美少女に"格闘戦"をしかけるのは合法である   作:くきゅる

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第十八話 波瀾万丈のインターミドル開幕

 

 ヴィヴィオ達のインターミドルへ向けた特訓が始まり早一月。

 あれから各々の長所を伸ばす鍛錬の他、基礎魔力を伸ばす為の負荷バンドを身に着けた生活を続けていた。

 

 

 

「────いっちばーんッ!!!」

 

「────負けないッ!!!」

 

 

 

 最初は歩くのもしんどそうにしていた彼女達だが、今では負荷最大で両手両足にバンドを付けた状態でも、こうして元気よく走り回れるまでになっていた。

 もっとも、疲労抜きのスロージョグであるので、ノーヴェは良い顔をしていなかったが。

 

 

 

「にしても後輩達は、よくここまで成長したもんだなぁ。今年の新人は粒ぞろいだ」

  

「えぇ、本当に……皆さん、合宿の頃よりも見違えるようです」

 

「他人事みたいに言ってるが、お前もだからな?」

 

「え、あ、ほ、ほんとですか! ありがとうございます……」

 

 

 

 しれっと混ざっているシャロンは、いつものようにアインハルトと甘ったるいやり取りをしていた。

 美少女に囲まれるのは満更でもないというのもあるが、今朝の練習に参加したのは、ヴィヴィオ達の選考会前日だからである。

 当日も応援(という名目で参加選手達を舐めるように鑑賞し)に行くつもりだが、一応先輩として一声かけてやろうと思った次第であった。

 

 

 

「分かってると思うが、個人戦だからチームメンバー同士で争う事もある。それは大丈夫だな?」

 

「はい!」

 

「スポーツだから当たり前だけど、勝っても負けても恨みっこなし!」

 

「正々堂々、良い試合にします!」

 

 

 

 意気込みと覚悟は十分と判断したノーヴェは、ヴィヴィオ達の参加ブロックを発表していく。

 

 

 

「まず、リオが予選五組。ヴィヴィオ、予選四組」

 

 

「リオお嬢様の五組には、"砲撃番長(バスター・ヘッド)"ハリー・トライベッカ選手がいらっしゃいます」

 

 

 

 教会本部のシスターたるディードが、そう補足する。

 彼女はリオのスペシャルトレーナーとして、一月もの間特訓に付き合っていた。

 

 

 

「番長か……あの人は、強いぞ。完全な我流であそこまで昇り詰めるのも大概だが、特に凄まじいのが常識外のタフネスだ。絶体絶命な状況でも、一気に盤上をひっくり返すだけのポテンシャルを秘めている」

 

 

 

 更にシャロンが補足するが、一番常識外なのはこの男である。

 

 

 

「それでも、負けませんよ……!」

 

 

 

 実際にハリーと会っているリオは、あの時のオーラを思い出し武者震いをする。

 

 

 

「ヴィヴィオの予選四組には、ミカヤちゃんがいるな」

 

「ミカヤさん! スパーでもお世話になったけど、いよいよライバルだ!」

 

「彼女の強さは、その身をもって味わっただろうし、俺から言う事はないな」

 

 

 

 ミカヤ・シェベル。

 僅か十八という齢で、抜刀術天瞳流師範代にまで上り詰めた才女。

 彼女は道場を構えており、とある事情でインファイターとのスパーを好んで引き受けていた。

 アインハルトやヴィヴィオ達は言わずもがな、シャロンも和装の年上美女相手という事で、空いている時間によく斬られにいっていた。

 

 

 ──(ミカヤさんとは、試合じゃ当たった事はないが……まぁ普段からスパーが出来る相手なら、どうでもいいな)

 

 

 美少女や美女との試合自体を目的としているシャロンは、もう練習の組み合いだけで十分満足していた。

 一方、ミカヤはシャロンも打倒すべき好敵手として密かに闘志を燃やしていたわけだが、彼女にとっては知らぬが仏の事実である。

  

 

 

「──で、だ。アインハルトとコロナは、同じ予選一組」

 

「あ……」

 

「それって……」

 

「地区予選から同門対決か。まぁ、こういう事もあるだろうな」

 

