桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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いいか、みんな
今回の話の合い言葉を発表する


ケイネスは優秀


それを理解して読んでくれ!


魂と器

「大丈夫ですか、アイリスフィール」

「えぇ……ありがとうセイバー」

 

切嗣が用意したセーフハウス……くたびれた武家屋敷の土蔵で横になるアイリのそばに、心配そうに跪きながら、セイバーが問いかけた。

問いかけられたアイリはただ力なく微笑むだけだった。

その弱々しい姿に、セイバーとしても何も言葉を返すことは出来なかった。

ぎこちない会話で何とかアイリを慰めようとして逆に空回っていた。

そんな優しいセイバーに、アイリはクスリと穏やかに笑っていた。

だがそれでも騎士であり、戦士なのだろう。

舞夜が持ってきたバイクに興味をそそられて、土蔵を後にする。

そして、アイリと舞夜が二人で重い会話をしているのを……

 

 

 

あ~~~~そういう感じなのかぁ……

 

 

 

土蔵で堂々と、刃夜は胡座を掻いてセイバーとアイリ、そしてアイリと舞夜のやりとりを聞いていた。

当然だが、三人はだれも気付いていなかった。

刃夜の左腕は、淡い紫の陽炎のような光が、灯されていた。

 

完全なる気配遮断と認識阻害。

 

その力を遺憾なく発揮して……刃夜は女性三人の動向を監視し、その会話を堂々と聞いていた。

はっきり言って完全にストーカーまがいの行動と言えなくもない。

だがこの行為が必要だと……何故か強迫観念にも似た何かが、刃夜に強く働きかけられていた。

だが、刃夜自身も自分自身の行動が不可解で苛立っているのだろう。

実に渋い顔をしてアイリと舞夜のやりとりを見ていた。

 

違和感の正体はわかったが、しかし俺の力だけではどうにもできん

 

どうやら情報収集を終えたらしく、刃夜は舞夜が扉を開けるのと同時に外へと出て、一目散に走り出した。

その方角は自らの家へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

実に重い沈黙だった。

刃夜がリフォームした武家屋敷の居間。

普段は三人で和気藹々と食事をしたり、桜が勉強したりしている部屋なのだが、今いる人物の影響で非常に重苦しい雰囲気と相成っていた。

ちなみにいるのは雁夜、ケイネスとソラウだった。

 

「……」

「……」

「……」

「あの……お茶入れたよ、雁夜おじさん」

「ありがとう、桜ちゃん」

 

どうして良いかわからなかったが、それでもどうにかしたくてお茶を入れてきて、場を和ませようとしてくれた桜に心から、雁夜はお礼を言った。

昨夜のドーピングによる肉体の痛みがあったが、何とか気力で雁夜はそれを表に出そうとはしなかった。

だが当分無理をすることは出来ないと、自分でもわかっていた。

刃夜にもしばらく安静を言い渡されていたので、大人しくしていた。

そんな雁夜の対面に座っているのはケイネスとソラウ……。

元はランサーのマスターだ。

車いすから降り、ソラウに支えられながら慣れない畳に座って、自らの対面に座っているケイネスとソラウという図式。

 

どうして……こんなことに?

 

元々聖杯戦争という魔術による戦いの敵対者だ。

正直こうして対面しているのは落ち着かなかった。

だが雁夜はまだ余裕があった。

何せ現界こそしていないが、自らのサーヴァントであるバーサーカーがそばにいるのだから。

逆にケイネスとソラウは丸腰でこの場にいるのだ。

どちらかというとこちらの方が萎縮しそうなものだ。

が、そこはケイネス……貴族の当主とでもいうべきか、平民に対して弱みは見せたくないのか、気丈にも平静を保っている。

そばにソラウがいるからかっこわるいところを見せられないという理由もあるのだろう。

そしてそれ以上に興味を持ったのは、雁夜自身だった。

 

……ここまで体が回復しているとは

 

