桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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父として 兄として

「づぁっ!」

 

裂帛の気迫の呼気が、刃夜の口から発せられる。

全長の長さがあり得ないと言っていい長さの刀を振るっているのだ。

それも当然といえたが……その刀を振る姿は常規を逸していた。

その一薙ぎで、海魔の触手が数本吹き飛んでいく。

また刃夜が先に言ったとおり、何もないはずの宙で足場があるかのように大野太刀を振るい、場合によっては本当に飛翔していた。

さらには、別の二人……セイバーとライダーが危機に陥った際は、左手を軽く握っていくつもの短刀を顕現して、投擲していた。

 

「電磁投擲刀、(カケリ)

 

音速を優に越えた速度で放たれたその短刀は、野太い海魔の触手を一部破砕させるほどの威力を秘めていた。

 

「かたじけない、ジンヤ!」

「いいから前見ろセイバー! まだわんさと来ているぞ!」

 

自らに迫り来る幾重の触手を斬り飛ばしつつ、刃夜が怒鳴った。

その言葉通り、いくつもの触手がセイバーへと迫る。

それら全ての触手を、見えない剣でセイバーは易々と断ち切った。

そして宙を走るライダーの戦車と、ライダー自身が振るう剣によって切られるが……切られた端から再生を繰り返し、すぐに復活する。

それどころか、他からそれ以上の触手が自らを斬りつける敵へと……サーヴァント達へと襲いかかる。

それらを単独で、他は互いに互いをフォローしつつ、捌くが……現状、キャスターを引きずり出すどころか、肉薄すらも難しいと言わざるを得ない状況だった。

 

「っち! キャスターめ」

 

一向に事態が好転しない状況に、セイバーが歯がみしながら吐き捨てる。

実際、その場にいる誰もが同じ思いだった。

何とか川に繋ぎ止める……街へと進ませることだけは防げているがそれだけだ。

しかも徐々にこちらの攻撃を防ぎながら街へと進んでいっているのだ。

焦るのは当然といえた。

やがて、埒が明かないと判断したのか、ライダーが全員を一度岸辺へと集めて作戦会議を行った。

といっても時間稼ぎを担っただけだったのだが。

それはライダーの宝具である王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)で足止めをしている間に、どうにかしてキャスターを吹っ飛ばす策を考えろという、半ば丸投げの作戦だった。

そしてその作戦に……

 

 

 

「おい、征服王……」

 

 

 

「む? どうしたジンヤ?」

 

 

 

刃夜が巻き込まれていたりした。

刃夜の眼前に鎮座するのは巨大な海魔。

それはさきほどから変わっていなかったが、周囲の光景が一変している。

王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)の固有結界の砂漠の中にいるのだからそれは当然といえたが……。

 

 

 

「何故俺がこの場にいるんだ?」

 

 

 

別段刃夜がいる理由はどこにもない。

現に、ライダーのマスターであるウェイバーは結界の中にはおらず、この場には巨大海魔と、刃夜、ライダー、そしてライダーが呼びだした部下である彼の軍勢がいるだけだった。

 

「何、貴様に我が軍団を見せたくてな。これが我の魂の力。王の軍勢(アイオニオ・ヘタイロイ)!!!!」

 

己の自慢の兵士達を刃夜へと見せつける。

背後の兵士達の個人の力は、召喚されたのが英雄時代と言うことも相まって、刃夜より劣る。

だが……それでも数という暴力は単純故に恐ろしいことを、刃夜は十分に理解していた。

 

 

 

「数による攻撃……。単純故に最強の力だな。恐れ入った」

 

 

 

そしてこの宝具の力が、「数」だけが恐ろしいものではないことは、兵士一人一人の顔を見れば、すぐに理解できることだった。

 

「前にも誘ったと思うが、再度問おう。余の軍勢に入らんか?」

 

刃夜の言葉に嬉しそうに破顔しながら、ライダーは再度刃夜に勧誘の言葉を投げかける。

だがそれに対する答えは、以前と変わるわけもなかった。

 

