桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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開拓者

遠い……遠い旅路の途中。

いつものように……そうそれこそいつものように流されていた状況で、少女の声が聞こえた。

 

 

 

助けてと……

 

 

 

それが聞こえたのは偶然だったか?

 

偶然だったのかも知れない。

それでもこの声を聞き、この場に召喚されたのは……この時点では召喚されたという認識は当然なかったわけだが……よかったといってよかっただろう。

俺にとってではない。

 

 

 

召喚主に対してだ。

 

 

 

 

 

 

な、なんじゃと!?

 

それが現界したことで、暗闇の支配者であった存在、間桐臓硯は驚愕に眼を剥いた。

見た目は普通の日本人の青年だ。

だが、明らかにそれが発する力は普通ではない。

そして濃密な魔力の渦は、その存在が人ではないことを教えてくれる。

 

そしてこの存在に似た存在を……間桐臓硯は知っていた。

 

知らないはずがなかった。

 

 

 

その存在を縛り付けるための絶対命令権を造り上げたのは……間桐臓硯その人なのだから。

 

 

 

ば、馬鹿な!?

 

間桐臓硯の胸中は疑問と驚愕で渦巻いていた。

荒れ狂っていた。

それもそのはずだ。

この地で行われる第四次聖杯戦争のサーヴァントは、すでに規定の数である七騎全てが召喚されている。

つまり今自分の目の前に存在するのは八騎目のサーヴァントということになるが、そんなことはあり得るはずがなかった。

だが現実に起こってしまっている。

そして、そう思っているその刹那の時間……

 

一瞬にしてその謎の存在が目の前に剣を振りかぶって現れた。

 

 

 

「!?」

 

 

 

そのときにはすでに遅かった。

間桐臓硯は胴体を一刀の元に斬り捨てられていた。

そしてその瞬間に……間桐臓硯の瞳に色が消える。

 

何?

 

死んだが故に意志を失ったにしては、あまりにも急すぎた。

誰でも感じられる、明確な違和感があった。

だが、それはすぐに明確な形になって知らされる。

両断された身体がなんと驚くべき事に虫の大群となって崩れ、飛んでいったのだ。

 

……仕留め損ねたか

 

その様子を見て、突如として現界した存在は舌打ちをした。

そして抜刀した腰の物の、打刀を鞘に収めて……眼下の階段下を見る。

そこにいるのは数えきれることなど出来ないほどの虫の大群。

そしてその虫に嬲られていた小さな少女。

 

「っち!」

 

それを見てその存在は盛大に舌打ちをして、階段を降りながら小さく呟く。

 

「紅炎……解放」

 

その囁きに応じるようにして、左腕に紅に輝く炎が顕れた。

そして、その炎は一瞬にして地下空間全てを覆い、虫たちを消し炭すらも残さずに完全に消滅させた。

だが不思議な事に、地下室の床に寝そべっていた少女はそのままだった。

消滅するどころか火傷もしておらず、煤すらもついていなかった。

そして虫によって隠れていた身体が露わとなり……再度現界した存在は舌打ちをした。

 

「おにいさん……だれ?」

 

起き上がり、茫然としながら少女は現界した存在にそう問うた。

現界した存在は少女のそばに跪き、自らの上着の革ジャンを少女の身体に掛けた。

 

「いや……俺は声が聞こえた気がしたら、そのときにはこの場にいたから何とも言えないんだが、君は?」

 

優しく、少しでも不安を覚えさせないように、現界した存在笑みを浮かべながらそう問いかける。

 

「私? 私は……桜。とぉ……間桐、桜」

 

だが、目の前に突然現れ、周囲の全ての虫を消し炭にした存在がいるにもかかわらず、間桐桜と名乗った少女は、驚きも恐怖も感じることなく、そう返していた。

色彩の籠もらない目を向けて、少女は自分の名前を口にした。

その名前を聞いて、現界した存在は小さく頷いて、その頭を優しくなでた。

 