 

 

 十分可能性はあったとはいえ、地区予選での同門対決発生に聊(いささ)か動揺した様子の二人。

 

 

 

「ゼッケン離れてるからノービスクラスでぶつかる事はねーよ。当たるとすれば、エリートクラスに勝ち上がってからだな」

 

 

 

 どちらにせよ、勝ち上がっていけば両者がぶつかるのは必然。

 すると、少し険しい表情をしていたコロナがアインハルトの方を向く。

 同時に、表情を一変させて穏やかな笑顔で言った。

 

 

 

「私、アインハルトさんが相手でも頑張りますよ! 負けません!」

 

「こちらこそです!」

 

 

 

 二人は頷き合い、良い試合になるよう競い合う事を誓った。

 周りの人間からすれば、お互いに覚悟をもって臨んでいるようにも見えるだろう。

 

 

 

「……まぁ、そうだよな」

 

「シャロン先輩、どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

 

 しかし、シャロンには何となく分かっていた。

 コロナの心の根底にあるモノを。

 ちらりと流し目で彼女の表情が僅かに曇った瞬間を捉えて、シャロンは確信した。

 

 

 

 ──(何もしなくても大丈夫な気はするが……試合に影響しそうなら、それとなく話してみるか)

 

 

 

 この男、基本的に己の欲に忠実な糞野郎であり、運と容姿に救われているだけである。

 されど、日頃の人間観察(視姦)の賜物か、妙に鋭い洞察力を持っていたりもする。

 加えて、最近発露するようになったお節介癖。

 どんなにアレな人間でも、一つか二つは良いところがあるのだ。

 これがあるから、"なのに憎めない男"として踏みとどまれているのかもしれない。

 

 

 

「あと、予選一組には一昨年の優勝者がトップシードにいる」

 

 

 

 シャロンが思考に耽っている間に発せられた"一昨年の優勝者"という言葉。 

この言葉に一番反応したのは、シャロンだった。

 

 

 

「ジークリンデ・エレミア……」

 

「あぁ。シャロンはよく知ってるかもしれないが、出場辞退を除いて不敗を誇る生粋のエリートファイターだな」

 

 

 

 シャロンにとっては、知っているどころではなかった。

 

 

 

 ──(忘れもしない、去年の都市本戦。ジークリンデ・エレミアめ、本当につまらない真似をしてくれた。ミカヤさんだって、それは本望じゃなかったろうに。お蔭様で、この俺も……)

 

 

 

 シャロンの回想を無視して、ノーヴェは続ける。

 

 

 

「コロナとアインハルト、どっちか勝ち抜けるにせよ、こいつを倒さなきゃ都市本戦には勝ち上がれねぇ。結局、どこも激戦区なのには変わらないが、皆悔いの残らないよう気合入れてけよ!」

 

 

『はいッ!』

 

 

 

 "チームナカジマー! ファイトー!"と一致団結して燃える後輩達やアインハルトをよそに、シャロンは尚も鉄仮面の下で燻った感情を消化しようと努めていた。

 

 

 

 ──(……まぁ思う所はあるが、なにはともあれ今年も出場してくれたんだ。勝ち進めば確実に当たる)

 

 

 

 ちょうどシャロンの心の踏ん切りがついたあたりで、ヴィヴィオが思い出したように声をかけた。

 

 

 

「そういえば、先輩の予選ブロックはどうなってるんですか?」

 

「あ、私も気になるー!」

 

「教えてくださーい!」

 

 

「……おっと、そうだったな。俺もお前らに合わせようと思って、まだ開封してなかったんだ」

 

 

 

 "シャロン・クーベル様"と丁寧に金文字で刺繍が施された手紙を取り出すと、魔法で封を焼き切る。

 まず出てきたのは、シード枠進呈の証書。

 残りの一枚は、シャロンを含めた全シード枠の上位選手の振り分けが書かれたシードリストである。

 

 

 

「予選七組の……は、第二シード枠?」

 

「シード枠~!」

 

「じゃあ、先輩と当たるとしたら都市本戦……!」

 

「頑張らないとですね!」

 

「はい!」

 

 

 