ケイネスも使い魔を使用していたため、ある程度は自分以外の聖杯戦争参加者の情報を持ち得ていた。

そして自らのサーヴァントであったランサーと、戦術的に相性が良かったバーサーカーのマスターだ。

知らないはずがなかった。

そしてその雁夜は、遠からず自滅するだろうと踏んでいたのだ。

今でこそ刃夜の肉体改造という名の治療で回復へと向かっているが、実際問題、雁夜は聖杯戦争を無事に切り抜けても一週間と持たない命のはずだった。

だが、その予想を裏切る形で、雁夜はケイネスの目の前にいた。

それも体をずいぶんと回復させて。

それどころか以前よりも体からあふれ出る魔力の量と質が変わっているのを、ケイネスは傷ついた体でも感じていた。

そこまで回復させたのがなんであるのかわからなかったが、それでも「どのように」したのかはわならなくとも、「誰が」したのかは考えるまでもなかった。

 

あのイレギュラーなサーヴァントか……

 

その存在を思い起こして、ケイネスは思わずギリッと、歯を食いしばっていた。

ちなみにどうしてケイネスとソラウがこの刃夜の武家屋敷にいるのかというと、昨夜ケイネスとソラウを切嗣の魔の手から救った際に、刃夜がこの武家屋敷に来るように言っておいたのだ。

ケイネスからその場にいない、別の誰かの濃い血の臭いを嗅ぎ取っていた刃夜は、ケイネスに逃げ込み先として自らがリフォームした家を案内していたのだ。

刃夜は明確には理解していなかったが、ケイネスが殺したのは言峰璃正であり、第四次聖杯戦争の監督役だった。

人殺しをしたケイネスが無事に逃げられるかわからなかったため、匿うために刃夜は武家屋敷を逃げ込み先として提案したのだ。

以前のケイネスであれば問題なかっただろうが、しかし今の体ではケイネスはほとんど魔術を使うことが出来ない。

逃げる際には大きなディスアドバンテージになる。

さすがに命だけ救ってそれで終わりというのは刃夜としても看過できなかったのだろう。

ケイネスとしては正直敵からの施しなど受けたくもなかったのだが、しかし自らの体と何よりソラウのことがあり、刃夜の提案に乗るしかなかった。

そして昨夜はソラウの治療を重点的に行い、問題ないレベルにまで回復して皆が就寝したのだ。

 

 

 

もっとも、正式に調べられたのならば、言峰璃正は裏で遠坂時臣と繋がっていたためそこまで大事にはならなかったりする。

 

 

 

なお、この晩で刃夜はこの世界に召喚されてから初めてまともに就寝をすることが出来ていた。

臓硯を殺すまでは油断できなかったためだ。

眠そうにしながらも刃夜の帰りを待つ桜と、その桜を見守るために一緒に外で待機していた雁夜は、刃夜が予想外の二人を連れてきて驚いたものだった。

とりあえず刃夜が匿うと言い出したこと、そして自らが絶対的な優位者ということもあり、雁夜としても反対する気にはならなかった。

だが、その提案者でありこの家の最強の存在である刃夜は朝から不在だった。

ほとんど事情を説明されていないため、こんな重苦しい沈黙が起こっていたりする。

 

「……」

「……」

「……」

 

当然だがケイネスとしても何も言うことが出来ない。

平民に平伏する気もないが、しかしかといって未だバーサーカーが脱落してない以上、魔術も使えないケイネスでは話にもならない。

ソラウも素養はあれど魔術的な修行はほとんど行ってないため、魔力はあるが戦力にはならないのだ。

故に沈黙するしかなかった。

 

「……」

「……」

「……」

 

「ただいま」

 

そんな沈黙を破ったのは当然と言うべきか、居間へと音もなく気配もなく突然出現したといっていい刃夜だった。

全員が驚くが、ケイネスは貴族として何とか平静を保っていた。

雁夜は驚きそちらに目を向けて、直ぐに恨めしそうに目を細めた。

ソラウは純粋に驚いているのか、口を開けてぽかんとしていた。

そんな中桜だけは特に驚くこともなく、刃夜の元へと近寄って刃夜の足に抱きついていた。

 

「刃夜おじいちゃん、おかえりなさい」

「ただいま桜ちゃん。留守にして悪かった」

「刃夜、どこに行ってたんだ?」

「ちょいと情報収集にな」

 

情報収集?

