桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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素行調査

森を疾駆して、そう時間をおかずに刃夜は目的の人物……キャスターの眼前へと躍り出た。

距離にしておよそ十数歩。

刃夜であれば一足にて詰め寄れる距離だろう。

何故わざわざ刃夜はキャスターに奇襲することなく、足を止めたのだろうか?

 

「何だ貴様は!? 私に何の用だ?」

「いや、子供を攫った外道が誰か見に来ただけだ」

 

その刃夜の言葉は劇的だった。

子供がいなくなったことで怒りを覚えていたのだろう。

だがいなくなった理由をキャスターがわからなかったのだ。

 

腐っても魔術師の英霊であるキャスター……ジル・ド・レェが。

 

怒らせた原因が無謀にも目の前に現れて……キャスターは激昂した。

 

「貴様……何者だぁ!? 誰の許しを得て私の邪魔を……私が連れてきた子供達をどこにやった!?」

「安全な場所に避難させた。貴様のような外道に子供の未来を奪わせるわけにはいかないからな」

 

左手を掴むように握り込むと、その手に瞬時に簡素な拵えの打刀が握られる。

そして鞘から抜き放つと同時に鞘が消える。

その刀を宙へと投げている間に、持ってきていた打刀を同じように鞘から抜いて、鞘が消失した。

二刀流の構えである。

さらに刃夜は宙に浮いている桜をかなり高い位置へと浮かせた。

しかしその桜にキャスターは気付いていないようだった。

 

さて、風翔に霞皮、更に紅炎の力が使えないってのは少々きつそうだなぁ。紫炎は……まぁ本当にまずそうだったら使うとして

 

首を軽く動かしながら、刃夜は静かにキャスターを観察しだした。

 

こいつ……魔術師(キャスター)ってんだったか? あの胸に抱えた書物が、なんか嫌な予感するんだよなぁ……

 

二刀を油断なく構えながら、刃夜は冷静にキャスターを分析していた。

そして刃夜のその嫌な予感は……見事に的中した。

 

「ジャンヌを我が元へと招くために来た私を邪魔するのであれば、その肉体をくらって消し去ってくれる!」

 

キャスターのヒステリックな叫びとその狂気じみた表情を見て……刃夜は辟易するように溜め息を吐いた。

 

あ~やっぱりこの類の変人かぁ……。言葉が通じてるっちゃ通じてるのが救いだが……

 

と余裕ぶっていた刃夜だったが、次の瞬間キャスターの書物が光り……周囲に凄まじい数の怪物が出てきたことで顔を歪ませた。

おぞましい体色をしたタコの様な海魔だ。

大きさは成人男性とほぼ大差ない高さで、いくつもある足には鋭い棘がいくつも生えている。

 

あのときの凜ちゃんを襲おうとしてたのはやっぱりこいつか! しかしこの数は!?

 

優に三桁に届こうという数の海魔が一瞬にして現界したのだ。

そしてその数が一斉にして……刃夜へとその触手を伸ばして襲いかかってきた。

それに対して刃夜は嫌そうに顔を歪めながらも冷静に対処する。

迫り来る触手全てを悉く斬り捨てるが、切っても切っても、切った先から再生し、無限に沸いて出てくる海魔達。

さしもの刃夜も囲まれたくないのか、動き回りながら必死になって触手から逃げていた。

 

げぇ!? マジでめんどくさい! 紅炎が欲しい!

 

両の手が見えなくなるくらいの速度で振るわれる刀だったが、純粋に敵の数が圧倒的に多すぎるようだった。

それでも全てを数えれば間違いなく三桁に届く触手の攻撃を全て防いでいるのだから、その実力は相当の物だろう。

だが逃げていては当然だが、キャスターを倒すことは叶わない。

 

「おやおやどうしたのですかぁ? 私とジャンヌの再会を邪魔した割にはずいぶんと逃げ腰ですねぇ?」

「やかましいわ!」

 

しかし刃夜としても実は結構焦っていたりした。

強大な魔法攻撃などが来ると想定していたのに、よもや純粋な数による攻撃に出るとは思っていなかったのだ。

 

魔力砲とかなら強引に突破できたが……これでは一度絡め取られたら面倒なことになるな!