 ──(嫌な予感がする……)

 

 

 

 ヴィヴィオ達が思い思いの感想や称賛を送る中、またしてもシャロンは大きなショックを受けていた。

 シャロンの参加ブロックは、本人が言った通り予選七組の第二シード枠だ。

 基本的には昨年度の都市本戦の出場者を筆頭に、過去に入賞歴のある選手達が三人づつ各組に割り当てられる。

 枠の数字に差はないが、一応は優秀な戦績順に組内で一、二、三と別けられていた。

 そしてシャロンが腑に落ちなかったのは、去年準決勝まで進んだのにも関わらず第二枠と判断された点だ。

 

  

 

「へぇ、シャロンの組の第一シードも男子選手じゃねぇか」

 

「あ、ほんとだ!」

 

「この人って、確か……」

 

 

 

 

 共通で配られているシードリストを見れば、第一枠は誰なのか分かる。

 けれどそれを見るまでもなく、ノーヴェが先走って言った"男子選手"というワードと、去年の己よりも成績が上位と思われる選手名を組み合わせれば、シャロンには何となく予想がついてしまう。

  

 

 

「────オルス・リーヴ。去年、決勝まで勝ち上がった選手だな」

 

 

 

 "オルス・リーヴ"

 その名前が出た途端、シャロンの全身をぶわっと不快な悪寒が這い上がってきた。

 

 

 

「フ○ック」

 

 

 

 ○ァック。

 あらゆる建前とポーカーフェイスをぶち破る、究極のスラングがシャロンの口から飛び出した。 

 

 

 

「先輩、何か言いました?」

 

「いや、なんでもないです」

 

「……どうして敬語?」

 

 

 

 リオが不思議そうに首を傾げたが、幸いにもちゃんと聞き取れた者はいなかったようだった。

 だが、シャロンはそんな事で安堵できる程、心穏やかではなかった。

 

 

 

 ──(頼む、夢であってくれ、頼む頼む頼む頼む頼む)

 

 

 

 シャロンは無駄だと知りつつも、自己暗示のように念じながら手元のシードリストを一応確認する。

 

 

 "────予選七組 第一枠オルス・リーヴ 第二枠シャロン・クーベル 第三枠──"

 

 

 

「…………」

 

 

 

 シャロンは無言でシードリストを二つ折りにして閉じた。

 そんなシャロンの心境を知らないヴィヴィオは、無邪気に言う。

 

 

 

「これって、オルス選手とシャロン先輩が初戦を勝ち上がったら……プライムマッチが発生しますよね!」

 

 

 

 シード選手同士等がぶつかる場合、プライムマッチとして変則的な試合が組まれる場合がある。

 地区予選は来週からスタートし、エリートクラス二回戦までが行われる。

 もし、二人が二回戦で当たる場合は、翌々週の祝日のプライムマッチに組み込まれる事になっていた。

 

 

 

「おぉ~! 男子選手同士のプライムマッチ!」

 

「滅多に無いよね~!」

 

 

 

 シャロンとしてはふざけんなという心境だったが、外野からすれば最高に熱いカードに見えるだろう。

 事実、エリートクラスまで上がってくる男子選手自体、かなり少ない。

 魔法戦技に限って言えば、多くの十代男子は別の連盟が主催する男女別の大会に参加する事が多いからというのもある。

 とにかく、二人の衝突はほぼ避けられない事態だった。

 余程の番狂わせがなければ、シード枠選手が一回戦敗退なんてありえないのだから。

 

 

 

「先輩、絶対勝ってくださいね!」

 

 

 

 ヴィヴィオが天真爛漫な笑顔でシャロンにエールを送る。

 その笑みが、シャロンのやさぐれた心を僅かに癒す。

 

 

 

「……あぁ」

 

 

 

 ──(もう二度と出ようと思えないくらいボコにするしかねぇ)

 

 

 

 シャロンは煮え切らない生返事をしつつ、因縁の対オルス・リーヴ戦への決心を固めた。

 かくして、選考会前日はあっという間に過ぎて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第27回インターミドルチャンピオンシップミッドチルダ地区選考会第一会場。

