば化けるだろうよ」

 

 

 

 "らしくないことをするのは疲れる"と、締めくくる。

 

 

 

「コーチに向いてるかはともかく、アドバイザーには向いてるよお前」

 

「そりゃどうも」

 

 

 

 具体的な鍛錬の内容なんかは、ノーヴェが指示していくことで話はまとまった。

 それぞれが目指すべき方向性や克服すべき欠点、突き付けられた現実に思い悩みながらも、四人の少女は輝かしい未来を見据えて前を向く。

 

 

 

「リオ、コロナ、アインハルトさん!」

 

「四人で絶対!」

 

「夢の舞台へ!」

 

「……はい!」

 

「ちょっとー! 今年は私も出場するんだけどー!」

 

「おー! じゃあ、ルールーも入れて五人で!」

 

「シャロン先輩も忘れちゃだめだよ~」

 

「あ、そうだった! 先輩も、一緒に頑張りましょうねー!」

 

「……あぁ」

 

 

 

 

 ──(なんつー、クソメンタル)

 

 

 

 お前ほどじゃない。

 さりとて、あれだけの酷評を受けて逆に闘志を燃やせるのは間違いなく強みだ。

 

 

 

 ──(……なら、伝えてもいいか。本当はこれ以上、変な空気にしたくないところだが……)

 

 

 

 

「アインハルト、お前に一つ言い忘れてたことがあった」

 

 

 

 シャロンは、あえて言わなかった事を伝えるべく呼び止める。

 

 

 

「はい、なんでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────俺は、アインハルト・ストラトスという人間が好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その瞬間、ロッジの時は凍りついた。

 

 

 

 


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