運営会社からBoBの案内メールが来た。対人戦はやらないから別に興味がない。
明け方までの仕事も終わり惰眠を貪り、もう昼だ。
打合せが先方の都合で明後日に移動した。基本打合せのスケジュールは空白が多いので別に気にしない。
今日の午後は請求書の準備とGGOでだらだら遊ぼう。
◆
「ねぇ、ちょっと手伝ってよ」
最初の狩猟が終わり、シティで換金が終ったタイミングでシノンに声をかけられた。
学生だったよな。学校は終わったかな。
シティ。俺は勝手にそう呼んでいる。正式な呼び名もあるが面倒だ。呼び名くらい勝手に言わせてくれ。
プレイヤーが集うBAR。
周りにはハードボイルドを気取る奴や、傭兵稼業として格好つける奴もいる。
テーブルの上には分解された銃器を「これが俺の実力だ」と言わんばかりに見せつける奴もいる。
俺は俺で葉巻を吸いながら、次に何を購入するか銃器のリストを眺めていた所だった。
「狩猟?」
「そうよ。少しまともな方法で稼ぎたいの」
葉巻を灰皿に押し付けて消す。実際にこんな勿体ないことはできない。
VRMMOだから出来る贅沢だ。先日、知人から3,000円の一本を貰って、吸ったがやっぱり葉巻はいい。
◆
シノンの案内で海岸線まで来た。
同じスコードロンと数回仕事をしたが、男の下心が透けて見えたので全面的に助っ人の依頼を断っているとシノンは説明した。
「賢い判断だと思うよ」
「そう」
素っ気ない。
ただ日々の弾薬代や稼ぎのためにも真っ当な方法として狩猟選択し、効率重視で俺とコンビを考えたらしい。
海岸線の岩場に来るとシノンは海を指さす。
「クジラが頭を出すから撃って。素材は波に乗って海岸に漂着するから大丈夫」
それだけ説明すると彼女は岩場に寝そべり待ちの体勢になる。
俺は狩猟用ライフル、レミントンのあれを肩から下ろし、スコープのチェックをし、同じように射撃体勢に入る。
そこから3時間はお互い「ヒット」「ナイスヒット」「右狙うわ」「残りはこっちで」と二言三言の会話で過ごした。
シノンの声は素っ気なく、人を突き放し感じがするが、それでも美声で魅力がある。
これなら惚れる奴は出るな。
海岸に打ち上げたクジラ、と言っても巨大な角と凶悪な棘を持つモンスター、の素材の回収が済むとシティへ戻った。
「思ったより稼ぎになったな」
「あそこはスナイパー向きの場所だから、我慢強くないと元が取れないの」
プレイヤーのたまり場のBARで稼ぎの確認をした。
シノンも心なしか声の調子が機嫌がいい。
「シノンはBoBに出るのか?」
たまの世間話もいいだろう。
「出るわよ。出て自分の実力を確かめないと」
それは挑戦をするという感じではなく、もっと、こう、なんというか切羽詰まった感じもする声での返事だった。
彼女の眼も「楽しむ」とか「有名になる」とか「勝ちたい」というのともちょっと違う。
まあ、相当入れ込んでいるんだろう。
「ナイヴスはどうするの」
「俺はパス。対人はやめとく」
「対人装備は持ってるけどやらないんだ~」
珍しく意地悪そうに聞いてくる。外見が美少女だが、職業学生と考えると、こんな表情がリアルに近いのかも。
葉巻に火をつけつつ答える。
「シェーンの仕事は終わったのさ」
「なに?」
俺の映画的ネタを全く理解できないのか、こっちを呆れた顔で睨んでくる。
「昔の映画を使ったネタさ。シェーン知らない?」
「知らない。あんた映画とか見るタイプなんだ」
その後10分ばかり映画の話をしたがシノンはあまり映画を見ないらしい。
「お勧めは?」
と聞かれたので一昔前のミュージカルを教えた。我が人生ベスト10の一つだ。
◆
「シノン」
BARで映画の話が終わるころ、二人組が近づいてきた。
一人は長髪で細身のアバター。
もう一人はフードをかぶった赤いゴーグルの男。
声をかけてきたのは長髪の方だった。
「あれ、今日は一人じゃないの?」
シノンも知り合いなのか、軽い口調で返す。
「ども」
俺は葉巻を口から離し、軽く頭を下げる。
「シノン、そちらの人は?」
「今日ハンティングを手伝ってくれたフレンドの人」
二人組は軽くお辞儀をする。
「シュピーゲルと言います」
長髪の方がシュピーゲルか。
「俺はザザ」
フード姿がザザね。ザザ?
俺も名乗る
「ナイヴスです。初めまして」
ザザは俺の顔をじっと見つめて言った。
「もしかして市長っすか」
歯車が少し進んだ。