 シード枠を持たない一般選手達を審査する会場……の一つ。

 第一会場でさえこれだけ選手が集まっており、魔法戦競技の人気っぷりを伺わせるのには十二分だろう。

 各々の選手が夢や希望を抱え、様々な表情を浮かべながら、会場入りしていく。

 

 

 

「すごい人ー!」

 

「これ全部、参加選手なんだよね」

 

「すごい! すごーい!」

 

 

 

 その中には当然、ヴィヴィオ等チームナカジマの面々もいる。

 

 

 

「ふむ、今年もよい選手が揃っているようだな」

 

 

 

 お前は帰れ。

 

 

 

「選手は参加セレモニーがあるから整列しろよー」

 

「私達は席の方にいるからねー」

 

 

 

 ノーヴェは相変わらず落ち着きのない教え子達に声をかけて、ディエチと共に観戦者席に向かう。

 参加選手とはいえ選考会では部外者であるシャロンもまた、後輩達の試合は遠目で見届ける他ない。

 故に、席に向かう前に一言放った。

 

 

 

「まぁ、前哨戦だと思って楽しんでこい」 

 

 

 

 それだけ言うと、ヴィヴィオ等に背を向けて席へと向かっていった。 

 

 

 

「が、頑張りまーす!」

 

「先輩、ちゃんと見てて下さーい!」

 

「くぅ~、燃えてきたぁ……!」

 

 

 

 振り向かずに手だけ上げて去ってゆく姿は、同性でも憧れるモノがあるくらい様になっている。

 シャロンに気付いた何人かの選手の熱い視線を受けながらも、意に介さないように黙々と歩いてゆく。

 意に介してない、というよりは単に本人が気づいてないのもあるけれど。

 

 

 

 ──(……さて、先輩として最低限の応援はした事だし観戦席で物色を再開しよう)

 

 

 

 まぁ、中身はどうしようもなくアレなのはいつもの事だった。

 そしてシャロンが階段を上って席に着く頃には、セレモニーが始まろうとしていた。

 

 

 

「あぁ、第一会場の挨拶はエルス選手か」

 

 

 

 整列した選手達の先頭でマイクを握っているのは、シャロンも知っている昨年度のベスト10選手だった。 

 

 

 

『年に一度のインターミドル、皆さん練習の成果を十分出して────』

 

 

 

 ショートツインテールに、きっちり五分に別けられた前髪。

 キリっとした目つきに、飾り気のないシンプルな眼鏡。

 加えて、挨拶の内容もドがつく程の真面目っぷり。

 名実ともに委員長な彼女の名前はエルス=タスミン。

 少し癖はあるが、優秀な結界魔導師であり美少女でもある。

 

 

 

 ──(結界魔導師の戦い方……特に鎖系の拘束魔法は物凄くエロいし、エルス選手には期待大だな。バリアジャケット損傷であられもない姿になった相手に、ガンガン鎖を食いこませていってほしい)

 

 

 

 全次元世界の結界魔導師に怒られろ。

 

 閑話休題。

 

 シャロンが遠見の魔法で一通り選手の容姿(レベル)を確認し終える頃、セレモニーは終了していよいよ選考会が始まろうとしていた。

 開始と同時に客席もそれなりに湧くが、如何せんそこは地区予選の組み分けを決める選考会。

 中央には複数のリングが用意されており、全ての試合を万遍なく見るのは難しい。

 その代わりと言ってはなんだが、申し訳程度に試合の一部をピックアップで映し出す大型モニターが上部に設置されている。 

 前哨戦の扱いとしては、妥当なのかもしれない。

 しかし、中には思わず目を張るような試合が繰り広げられる事もある。

 その中には、シャロンがよく知る後輩達の姿もあった。

 試合の結果自体には無関心を決め込むつもりだったシャロンも、思いがけず目線が釘付けになっていた。

 

 

 

「……本当にやるじゃないか」

 

 

 

 自然と称賛の言葉もこぼれ出る。

 こんな光景を見せられれば、無理もない。

 エリートクラス常連の選手相手に、危なげなく勝ちをもぎ取っていく若き少女達の姿。

 武器の差、身体の差、経験の差、ベテラン選手に比べてあらゆる"差"がある筈なのに、それをものともしていない。末恐ろしい話だ。なんせ、彼女等が本格的に特訓を始めたのはつい2・3か月前なのだから。

