美少女に"格闘戦"をしかけるのは合法である   作:くきゅる

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第三話 己の"信念"

 

 

 ──此処は何処か。

 

 上手く働かない頭と、自身の身体を包む柔らかい感触。

 暖かくて、まるで母親に抱かれているかのような気分、

 

 

(ここ……は……?)

 

 

 意識が戻ってきて、もぞもぞと手足を動かすシャロン。

 寝ぼけた頭ながらも、今まで自分はベッドで寝ていたのだという事は分かった。

 

 

 

(なんか、とっても、甘い匂いが……)

 

 

 

 あとは間違いなく、自宅ではないことも。

 

 しかも、大好物の香まで漂ってくるのだから天国の可能性まである。

 もしや、夢の続きなのかもしれない。

 

 

 

(意識はあるけど……まぁ、狸寝入りしとくか)

 

 

 

 夢でも天国でも何でもいいが、居心地が最高なので現状維持を優先した。

 

 魔力強化で全力全開の呼吸をキめながら。

 

 

 

(はああぁぁぁ……!!! い、今なら空を飛べるかもしれん……!!!)

 

 

 

 

 残念ながら、シャロンに飛行の適性はないから空は飛べない。

 ただし頭なら常時ぶっ飛んでいるので、とうの昔に大気圏外だが。

 

 真顔で目を閉じながら、薬物中毒者のように大気を堪能していると、おもむろにカッと目を見開いた。

 

 

 ──この匂いは、美少女の生活臭だけではない。あと、一人分にしては布団の中が暖かすぎると

 

 そっと身体を反らして、熱源の方に身体を向ける。

 

 

 

 「すぅ……すぅ……」

 

 

 穏やかな寝息を立てるアインハルトが居た。

 

 

 シャロン、過呼吸を続けながらも暫し硬直する。

 何せ相手は、うちのクラスのアインハルト・ストラトスだったからだ。

 全く接点はないし、そもそも彼女自身シャロンと同じように人付き合いする方ではないから。

 

 そして考える。

 

 

 

 

(知らないうちに一線超えたか?)

 

 

 

 言うまでもなく、超えていない。

 

 さすがにそれはないかと、ぶっ飛んだ頭で記憶を辿った。

 

 ──自分は確か、通り魔と遭遇して……

 

 

 

(そうだ、とても美しい美少女でエクスタシィを感じてから、それで……ッ!?)

 

 

 

 頭痛が痛いみたいな表現だが、この際どうでもいい。

 とにかく、自分は興奮の絶頂を迎えてぶっ倒れたのだと。

 

 ──じゃあどうして、クラスメイトのベリープリティが隣で寝ているのか

 

 シャロンは、その姿をよく見て思い至った。

 

 

 

 

 

(よく分からないが、やったぜ。とりあえず身体密着させとくか)

 

 

  

 普通に考えれば通り魔の正体とアインハルトが結びついて驚く展開だが、不退転に常識は通用しない。

 

 ボディタッチとまではいかない、密着距離までそれとなく身体を寄せる。

 彼女が目を覚ますと、まずシャロンが目に入るくらいの距離に。

 この行くところまでは行かないチキンさが、社会的地位をギリギリの所で保っているのだ。

 アウトに近いグレーゾーン攻めて興奮を求めるという、シャロンの単なる性癖とも言えるが。

 

 閑話休題。

 

 その後はあくまで自然体を装って狸寝入りを続ける。

 

 不自然な過呼吸はもうしない。

 出来るだけ省エネモードで、そうなのだと気付かれないように楽しむのだ。

 

 きっと、彼女が目を覚ましたら二重に驚くことだろう。

 

 

 ──惜しむらくは、彼女の慌てふためき赤面する姿が見れなことだ

 

 

 だがその生殺し感もまた一興じゃないかと、気持ち悪すぎる割り切り方をしてこの状況を楽しんでいた。

 

 

 ──ここに至るまでの過程? なんだそれは。興奮できるモノなのか

 

 良くも悪くも素直で真っ直ぐなシャロンは、常識を置き去りにして更なるエクスタシィに興じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……ここは?」

 

 

 数分後、アインハルトも目を覚ます。

 シャロンと同じ……というのは失礼だが、同じようにぼんやりした頭で記憶を辿る。

 確か、自分はノーヴェとクラスメイトのシャロンという少年に敗れたのだと。

 思い出したら悔しくなったが、彼女の頭もはっきりしてきた。

 

