美少女に"格闘戦"をしかけるのは合法である   作:くきゅる

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ヒ○ロ・ユイ


第九話 お前を殺す

 次元港にてスバルやティアナと落ち合い、臨行次元船で揺られること四時間。

 そこそこの長時間移動ではあるが、シャロンは美少女達の寝顔を拝むためにずっと起きていた。

 たまにトイレへ行く振りをしながら、それとなく覗き込んでいたのは皆には内緒である。

 

 そんなこんなで到着したのは、無人世界カルナージ。

 

 年中を通して温暖な気候と、豊かな大自然に囲まれた休養所として有名である。

 最低限の施設と極僅かな人々が暮らす、"ほぼ"無人世界だ。

 

 この四日間、シャロン等がお世話になるのはアルピーノ邸。

 

 

「凄まじいな」

 

 

 都心に屋敷を構えるシャロンをして、この一言。

 

 土地の価格だとか色々比べる部分は難しいが、それでも見渡す限りアルピーノ家所有の土地なのだから末恐ろしい。

 そして何よりも、美人美少女の楽園である。

 

 

「みんな、いらっしゃーい!」

 

 

 アルピーノ"母娘"が、シャロン一行を出迎える。

 そう、"姉妹"じゃなく"母娘"である。

 

 

「みんなで来てくれて嬉しいわー! 食事もいっぱい用意したから、ゆっくりしてってね」

 

 

 おっとり口調で、ぽわぽわとしたオーラを纏っているのは当主メガーヌ・アルピーノ。

 身体の半分が優しさで、もう半分が愛情で出来ているような人だ。

 来世の転生先候補だな、とシャロンは思った。

 

 度し難い。

 

 

「ルーちゃん!」

 

 

「ルールー! 久しぶり~!」

 

 

「うん! ヴィヴィオ、コロナ!」

 

 

 清楚で上品な見た目とはうらはらに、元気溌剌な女の子で、メガーヌの娘ルーテシア・アルピーノ。

 シャロン等学生組より少し年上だが、その垣根を感じさせないフランクさもまた魅力だろう。

 モニター越しでしか会っていないというリオも、今はにへら顔で頬を赤らめ頭を撫でられていた。

 ペットを飼いなれてそうな巧みな撫で方と褒め方に、動物に生まれ変わった場合の飼い主候補にしようとシャロンは思った。

 

 頼むから、お前だけは今生で終わってくれ。

 

 

「あ! ルールー、こちらがメールでも話した……」

 

 

「アインハルト・ストラトスです」

 

 

「シャロン・クーベルです」

 

 

 ──(ちなみに、あなたは来世が畜生だった場合の飼い主候補です)

 

 そんな事を考えながら、アインハルト同様ぺこりと頭を下げる。

 

 

「ルーテシア・アルピーノです。ここの住人で、ヴィヴィオの友達14歳」

 

 

「ルーちゃん、歴史とかも詳しいし、なんでもできるんですよ~!」

 

 

「えっへん!」

 

 

 両腰に手を据え、胸をはるルーテシア。

 

 ついでに、このルーテシア・アルピーノという少女。

 10歳の頃には推定魔導師ランクオーバーSと目されており、レアな召喚魔法や建築やデバイス設計まで、あらゆる方面に明る過ぎる才女であった。

 優秀レベルでは、シャロンとは桁が違う。

 まぁ、比べる事自体おこがましいというか失礼に当たりそうな気もするが。

 

 

「あれ、エリオとキャロはまだでしたか?」

 

 

 スバルが唐突にそんな事を聞く。

 シャロンはエリオとキャロなる人物は知らないが、名前の語感からエリオの方は男だと確信した。

 

 この美人美少女の楽園に混じった異物。

 どうにかしなければ。

 

 などと物騒な事を考えているが、真なる異常者は自身が異常であることに気付かないのだ。

 どう考えても、異物と形容するならシャロン・クーベルの方である。

 

 

「あぁ、二人は今ねぇ……」

 

 

 事情を知っているメガーヌが話そうとした直後。

 

 

「おつかれさまでーす!」

 

 

 薪を抱えた赤髪のさわやかイケメンボーイと、白い小竜を連れたちっちゃめで桃色の美少女が駆けてくる。

 

 

