$月R日
今日は、良い事と悪い事があったので、久しぶりに日記を書くことにしたにゃー。
どれくらいぶりだろ? トオルの家を出てから書いてないからねぇ。
まずは良い事。とても――良い事だ。
『禍の団』のお仕事で冥界に来たんだけど、まさかトオルと会えるなんて思ってなかった!
……嘘。
もしかしたら、会えるかも、って期待してた。トオル、巻き込まれるの得意だし。
冥界で悪魔が集まって行われる催し物。その場に、トオルなら御呼ばれしてるんじゃないか、って。
まぁ、黒歌さんの予感は的中で、やっぱりトオルは冥界に居たね。また巻き込まれた?
理由なんて、なんでもいいや。会えたし。それが重要。
……会いたくなかったけど、会えて良かった。
また、名前も呼んでくれた。……その後、すぐに逃げちゃったけど。うん、逃げちゃった。だって、怖いんだにゃー。トオルに名前を呼ばれて……撫でられちゃったり抱かれちゃったりしたら、黒歌さん、きっとトオルに甘えちゃうからね。自分でも判ってる。だって、今日までずっと、トオルの事を忘れた事なんてなかったもんね。トオルの匂い、覚えてる。
……うにゃー…これって良い事なのかにゃー? 黒歌さん、すっごく困っちゃってるんだけど。
それと悪い事は、レイナーレが妙にやる気になっちゃった。
私に…私なんかに、帰って来い、って。馬鹿だにゃー。私が一緒に居たら、迷惑と面倒しかないって、判んないの?
それとも、判ってて言った? どっちだろうね。
レイナーレって、冷静を一生懸命装ってるけど、結構態度に感情が出るからにゃー。多分素だにゃ、あれ。感情で私に帰って来いって言ってる。それじゃ駄目にゃー。
私、テロリストだし? 『禍の団』の一員だし? 仲間にもそれなりに愛着があるし、裏切るのって、結構辛いんだよ?
それが判ってて、私に帰って来いって言ってる? 違うよね? だから、帰れない。…それに、トオルの迷惑になるし。それも嫌。
そりゃ、トオルと一緒に幸せになりたいよ? 幸せになれるなら、そうしたい。
けど、無理だ。私と一緒じゃ、トオルもレイナーレも幸せになれない。きっといつか後悔する。
だって、私はテロリストで大罪人。『主人殺し』の黒歌さんだもんね。
トオルだって――トオルは、殺したくないな。殺せるかも判らないけど。でも、殺す事を考えたくも無い。……うん、脱線した。取り敢えず、トオルの事はいいにゃー。問題はレイナーレだ。
トオルも私の事に気付いただろうし、レイナーレは私を連れて帰ろうとやる気出すし…困ったにゃー。
やっぱり、トオルと会えた事は、あんまり良い事じゃなかったかも。
トオルはいつも黒歌さんを困らせるね? 悪い子だにゃー。
私を困らせてばかりのトオルは……いつか、レイナーレから叱ってもらってね? 私は叱れないから。
好きだよ、トオル。
好きだから、幸せにしたいと思う。
でも、私じゃ無理。幸せに出来ない。きっと不幸にしちゃう。
だから、幸せになってね?
私が幸せにしたいと思う。でも無理だから――幸せになってほしいと願う。
……こういうのって、悲しいね
$月S日
あの馬鹿猿は本当に……鼻が良すぎる。というよりも、私が油断しすぎちゃっただけなんだけどにゃー。
やー……トオルと会った事、気付かれちゃった。
というか、あの猿、どこでトオルの匂いを覚えたんだろ?
アーサーにも知られちゃうし……どうしよ?
美猴は仙術を齧ってるけど、戦う事しか頭にないから、まぁ、どうでもいい。
問題はアーサーだにゃー。持ってる聖剣が面倒だ。
この前見付けた『支配の聖剣』。別の目的の為に探し出した奴だけど、トオルにも効くのかな? 不安だにゃー。
アーサーも、試す気満々だし。ほんとにはぁ……だよ。溜息しか出ない。
なんで、オーフィスにトオルの事が気付かれちゃったかにゃぁ。カテレアの所為だろうけど。
トオルもトオルで、普通に生きようとしてるくせに、ポンポン『神器』の能力を使っちゃうから、こんな事になるんだ。もっと自重すればいいのに。このままじゃ、永遠に普通の生活なんて送れないよ? レイナーレも居るんだからさ…無茶ばっかりしてたら、あの子はすぐに死んじゃうと思う。弱いし。
……この心配も、もう遅いかもしれないけどにゃー。
$月T日
明日、新人悪魔を集めたパーティがある。その時、私がトオルを呼び出して拉致する事になった。
そう上手くいくと良いけど。トオルって、どれくらい強いか判らないくらい強い…と言うか、厄介だと思うし。
それと、私…ちょっと楽しくなってきてるにゃー。だって、トオルが『禍の団』に来てくれたら、一緒に居られるし?
