桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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動き出す王

「ライダーの宝具は、ギルガメッシュの宝具と同格レベルです」

「ふむ、狙い通りではあるが……いささか意表を突かれたと言うべきか……。まぁいい。ここからはアーチャを本格的に動員し、敵を駆逐していく。マスターとしての任務、ご苦労だった」

「はっ」

 

通信装置で報告を終えて、綺礼は我知れずに一つため息を吐いていた。

ため息を吐いたことにも気付かず、そして当然そのため息の意味にも気付かずに。

 

これでようやく……解放された……

 

そう思いながらも、ただ何かすっきりしないような表情で、綺礼は冬木教会の自らの私室に足を踏み入れた。

その場にはギルガメッシュがおり、綺礼の私物のワインを機嫌が良さそうに味わっていた。

今更ギルガメッシュが自らの私室にいることに驚かない綺礼は、少々眉をひそめたがそれだけだった。

 

「今日はずいぶんと機嫌が良さそうだな、アーチャー」

「あぁ。聖杯の格は未だわからぬままだが……仮にガラクタであったとしても瑣末事よ。我はそれ以外の楽しみを見いだしたのでな。そう言う綺礼よ。貴様も今日は普段よりも機嫌が良さそうだぞ?」

「そうか? ようやく、煩わしい監視任務から解放されたのだから、それが理由だろう」

 

しかしその顔にはどこか憮然とした感情がにじみ出ていたが、それに綺礼自身は気付いていないようだった。

そんな綺礼を、ギルガメッシュは実に嬉しそうに見つめていた。

その笑みが不愉快だったのか、綺礼が露骨に顔を歪めた。

 

「何がおかしい? アーチャー」

「なに、存外におもしろい奴だと思ってな。どうやらこの度し難い世界も、退屈せずにすみそうだ」

 

 

 

 

「さて、今朝の雁夜さんちの朝ご飯は……なんと桜ちゃんが作ってくれた卵焼きと昨夜の残りの豚汁。そして漬け物にご飯。実にシンプルな朝食です」

「突然どうしたんだ? 刃夜?」

「いや、どうしたものかと思って何となく言ってて」

「どうしたもの?」

「あぁ」

 

箸で自らの口に桜が作ったという卵焼きを運びながら、刃夜は思案を巡らせる。

すでに聖杯戦争が開始されてからそれなりの日数が経過している。

だが実際に脱落したサーヴァントはただ一騎、アサシンのみだった。

数日刃夜がまともに参加しなかったこともあるが、余りにも動きが緩慢であると言っていいだろう。

 

布石は打ってあるし、嫌がらせもしている。何かしら事を動かすような「事」が起きてくれれば良いのだが……

 

「刃夜おじいちゃんどうしたの? 考え事?」

「ん? まぁな。ちょっとじじいは耄碌しているのかも知れない」

「おいしくない?」

「いやうまいとも。十分合格点を上げられる。その年でこれだけの卵焼きを作るのはなかなかだぞ」

 

そう言って隣に座る桜の頭を撫でる刃夜。

撫でられたことと、料理を褒められたのが嬉しかったのか、桜は少々恥ずかしげにだが頬を赤く染めて嬉しそうに笑っていた。

その笑顔を感じつつ……刃夜は今後の方策を考えていた。

 

種はまいている。後は座して待つのみだが……長年生きているが生来の気質はかわらんなぁ……

 

どうやら待つというのがお嫌いな様子だった。

そんな自分の性格に呆れているようだ。

そしてそんな刃夜の正面に座る雁夜は……百面相とまではいかないまでも、何度も表情を変える刃夜に若干奇異の目線を向けていたりした。

 

「今日はどうするんだ?」

「料理教室と買い出しに出掛けよう。食材も少々少なくなってきたことだしな。それとちょっと偵察したいところもある」

「偵察?」

「この家以外にも、同じような家があったのをこの前見つけてな。そこを確認している男が衛宮切嗣……セイバーのマスターだったのでな」

 

敵陣営のマスターが近くにいるということは、雁夜としては余り歓迎すべき事ではない。

刃夜の言葉に驚いている様子だったが、しかし刃夜の表情を見て顔を引きつらせた。

刃夜の表情が……実に邪悪な笑みを浮かべていたのだから。

 

さて、あの合理主義者野郎がどう出るのか……楽しみだ。どう邪魔してくれようか

 