「エリオ、キャロ♪」

 

 

 フェイトが弾んだ声で二人の名前を呼ぶ。

 シャロンは少年の方がエリオで、少女の方がキャロだなとすぐに悟った。

 兄妹ではなさそうだが、とにかくシャロン的にはエリオの方が気がかりだった。

 

 なにせ、正真正銘の爽やかイケてるボーイだったのだから。

 

 

 ──(楽園にアダムは二人といらん)

 

 

 異世界神話をなぞったよく分からない例えを用いて、敵愾心を燃やすシャロン。

 

 癪ではあるが、安心してほしい。

 ガワだけなら、シャロンは負けず劣らずだしベクトルは被っていないのだから。

 

 "わーお、エリオまた背が伸びてるー!" "そうですか?" "私も1.5センチ伸びましたー!"

 

 などと、自分を差し置いてキャッキャウフフをするエリオを、真顔の眼光で射殺すシャロン。

 完全にサイコキラーのソレである。

 

 

「アインハルト、シャロン、紹介するね」

 

 

「あ、はい」

 

 

「…………」

 

 

 シャロンの心境を知らないフェイトは、嬉しそうにエリオとキャロに向かい合わせる。

 

 ──そして、禁忌を口にした。

 

 

 

「ふたりとも私の家族!」

 

 

「キャロ・ル・ルシエと、飛竜のフリードです」

 

 

「エリオ・モ────」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 ──(なんだァ? てめェ……)

 

 シャロン、エリオが紹介し終わる前にキレる。

 しかも心の殺意がダイレクトに漏れ出てしまった。

 

 ヴィヴィオが"フェイトママ"と言っていたから、てっきりなのはとレズカップルだと思い込んでいたシャロン。

 ミッドチルダにおいて、同性婚は普通のことである。

 自分の来世の母になってくれるかもしれないレズ夫婦には既に息子がいて、美少女の妹がキャロも含めていいなら二人もいることになる。

 不退転の怒りは、シャロンを修羅と化した。

 

 だが、すぐに冷静さを取り戻す。

 

 フェイトは"うん?"と小首を傾げ、遮られたエリオも苦笑しながら困っているようだった。

 これはまずいと、咳払いをして一瞬で取り繕う。

 

 

 

「いえ、ごめんなさい。ちょっと、フェイトさんの家族構成に困惑してしまいまして。キャロさんと、フリードに……エリオさん、ですよね?」

 

 

 

 エリオの名前を呼ぶ時だけ、得も言われぬ圧力があった。

 

 

 

「ご、ごめんね! 紛らわしくって!」

 

 

「僕の方も気にしてないし、大丈夫だよ!」

 

 

 

 ちゃんとした構成を聞くと、どうもヴィヴィオの保護責任者としての母親はなのはだけで、フェイトはあくまで後見人であるらしい。

 そして、エリオとキャロの保護責任者がフェイトということらしいが。

 

 ──(結局、同じじゃねぇか!)

 

 "この泥棒猫!"と、内心で威嚇しているがお門違いなので無視して構わないだろう。

 

 

 

「聞きづらいことをお聞きしたみたいで、大変ご迷惑をおかけしました」

 

 

「ううん、ほんと大丈夫だから! ね、キャロ、エリオ?」

 

 

「はい!」

 

 

「僕も、全然!」

 

 

 

 血は繋がらずとも仲睦ましい家族の光景に、シャロンは気づかれないようにギリギリ奥歯を擦り合わせていた。

 

 シャロンとて、実の両親が嫌いだとかそういった感情は一切ない。

 むしろ、こんな自分を愛し育ててくれた肉親に関しては他の人々と同じように大切に思っている。

 

 ──だが、これとそれとは話が別だった。

 

 

「よろしくね、シャロン! ……実は、このオフトレのメンバーは昔所属してた部隊の実動メンバーなんだけど男は僕一人だけだったし、同性のシャロンがきてくれて嬉しかったんだ。歳も近いし、僕とは普通に話してくれると嬉しいかな」

 

 

「…………」

 

 

 エリオ、絶賛大炎上中の火災現場にガソリンタンクをぶち込んだ。

 

 何気ないハーレム部隊に所属していたという情報が、シャロンの心を傷つけた。

 

 

 