 

 

 

「あら、シャロン選手かしら?」

 

 

 

 突如、手すりにもたれかかって観戦していたシャロンの背後で、凛とした声が彼の名を呼んだ。

 

 

 

「……あなたは」

 

 

 

 シャロンが振り返った先には、見知った金髪の美女が軽く髪をかき上げながら佇んでいた。

 

 

 

「まぁ、一年も見ないうちにまた随分と成長したようね……」

 

 

 

 "男の子だし、成長期だものね"と感慨深そうに頷く金髪美女。

 無論、ただ体格の事だけではなく、選手としての力量も含めて言っている。

 

 

 

「ありがとうございます、でいいんでしょうか? お久しぶりですね、ヴィクトーリア選手」

 

 

 

 ヴィクトーリア・ダールグリュン。

 言わずと知れたインターミドルの都市本戦常連であり、シャロンと同等以上の人気を博する選手でもある。

 抜群のプロポーションと目鼻立ちの整った美貌もだが、それ以上に彼女の戦闘スタイルたる雷帝式が見る者を圧巻させるのが人気の理由だろう。

 

 

 

「それ、呼びにくいでしょう。私の事はヴィクターでいいわ」

 

「なら、俺の事もシャロンと呼び捨ててもらえれば……にしても、ヴィクターさんもまた成長されたようですね」

 

 

 

 そう言うシャロンの目線は、顔より下に下がっていっている。

 

 

 

 ──(試合映像よりも胸囲が増してるな。俺の目は誤魔化せない)

 

 

 

 シャロンの推測通り、ヴィクトーリアも今年で十七歳という事で成長するとこはしているのだが、この男の目が普段の三割増しくらい見開いているのはやはり気持ち悪い。

 

 

 

「ふふ、当然でしょう。今年はシャロン、あなたにも負けませんからね!」

 

「楽しみにしてますよ。なにせ、俺の中では大会で一・二を争う選手ですから」

 

「あなたにそこまで評価されてただなんて、お世辞でも嬉しいわ」

 

「いえいえ、お世辞だなんてとんでもない……!」

 

 

 

 プライドの高いヴィクトーリアは手放しで喜んだりはしないが、それでもシャロンの言葉に口元を僅かに緩ませていた。

 なにせ、彼女にとってもシャロンは最高のライバルの一人。

 俄然、気合が入るというものだった。

 

 

 

 ──(お世辞でもなんでもなく、あなたのボディとタフさはインターミドルトップクラスだと思ってます)

 

 

 

 まぁシャロンにとっては、最も体付きが良くて楽しめる相手という意味なのだが。

 知らぬがなんとか。

 

 

 

「ところで、あなたはどうしてここに? もしかして、品定めかしら」

 

「……まぁそれもあるんですけど、知り合いの子達の晴れ舞台でしてね。一応、応援しようかと」

 

 

 

 "どうも不要だったみたいですが"と付け加えるシャロン。

 

 

 

「ヴィクターさんはどうなんですか?」

 

「私はあの子……いえ、ジークに会いにきたの」

 

「ジーク……ジークリンデ・エレミア選手ですか」

 

「えぇ、そうよ。……あなたにとっては、あまり印象が良くないかもしれないけれど」

 

 

 

 ジークリンデ・エレミア。

 一昨年のインターミドルチャンピオンとして、昨年度は都市本戦にシード枠で出場していた選手だ。

 初戦から圧倒的な強さで対戦相手であったミカヤを文字通り粉砕──したのだが、これが原因で彼女は三回戦進出を辞退。

 その事を知ったシャロンは、それはもう失望した。

 何故なら、シャロンが一番試合をしたかった相手がジークリンデだったから。

 それでもヴィクトーリアを下して準決勝まで進んだシャロンだったが、ここで更なる不運が降りかかる。

 先に行われたもう片方のブロックで決勝へ勝ち進んできたのが、なんとオルス・リーヴという男子選手だったのだ。

 この時、シャロンは思った。

 