もしも漫画的表現であれば裂けたかのような口に、鋭い牙、さらに「ケケケケケケ」と、変な笑い方の擬音が背後に書かれていることだったろう。

それほどに邪悪な笑みをしていたのだ。

 

またぞろ……何をしようとしているのやら……

 

そんな刃夜に半ば慣れたと言うべきか……雁夜は内心で呆れ気味にため息を吐きつつお茶を飲んでいた。

どうやら慣れてきたらしく、雁夜はただ呆れているだけのようだった。

だが呆れている以上に頼もしくも思っているのだろう。

その呆れた表情に、不安そうな感情は皆無だった。

だが、言いたいことは言いたいのだろう。

 

『今度はどうする気だ?』

 

と、桜にはわからないように口を閉じたまま言葉を話す。

刃夜はそれに気付き、風の力を使って桜には気付かれないように会話を続けた。

 

『とりあえず、嫌がらせは十分にしているから、そろそろあちらとしても焦れてくる頃だ。事が起きた時にそれを逆手に取る』

『嫌がらせ?』

『お前と桜ちゃんが寝た後に冬木市市内の害虫駆除』

「!? ごふっ!? ごふっ!?」

 

驚きを隠そうとしたが隠しきれず、飲みこもうとしていた物を詰まらせて咳き込んでしまった。

その雁夜を桜が心配そうに見つめて、水の入ったコップを差し出した。

 

「雁夜おじさん、大丈夫?」

「ごふっ!? あ、ありが……んん! ありがとう、桜ちゃん」

 

何とか気管支に入っていた物が取れたのか、雁夜は苦笑しながら桜に礼を言って、

 

『もうお前がなにをしてても驚かないとは思ってたけど、まさかそんなこともしてたのか』

『相手が何をいやがるのかを考えるのが戦争だよ雁夜君。嫌がらせとはすなわち妨害工作に他ならない。しかも相手が人間ではなく、ただのゲス野郎で虫以下の存在ならば、情けや容赦する理由は皆無だ』

 

ぼりぼりと、たくわんの小気味良い食感と噛み応えと味付けに小さく頷きつつ……ちなみに刃夜がつけた浅漬けである……刃夜は思考を巡らせているようだった。

そんな刃夜に頼もしさと空恐ろしさを感じつつ……雁夜は朝食を口に運んだ。

そして朝食が終わり、雁夜と桜が食器の片付けをしている……雁夜が食器洗いなのは最悪失敗しても問題ない食器洗い(割れても食器がダメになるだけであるため)が担当であり、その雁夜の手伝いを桜が自主的に手伝って、食器拭き担当……その間、刃夜はそんな二人の背後をほほえましく見つめつつ、ぼそりと言葉を口にした。

 

『さてと……バーサーカーよ、ちょいと相談がある』

『!?』

 

刃夜自身が口を閉じての言葉は……不思議と霊体化しているバーサーカーにはっきりと聞こえていた。

それに驚いているのが気配から察せられたが、しかし現界するのは躊躇われたのか、バーサーカーが姿を現すことはなかった。

それに対して、刃夜は安心したようにふっと一瞬だけ笑みを浮かべて……言葉を続けた。

 

『現界はできないだろうから一方的に話す。異議がある場合は一瞬だけ現界してくれ』

 

二人の食器洗いの光景を見守りつつ、刃夜は手に持った南部鉄器の急須……当然だが、これも雁夜に買わせた……を右手の五本の指先で支えつつ、手のひらから発する紫色の炎で熱してお湯を沸かしていた。

そして茶葉を取り出す。

おそらく食後のお茶を用意しているのだろう。

お茶は子供もおいしく飲めるように紅茶を用意していた。

ちなみに桜のためか、蜂蜜レモン……これも自家製……を用意している。

 

『そろそろあっちも焦れて何かしら行動を起こす頃合いだ』

『……』

 

『その際だが……お前にも役割を担ってもらう』

 

『?』

 

その役割が何なのか?