「……エリオ、でいいのか?」

 

「うん! ありがとう、シャロン!」

 

 

 

 シャロン、長年培ってきた根性とポーカーフェイスで何とか堪えた。

 偉いぞ、シャロン。

 

 

「あー! エリオ君だけずるい! シャロン、私もキャロって! ね?」

 

 

 キャロも歳の近い男の友人というのが少ないのか、エリオに乗っかってきた。

 

 

「アァ、キャロモヨロシク」

 

「よろしくねー!」

 

 

 荒みきった心が声と表情にまで表れているが、普段のクールな風貌から周囲には勘付かれなかった。

 

 "きゅくるー!"とフリードがシャロンの肩に乗る。

 小動物特有の無邪気で無垢な愛らしさが、唯一の癒しだった。

 

 

「うんうん! 皆仲良くなったみたいで良かった!」

 

 

 フェイトは親として、自分の子供達の交友関係が広がった事を自分事のように喜んでいた。

 知らない方がいいことも云々。

 

 

「エリオ」

 

 

「何?」

 

 

「機会があったら、手合せをお願いしたい」

 

 

「あ、うん! こちらこそ、是非!」

 

 

「俺も少しは武に自信がある。エリオに及ぶかは分からないが──まぁ、不退転の名にかけて後悔はさせない」

 

 

 イケメン同士ががっしりと握手を交わす。

 幾分かシャロンの握力と気迫が強すぎる気がしたが、エリオはそれを本物の強者故と勘違いした。

 男の友情というやつを知らないエリオは、これがそうなのだろうと内心心躍らせていた。

 

 ──(不退転の名にかけて、お前を殺す)

 

 握手にはそんな意図が込められていたりするが、やはりこれも知らぬが云々。

 シャロンが男相手にこれ程本気になったのは、エリオが初めてであった。

 

 タイプの違うイケメン二人の熱い友情、傍から見れば画になる光景だ。

 

 

 ──そんな光景を、すっかり忘れ去られていたガリューという召喚獣もじっと見ていた。

 

 彼が何を言わんとしていたのかは、神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、お昼前に大人のみんなはトレーニングでしょ。子供たちはどこに遊びに行く?」

 

 

「やっぱりまずは川遊びかなと……お嬢も来るだろ?」

 

 

「うん!」

 

 

 メンバーの顔合わせが終わり、ついに始まった春の合宿。

 管理局所属の大人組はトレーニングに向かい、子供等は遊ぶという流れになっていた。

 

 

「あー、でもシャロンは向こうの方がいいか?」

 

 

 シャロンという人物を少しは理解(本当は微塵もしていないが)しているつもりのノーヴェ。

 武に対してストイック過ぎるシャロンは、大人組の訓練に混ざった方がいいのではないか。

 恐らくこの少年なら問題なく着いていていけるだろうと、気を遣って提案した。

 

 

「私は全然構わないよー! むしろ、大歓迎!」

 

 

 主導のなのはは、来る者拒まず。

 というより、職業柄みずから訓練に参加したいという者は大歓迎だった。

 

 

「そうですね……」

 

 

 シャロン、川遊びと訓練のメリットとデメリットを天秤にかける。

 

 訓練に参加する場合、大人の美人さんに美少女のキャロ等と汗まみれになりながら鍛えることが可能。

 鍛錬自体は望むところだし、こんなお得な特典がついてくるなら行かない手はない。

 

 

「シャロンと一緒に汗を流せるなら、僕も嬉しいな!」

 

 

 と、エリオが一言。

 

 最大のデメリットがこれである。

 何が楽しくて、目の敵にしている美少年と汗を流さないといけないのか。

 しかも、エリオは並走して交友を深める気まんまんだった。

 

 

「だったら、私も……!」

 

 

 そして、アインハルトも続こうとする。

 

 

「……俺も子供らしく川遊びでもしてますよ」

 

 

 メリットに対して、デメリットがでかすぎるから拒否一択だった。

 

 

「そっかー、残念」

 

「じゃあ、また後でねシャロン!」

 

「よし、決まりだな! アインハルトもこっちに来るよな?」

 

「はい……」

 

 

 結果、予定通りのメンバーで訓練が行われ、シャロンアインハルトを加えた子供組がノーヴェを引率として川遊びに向かうことになった。

 