「桜ちゃんか。わかった。それとすまない。ちょっと身体を調べさせてもらうよ?」

 

撫で終えると、現界した存在は少女の身体全体を撫で始める。

少女はその行動の意味がわからずただ茫然と首を傾げるしかなかった。

 

「……これ普通に通報ものだよなぁ」

 

現界した存在は、自らの行動に盛大に溜め息を尽きながらも、その行動を止めることはしない。

やがて調べ終えたのか、手を離して桜の背中に左手を回した。

 

「ちょっと衝撃が来るけど痛くはない。ちょっとだけ我慢してな」

「……はい」

 

何をされるかはわからないため、桜はただそう答える。

現界した存在はその少女に笑みを浮かべて、左手に力を込める。

その瞬間に、紫に輝く炎が、現界した存在の左手に宿った。

 

「紫炎、解放」

 

そして一瞬だけ桜の身体が光り、見えないはずの何かの断末魔が小さく響いた。

その結果に満足そうに現界した存在は頷いた。

 

「大丈夫か?」

「何をしたの?」

「なーに、さっきの変な虫を完全に消し飛ばしただけだ。念のためこの薬を……」

 

腰のポーチから取り出した小瓶の中身を数滴、自らの手に乗せて舐める。

そしてその後、桜にその小瓶を手渡した。

 

「臭いが毒ではない。苦いが薬だから決して危ない物じゃない。飲んでおいてくれ」

「はい」

 

無感動に無表情に桜はその薬を飲み干した。

あまりにも反応がないその様子に、現界した存在は内心で盛大に舌打ちをしていた。

 

こんな小さな子供を、ここまで追い詰めるとは……一体何をしていたんだ?

 

自らの長年の経験から見た瞬間に斬り捨てた老人。

だが斬り捨てた瞬間に老人は虫の塊と化してどこかへと消えていった。

明らかに普通ではない存在だったが、しかし一つだけわかることがあった。

 

まぁ先ほどの状況から鑑みるに、あいつが元凶なのは間違いないだろう

 

状況から鑑みるにその通りだろう。

現界した存在は心の中で先ほどの存在をどのようにして消し飛ばすのかを算段しつつ、階段を上がって家捜しを行った。

 

まず着る物着る物。結構寒いな

 

現界した存在自らは問題ないようだったが、しかし自らの上着を羽織らせただけの幼子を連れ回すのは憚られるのだろう。

階段を上がった先の洋館の中を歩き回って家捜しして、何とか外に連れ出せるだけの服装を身に着けさせた。

そして跪いて、桜へと目線をあわせた。

 

「さて、とりあえず一段落したところで教えて欲しい。ここはどこなんだ?」

「ここ? ここは、間桐のおうち。私の……新しいおうち」

「なるほど。ではもっと範囲を広げよう。ここは日本……でいいのかな?」

「日本だよ」

 

日本、という単語に現界した存在が安堵の吐息を漏らしていた。

だがそれもすぐに終わり、次に……もっとも聞かなければならない事を、口にした。

 

「教えられる範囲で……そして教えてくれるなら教えて欲しい。さっきの爺さんはなんだ?」

 

何者であるか? という疑問は投げかけなかった。

それもそうだろう。

何せあの老人の形をした何かは明らかに人ではなかったのだから。

現界した存在が先ほどの老人の姿をした何かの質問をすると、恐怖するかのように小さく身震いをしていた。

その様子で現界した存在も無理に聞くのは無理だと判断したのだろう。

桜を優しく抱き留めて……頭を優しく撫でた。

 

「すまなかった、無理はしなくていい」

「……いいの?」

「あぁ。もちろんだ」

 

情報収集は自らやるか……だがそうなるとあの怪物の情報がわからなくなるが……

 

一度桜を落ち着かせてから、現界した存在は家の中の物色を再度始めようとしたのだが、その前に何かに気付いて動きを止める。

そして、桜を自分の背後に位置するように前に出て、右手に持っていた長い長い刀を左手に持ち替えて、右手を左腰に差している刀の柄へと持っていく。

 

