夕方となり、太陽の光は橙色となっていた。
俺は手にしたライフルの装弾状況を確認した。
装弾数は5発。藥室に込めてあるから、プラス1だ。
薮、カッコつけて言えばブッシュだが、ブッシュに身を潜ませ遠くに見える鳥の群れを眺める。
あ~、ログアウトしたくない。
ブッシュの不快感はあまりない。ギリースーツ(偽装服)も快適だ。
低山フィールドの夕刻。俺はブッシュの中から巣へ戻る鳥の群れを撃とうとしていた。
なだらかな斜面には無数のブッシュと木々。隠れるには持ってこいだ。
そして1時間程度なら余裕で無心になれる。
VR世界と言っても眼前に広がる広大な景色は、俺の脳に癒し効果を与えるには十二分だ。
明後日までに仕上げる翻訳の仕事があるのだが、どうも妙訳が浮かばず結局はGGOに潜ってしまった。
GGO<ガンゲイルオンライン>銃撃戦をメインとしたバーチャルオンラインゲーム。
ゲーム内の通貨を現金に換金できる唯一のゲーム。正直換金なんてどうでもいい。これはリハビリなんだ。
対人戦闘は死ぬほどやった。死ぬほどは比喩でもなく、勝てば殺すし、負ければ死ぬ、と言う意味で死ぬほどやった。
ゲームとはいえ、他人様に武器を向けるのはあんまり気持ち良くない。げんなりする。
鳥の群れの一番後ろ。一発。当たった。落ちた。
落下箇所をメニュー画面から呼び出した近隣マップに目印をつける。
メニューを閉じて、次の獲物を待つ。
『ぶっ殺すわよ』『ぶっ殺しますわよ』
どっちに訳すか悩む。
従来なら前者なんだけど、洒落者がふざけて言うなら後者だよな~。
10分ほど待ったが丁度いい鳥の群れはまだ空を渡らない。
いい加減、狩猟には暗くなってきたところだ。今日は泊まり込んでの狩猟はするつもりはない。
シティまで戻ってログアウトかな。
そう思っていたところ、背後の10mあたりで誰かログインしてきた。
フレンド登録していれば、ログイン位置をフレンドのいる位置に指定できるのだ。
誰か、ダンジョン探索で近場にいる俺を指定したのかな?
「まだ鳥なんか撃ってるの?」
小柄な少女だ。ホットパンツにニーソックス風のズボン。そして青い瞳に水色の髪。
アバターを見るに美少女だ。可愛らしいというよりカッコいい寄りだ。本人の実の顔がどうだかは知らない。
少しとげのある声だが、まあそんなもんだろう。
金儲けでもなく、レベル上げでもなく、装備集めでもない。
単に鳥を撃っているだけなら、ゲームとしてはあんまり意味がない。
「近くに潜るの?」
「ええ、欲しいものがあって」
彼女はいつも突き放すような声でしゃべる。きつい印象もあるが、女性アバターとしては当然だろ。
下心の無い男などいない。
最初に会ったときにプロフィールに「学生」の文字があったので、消す様に進めた。
個人情報なんてバラして特になることはない。いや、命懸けの説得には有効だったけど。
「ちょうど近くにいたから利用させてもらったわ。ありがと」
「いいえ、俺はログアウトするよ。仕事があるしね」
立ち上がりながら、ギリ―スーツを解除。
黒のジャケットに、濃茶のパンツ。普通の猟師みたいな服装だ。
「じゃあ、気を付けろよ、シノン」
「ええ、またね。ナイブズ」
彼女はシノン、GGOのトップスナイパーの一人。女性プレイヤーで限定すれば最高峰スナイパーじゃないかな?
俺は、ナイブズ。いや勿論キャラクターの名前だ。SAOサバイバー。そしてシティ・アインクラッドの市長で、トラブルバスターで、仲間に死の覚悟を求めた男だ。