「大した用事じゃなかった」
久々に寄ったシガーショップで細巻きの葉巻を買い込んで、ダイシーcafeのBARタイム開店早々に夕食に来た。
一応禁煙店なのでここでは吸わない。最近は本当に外食でタバコを吸える場所が減った。
今日は無駄足とは言わないが、あまり愉快な話題ではなかったな。
「あれかALO関係か?」
「いやSAOでの話」
菊岡さんの話だと、行政構築までのフローを知りたいそうだ。事件の全体像が見えてきたので、今度は囚われていた人々から、今後の対策やVRMMO内で行われた事柄のヒアリングの段階らしい。
「思い出したくないこともあるからな」
一つため息をついて、ウィスキーを煽る。
次回から菊岡さんの部署以外の人間も同席を予定らしい。
昔は好奇の視線など構うものかと思っていたオタク少年が、歳を食って社会人になるとこれ程までに好奇の視線に弱くなるとは思わなかった。そう思うのは俺だけだろうか。
ドアが開いてベルが鳴る。見知った顔だ。
「あれ?市長じゃん」
スーツ姿でネクタイを崩したクラインだ。
「なんだ、仕事帰りか?」
「ああ、アキバで買い物してた」
クラインの伝手には漫画ショップのビニール袋だ。
「エロいの?」
「ちげーよ」
口をとがらせ否定するクライン。
学生連中には言えない冗談だ。俺はクラインより幾分か歳が上だが、クラインのざっくばらんさが好きだ。
裏表のない人間は信頼できる。だが裏表があることは悪いことじゃない。他人に見せない一面は自分を守る殻だ。
この裏表のないざっくばらんな青年は妙に守りたくなる、人の輪の中心に置いておきたい不思議な印象を持たせる。
つまりはリーダーの器だと思う。
30代がする人物評ほど浅いものはないだろう。こんなのは俺の印象だ。
その日は、クラインを少し弄って帰った。
◆
今日の狩猟はいつもと趣を変えてみた。
ハンチング帽。手には水平二連ショットガン。服装はネクタイをして、ハンティング用のノーフォークジャケット。
どこからどう見ても貴族の狩猟スタイルだ。
はっきり言おう。このノーフォークジャケットを着るために課金した。
出来れば猟犬とかも欲しいがゲームには「猟犬」はいないのだ。
残念。
森近くの平原。少し先には森の入口が見える。森の奥には水鳥のいる大きい池だか、湖だかがある。
今日の目的地はそこ。俺のような狩猟プレイヤーがプレイしている狩猟のメッカのようなところだ。
元来効率重視や、ビルドでの最強重視なプレイはしていなかった。
雰囲気重視で遊んでいたゲーマーなので強い銃より、服装を凝りたい。
いや~映画コラボでこんな古式ゆかしいスタイルの服が出るとは嬉しい限りだ。
森の中を歩くが、すでに地面は踏み固められたところが道になっていた。
仮想森林浴で気持ちがいい。
装備を変えて鹿撃ちなんてのも趣があってよい。
デカい猪とかのハンティングも面白そうだ。
森の切れ目、少し先に池が見えてきた。
装備はショットガンと少しだけのスタングレネード。
グレネードは森の中で他のモンスターと会ったときの護身用だ。
「うっし」
池のほとりにある少し小高いところ。
そこで水鳥達から身を隠す様に膝立ちになり、獲物を探す。
今日はいい日だ。天気もいい。寒くもない。狩猟日和だ。
正しくは、だった、である。
トラブルはすぐに来た。
◆
さて、水鳥を撃とうかと思ったところ池の対岸辺りを走る集団を見つけた。
追い剥ぎに追われている初心者かと思ったがそのグループにシノンがいる。
何かドジを踏んだな。
シノンは他のプレイヤー、アサルトライフルで装備した数人と
「走って!」とか「待ち伏せかよ!」と声を出しながら走っている。
一人がスタンなり麻痺なりの副次効果で動けないのか、仲間が抱えており
移動速度は遅い。
後ろの方から追い立てる数人の声が聞こえる。
「おおい~シノン~今度はうちのスコードロンに来いよ~」
「姫プレイし放題だぜ!」
下品な声だ。胸糞が悪くなる。自分達の優位を誇る。こういう輩はどこにでもいるし、いた。
名前が出たシノンは走りながら時折威嚇射撃をする。
こりゃ一つ手助けするか。前に助けてもらったお返しだ。
シノンたちが走り抜けるのを確認し、俺は後続にいる追跡者の姿を確認した。
数は4人、装備は対人用の実弾系のアサルトライフル。
4人のうち先頭と思われる人物の進行ルートに一発。
先頭のプレイヤーは自分が進む先の木が突然の銃撃で震え、敵の存在を知り動きが止まる。
もう一発、同様に当てないよう、しかし敵意を持って発射。
俺はそそくさと近くの木の陰に移動し、弾を装填。
特に目標を絞らず、敵のいなさそうな辺りに発射。少しばかり足止めすればシノンたちも大丈夫だろう。
敵さん達は俺の存在を敵視して、撃ってくる。どうやら具体的な場所は判別ついていないようだ。
先ほどまでいた小高い土の山へ射撃をしている。
ポケットからグレネード3つを取り出し、ピンを抜き池の浅瀬に投げ込む。
ボン。ボン。ボン。
水と泥が弾ける。
もう木の影を出て移動しながらもう一発射撃。別の木の影の入る。
!!!!!!!!
フルオートで撃って来やがった。
「出てこいや!」
かなたから声を張り上げてくる。伏兵に驚いたのか。
弾をショットガンに込めつつ、地面を這って次の木の影を目指す。
スモークグレネードを持ってくればよかった。
すぐ近くに銃弾が着弾した。もしかして場所バレてる?ヤバいな。
!!
先ほど敵のいた方向に銃口を向けて的を絞らず撃つ。
連続で2射。
ついでだ。最後の通常グレネードを一個投げる。
ボン。
逃げようか。
俺は膝立ちから身をかがめ中腰で走り出す。
!!!!!!
風切り音どころの話じゃない。周辺に着弾し後ろから複数の銃弾が飛んでくる。
視界の端にあるライフゲージが減り、視界が揺れる。
ダメージだ。
「ふざっけんな!」「殺すぞ!」
あまり遠くない後ろから声。移動してきたな。
また視界が揺れる。ダメージ。
!
振り向いて1発。狙いなど無しだ。
ボチボチいいところか。
俺がログアウトの文字を確認するためステータスを開くとすぐ近くにグレネードが飛んできた。
!!!
爆発。自分が宙に舞うのがわかる。近くの木に激突した。
「!」
痛みはほとんどないが、それでもいきなりの木に衝突し姿勢が崩れ、地面に落ちる。
「ふざけんじゃねぇぞ」
既に数メートル先には敵さん達が集まってくる。
「でかい声で下品なこと言うのは感心しないな」
そう言ってショットガンを目の前のプレイヤーに向ける。
!!!!!
こちらの引き金を引く前にフルオートが叩きこまれる。
GGOにはログアウトの文字があることは先ほど確認した。
ログアウトのあるゲームでは死ねる。
死亡地点の近くのセーフティエリアに着くとすぐログアウトした。
俺はログアウトすると、ヘッドセットを脱いですぐにトイレに駆け込んだ。
最悪だ。