美少女に"格闘戦"をしかけるのは合法である   作:くきゅる

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第四話 食い違う互いの人物像

 あれからシャロンとアインハルトは湾岸第六警防所に出頭して、事情聴取と厳重注意を受けて解放された。

 その後、一番懸念されていたシャロンのメディカルチェックの結果だが、全く無問題だった。

 魔力の乗った攻撃を生身で受けた負傷はそれなりにあったようだが、シャロンの肉体が失神中に修復してしまったらしい。

 ある意味、レアスキルと言っても過言ではない再生能力に医者は脱帽していた。

 ただ、主治医が野郎だったのでシャロンは終始不機嫌であった。

 

 そして今は、二人とも仲良く座ってノーヴェを待っている。

 

 特に会話の無い間が続いたが、アインハルトが沈黙を破る。

 

 

 

「……シャロンさん」

 

 

「何だ」

 

 

 

 綺麗な看護師さんや患者さんを物色していたシャロン。

 アインハルト成分は十二分に堪能したので、今は箸休め中なのだ。

 絡むならもうちょいあとにしてくれ、とか思っている。

 一度、某教導官殿に頭冷やしてもらった方が良い。 

 

 

 

「あなたはどうして強くなろうとしたんですか?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 ──お前のような美少女と肉体言語を通して語り合いたいからだ。

 

 今まで誰もそんな事は聞いてこなかった。

 両親にも戦績を褒められこそすれ、特に理由は聞かれなかった。

 

 聞かれたとしても、絶対に言えないけど。

 

 

「そうだな」

 

 

 ──まぁ、何か適当に言っとけば勝手に納得するでしょ。痛い子だし

 

 シャロンの方針が決まり、またそれっぽくでっちあげる。

 

 

「俺は昔から欲求不満というか、とにかく誰かに力をぶつけたかった。鍛錬に鍛錬を重ねて力を武に変え、"最高の相手"が集うDSAAU19の舞台に飛び込んだ。一応、それ以外の大会にも出たりはするがな」

 

 

 なるべく嘘にならないよう、オブラートに包みながらありのままの自分を話す。

 

 

「そんな改まって聞かれる程、大した動機じゃない。全ては純然たる我欲だ。ただ、"最高の相手"とぶつかりあいたいという、利己的な理由さ」

 

 

 

 己の興奮と快楽のために戦い、決して他者を考慮しない孤高の変態戦士。

 ライバルとして交流のある者もいるが、互いを高め合うだとかそういう感情は一切ない。

 

 ただただ、己のみを鍛え上げて組み伏せる。

 相手もこちらを痛めつけてくるなら尚良し。

 

 ──うーん、字面だけ見ればそこはかとなくかっこよく見える。

 

 

「我欲……」

 

 

 

「お前だって、結局は己のために武技を修めたんだろう?」

 

 

 

 アインハルトは顔を歪ませる。

 シャロンにも話した通り、彼女はクラウスの悲願を果たす為にこの拳を振るっている。

 間違っても、自分が戦って楽しいだとか強くなるのが楽しいだとかではない。

 自身が受け継いだ記憶の中の最強の拳を身に着け、クラウスが最強であったのだと証明するため。

 覇王の拳はオリヴィエを救えるまでに至ったのだというのを思い知らせたかったから。

 

 だからこそ、シャロンには少し失望した。

 単なる趣味や遊びの範疇は超えているし、その精神は尊敬しているが、やはり自分とは違う。

 単に戦いを楽しみたいだけのシャロンとは、違う人種なのだと。

 勝手な心情だが、どうしてもそう思わざるおえなかった。

 

 

 

「私は、そうじゃありません。お話した通り、今は亡きクラウスの記憶を引き継いでいます。その悲願を果たすために……私は強くなって証明しなくてはならないから!」

 

 

 

 ──しかし前提条件が間違っていて、シャロンはアインハルトのことを自称覇王継承者の痛い子だと思い込んでいたのだが。

 

 

(え、ただの痛い子じゃなかったのか?)