 そして見知らぬ天井であるのを確認すると、ふと横を向いた。

 

 

 

 

 ──変態がいた。

 

 ではなく、クラスメイトで昨日敗北を喫した相手であるシャロンが居た。

 

 

 

「ふえぇっ!?」

 

 

 当然ながら、隣の変態は息を気づかれない程度に潜めながら現在進行形で興奮している。

 

 だがアインハルトは気づかないし、変態のプロもそれに気づかせない。

 試合ではパワースタイルを通り越した脳筋っぷりを発揮するが、こういう時は技巧派なのだ。

 

 

「……おきて、ますか?」

 

 

 恐る恐る、声をかけるアインハルト。

 起きているどころか脳内は覚醒しまくっているが、無論シャロンは返事をしない。

 

 彼の狸根入りは完璧だった。

 昨日よだれ垂らしながらアへ顔晒して失神した奴とは思えない、眠れる森の王子様並の寝顔である。 

 

 そんな事は知らないアインハルトは、寝ていると判断してそっと顔を近づけた。

 昨夜の猛り狂う武人のような顔と比べて、そのギャップに目を見開く。

 

 

「綺麗な顔……ッ!?」

 

 

 率直な感想が口から洩れて赤面する。 

 

 ──もしこれで起きていたら

 

 恥ずかしすぎるIFが過るも、そんな心配はないかとほっと溜息を吐く。

 万が一もないだろうが、誰かに聞かれでもしたら顔も合わせられないなと。

 

 

 

 

 

 ──(おっほぉ!)

 

 

 大変、大変気の毒であるが、シャロンは起きているしばっちり聞いている。

 顔にアインハルトの吐息がかかった時なんか、絶頂で再び失神しそうな気さえしていた。 

 

 されど、ここで悲劇は終わらない。

 

 

 

「……シャロンさん。初めまして、アインハルトと申します。えっと、昨日はその、一方的に殴りかかってごめんなさい。

 今度は──ちゃんとした試合を是非」

 

 

 

 

 すっかり油断しきっていた、乙女のストラトスちゃん。

 普段は物静かで、多くを語らない彼女だが、状況がその口を饒舌にさせていた。

 

 繊細だが上品なその声が、言葉が、生暖かい吐息と共にシャロンにかかる。

 

 

 ──(ッッッ!?!?!?)

 

 

 ピクリ。

 人前でのポーカーフェイスを極めたムッツリニストと言えど、今のは効いた。

 

 

「あっ!?」

 

 

 咄嗟にシャロンから離れて身構えるアインハルト。

 

 

 ──(この不退転の狸寝入りを崩すとはやるな……!)

 

 

「ううん……」

 

 

 内心冷や汗をかきながら、それっぽい寝言と共に反対側を向いた。

 今のは無意識ですよアピールである。

 

 

「……ね、寝言、ですよね? そ、そうですよね?」

 

 

 しきりに寝ていると思い……いや、信じたい相手に確認するアインハルト。

 普段あまり人と話す機会がない分、独り言が多くなってしまうのは悲しい性である。

 それが原因で墓穴は掘るし。

 

 

 

 ──(でも、俺はそんなストラトスでも興奮できるぞ)

 

 

 

 変態には最低なフォローを送られるし。

 顔が見えないのをいいことに、察したような顔で小さく頷くシャロン。

 最高にうざい。

 

 "そもそも、てめぇもぼっちに等しいじゃねぇか"

 

 もしこの場にシャロンの同級生が居たら、恐らくそんな突っ込みが飛んでくるだろう。

 

 だが、変態とは孤高な存在なのだ。

 言われたところで、シャロンは全く動じないし気にしない。

 不退転である。

 

 

「おーい、起きてるかー? 入るぞー」

 

 

「は、はい!」

 

 

 

 この家の家主かどうかは知らないが、そろそろ至福の時間は終わりそう──

 

 ──なのだが、シャロンは起こされるまでは粘る。

 

 

 

「お前も起きろ! もう朝だぞー!」

 

 

 

 部屋に入ってきたのは、昨日であったノーヴェという女性。

 彼女にゆさゆさされたので起き上がるシャロン。

 

 

「……ここは?」

 

 

 さも寝起きだと言わんばかりの、ふてぶてしい表情。

 

 "お前、同じ台詞さっき言ってたやんけ"

