先日のシノン達の逃走撃から3日。
カウンセラーに相談した日の午後。また俺はGGOにログインしていた。
睡眠導入系の薬を数日分処方され「また戻すようなことがあれば、無理せずにゲームから離れるのもアリですよ」と言われた。
シティのカフェで装備を確認する。
ソファシートに座り、デスペナで失くした装備を見ると、ハンチング帽がダメになっていた。
よかったノーフォークジャケットは大丈夫だったか。一安心だ。
「この間はありがと」
ソファでくつろいでいると、シノンが来た。
「あれ、気付いてた?」
「うん、反撃しようとスコープ覗いたら見えた」
シノンは向かいのソファに座る。
いつもの厳しい顔とは変わって感謝の表情は年相応なのだろう。
「あれか、助っ人絡みのトラブル?」
「そんなとこ、前から誘ってくるところとばったり。誘いがしつこいから怒鳴ったら逆恨み」
こういうところが子供っぽい。いやリアルと違って、人間関係が雑なのだろう。
「対策はしたかい」
「フレンドから外してブロックした。仕事相手としては最悪ね」
一端の口だ。
ゲームでの付き合いは半匿名で、知り合うのも別れるのも早い。
現実とゲーム世界は別だから出来ることだ。
リアルでの最悪の事態は暴力の応酬だ。
ゲームの暴力の応酬なんてアカウントを消して別なゲームにいくか
管理側に通報するか、SNSでボコスカにしてやれば黙る。
ゲームとリアルがイコールになった世界では、人間関係もリアルと大して変わらなかった。
「助けてもらってなんだけど、ナイヴスはもう少し対人した方がいいよ」
アドバイスを口にするシノン。軽い口調。大きなお世話だ。
「いや、対人はね。狩猟が楽しいし」
言葉に棘が出ないように軽く返す。そこに入ってくるな。
シノンは俺の言葉が単なる趣味趣向の範囲での対人嫌いと思ったのか、さらに言ってくる。
声に少しだけ優越感を感じる。なんだ、対人戦が強いことが偉いのか。
「それでも、自分の身は守らないと。ナイヴスはああいうのとの遭遇多いし」
「いいの」
声がきつくなった。シノンのいきなりのトーンの変化に少し緊張している。
一呼吸おいてシノンが聞いてきた。
「何かあるの?」
やめろ。そこに踏み込むな。もう知らんぞ。
「何かあるんだよっ」
声の棘はさらに増えた。あからさまに不機嫌な声色。違うんだ。俺が出したいわけじゃない。
シノン、お前が踏み込んだからだ。
「ごめん」
少し俯き加減に謝るシノン。俺も視線を下げた。
「言って楽しくない話だし、聞いても楽しくない話でね」
ダメだ。語尾の棘が消えない。
少しだけ、気持ちを柔らかくし、シノンに聞く。
「それより今日は空いてる?時間があるなら狩猟手伝って」
「ごめん、助っ人の予約が入ってる」
シノンはソファから立ち上がり、それだけ言うと行ってしまう。
後ろ姿に声を掛けた、
「次の時はこっちも頼むよ」
◆
「で、凹んでるわけか」
「まあ、凹んでいる」
二杯目のウィスキーを空ける。
まいった。俺、ここまで繊細だったんだ。
「そこらへんは対人しなかった俺が口が出せる範疇じゃないな」
エギルはそう言って、チェイサーを置いてくれた。
「ウォッカ」
「先に水飲め」
口の中のアルコールを洗い流し、冷たい水が喉から胃に流れていく。
「ウォッカ無し。ダメ。これ以上飲んでも楽しくない」
注文を取り消し、カウンターに突っ伏す。
「邪魔だから何か食うか、帰るかしろ」
「きつねうどん」
困らすつもりでなさそうなメニューを言ったが10分経たず出てきた。
エギルは得意そうな顔だ。
「ふふ、うちの和食メニューに入れようと思って準備していたんだ」
「たぬき蕎麦だったら?」
「それもある」
ぎゃふん。
◆
シノンにしたのは八つ当たりだな。自己嫌悪になる。
対人戦闘が前提のゲームで、対人戦をしない奴はどうなのだろう。邪魔者か?
辞めるか。だが、狩猟ゲームは今のところ他にはない。
ファンタジー系は今はしたくない。
VRMMOはダメなのだろうか。こんな形で仮想異世界を嫌いになるのは茅場の目論見なのか。
あいつは仮想世界が本当は嫌いだったのか?
自分の嫌悪を他人に引き継がせる。呪いか。
そんなことを考えながら帰路につく。
それから1週間、GGOにはログインしていない。