 

 

 本気で驚いていた。

 なんなら、瞳もカラーコンタクトだと思っていたからだ。

 シャロンもなりきりにしてはやたらレベルが高いとは思っていたが、まさか本物だとは思っていなかった。

 

 今更、そんなの聞いていませんでしたは通りそうにない。

 それで拳の一発もらっても嬉しい気もするが、あまり得策ではないだろう。

 

 しかも、アインハルトは気づいていないようだがノーヴェもすぐ傍で聞いている。

 

 ──とりあえず、辻褄を合わせよう。

 

 

 

「……変わらないんじゃないか。その記憶が本物だとして、お前はその覇王様じゃないし、勝手に追体験させられているだけ。寧ろ、被害者じゃないのか?」

 

 

「ッ!」

 

 

「お前はその誰にも理解されない苦しみを、やるせない思いを解消したいから、ぶつけようとしてるんだろ? 俺の行き場のない"欲求"と何が違うんだ? 通り魔として、迷惑かけてる分俺より性質が悪いぞ」

 

 

 

 ──これまでの出来事を覗いてきた、見た誰もが同じことを思うだろう。

 

 

 "お前が言うな"

 

 全次元世界お前に言われたくない選手権で連覇を狙えるレベルだ。

 しかも言っていることが本当に正論なので、性質が悪いどころじゃない。

 

 

 ──(論破してやったぜ)

 

 

 顔には出さないが、咄嗟の返しでド正論を突きつけることができて内心気持ち良くなっているシャロン。 

 

 

 

「ち、ちが、います……ただ、わたしは……クラウスの……ッ!」

 

 

「クラウス、クラウスって、そいつも当時の国も王様も何もかも無くなったんだぞ。それにあくまで、お前はお前でしかない。どうにかして折り合いをつけるべきだろう」

 

 

「そんなの……私には……」

 

 

 

 アインハルトの頬からじんわり熱い雫が流れだす。

 まだ十二歳の子供に、それも普通じゃない境遇の子に容赦なく現実を突き付けて泣かした。

 シャロンは、こういう場面においては相手のことを考えて遠慮はしない。

 

 今も"加虐心を煽られるなぁ"、とか"美少女の涙ってどんな味がするんだろう?"くらいしか考えてない。

 最低の糞野郎だ。

 

 しかし、表面上は紳士っぽく振る舞う。

 すっと、ハンカチを取り出してアインハルトに差し出す。

 

 

 

「泣くな。泣くくらいなら、最初から格闘技なんてやめちまえ。俺はそんな優しい奴じゃないから、慰めなんて期待するなよ」

 

 

 

「ごめんなさい……お借りします……」

 

 

 シャロンからハンカチを借ると、思わず毀れ出た涙を拭う。

 

 ──計画通り。

 実際は行き当たりばったりだが、アインハルトの涙を拭いたハンカチを受け取り心の中でほくそ笑む。

 

 洗わず永久保存しようとか下衆いことを考えていると、見かねたノーヴェが割って入ってきた。

 手には缶ジュースを持っており、まだ気づいていないアインハルトの頬にぴとっと当てる。

 

 

「ひゃっ!?」

 

 

「隙だらけだぜ、覇王様?」

 

 

 

 ──(今度俺もやろう)

 あわてふためくアインハルトが可愛かったのが悪い。

 

 じっと見ていると、シャロンにも缶ジュースを差し出した。

 

 

「そんな見なくても、お前のも買ってあるよ」

 

 

「……いただきます」

 

 

 

 別にそういうつもりじゃないし、自分にもぴとって頬に当ててほしかっただけである。

 

 

 

「それはそうと、シャーローン? お前は少し言葉を選べ」

 

 

「大分、頭捻って考えたんですけど」

 

 

「男なら言い訳すんな! とりあえず、言い過ぎだ。謝っとけ」

 

 

 ──これでも話聞いてなかったなりに頑張ったというのに、人の苦労も知らないで。

 心の中で抗議しつつも、一応謝罪はしておく。

 

 

