「事件は5つだ」
B.A.Rのカウンターでジェイクは嬉しそうに手を広げる。
情報屋という役割の人たちは、実際はおしゃべりだ。
映画のようにヒントの書かれた紙をそっと渡すなどということはしない。
「5つ」
諸志田さんが接触した〔被害者〕は4人。それよりも1件多い。
「具体的には」
話を促すがジェイクは自慢げな笑顔を見せ、グラスに入ったバーボンをさらに俺の前に出す。
俺が飲むとジェイクの口も軽くなるようだ。
「最初の噂は2か月前。ちょっとした世間話の中で、撃たれた太ももに痣が出来たっていう話だった」
バーボンに口をつける。
「最初は馬鹿話だったがその後にそのプレイヤーの友達も撃たれた肩に痣が出来たという」
たしかにそれなら「俺も俺も!」といった内輪の話だ。
子供ころにカブトムシを捕まえたのを自慢し合ったこととよく似ている。
「ここまでならオカルトだが、こっから話がややこしくなる。2人目が痣ができたことを他のプレイヤーに疑われ、フェイク扱いされた。で、このプレイヤーがへそ曲げて疑った奴と喧嘩になったわけよ」
ジェイクの舌が良く回る。
俺の合いの手で一言。
「で」
「結局2人目はGGO引退。今はレースゲームやっているらしい。その後も足に痣、腹に痣と出来て、最近出血を伴う怪我人が出たらしい。で、5人目は2人目の友達らしい。実は内輪の愉快犯っていう話もある」
なんだかな。
俺は少しだけ口を歪ませた。
MMOでの「友達」っていうのは名義上「友達」ってパターンもある。
単なるフレンド登録してある相手、何となくお互い知っているだけ。お互い都合よくアイテムを交換する相手。
そういった「友人」よりももっと軽い存在も「友達」に含まれる。
関係性の薄さは容易に人間関係を消滅させる。昨日の関係が今日には消えるのだ。
諸行無常なのだ、MMOは。
ジェイクは言葉を切り俺を軽く睨む。
「それよりもお前だよ。本当にサバイバーなんだな?」
「MMOTODAYのSAOスレで俺の名前出せば反応があるよ。信じるかどうかは任す」
「まあちょっと待て」
ジェイクは手元のモニターを弄る。どうやらリアルタイムで書き込んでいる様だ。
「で、その被害者は特定されているのか?」
「2人までならわかっている。個人情報だ、そう簡単にはいかなかったがね」
謎解きは得意じゃない。当人に聞くのが早そうだ。
「会えるかい?」
「会ってどうすんだよ。伝手はあるが相当大変だぞ。知り合いの知り合いの知り合いくらいの関係だからな」
「まとめてコミケで売る」
俺の冗談を真面目に受けてジェイクは胡乱な眼でを俺を見て来る。
「本気か?」
「冗談だよ。ちょっと人に頼まれてMMOの変わった話を集めてる。出版したいんだと」
「そうだな、手配してやるがMMOTODAYの反応しだ……」
手元のミニターを横目で見ていたジェイクの言葉が切れる。
二呼吸置いてジェイクは口を開く。
「おい!お前があの市長か?!」
デカい声を押し殺し何とか小声で叫んでいる。
器用だな。
「一応市長っていう役職でギルドの取りまとめしていたが、SAOサバイバーじゃない人から見ると市長ってのはどうなんだ?」
「アインクラッドの市長って言えば伝説的なギルドマスター扱いだよ!連合や傘下入れれば3,300人のギルドをまとめたカリスマじゃねぇか!」
カリスマって、俺としては走り回って「どうした?!」「なんだ?!」「任せろ!」くらいしか言った覚えがない。
3,300という数字もどこから出たのかは不明だが、SAOから開放される直前では圏内で俺のことを知らない奴は少なかった。
カリスマの響きは気持ちがいいが、誰かを死地に向かわせた立場でもある。
「俺はカリスマだったのか」
ジェイクは声を潜める。
「本当に本当なら、今すぐお前に握手してサインねだってハグしてキスして妹を紹介するくらいだ」
「妹はいないんだろ?」
ジェイクは真剣な顔をして
「いない」