 

 白々しいにも程があるが、やはりプロなので平然と嘘を吐けてしまう。

 

 

「やっと起きたかー」

 

 

「あ、あの! どうして、その、私達同じベッドで……」

 

 

 真っ先に質問したのはアインハルト。

 恥ずかしさから、落ち着きもなくもじもじしている。

 

 ノーヴェは、その質問にバツが悪そうに頭を掻いて答える。

 

 

 

「それは、わりぃ! 倒れてたお前らを運んだはいいが部屋が足りなくてなぁー。けど、ガキ同士ならなんも起こんねーだろ?」

 

 

 

 ちょっと後半は意地悪っぽく茶化していた。

 

 

 ──もう起こってしまったし、なんならファーストコンタクトの時点で事案は発生していた。

 

 乙女だけど耳年増なストラトスちゃんは、その"何か"を想像して俯く。

 

 そこは安心してほしい。

 シャロンはそのニッチな変態性から、強引に婦女子に襲いかかったりはしない。

 試合は別だが。

 

 

「それよりも、ここってノーヴェさんの家なんですか?」

 

 

「お前は全く動じねぇのな……って言っても、ここは私の姉貴ん家だよ」

 

 

「おはよう。二人とも目が覚めたみたいね」

 

 

「朝ごはんだよー!」

 

 

 ノーヴェ以外にも、二人の美人さんが入ってきた。

 シャロンの目が見開かれる。

 

 

(とても、えろい)

 

 

 シャロンの語彙は消失した。

 自宅というプライベート空間故か、ナイスバディを無防備な恰好で晒している。

 空気の美人・美少女成分濃度が一気に跳ね上がったのを全身で感じ、シャロンは心の中でフィーバーしていた。

 

 

「私はティアナ・ランスター。二人の荷物から素性は調べさせてもらったわ」

 

 

「私がスバル・ナカジマ。ここの家の主で、ノーヴェのお姉ちゃんです!」

 

 

 要約すると、昨夜ノーヴェが連絡をとっていた女性とその友人ということらしかった。

 両名とも局員であり、シャロンやアインハルトのことも全て調べ済みらしい。

 アインハルト曰く、覇王の記憶を受け継いでいて強さを証明したかったのだと。

 その為に、聖王のクローンやら冥王イクスヴェリアなどの古代ベルカに血を連ねる者達を狙っていたという。

 聖王のクローンや冥王達と繋がりのあるノーヴェ達も思う所があるようだった。

 

 

 ──ちなみにシャロンはというと、露わになった四肢を覗くばかりで全く聞いていない。

 

 古代の王様の因縁だとか、強さの証明だとか、クソ程どうでもいいからだ。 

 

 

 

(総合的なスタイルは、スバルさんの方が上か? アスリートのような引き締まった肉体がたまらんな)

 

 

 顎を手でさすりながら、女性陣の肉体の一人批評会を行っていた。

 何も聞いちゃいないのに、とても聞き入っているように見えるから性質が悪い。 

 

 すると、矛先はシャロンに向き始めた。

 

 

 

「──シャロン、でいいよな? お前が一番無茶しすぎだっての! 私ですら、未だに全身がいてーんだぞ! ぱっと見怪我はなかったが、一応検査してもらうからな」

 

 

「……無茶? まぁ少し失神しましたけど、別に大したことありませんでしたが」

 

 

 

 むしろ、気持ち良すぎて絶頂してたとは口が裂けても言えない。

 

 だが、その言い方だとアインハルトの拳が大したことなかったという意味になる。

 シャロンは聞いていなかったので知らないが、ちゃんと汲んでやればこんな無粋な言葉は出ない。

 

 案の定、アインハルトは良い気はしなかったようだ。

 

 

 

「……それはつまり、私が取るに足らない程弱かったと?」

 

 

 アインハルトはシャロンのことを強者だと認めはしたが、己が大したことないと切り捨てられるのは納得できなかった。

 

 

 一方、シャロンは困惑している。

 

 自分は至って真面目に回答したつもりだったのに。

 やはり、覇王を自称するだけあって難しい子なのかもしれない。

 ぼっちみたいだし。

 

 どうも、何かしら上手いことを言わないとこの場を治められないのは分かった。

 

 ──なので、シャロンは適当にそれっぽいことをでっちあげることに決めた。

 

 