「……これほどの力を見せて貰い、さらには、かの征服王から勧誘の言葉を賜って至極光栄だが……遠慮しておこう。俺には……やらねばならないことがある」

 

刃夜の願い、刃夜が自ら成しえなければならないこと。

そのために……刃夜は今まで戦ってきたのだから。

刃夜がただ断っているだけではないのはライダーもすぐに看破していたのだが、それでも刃夜に対する興味が尽きないのか、言葉を続ける。

 

「ふぅむ……待遇は弾むぞ?」

「というかあの怪物を前にしてそんな馬鹿なこと言っている場合じゃないだろう? 行こうぜ? 怪物退治になぁ!!!!」

 

眼前の巨大なたこのような真っ黒い生物へと自慢の巨大な得物を向けつつ……刃夜は吼えた。

その刃夜の咆吼に、鬨の声を上げる英雄達。

自らの部下達を鼓舞する刃夜の言葉に、征服王イスカンダルが、震えるはずがなかった。

 

 

「応とも! 征くぞ我が友よ! そしてジンヤよ! 足止めにとどまらず、あの怪物の首を落としてくれようぞ!」

 

 

 

「「「然り!!!」」」

 

 

 

王の号令の下、英雄達が怪物へと走る。

そしてその王たるライダーが、戦車を駆って突貫する。

そのさらに先へと……刃夜が突風のようにかけだした。

 

 

 

「申し訳ないが本気が出せない状況だからな。その分今使える全力で、刀を振るわせてもらう!」

 

 

 

右手に持った斬老刀弐型(スサノオ・ニガタ)とは別の巨大な刀を顕現させて、刃夜は大野太刀二刀流の構えで飛び上がり、海魔へと斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

遙か上空から降りてきた遠坂時臣は、その落下速度を余すことなく自らの魔術で打ち消して、雁夜がいる屋上へと優雅に舞い降りた。

そして雁夜の姿を見て、一言、侮蔑の思いを込めた言葉を口にした。

 

「変わり果てたな。間桐雁夜」

「遠坂……時臣」

 

一方は侮蔑。

他方は怒り。

互いに互いのことを負の感情でとらえ、互いのことを軽蔑していた。

時臣は魔導を諦めなかったと認識して。

雁夜は……あらゆる感情の籠もった憎悪を向けて。

 

「遠坂時臣。俺から言うことは一つだ。何故桜ちゃんを間桐の家に養子に出した!」

 

これだけは、自らの身命に賭けて問わなければいけないと誓った、雁夜の思いだった。

自らの愛娘を、あの地獄ですら生ぬるい環境へ送り込んだ悪魔の様な所業。

その所業の由縁を知りたかったからだ。

それに対して、時臣の返答は実に簡潔だった。

 

 

 

「愛娘の未来を思ってのことだ」

 

 

 

「なん……だと……」

 

時臣からの言葉に、雁夜は今まで心の中で滾っていた怒りすらも忘れて、ただ茫然と時臣を見据えた。

その雁夜の茫然とした姿を見て、時臣は嘆息しつつ、言葉を続ける。

まるで出来の悪い存在に、講釈を延べるかのように。

 

「魔術は一子相伝。故に、二子を得た場合片方は凡俗へと堕とさねばならないジレンマ。我が妻の葵は母体として優秀にすぎた。生まれてきた我が子は二人とも類い希な魔術の才能を有していた。その才能を潰したくなかった。ただそれだけだ」

 

「それ……だけ……?」

 

 

 

「いずれかのために、もう片方が自らの輝かしい未来を知ることもなく潰される事を、望む親などいない」

 

 

 

茫然と……雁夜は時臣の言葉を聞いていた。

葵と凜……そして桜。

三人が公園で楽しげに戯れている姿を、暖かく見守っていた雁夜からしたら信じられない言葉だった。

 

凡俗。

 

母と娘の幸せな時間を、時臣はただの凡俗と切って捨てたのだ。

そのあまりにも人間らしからぬ……魔術師としてしか考えを持たない時臣に、雁夜は怒りを越えて絶句した。

 