 

そう思いながら、何度か隙を見ては懐に忍ばせたナイフを投擲していたりするのだが……さすがにどれほど高速でもこれだけの触手があれば、その前に防がれるないしはたき落とされるのは当然といえた。

 

だがそんな時……

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

 

はき出された鋭い呼気と共に振り下ろされた見えない何かが、刃夜へと迫っていた触手を文字通り吹き飛ばした。

後方より目の前に現れた存在……セイバーの背を見つめて、刃夜はニヤリと笑った。

 

「おぉ、ジャンヌよ。よくぞ来てくださいました。このジル・ド・レェ。歓喜の極みです。その気高さ、雄々しさ……。生前と変わらぬその美しさ。聖処女であるあなたの前では神すらも霞むでしょう」

「黙れ、外道」

「いやはや熱烈……いや粘着質? な好意を受けてるみたいでご愁傷様。時に……知り合いか?」

「そんなわけがない。キャスターが勝手に私を別の誰かと勘違いしているだけだ」

 

勘違い……ねぇ。まぁあれだけ狂人ならそれもやむなしか

 

前へと躍り出たセイバーと肩を並べるように前に出て、刃夜は二人を交互に見てその関係性を推し量ろうとしたのだが……その露骨にいやがるセイバーの表情を見て、すぐに納得したように小さく頷いていた。

 

「助かったが……遅いな、セイバー。最優のサーヴァントってのは鈍足だったのか?」

「だまれイレギュラーなサーヴァント。軽口を叩いている場合ではないだろう」

「そらごもっともで。つーかその呼び名、長いだろ? 刃夜ないし化物(モンスター)とでも呼んでくれ」

「ならば……ジンヤと呼ばせてもらおう」

「OKだ。セイバー。さて……さっさと片付けよう」

 

肩を並べて、刃夜とセイバーはまるで競い合うようにして、キャスターへと向かって突進した。

純粋に手数が増えたことにより、先ほどの刃夜のように動き回る必要性はなくなったが……しかしそれでも数が圧倒的に多く、なかなか前へと進むことが叶わなかった。

 

「無駄ですよジャンヌ。盟友プレラーティの残した魔書により、私は悪魔の軍勢を従える術を身に着けている! その程度では私を止めることは出来ない!」

 

実際キャスターの言うとおりであり、先ほどよりも防戦一方にはならないが、それでも二人がかりでなおキャスターへと届かない状況だった。

どちらも卓越した剣技で海魔を斬り捨てるが、斬り捨てた端から再度復活して襲いかかってくるのだ。

これでは埒が明かない状況だった。

そんな中で、キャスターの演劇じみた狂演は、なお続いている。

 

「その気高き闘志に尊き魂。それはまさしくあなたがジャンヌ・ダルクであるという証だ!」

 

ジャンヌ・ダルク? って確か聖処女のだっけか? 俺日本史専攻なんだよなぁ……

 

斬り捨てながらそれでもキャスターへと視線を投じ、少し考え込むように刃夜は眉をひそめていた。

だがその剣戟に衰えはない。

しかし……状況が好転しないことに変わりはなかった。

 

「なのに何故目覚めない! まだ神を信じるのですか!? コンピエーニュの闘いをお忘れなのですか!? 辱めを受けたにも関わらず、あなたはそれでも神の操り人形に甘んじるのか!?」

「そんなものに覚えはない!」

 

キャスターのその言葉に嫌悪感をあらわにしながら、セイバーは海魔を斬り捨てる。

しかし斬る度に再生されては埒が明かないのは当然だった。

いったん刃夜とセイバーは後方へと下がり……キャスターを油断なく見据えながら小声で相談をする。

 

「どうするか? なんか広範囲攻撃はあるか、セイバー」

「あるにはあるが……少々使うのは手間だな」

「というか左腕の呪いは何だ?」

「!? 気付いていたのか?」

 

刃夜に左腕の呪い……ランサーのディルムッドの宝具によって負傷した呪いの傷……の影響により、今セイバーは十全に左腕を使うことが出来ない状況だった。

それを看破されたことに驚くセイバーだったが……刃夜はその驚きに対して少々芝居がかった仕草で肩をすくめた。

 

