「いつもの」
エギルの店も、19:00を過ぎる頃には人がチラホラといる。
俺は二日に一回のペースで晩飯を食べにくる。
御徒町と秋葉原の間。大通りから一本入ったところにcafe&BAR「ダイシーカフェ」がある。
最初は冷やかし半分だったが、住まいが近いので
晩飯が面倒だと、この店のチーズトーストで済ますようになっていた。
一緒にウィスキーをロックで貰う。
「食べ合わせとしては微妙だな」と店主のエギルに言われたが「店の売上に貢献している」と返した。
エギルはガタイのいい黒人ではあるが、中身はがちがちの日本のおっさんで
「せっかくだから、俺はこの赤い扉を選ぶぜ」も理解するゲーマーだ。
SAOサバイバー。あっちに居たときは色々世話になったし、世話もした。大人のプレイヤーだ。
あんなに嫁さんが美人とは・・・。
店に来るとくだらない話が多い。映画、ドラマ、漫画、最近はジムに行って体力を昔に戻すべく頑張っているとか、日常の話題が多い。
SAOのことも話すが、俺が乗り気でない内容になる前に話題を変えてくれるので助かっている。
「GGOの方はどうなんだ?」
「変わらず。この間は半獣半機械のモンスターと出くわして逃げたよ」
「そんなものまで出てくるのか」
エギルはGGOをやっていない。そんな暇がない。まあ店とALO(アルヴヘイムオンライン)やっていればGGOまで手を出す余裕はないか。
キリトやクラインなどの聞き慣れた奴らの近況も聞けた。学生は大変だし、会社勤めも大変だ。
俺はSAO事件前にそれなりの額の宝くじが当たっており、生活に余裕がある。
そこそこのマンションに部屋買って、年間500万使っても50年は持つ。
ただ、漫然と生きると居心地が悪い。いや違う。何かしら人と袖すり合うことをしていないと、嫌なことばかりを考えてしまう。
ロシア留学時代の知人からコミックの翻訳の仕事があったりで、日々そこそこ仕事がある。
一生を一人で過ごす気がする。それでもいい。それがいい。
「おう、市長。今日も一人?」
この店の常連でSAOサバイバーでシティで色々動いてくれた護民官のアルフ。
現実で会うと革ジャンの似合う金髪の男性ゲーマーだった。仕事はwebデザイナーらしい。
一度仕事場に行ったことがあるが、女性ばかりで「これはこれで大変」とこぼしていた。
20代半ばで、身体は細いが病的といより、一昔前のロックンローラーに見えてなかなかカッコいい。
今日もトレードマークの革ジャンは変わらず。
「仕事終わったのか?」
「飯食ったら戻り。仕事詰まってる。明太子スパ」
エギルは注文を聞くと奥の厨房に一度下がる。
アルフ、本名は聞いたがどうもアルフと呼んでしまう。アルフ本人もそれでいいらしい。
俺の本名も知っているはずだが「市長の方が呼びやすい」と言った。
まあ、それでいい。
アルフとバイクの話を少し。見かけ通りアルフはバイクやら自動車やらが好きで、今度新しいバイクを買う算段をしているらしい。
ガソリンエンジンのバイクは絶滅危惧種なので、アルフも電気二輪が前提だがフォルムに関してはあーだーこーだ拘りがあるらしい。
俺も自動車免許は持っているがほとんど身分証明書としてしか使っていない。
1時間ほどいつもの面子で話をし、俺は自宅に戻った。
先日の「ぶっ殺しますわよ」の訳はそれなりに向こうさんに理解してもらえた。
食後に一度GGOにログインする。
2時間ばかりしたら風呂入って寝よう。
◆
あの半獣半機械を警戒して弾数の少ない狩猟用ライフルは止めた。
俺の手にはM4カービンライフルが握られている。
アメリカ軍で採用されていた突撃銃(アサルトライフル)で全長も長くなく構えやすい。
弾数も30発と余裕がある。
持っているのは一番安いモデルなので、単発でしか撃てない民生モデルらしい。
狩猟目的に使うので倍率の高いスコープだけは載せている。
俺のアバターはそれほど体格の大きくないアバターなので
狩猟用ライフルの全長の長いヤツとかだと、取り回しがきかなくて大変だった。
今いるフィールドは長い間時間が経った廃墟フィールドらしく
崩れた建物から樹木が枝を伸ばしている。
これなら半獣半機械が登場するのも納得だ。
腰に付けたライトが進む先を示す。夜のフィールドは月と星明かりで意外と明るい。
周辺の瓦礫や廃墟の獲物がいないか慎重に確認しながら、歩みを進める。
この先にはドーム型の廃墟があるので、まずはそこを目指す。
ドームの屋根は一部崩れているので、うまく登ると建物のてっぺんに立てる。
狩猟には持ってこいのポジションだ。
「おいっしょと」
ドームに到着し、壁やら屋根やらを登り、てっぺんへと立つ。
眺めはまあまあ。昼にくれば結構な景色だとう。流石にこの月あかりだと今二つ。
「あ、しまった」
先に仕掛けて置けばよかった、と思いながら簡易的な光源であるサイリウムを何本か遠くへ投げる。
北側にぽつぽつと明かりが地面に落ちる。これで、地面を走る獲物も見やすくなる。
正しい狩猟との仕方とは違うが、ソロで好き勝手やれれば成果なんてどうでもいい。
目的はそっちじゃないしね。
あとはサイリウムのある辺りをスコープで見ながら待つだけ。
「よっと」
まずは1射。トカゲモンスターには当たらず。
ドームの天辺は平らになっているので伏せた状態から撃てる。
別のサイリウム地点に別のトカゲが。
「ほっと」
当たった。よしよし。バレットサークルの収縮も安定しているのでさほど緊張状態ではないようだ。
もう数匹狩ったところでトラブルが起きた。
遠くからの地響きだ。
俺はそちらへ伏せたまま身体を向ける。
月明かりの中でもわかる。体長数メートルを超える巨大なモンスターがこちらへ走ってくるのだ。
スコープを覗くと人を追っている様だ。
装備や服装で思い出した。シノンを助っ人に追い剥ぎ狩りをしていた4人組だ。
俺は一息ついてスコープを覗き、照準をモンスターに合わせる。
半獣半機械だが、四本足の獣というより恐竜のような感じだ。
息を止めて連続で2射。着弾を確認して更に2射。
機械恐竜は足を止めて、ターゲットを4人組から外した。
一度呼吸し、俺はヤツの頭部を狙って、3射。着弾確認し3射。
ヤツが周辺を見渡す。まだ俺を認識していない。
深い呼吸をして、弾倉の残弾を撃ち込んだ。
デカい体を地面に横たえるのを確認すると俺の視界には、HEADSHOTの文字と、経験点の数字が出る。
「お~い、生きてるか」
ドームの天辺から下にいる4人に声を掛ける。
機械恐竜のターゲットが外れたので、4人とも物陰に隠れたようだ。
安全が確認とれたのか物陰から出た4人は俺に手を振り生存を伝えてくる。
彼らの声をが幾つか聞こえてくる。どうやらシティ戻りの時に襲われたらしく、廃墟で迎えうつつもりだったらしい。
彼らは感謝を言い終わるとシティへ向かっていった。
俺も人助けの余韻を味わいつつ、狩った獲物の素材を拾って、ログアウトすべくシティへ向かう。
狩猟生活は楽しい。ソロでもだ。