 

 

だがすぐに……

 

 

 

 

 

 

桜の光のなかった瞳を思い出す。

 

 

 

 

 

 

時臣が桜の事を……魔術師としての桜の事を思ったのは間違いなかった。

間桐の家に養子に出したのも、聖杯戦争を知る家名であるため、それだけ根源へと至る可能性が高いと言うことだ。

また親である時臣の贔屓目から見ても、確かに姉妹揃って魔術師として才能が溢れているのは事実だった。

故に、「魔術師」という観点から見れば、時臣の判断は間違っていない。

 

だが……間桐の内情を知る雁夜からすれば……

 

 

 

少なくとも間桐の家に養子に出したこと

 

 

 

 

 

 

何より桜にあの絶望を味合わせたことだけは……「魔術師」である時臣と、「人間」である雁夜の価値観の違いを差し引いても……

 

 

 

 

 

 

決して許すことが出来なかった。

 

 

 

間桐の内情を知らないこともわかっていた。

 

 

 

だがそれでも……

 

 

 

雁夜は……許すことが出来なかった。

 

 

 

知らないから許される訳がない。

 

 

 

許されて良いはずがない。

 

 

 

桜の絶望と……桜の優しさを知った。

 

 

 

その桜に賭けて。

 

 

 

負けるわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「時臣!!!!」

 

 

 

その怒りに逆らわず、雁夜は肩から提げている黒い布のシースから、対の双剣を……抜きはなった。

 

 

 

「……ほう?」

 

抜かれた得物の異様さに、さしもの時臣も素直に感嘆の声を漏らしていた。

だがそんなことは雁夜にとってはどうでもよかった。

ただ目の前の存在を……

 

 

 

葵を奪い

 

 

 

凜を悲しませ

 

 

 

桜を地獄の目に遭わせた

 

 

 

 

 

 

遠坂時臣という存在を

 

 

 

 

 

 

【■■■■■】という思いで支配されていた。

 

 

 

 

 

 

「時臣!!!!」

 

咆吼を上げて、雁夜が剣を振り上げながら時臣へと走った。

その走りは、決して早くはなかった。

だが全く危うさがなかった。

変わり果てた姿でありながら、それでも雁夜は普通に走ったのだ。

 

その対の剣を振りかぶりながら。

 

 

 

剣を持って走ってくるだけか。魔術も何もなく、ただの人でしかないということか

 

 

 

始まりの御三家の一つである間桐の家出身である間桐雁夜。

一度魔術の道を諦めながらそれでも聖杯戦争に参加してきた存在。

聖杯戦争という、魔術師においては名誉たり得る戦に参加しておきながら、魔術すらも使用してこないその様子に、時臣は落胆した。

知らずうちに雁夜に淡くも期待していた自分に驚きつつも、時臣は自らの魔術を使用し、手にした巨大な宝石がはめ込まれた杖で、炎の魔術を何の詠唱もせずに発動し、火の玉を放った。

 

だがそこで驚くべき事が起こる。

 

 

 

「おぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

飛来した火の玉。

触れれば火傷ではすまず、全身が焼けただれるであろう巨大な炎を、雁夜は手にした双剣……封龍剣【超絶一門】で斬り捨てたのだ。

斬り捨てられたその瞬間に……炎が消失した。

 

「!? 馬鹿な!?」

 

これにはさしもの時臣も瞠目した。

魔力が込められた凄まじい剣であることは、時臣もすぐに気付いていた。

だが双剣が行ったのは、火の玉の切断ではなく吸収だ。

いかに魔術師として優れた存在である時臣といえど、魔術の吸収は容易ではない。

それをただ剣を振るうことだけで行って見せたのは、驚くには十分すぎた。

だが驚くばかりだけではない。

すぐに体勢を立て直して、連続で紅の炎を使用し、雁夜へと攻撃を仕掛ける。

だがその悉くを、雁夜は対の剣で切り払い、その火の玉を吸収していた。

明らかに素人でしかない動きであるというのに、雁夜はその全てを斬り捨てていた。

そしてこの状況に陥ってようやく、時臣は雁夜の総身からあふれ出す凄まじい魔力の波動を感じ取った。

 

何かしてきたのか?