「悪かったな。言い過ぎた」

 

「……いえ、身勝手なのは私ですから。シャロンさんは悪くありません」

 

 

 しかしまぁ、折角の"逸材"であるアインハルトが引退するのはシャロンとしても惜しい。

 彼女とのちゃんとした試合はまだ済んでいないし、もっともっとぶつかり合いたい。

 何とかフォローを入れてやろうと思ったが、その前にノーヴェが出た。

 

 

「アインハルト。お前の拳を受け止めてくれるやつはちゃんといる」

 

 

「……本当に?」

 

 

「あぁ。今日の放課後は空いてるか? あと、シャロンお前もだ」

 

 

 ──会わせたい奴がいる。

 

 とのことだが、どうもアインハルトが満足する相手がいるらしい。

 気にならないでもないが、正直美少女以外に興味はない。

 もし男なら、アインハルトを盗られた気がして余計見たくない。

 

 それとなく断ろうと思ったが……。

 

 

 

 

「高町 ヴィヴィオ。お前が会いたがってた聖王オリヴィエの血を引く……ただの元気で真っ直ぐな女の子だ」

 

 

「──俺は何時でも空いてますよ。お前も来い、ストラトス」

 

 

 

 

 シャロン流、秘儀・掌返し。

 

 かの聖王オリヴィエの血を引く女の子なんて、食いつかない筈がない。

 呼ばれたのはシャロンじゃないが、速攻で返答してアインハルトを促す。

 

 有無を言わせぬ圧力がそこにはあった。

 

 

「……ッ!? は、はい!」

 

 

「うっし! なら、決まりだな! 場所押さえておかねーと」

 

 

 その言葉に、瞳に、突き動かされるように返事をしたアインハルト。

 シャロンにかなりきつい言葉をかけられたし、直球な物言いは心の傷を抉るように苦しめた。

 言っていることは正論で、言い返す言葉もない。

 

 ──それでも差し伸べられたハンカチから、不器用な優しさは伝わった。

 

 追い詰めているように見せて、実はアインハルトを思ってのことだったのだ。

 武に込められた"信念"を語り、今もこうして迷っている自身に手を差し伸べてくれたのだと。

 

 

 ──(私は、あれだけの事を言われてもまだ諦めたくありません。これが私の譲れないモノだから……!)

 

 

 まぁ、例によって全部思い違いなのだが、やはり知らないでいられるならその方が幸せだ。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 約束の時間が来た。

 向かうのは、区民センターだ。

 そこのカフェテリア。

 

 シャロンが荷物を纏め終わると、アインハルトが机の前で待っていた。

 

 

「準備はできましたか?」

 

 

「あぁ。行こうか」

 

 

「はい」

 

 

 

 教室内では、かなり珍しい組み合わせである。

 

 "二人は付き合っているのか"

 

 そんなざわめくクラスメイトの心中をよそに、二人は並んで校舎を歩く。

 ひそひそと道行く生徒達に噂をされるも、特に気にした様子はない。

 自分たちが噂されているとは微塵も思っていないからだ。

 

 ──シャロン、アインハルト両名は、自分達の整い過ぎた容姿に自覚がないのだ。

 

 閑話休題。

 

 

 特に会話もないまま、十数分歩いたところで目的地に着く。

 

 

「おーい! こっちだ、こっち!」

 

 

 ノーヴェの声がした方を見ると、テラス席には大勢のレディースが。

 大きいのから小さいのまで、数多のニーズに答えた美女美少女が待ち構えていた。

 一人男性と見まがう人もいたが、シャロンの鋭い感覚の前にはモロバレだ。

 

 ──あぁ、本当に来てよかった。

 

 

「あれ、シャロン先輩ですか!?」

 

 

「うそ!」

 

 

「なんでー!?」

 

 

 何故か、昨日見かけた三人娘の姿も。

 ぱたぱたとシャロンの元に駆け寄ってくる。

 

 

「昨日は、ごめんなさい!」

 

 

「あのあの! 不退転のシャロン先輩ですよね? 握手してくださーい!」

 