「まぁ見た時から気付いてたよ。呪いに関しては一家言あるんでね。まぁ使えないならしょうがないが……埒が明かないな」

「ジンヤよ。先ほどの炎は使えないのか?」

 

紫と紅。

おそらく紅の炎については刃夜の身体の外に出ていっているため、使うことは出来ないのだろう。

だがそうであればまだ体内に紫の炎を宿しているのは間違いない。

であれば、使えると考えるのは当然だった。

 

「使いたいのは山々なんだが……俺のマスターの防護のために今かなりの魔力を割いていてな。それにさっきの子供達も護衛の紅炎に、かなり使ってる。ちょっときついな」

 

まぁ本当は使えるが……ちょっと出て来たのだから素行調査はしておきたいしな……

 

「そうか……確かにあれだけの力であればやむなしか」

 

炎であれば再生されようと全て灰にすることも不可能ではないと考えたセイバーだったが、しかし子供の護衛に使っているのであればそれを使うのは無理だとすぐに判断した。

そしてそれは同時に……打つ手無しの状況になったことと同義であった。

 

この二人だけであるのならばだが……

 

「なんだ。もう始めていたのか、セイバー。しかもイレギュラーなサーヴァント……ジンヤと言ったか? 二人いながらその外道相手に苦戦とは……情けないぞ。騎士王の剣はもっと魅せる剣だと思っていたのは、私だけか?」

 

そういいながら背後より悠然と歩み寄ってきたのは、その両手に長短の槍を携えて若き美丈夫が、二人へと歩み寄ってきた。

後方から声をかけた上で悠然と歩み寄ってきたため、刃夜とセイバーに敵対する気は全くない様子だった。

 

「ランサー」

「安心しろセイバー。今宵私が主より賜った使命は、あの外道めの誅伐だ。今そのイレギュラーなサーヴァントとしているように、俺もこの槍を存分に振るおう」

「よろしくなランサー。刃夜で構わないぞ」

「あぁ、共にあの外道めを討ち果たそう!」

 

おや、あっさりと。なんつーか雰囲気と容姿どおり清々しい男だなぁ

 

初対面の存在である刃夜に対して、すぐにうち解けるように共闘を申し出てきたことに意外そうな表情を刃夜が浮かべたが、刃夜もその申し出に応えるようにして両手の刀をキャスターへと向けた。

新たに現れたランサーを含めて、三対一。

さしものキャスターもこれには少々ひるむかと思われた。

しかし……

 

「貴様ら……この期におよんでなお私のジャンヌに対する行為(・・)を邪魔するか。いいでしょう。そこまで私に刃向かうというのならば……全力で抗ってみせなさい」

 

この状況下においてなお、不敵に笑いながらそう呟いて……キャスターが胸に抱いた人が苦悶の表情を上げている、不気味な本から不気味な力があふれ出して、海魔がさらに数を増した。

しかも個々の大きさが更に大きくなっている。

成人男性よりも更に大きな大きさとなって、身体の随所に生える棘もより肥大化していた。

敵の海魔がまさか今まで以上に強力になるとは予想だにしなかったのか、攻め手側が少々驚いていた。

 

「まだ増えるか。外道め」

「まだ増えるとはな。しかしそれでも我が槍を止められると思うなよ」

「めんどー」

 

ここそれぞれに感想をぼそりと口に出しているが……戦意にいささかの衰えもなかった。

だがふと、なにかに気付いたように……刃夜が後方へ僅かに顔を向ける。

アインツベルンの城がある、方角へと奇妙な物を見るような視線を向けていた。

 

あ~……。色から言ってそう言うタイプとは思っていたが。相性悪い相手に突っかかって大丈夫かねぇ

 

「来るぞジンヤ!」

「おうよ!」

 

僅かにしか向けていないために、他の二人は刃夜がよそ見をしたのに気付いていなかった。

というよりも目の前の気色の悪い存在を前にしてよそ見をする余裕など、普通はないのだが……。

 

 

 

そのまま三人は突貫する。

 

キャスターに向かって。

 

 

 

そしてそのとき、同時に……

 

 

 

二つの影がアインツベルンの城へと忍び寄っていた。

 

 

 

 

 







3月は
どこも忙しい
年度末

休みてぇ……
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