それがバーサーカーとしても気になったのだが、刃夜はそこで言葉をとぎれさせた。

続きが気になったバーサーカーだったが……しかし現界するわけにもいかなかったため、もやもやとした気持ちになるのだった。

 

 

 

 

 

 

「して、一体どうした綺礼? いつにも増して上機嫌な理由があるのだろう?」

 

時は戻って、再び深夜。

ギルガメッシュが綺礼の部屋でワインを空けている時の会話だった。

その問いは、問いかけであると同時に尋問でもあるといえた。

具体的に先を促されたわけではないが、しかしその問いに答えなければ話が終わらないことは……ギルガメッシュの目を見ればすぐにわかることだった。

その目の眼力に負けた訳ではないだろう。

むしろめんどくさそうに、綺礼は顔をしかめながらその問いに答えた。

 

「興味がわいた存在が出来ただけだ」

「ほう?」

 

その答えに対して、ギルガメッシュは興味深そうに顔に愉快そうな笑みを浮かべた。

ギルガメッシュの笑みに、先ほどよりも更に不快そうに顔を歪める。

 

「それはあの不可思議な存在の事か?」

 

見透かしたかのように、あるいは見透かされたかのように、ギルガメッシュはそう綺礼に問いかける。

綺礼はそのギルガメッシュの言葉に、一瞬だけ眉をひそめたが……すぐに表情を取り繕った。

 

「不可思議なのは認める。密かにアサシンに探りを入れさせていたが、開拓者(フロンティア)なるものの情報はほとんど見いだすことが出来なかった。徒労でしかなかった」

「く……くはははははは!」

 

そんな綺礼に対して、ギルガメッシュは愉快そうに大声を上げて笑った。

今度こそ、本当に不快そうに綺礼はギルガメッシュを睨み付けたが……その程度でひるむ英雄王ではなかった。

 

「徒労だと? それすらもわからぬか綺礼。お前とアサシンの骨折りには、十分な成果があったのに気付かぬか?」

「何だと? 私をからかう気か? 全てのサーヴァントとマスターの情報を渡し、なおその言葉とはどういう意味だ?」

 

綺礼の言うとおり、先ほどギルガメッシュは綺礼に他の陣営の事について、アサシンから探らせて得た情報全てをギルガメッシュに話して見せた。

それに対するのが、今のギルガメッシュの言葉だった。

綺礼が怒るのも無理はないと言っていいだろう。

 

だがその怒りの矛先がどこに向かっているのか……綺礼自身が気付いていないようだった。

 

 

 

「解せぬか? まぁ無理もないか。己の愉悦を理解していないのだから」

 

 

 

己の愉悦。

その言葉は、綺礼の胸に何故か突き刺さった棘のように、鈍い痛みを綺礼に与えていた。

それに気付いているのかいないのかわからないが……ギルガメッシュは話を続けた。

 

「自覚はないようだが、それでも興味を示すのが魂という物。興味を示したという動きが感心として表に現れていた。お前がアサシンによって得られた情報を語らせたのには意味がある」

「何だと?」

 

 

 

「もっとも多くの言葉を尽くして語った部分……その事柄に関することがお前自身が自覚していなくとも興味を示していること他ならない。そう……バーサーカーのマスターと貴様が先ほど自ら公言して見せた、八騎目のサーヴァントに対してだ」

 

 

 

一度区切るためか、手にしたワイングラスの中身を一口に煽り、ギルガメッシュはニヤリと……嫌らしい笑みを浮かべる。

その笑みに対して先ほどと違い、感情を露わにして綺礼は言葉を放つ。

 

「確かにお前の言うとおり、雁夜については入り組んでいると言っていいだろう。だが、それも長々語る理由がない。だがお前は他のマスターやサーヴァントに対してはもっと明確に簡潔に語って見せた。だが雁夜ではそれをしなかった。それは何故だと思う?」

「……判断ミスなのは認めよう。無駄に言葉を連ねたところで雁夜は脅威になり得ない。その言葉のせいで、お前から余計な詮索を真似ていたしまったことにな」

 

苦しそうに、辛そうに……何故かそう思えるような苦渋の表情を浮かべながら綺礼はそう咆えた。

 

その表情に対してか?

 

それともその態度に対してか?

 

はたまたその両方か?

 

ギルガメッシュはまるで口にしたワインの味と同じように、楽しむかのように綺礼の表情を見つめている。

 

 

 

「なるほど、そう答えるか? だが……もしもお前が今口にした雁夜と八騎目のサーヴァントが残った場合はどうなる?」

 

 

 

「その際にお前は何を想像する?」

 

 

 

 

 

 

「何を想像して苛立ちを覚えている?」

 

 

 

 

 

 

何に苛立ちを覚えるのか?