レイナーレはトオルに付いて来るだろうから、また三人で……結構悪くない考えなんじゃないかにゃ?
美猴の戦いの腕は私も知ってる、下手な上級悪魔以上だ。
アーサーも美猴と同等――『聖剣』を持ってる分、悪魔に対してなら美猴以上だと言えるにゃ。
いくらトオルでも、私達三人相手に出来るかにゃ? ちょっと楽しみだ。
トオル。私のご主人様。どれくらい強いのか、一度試してみたいにゃ。
……そして、私が勝ったら。今度は私がトオルのご主人様? それはそれで魅力的だにゃー。
今度は私がトオルに首輪をつけてあげよう。鞭で叩いたり、ヒールで踏んだりとか? ……痛いのは、ちょっと勘弁だにゃー。沢山撫でてもらったり、優しくしてもらったり? うん、そっちがいいや。レイナーレにご飯を用意してもらって、私はトオルの膝の上で微睡んで。でもそれって、首輪が無くても、トオルの家に居た頃とあんまり変わってないよね? 我ながら、想像力がヒンソーだにゃー。
全部は明日だ。
トオルを手に入れる。『禍の団』の為じゃない。オーフィスの為じゃない。私の為に。
$月V日
美猴の、怨嗟の声を忘れない。アーサーの、裏切り者と言う声も忘れない。
でも、私はトオルを選んだ。トオルと生きたくなった。トオルと、同じ時間を過ごしたくなった。
トオルにテロリストなんて肩書き、似合わない。そんなの、最初から判ってる。判ってた。
結局私は、トオルと出会った時から、『禍の団』には戻れなくなってたのかもしれない。
首輪をつけられた時から、私はトオルに飼われる一匹の猫になってたのかもしれない。一度飼われた猫は、野良では生きられないらしい。……ま、いつまでもいじらしくトオルの匂いを覚えてた私が言うのもなんだけどさ。
……言い訳はしなかった。ただ、ごめんとだけ言った。それが別れの言葉だ。私達には丁度良い。
おかげで、アーサーには思いっきり斬られたけど。『聖王剣・コールブランド』で。死ぬかと思った。と言うか、一度死んだんだと思う。記憶が曖昧だから何とも言えないにゃ。レイナーレが、一度滅ぼされてから蘇ったって言ってたけど、こんな感じなのかにゃぁ。変な感じ。
――目が覚めた時にトオルが居て、名前を呼んでくれて、撫でてくれて……あー、駄目だ。あの時、人型を維持できなくて良かった。だって、人型だったら絶対泣いてた。トオルに抱きついて、大声で泣いてた。絶対だ。……そんなの、黒歌さんのキャラじゃないにゃー。
でも、黒歌さんは結構乙女なんだにゃー。子供みたいな夢に縋ってたんだよ? ねぇ、トオル? ぅにゃー。
それで、昨日の計画だけど。
トオルを呼びに行ったら、白音に見つかった。まず、その時点で今回の計画はアウトだった。
白音に赤龍帝、リアス・グレモリー……そして、レイナーレ。
赤龍帝とリアス・グレモリーは邪魔だったけど、白音とレイナーレは、少し予想してた。
というか、白音とは会いたかったから丁度良かった。
そこで計画を変更して、白音とレイナーレを拉致する事にした。白音は私の妹だから。レイナーレは、トオルのメイドだから。トオルは優しいから、きっとレイナーレを見捨てる事が出来ない…と思う。トオルの優しさがどこまでか、なんて誰も知らないんだけどね? でも、そう信じれるのは、トオルの人徳なんだと思うにゃー。
まぁ、トオルの人徳はさておき。
レイナーレ、私と別れてた間に結構強くなってたにゃー。
『人工神器』だっけ? たしかアザゼルが開発したの。それを器用に使いこなしてた。
赤龍帝との連携も上手だったし、戦場を見る目っていうのかにゃ? それが育ってた。まぁそれでも、黒歌さんには遠く及ばなかったんだけどね。美猴は巻き込んだ元龍王タンニーンに持ってかれちゃったけど、赤龍帝とリアス・グレモリー、それにレイナーレの三人相手でも、まだまだ余裕だったにゃ。
ほんと、甘い。甘々だったよ、レイナーレ。戦場で力が無いレイナーレなんて、私が相手じゃなかったらすぐに死んでたんだからね?