 変態以前にどうしようもない屑野郎だ。

 

 

 

 

「拳の強い弱い、か。下らないな」

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 剣呑な空気が流れだす。

 これで下手なこと言うと、気まずいじゃ澄まない。

 だからシャロンは必死で二の句を考える。

 

 

 

「ストラトス、お前は俺が弱いと断じたら弱いと判断するのか?」

 

 

「それは……」

 

 

「自分でさえ疑っちまうくらいなら、実際そうなんだろうな」

 

 

 

 何とかアインハルトを黙らせることに成功したシャロン。

 

 ──あともう一息だ。

 決め顔を忘れずに、畳み掛ける。

 

 

 

「俺も格闘技をやっているが、何時だって己の中に曲げない"信念"を持ち続けてきた」

 

 

 シャロンの"信念"

 美少女ファイターの攻撃を真っ向から受け切り、肉体同士のぶつかり合いで興奮を極めるという意志。

 それは最後の最後まで、どんな攻撃でも笑いながら快感と興奮に変えて前進し続ける境地に達していた。

 

 余談だが、高まり過ぎると奇声という名の雄叫びを発して突っ込んでくるので、一部の選手のトラウマになっているのはここだけの話。

 

 そんな信念、スクラップにでもして処分してくれた方が全国の婦女子の為になるのだが、それも今は置いておこう。

 

 

「試合に負けることも、それで弱点を思い知らされることなんてしょっちゅうだ。だけど、俺は俺が信じるモノを絶対に見限らない。この"信念"こそが、俺の強さであり最強の証明だから」

 

 

 

 変態の癖になんて良い事を言うのだろう。

 

 ちなみに要約すれば、

 どんなにフルボッコにされても試合でエクスタシるのは絶対にやめないよ! それが自分の売りだし生きがいだからね!

 

 っという感じである。

 さっさと捨てて引退してほしいところだ。

 

 

 さりとて、シャロン渾身の表情と名演技は彼の変態性を知らない三人を騙すには十分すぎた。

 アインハルトは言葉には出さないが感銘を受けたように、己の胸に手をあてて打ち震えていた。

 

 

「さすが、"不退転"の異名を持つトップアスリート様だな」

 

 

「うんうん! 私にも伝わったよ!」

 

 

「……そうね。私も、自分の弾丸には誇りを持ってるし」

 

 

 

 各々がシャロンのでっち上げたそれっぽい言葉を噛み締め、うんうん頷いていた。

 

 ナカジマ姉妹も格闘技を修めているし、ティアナも今は亡き兄より受け継いだランスターの弾丸に誇りを持っている。

 故に、共感できてしまう。

 己の才能不足を嘆き、何度も挫けそうになったが、結局は己の信ずるモノがここまで導いてくれたから。

 

 昨日の惨敗で挫けそうになったアインハルトにしても、そのように語るシャロンの瞳の奥から炎のような熱い思いを垣間見た気がして、己の至らなさを痛感した。

 

 ──覇王の拳は最強なのだと、まず自分が信じないでどうするのだと

 

 

「参りました。あなたは本当に強いのですね」

 

 

「……あぁうん、そうだな」

 

 

 

 予想外の反応の良さに、逆に申し訳なくなってきたシャロン。

 

 

 

「そういえば、先程おっしゃっていた"不退転"というのは?」

 

 

「あぁこいつなー。DSAAのU19で二年連続都市本戦進出してる、若手のトップアスリートなんだよ。男ってだけでも珍しい上に、力押しを超えたスタイルで付いた渾名が"不退転"。相手の攻撃を正面から受けきって突き進む、後退を知らない怒涛のインファイター」

 

 

「トップアスリートというのは……凄まじいのですね」

 

 

「まぁ、こいつが特別なだけでもあるがなー」

 

 

 

 流れが、シャロン上げになってきた。

 

 アインハルトの見る目が変わり、そんな視線を罪悪感を感じながらも興奮の材料に変えるシャロン。

 

 

 

 ──(何だかよく分からない罪悪感が、また気持ちいい……!)

 

 

 

 ──(今度立ち会う時は、あなたに私の……覇王の強さを届けて見せます!)

 

 

 

 若き覇王の継承者は、目の前の武の先達に憧憬と闘志を燃やすのであった。

 

 

 

 

 ────片や、憧憬を受けた若きトップアスリートは、その思いをオカズにエクスタシっていた。

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