脅威は余り感じないが……念のため

 

警戒心を露わにしながら、腰の刀を抜いた。

そして僅かに腰を落としたのだが……すぐにその体勢を元に戻した。

その後すぐに、ドアの様な者が少しだけ乱暴にあけられる音が、二人がいる部屋まで響いてくる。

その後、二人がいる部屋に入ってきた。

 

その男は、明らかに普通ではなかった。

 

 

 

「桜ちゃん!」

 

 

 

飛び込んで着た男は悲惨な状態といって良かった。

軽く見ても左目が機能しているようには見受けられず、左頬も醜く膨れあがり、肌の色も土気色と思えるほどに血の色がなかった。

また足を引きずっており、その様はまさに生きた死体のようだった。

 

「雁夜おじさん」

「桜ちゃん! 無事――……なんだお前は?」

 

ドアから入ってくれば位置的に現界した存在が先に目に入るのだが……そんなことよりも桜の方が大事なのだろう。

その男……桜に雁夜と喚ばれた男は、警戒心を露わにしながら現界した存在を睨み付けていた。

そして睨まれた現界した存在はというと……

 

……こいつ、よく生きてるな?

 

現界した存在は実に注意深く入ってきた男、雁夜という存在を注視していた。

そこに危機感はなく、ただただ観察のために見ているだけだった。

問いかけながらも何も返さない現界した存在のことを、入ってきた男は敵意むき出しで睨み付けていた。

その視線を受けてもなお、現界した存在は微動だにせず肩をすくめた。

その行動の意味がわからずに、雁夜はいぶかしげな瞳を現界した存在へと向けた。

 

「何のつもりだ?」

「いや、どうやらお前がこの子に向ける感情は本物みたいだなと思ってな。気配というか……その身体の中がさっきの老人みたいに変な感じがしたから警戒したんだが、どうやら違うらしい」

「老人って……臓硯の事か!?」

「ゾォルケン? それがさっき斬り飛ばしたら虫に化けた老人の名前か?」

「!? 斬り飛ばしたって……あのじじいを!?」

 

その言葉に、雁夜は心底驚愕の声を上げた。

そしてその言葉の真偽を確認するように、桜へと視線を投じて……桜が否定をしないことで更に驚き、そして懇願した。

 

「今すぐここから逃げてくれ! あいつが来る前に!」

 

洋館の部屋で悲痛な声が木霊する。

その声は本当に心からそう願っている声だった。

そしてその声に、何か感じる物があったのか……現界した存在は一つ小さく吐息をして、雁夜へと話しかける。

 

「事情説明をしてくれ。意味がわからないのはいつものことだが……それでも今回のはなかなかに切実そうだ」

 

わざとおどけるようにして、現界した存在は肩を大げさにすくめて見せた。

そして、桜の頭に右手を置いて優しく頭を撫でた。

その行為に対して、桜は何の反応を示さなかった。

僅かにも嫌悪すらも示さなかった。

それが雁夜にとっては決定的だった。

故に、思わず漏らしてしまった。

 

「……信用していいのか?」

 

まだ出会って間もない存在。

雰囲気から言ってもとても普通ではないその存在は、はっきり言ってしまえば怪しい存在でしかない。

だが雁夜にはそれでも縋るしかなかった。

自分の救いたい……青年が庇っている、桜のために。

そしてその桜を今背後に庇う存在は……

 

「少なくとも訳もわからないまま子供を殺すほど、とち狂っちゃいない」

 

そう言って、確かな意志の籠もった瞳を雁夜へと向けた。

嘘偽りのない言葉。

それだけではない感情が込められていることを感じた雁夜は……現界した存在に事情だけでも説明することにした。

 

 

 

「……わかった。俺の名前は間桐雁夜だ。君は?」

 

 

 

 

 

 

「俺か? 俺の名前は……刃夜。鉄刃夜だ」

 




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