 

 "もう準決勝がゴールでいい……"

 

 

 と。

 明らかに動きの精彩さに欠けたシャロンは、準決勝でロングレンジ主体の相手選手に判定負け。

 決勝ではその選手がオルス・リーヴを破り、第二十六回インターミドルミッド中央の本戦覇者となった。

 

 

 

「……確かに、良くはないですね」 

 

「私が言うのもなんだけれど、その、あの子の事はあまり恨まないであげてくれるかしら。ちょっと不器用だけど、とても優しくて良い子なのよジークは」

 

 

 

 "だからこそ、相手に共感し過ぎて自分まで傷つけちゃうのだけれど"と、我が子を思う親のように悩ましげに溜息を吐くヴィクトーリア。 

 

 

 

「もう恨んではいませんよ。結局、今年も出場してくれたみたいですし水に流します」

 

 

 

 シャロン自身、思う所はあっても恨む程の相手ではなかった。

 何より、ヴィクトーリアのおかんっぷりを見た事で、毒気は完全に抜かれてしまっていた。

 

 

 

「ありがとう。……それと、一応聞くけれど、あなたは会場でジークの事見てないわよね?」

 

「えぇ、見てないですけど……連絡すればいいんじゃないですか?」

 

「あの子、通信できるような端末持ってないのよ」

 

「え」

 

 

 

 物にあまり頓着しないシャロンですら通信端末機能の付いたデバイスを持っている。

 というより、昨今の情報化社会においてもっていない方が稀有だ。

 

 

 

「修行って言って半年くらいは行方不明になるし!」

 

「行方不明? 大丈夫なんですかそれ」

 

「……それでよく行き倒れになってるわ」

 

「えぇ……」

 

 

 

 世界戦覇者ジークリンデとはどんな人物なのか、蓋を開けばシャロンがドン引きするレベルの放蕩生活をおくっている少女であった。

 主食兼好物はジャンクフードで、もらったパンのみみや釣った魚を喜んで食したり、果ては道端の草さえも食べるとかいうとんでもない逸話の持ち主である。

 

 

 ──(ジークリンデ・エレミア……もしかして相当ヤバい奴なのでは?)

 

 

 ヤバい度合で言えば、シャロンもジークリンデも大差ない。

 要するに、お前が言うな。

 

 

 

「あ、いたわ! あの最前列の通路側!」

 

「え、どこですか?」

 

 

 

 ヴィクトーリアはジークリンデを見つけたようで、シャロンも彼女が指差した場所を凝視する。

 そこには、黒いジャージにフードまで被った怪しい人影があった。

 

 

 

「えっと、あの人ですか?」

 

「えぇ、そうよ」

 

「いやいや、確かに怪しさは抜群ですけど、さすがに本人だと分からないでしょう」

 

「いいえ、間違いないわ。だってあの子、いっつも同じジャージ着てるもの」

 

「嘘でしょ……」

 

 

 

 食費ですら困っているのに、衣服に回すだけのお金がないのは自明の理。

 シャロンをして、ドン引きさせる残念美少女ジークリンデ。

 あっぱれである。

 

 

 

「じゃあ、私は行くわね」

 

 

 

 そう言って、手を振り去ろうとするヴィクトーリア。

 

 

 

「あ、待ってください!」

 

 

 

 しかし、何かをふと思いついたシャロンがそれを止める。

 

 

 

「何かしら?」

 

「ちょっと彼女に声かけるの待ってもらってもいいですか」

 

「どうして?」

 

「いえ、少しやりたい事を思いつきまして──」

 

 

 

 かくかくしかじか。

 シャロンは思いついた悪巧みをヴィクトーリアに伝える。 

 

 

 

「──そうね。ジークったら、あれだけ言っても全然連絡してくれなかったし、そう考えると丁度いいわ。ちょっと驚かせてあげましょうか」

 

「ふふ、じゃあ行ってきますね」

 

 

 

 嬉しそうにシャロンはにやりとほくそ笑む。

 今まさに、史上最強の変態と十代女子最強の残念美少女が邂逅しようとしていた。

 

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