 ほぼ選択肢はなかったが、川遊びに参加することにはメリットしかない。

 

 だってそりゃ──

 

 

「水着に着替えたら、ロッジ裏に集合だ!」

 

『はーい!』

 

「み、水着!?」

 

 

 ──美少女達の水着を堪能しながら、合法的にキャッキャウフフできるから。

 もう、アドの塊である。

 川遊びこそ、シャロンが望み焦がれた楽園であった。

 何故か狼狽えているアインハルトは水着を用意していないらしく、"それなら"とわきわき指を動かすルーテシアに連行されていった。

 

 後輩組とアインハルト、ルーテシアが更衣室に入る中、シャロンとノーヴェだけは残っていた。

 

 

「なんだ、お前。もしかして、水着もってないとか?」

 

 

「そういうノーヴェさんこそ、水着に着替えないんです?」

 

 

 暗に、"はよ着替えて柔肌見せろや"と催促するが、ノーヴェは気づかず頬を赤らめて答える。

 

 

「あ、あたしは、下に着てるから脱ぐだけでいーんだよ……」

 

「意外と、遊ぶの楽しみにしてたんですね」

 

「う、うるせー! お前も着替えるか、ないなら借りてこい!」

 

 

 "一応水着着てるけど、服脱ぐからこっち見んなよ!"と、上着を脱いで鞄にしまうノーヴェをばっちり肉眼で収めながら、シャロンはデバイスを取り出した。

 

 

「セットアップ」

 

「え、ちょ、おま、何して!?」

 

 

 シャロンのバリアジャケットは、上半身半裸で膝にかかる程度の短パンのみである。

 簡易的な構造のため、少し弄れば水着仕様に早変わり。

 

 "パァン!"と手を叩くと、同時に衣服が弾け飛んだ。

 

 正確には魔法で収納されているだけなので、実際に破けたわけじゃない。

 

 

「準備できましたよ」

 

「いやいやいや、それでいいのかお前!? それ、バリアジャケットだし魔力食うだろ!?」

 

「これ、かなり燃費いいんですよ。それにほら、俺は魔力量多いから問題ないです。着替えの手間も省けるし、いいこと尽くめです」

 

「……なら、いいか」

 

 

 驚かされるのにもいい加減慣れてきたノーヴェは、適当に割り切って接することを覚えた。

 

 

「にしてもだ──」

 

 

 すると突然、何を思ったのかノーヴェはシャロンの頭をわしゃわしゃと撫で始めた。

 

 

 ──(What!?)

 

 

 予想だにしないご褒美に、シャロンは硬直する。

 なのはとは違う撫で方だが、この犬を撫でるかのようなざっくりとした感じもまた堪らないと評価。

 

 

 

「──また気を遣わせちまったな」

 

「はい?」

 

 

 

 唐突だが、本日の勘違いワールド炸裂である。

 

 

 

 

「お前、アイツ等に気を遣って訓練断ったんだろ?」

 

 

 

 "アイツ等"とは、ヴィヴィオを筆頭とした後輩組である。

 彼女等は当然、シャロンやアインハルト等との川遊びを期待していたが、シャロンが訓練に参加することでアインハルトもそっちに流れてしまうと肩を落としていた。

 

 だが、エリオが居たことでシャロンは訓練に参加する気は一切なくなっていた。

 

 アインハルトが自分も訓練に参加すると言ったタイミングで断った為、そういう風に誤解したのである。

 

 運は完全にシャロンの味方であった。

 

 

 

「……気のせいですよ。行きましょう」

 

 

「はは、照れんなって! このこの!」

 

 

 

 照れてるんじゃなくて、気持ちよくなって俯いていたのだ。

 ノーヴェにツンツンされながら、ロッジ裏へと向かう。

 

 

 美人美少女の楽園だと思っていたのに、最凶の刺客が紛れ込んでいたりと想定外のことはあったが、シャロン的には概ね順調な訓練合宿の滑り出しであった。

 

 

 

 

 ──(美少女の水着を楽しみ、更に同じ水の中で一体になることで更なるエクスタシィを……!)

 

 

 

 

 ──最悪のド変態を加えるはめになった訓練合宿は、まだまだ始まったばかりだった。 


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