 

「あ、私はサイン欲しいかも……」

 

 

 小動物のように愛らしい三人がシャロンの手を取り群がる。

 昨日の比にならない配合美少女成分により、意識がトリップしかける。

 こんな熱烈でダイレクトな歓待は、さすがのシャロンも受けたことはない。

 

 真顔のまま硬直する。

 

 

「馬鹿、お前らシャロンが困ってるだろ! つーか、本命はこいつじゃなくてだな……」

 

 

「あ、す、すいません!」

 

 

 ノーヴェが注意しなかったら、どうなっていたことか。

 彼女等に悪気はないが、アインハルトがかなり出辛そうにしていた。 

 

 

「皆さん、初めまして。ベルカ古流武術、アインハルト・ストラトスです」

 

 

「初めまして! ミッド式のストライクアーツをやってます。高町ヴィヴィオです」

 

 

 アインハルトとヴィヴィオが握手をする。

 

 すると、今度はアインハルトがトリップし始めた。

 記憶に焼きついたオリヴィエの生き写しとまでは言わないが、その紅と翡の瞳は間違いなく聖王女のもの。

 いざ、本物を目の当たりにすると複雑な気持ちになっていた。

 

 じっとヴィヴィオを見つめながら、手を握り続けるアインハルト。

 

 

 

 

 

 ──(こいつもしや、そっち系? いや、それもまた良い。許す)

 

 

 

 許すも何も、お前は何様だ。

 そもそも、割って入るな。

 

 シャロンという少年は、百合もいけてしまう口だった。

 あの思いつめたように熱い眼差しを向けているのは、一目惚れしたからに違いない。

 その気があるなら手伝ってやろうとも思っていた。

 ただ、強引に夜の格闘戦に持ち込もうとしたら止めてやろうとも。

 

 "幾らスキンシップを取りたくても、無理矢理はご法度"

 

 全く見当違いな妄想を繰り広げていると、ヴィヴィオも困惑したように顔をひきつらせていたので早速止めることにした。

 

 

「ストラトス、高町が困っているぞ」

 

 

「ああ、失礼しました」

 

 

「よし! 挨拶も済んだし、お互い手合せでもした方が手っ取り早いだろ。そろそろ移動するぞ!」

 

 

 平然とトリップから戻ってきた。

 オンオフの切り替えの早さに、シャロンも舌を巻いた。

 

 "ストラトス、かなりやり手なのでは?"

 

 実は同族かもしれないという淡い期待を寄せて、アインハルトの肩に手を乗せる。

 

 

 

「高町を見てどう思った?」

 

 

「とても綺麗で、真っ直ぐな子だなと。……だからこそ、私の"思い"をぶつけていいのか正直迷いました」

 

 

 

 アインハルト言う"思い"とは、当然クラウスの記憶から得た気持ちなのだが。

 

 頭が大気圏外まで飛んでいるシャロンの頭は、盛大に誤解した。

 

 

 

 

 ──(やはり、一目惚れか)

 

 

 誰かを好きになるという気持ちは分からないが、シャロンも異性に対して"思い"をぶつけたい気持ちは痛いほど分かる。

 

 ──ここでいう、"思い"というのは欲望のことであるのは言うまでもない。

 

 しかも、同性でノーマルの可能性が高いヴィヴィオに"思い"……それも本命をぶつけるのは極めて難しい。

 迂闊にアドバイスはできないと思い、とりあえず無難な言葉を口にする。

 

 

 

「あまり深く考えるな。その"思い"を、まずは拳に乗せて撃ってみればいい」

 

 

「……はい! 頑張ってみます!」

 

 

 

 一方のストラトスも、シャロンという少年を盛大に誤認していた。

 

 生粋の武人であるからこそ、飾り気のある言葉はかけずに本質だけ伝えようとしているのだと。

 何だかんだ、こうして気遣ってくれているのは彼も優しい人間なのだろうと。

 

 

 ──この両者の食い違いがどのような結果を生むのかは、まだ誰にも分からない。

 

 

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