 

その魔力の質と量で、時臣はようやく雁夜の異常とも言える動きの正体に気付いた。

雁夜は刃夜からの魔力供給と、更に服用した数多の薬で半ば無理矢理に身体能力を強化している状況だった。

その事情を知らない時臣からしても、素人でしかない雁夜の異常な動きが、一時的なものでしかないことはすぐに見抜ける事だった。

故に、攻撃を続ければすぐに倒れると判断し、連続して攻撃を仕掛ける。

だが……

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

鬼気迫る顔と声で、雁夜は叫び続けて……じりじりと時臣へと近寄っていく。

優秀すぎると言って差し支えない時臣の連続攻撃に、さしもの強化された雁夜であっても容易に近づけるものではなかった。

だがそれでも……雁夜は近づいていく。

執念と怨念……憎悪によって。

その死の一歩手前まで喰われた体を酷使して。

 

桜のために。

 

己のために。

 

雁夜は進んだ。

 

時臣を【■■■■■】ために。

 

死に体の体で突き進んでくる気迫と狂気。

そして素人でしかないはずの雁夜が、優秀な魔術師である自らの攻撃を、無理矢理強化された体で防ぎ続けているという事実。

それを可能にしている、異様な対の魔剣の存在。

時臣がゾクリと……恐怖を感じさせるには十分すぎた。

 

そしてその恐怖が……怒りへと変換される。

 

始まりの御三家であり、名家として自他共に認める遠坂家当主。

 

 

 

遠坂時臣。

 

 

 

その時臣()が……魔導を諦めそれでもなお、聖杯という甘い汁に縋ってきた羽虫にも劣る存在に……。

 

 

 

恐怖したという事実が、自らを殺したくなるほどに……怒りを覚えた。

 

 

 

「雁夜!!!!」

 

 

 

先ほどまでの優雅さがかき消えて……時臣が咆える。

 

そしてその杖の先に……今までとは比較にならない魔力が充填される。

 

その魔力が時臣の魔術刻印によって力が術へと変化し……

 

 

 

屋上を吹き飛ばすほどの爆発が起こる。

 

 

 

爆心地は当然……雁夜。

 

 

 

「っ!!!!」

 

 

 

時臣が叫んだその瞬間……雁夜は遮二無二つっこんだ。

 

 

 

だが当然まだ時臣に届くこともなく、爆発を起こす。

 

 

 

 

 

 

やったか……

 

時臣は爆発の後、煙によって視界が悪い中、そう考える。

数でダメならば範囲で。

避けることの出来ない爆発攻撃で仕留める。

実に単純で明快な、殺すための魔術。

普段の時臣からすればあり得ないと言っていい、戦術の組み立て方だった。

最初におごりすぎたためのツケと言っていいだろう。

そしてその油断が……

 

 

 

「時臣ぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

 

自らの敗北を招くことになった。

 

 

 

馬鹿な!?

 

 

 

明らかに避けることの出来ない爆発を見舞った。

故に普通の人であればいくら強化されていると言っても、確実に体がばらばらに吹き飛ぶほどの過剰な攻撃だった。

いくら魔力を吸収する魔剣……封龍剣【超絶一門】といえども、広範囲の攻撃を全て吸収することは出来ない。

 

今の状況では。

 

だが雁夜が所持している宝具は……封絶だけではなかったのだ。

 

 

 

「守」

 

 

 

そう思念を込めて彫られた木の板。

刃夜が自らの気を込めて造り上げた護符。

これが雁夜を守る壁となって……勝利へと導いた。

そして勝負を決める一撃を……

 

 

 

雁夜が振るった。

 

 

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

渾身の力で振るわれたその刃は……

 

 

 

時臣の体に深く食い込み、時臣の体を深く抉っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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