「乾杯」
「ザザの生還に」
BARの隅で男アバター二人の乾杯だ。
シノンはシュピーゲルと話、俺はザザと二人、店の隅でグラスを当てる。
「すいません。1時間後には夜勤に出るんで・・・」とザザの仕事もあるのでまずはVRで。
まずは近況の交換だ。
俺がALOに囚われていたことはあまり知られていない。
「ピーチ姫になるとは思わなかった」
「マリオがお姫様抱っこしたら腰痛めますよ」
そんな下らない冗談を交えながら話が進む。
ザザはSAO事件後、親父さんと話をし、ぶつかったらしい。
今はバイトしつつ、受験勉強をして、理学療法士を目指しているそうだ。
「やっぱり医者の家系でそっちばっかりでしたから」と呟く。寂しそうにも嬉しそうにも見える。
ザザからジョニー・ブラックの近況も聞けた。
親戚が寺を営んでいるので、出家したらしい。
ザザもジョニー・ブラックもレッドプレイヤー、つまりは殺人者だ。
この二人とは二度ほど刃を交えた。殺し合いだ。
デスゲームの最初期に荒れていた二人を見つけ何度も説得した。
最終的には仲間と取り囲んで叩きのめし、牢屋に入れてずっと説得だ。
二人の生い立ちも聞いた。アドバイスなんて柄じゃないが色々話した。
レッドプレイヤーはまだ裁かれるかどうかもわからない。いや、結審するのが何年かかるかわからない。
ただ自分の行いを告白し、保護観察官の観察下にいる者もいる。ザザとジョニーがそうだ。
扱いが難しい。その中でジョニー・ブラックは出家した。
あいつも考えての事だろう。
SAO事件の生還者で心に傷の無いものなどいない。
誰しも明るく振る舞おうとするが、傷つき病んでいるのだ。
「シュピーゲルは弟で、あいつが受験の憂さ晴らしで始めて、一緒になってやってみたんですよ」
「そうか、どんなビルドでやってる?」
「いやあんまり、細かくは考えずに、ただ、なんか、その、懐かしさっていうんですかね」
少しずつ声が詰まる。泣いているのだ。ザザは。
贖罪の方法などわからない。生きることと悔いること。この二つの間で見つけるしかない。
「市長はBoBは?」
「止めとく。対人やるために始めたゲームじゃないしな~。お前は」
ザザは意外そうな顔もせず、頷く。
「俺もです。VRの導入は病院でもありましたし、リハビリ程度です」
すでに世の中におけるVR需要は、ブームではなく産業として根付きつつある。
これから10年、20年と都市部での労働を主眼に置くなら、VRへの忌避は仕事の幅を縮めかねない。
VRで傷つくも生活のためにはVRと向き合わなければならない。
ザザとは少し話し込んで、フレンド登録をお互い交わしその日は別れた。
GGOから戻ると夜だ。エギルの店で夕食は済ませた。
新しいメニューとして考えているバジルソースのパスタの試食をした。上手かった。
SAOサバイバーに会った話もした。ザザについては、俺の記憶では面識がなかったはずだから
個人名は出さなかったが、それでもあのクソみたい世界からの生還者の今には、お互い安堵の微笑みが絶えなかった。
翌々日、変わったところから電話があった。
俺の携帯のディスプレイには「菊岡」の文字が浮かんでいた。