まぁ、そんなレイナーレに本気になれなくて、力を小出しにしてた私も甘いんだけどにゃー。
こんな所まで追っかけてきて、実力不足のクセに私に挑んできて、何度吹き飛ばしても立ち上がって……ずっと、私の事ばっかり見てて。必死に、必死に――私を倒そうとしてた。
勝ったら私に帰ってこいだってさ。弱いくせに、言う事は一丁前。そんな甘いところ、結構好きだにゃ。トオルに似てる。トオルもこの前、敵味方に死人どころか怪我人も出ないように無茶してたし。その後倒れるし…ほんと、困ったご主人様だと思う。思い出すだけで、お説教をしたくなる。
そんなご主人様に似て、レイナーレも無茶ばかりだった。
気を付けなきゃいけないのは赤龍帝とリアス・グレモリーの攻撃。白音は私と戦いたくないらしいし、レイナーレは単純に弱い。
そうして油断して……油断、だったのかな? 今じゃ判らないや。
なんと、レイナーレに負けちゃった。
赤龍帝の『禁手』に驚いて、結界を破られて動揺して――その隙を突かれちゃった。
光の槍で吹き飛ばされたのは痛かったにゃー。しかも、絶対全力で思いっきりの一撃だった。手加減なんかしてないの。もう少し、優しくしてほしかったにゃー。しかも、トオルの『女王』の駒を使ってまで自分をブーストしてさー。いくら黒歌さんでも吹き飛ばされちゃった。というか、黒歌さんじゃなかったら大怪我してたと思うよ。
……今思うと、私は負けたかったのかにゃぁ。だって、勝つだけなら簡単だし? レイナーレを傷付けたくなかったとか、そんな事――今までは考えもしなかったし。
わざと負けた…とは思いたくないけど……けど、私がレイナーレに負けたのは事実だし。
まぁ結局、負けた私は、敗者な訳だ。敗者は勝者の言いなりなのさー。
――しょうがないよね。――敗者だもん。きっと、そんな言い訳が欲しかったんだろう。
レイナーレじゃないけど、私って意地っ張りだし。まぁ、レイナーレは泣き虫なんだけど。
だから私は、これから勝者の言いなり。そして、ご主人様の言いなりにゃ。
……ごめんね、美猴、アーサー。黒歌さんは、やっぱり野良猫には戻れなかったにゃー。
ごめんね、アーサー。裏切っちゃって。勝手に抜けちゃって。
ごめんね、美猴。あっさり負けちゃって。居場所を作っちゃって。
ヴァーリ達によろしくね? 黒歌さんは、トオルと一緒に生きてくよ。
そのあと、私に勝ったレイナーレと妹の白音をアーサーが狙ってね……。ほら、しがらみを失くすってヤツ?
我ながら、良い反射神経だったにゃ。考えるよりも先に、身体が動いたってヤツ?
あー……痛かった。流石最強の聖剣。裏切った代償だからしょうがないんだけどね。生きたまま八つ裂きにされてもおかしくない。裏切りっていうのは、それだけ重いのだ。
きっとこれからも、恨まれるかもしれないにゃー。それとも、美猴達の事だし、割とあっさり許してくれるかも?
その辺りは、よく判んない。
一年後も、十年後も、百年後も、この裏切りを私は忘れない。
もし忘れても…思い出せるように、書き残そう。
私は今日、仲間を裏切って、帰る家を手に入れた。その事を書き残そう。
……それでも私は、トオルと、レイナーレと、一緒に生きていきたい。
トオルが死ぬまで、あと何年? あと八十年くらい? それとも、永遠?
その時間を、一緒に生きよう。一緒に生きたい。
トオルと、レイナーレと、私。――ね、生きよう。
『王』と、『女王』と、『僧侶』。これからまだまだ、家族は増えるかな? 賑やかになると良いにゃー。
いつかの夢だ。
もう会えないと思ってた、けど…また会えた。
また優しくしてくれた。また飼ってくれることになった。今度は『禍の団』の事もバレちゃってるから気兼ねなくトオルに人型で甘える事が出来るね。だから、レイナーレと一緒にいっぱいサービスしちゃう。レイナーレも、私と一緒で、トオルの事…大好きだから。
白音にもトオルの事を話して、一緒にトオルの家で暮らして、オーフィスと『禍の団』の事もトオルが出鱈目な強さでどうにかして。
私の事なんて、今日簡単に解決してくれたもんね。魔王を説得してくれて。そんな調子で、トオルの周りの問題なんてちゃちゃっと片付けちゃお……ね?
それで、魔王とかなんだとかどうでもよくなってさ…普通の平穏、幸せな毎日を皆で過ごして、笑って、泣いて、喜んで――
…………
帰ってきたよ
ただいま、トオル
長ぇ(挨拶
それにしても、黒歌は書きやすいね。キャラが安定してるから
レイナーレ、黒歌、会長、セラフォルー、アザゼル様は安定してて書きやすい