その問いに対して、綺礼は応えることが出来ず、苦々しそうに顔を歪めるが……何とか平静を取り戻して、逆にギルガメッシュへと問いかけた。

 

「教えろ? ギルガメッシュ。一体どういう意味があるというのだ?」

「簡単な話だ。意味などない。だがお前にとっては意味があるということだ」

「何だと?」

 

 

 

「仮に他のマスターに対して同じ課題を出されたのならば、お前はすぐに無意味さに気付いて早々に調査を打ち切った。だが雁夜と八騎目のサーヴァントに対してはそうはならなかった。お前は平時の無駄のない思考と判断力を放棄し、永延とやくたいもない思考に耽っているという事実」

 

 

 

「益にならない徒労 それこそが紛れもなく遊興……つまりは愉悦だ」

 

 

 

愉悦という言葉。

先ほどまでは何も感じなかったはずの言葉に、綺礼は激しく動揺する自分に気がついた。

その動揺は当然、そばで綺礼を見つめるギルガメッシュに見抜かれていた。

更に追い打ちをかけるように……ギルガメッシュは更に話を続ける。

 

「喜んではどうだ綺礼? お前はついに娯楽のなんたるかを理解したのだぞ?」

 

 

 

「なんだと?」

 

 

 

「雁夜に対して貴様は雄弁に多弁に言葉を重ねた。だが八騎目のサーヴァントに対しては言葉が少なかった。貴様がアサシンによって手に入れた情報から鑑みるに、お前は雁夜の予想して然るべき未来を潰されたのが気にくわない……ということだ」

 

 

 

「っ!? そんなわけがない! 他者の痛みと嘆きを喜ぶだと? この言峰綺礼が? それはばっせられるべき悪と――!?」

 

 

 

悪徳とでも言うつもりだったのか……その言葉は続くことがなく、突然右手から発した激痛によって強制的に止められることになった。

そしてその右手の手の甲に……血のように赤い令呪が浮かび上がった。

 

 

 

「ほう? どうやら聖杯は貴様にずいぶんと期待をしているようだぞ?」

 

 

 

「何だと?」

「聖杯の求めに応じてはどうだ? 綺礼? 求められるのと同じように、お前にも求めるだけの理由があるはずだ」

「……私が?」

 

ギルガメッシュの言葉に対して……綺礼はただ茫然とそう答える。

そう答えるしかなかったのかも知れない。

何せ今綺礼の心は、疑問で埋め尽くされていたのだから。

 

「仮に此度の聖杯戦争の聖杯が真の願望機であったならば……お前の自らが理解出来ない心の奥底の願望を与えてくれるかも知れないぞ?」

「だ……だがそれは、他の六つの願望を押しのけることに他ならない。それはつまり……我が主をも敵に回すことに……」

「わかっているではないか綺礼。そうよ、貴様はこの状況……サーヴァントに空きがない状況では、他の者からサーヴァントを奪うことから始めなければならない。せいぜい強力なサーヴァントを手に入れることだな? 何せ……この俺を敵に回すことになるのだから」

 

爛々と……何故か目を離すことが出来ない妖しい瞳のギルガメッシュ。

その瞳の妖しさにも……視覚的に光っているかのように見える瞳にも気付かなかった。

気付けなかったのだ。

 

 

 

「求めることを成せよ綺礼。娯楽は愉悦を導き、愉悦は幸福のありかを指し示す。その愉悦を……幸福を邪魔する存在をどうするかなど、考えるまでもないだろう?」

 

 

 

綺礼を諭すように言葉を紡ぎながらも……ギルガメッシュは自らも心が躍っていることを十重に自覚していた。

綺礼から得た情報……それはアサシンがほとんど情報を得ることが出来なかったという事実に他ならない。

気配遮断スキル。

歴戦の英雄……英霊ですらも気付くことの出来ない絶対的な隠密の力。

アサシンとしてそのスキルを十分に有しているにもかかわらず、アサシンは八騎目のサーヴァント……刃夜の情報を全く得ることが出来なかったのだ。

その事実は、ギルガメッシュを喜ばせるには十分すぎた。

 

 

 

さて……あの小僧。どうしてくれようか

 

 

 

 

 

 

 

 




2018.5.28 追記
N-N-N様 誤字報告ありがとうございました!

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