 

刃夜が行うことが意味不明なのはいつものことだったが、それでも悪いことはしてきないと思える程度には、雁夜も刃夜のことは信頼していた。

だが迷惑な行為をするなと言う気持ちがないわけはなかった。

 

「とりあえず飯にするか? ケイネスとソラウの二人組は……パンで良いか? リクエストがあれば叶えられる範囲で答えるが?」

「そんなものはどうでもいい。何故私たちを助けるようなことをする?」

 

刃夜の朝食の言葉に反応せず、ケイネスは刃夜に問いを投げた。

だがそれが当然だろう。

何せケイネスからすれば、刃夜は紛れもない敵であったのだから。

 

ケイネスから見れば……だが……。

 

 

 

まぁ警戒もするか? さて、どうしたものか?

 

 

 

敵対するつもりがない刃夜……敵対する気があるのなら、とっくの昔に殺している……だったが、ケイネスの気持ちは当然理解できるため蔑ろにする気はなかった。

 

「別に? どうもするつもりはない」

「何?」

「というかどうとでもするつもりならとっくにそうしている。雁夜にもいったが、これは強者の余裕だよ」

「何だと!?」

 

さすがに自分を格下と見られてはケイネスとしても黙ってられなかったのか、怒りを露わにしながら刃夜に食ってかかろうとする。

だが傷ついた体では満足に怒鳴ることも難しく、体のバランスを崩してしまう。

 

「ケイネス、落ち着いて」

「ソラウ……」

 

そのケイネスをソラウが支えた。

片腕を失っているが、それでもソラウの体の欠損はそれだけのため、成人男性とはいえケイネスを支えるのは問題なかった。

まだ愛情というのは遠いようだが、しかしその支え直す仕草には確かな心配と情があった。

どうやらそれなりにうまくやれそうみたいである。

 

「ともかく飯にしよう。あんなあばら屋で過ごしてたからろくな生活送ってなかっただろ?」

「それは……」

 

事実を言い当てられてケイネスは黙るしかなかった。

ちなみに刃夜が巨大海魔戦後、すぐにケイネスの元へ行けたのは拠点を知っていたからだ。

深夜に臓硯の害虫駆除を行う際に、街の見回りも行っていたのだ。

更に精神分身体での監視があるため、人の様子を看破するのは朝飯前だった。

 

精神分身体のスキルって、そのために身に着けたものだしな

 

精神分身体という……若い頃の刃夜だったなら絶対に匙を投げるような技術を身に着けたのは、他人の精神状況を知るために必要になったからだ。

精神体はよほどの修練がなければ隠すことは難しい。

それで相手の黒いところを見抜いたり、また相手の精神状態を知ることで人を助けることも出来るためだった。

 

特に……しゃべることすらもままならなくなった人を助けるためには、かなり重要なスキルだった

 

そして有無を言わさずに食事をさせるため、刃夜は……

 

「秘技! 分身もどき!」

 

と、超高速で動き、紫炎、風翔の力などを使用しまくった。

具体的には風翔の力で食材を宙に浮かせて、紫炎の力で宙に浮いた食材を調理するという……完全に離れ業をしていた。

溶き卵を作る際も卵を割ったと同時に宙へと浮かばせていくつもの卵が固まって、宙に浮かせたまま菜箸でかき混ぜたりしていた。

調味料も適当に宙に舞わせた後、風の力を用いてそれぞれの料理の宙へと向かわせて調理を進める。

コンロの数がいくつもあるようなものなので、僅か十数分で五人分の料理を用意した。

 

「ふぅ、良い仕事した」

「相変わらず、無駄なことに無駄に力使うよな……刃夜って」

 

そんなあほな刃夜に雁夜は半ば呆れていた。

しかしきちんと配膳は手伝っているため、呆れつつも仲は良好のようだった。

桜も進んで手伝いを行っている。

ケイネスとソラウが逃げ出す暇も、立ち去る暇もなく……食卓にいくつもの料理が並べられた。

 

「では、食べよう」

「「「いただきます」」」

 

大皿に盛られた卵焼きや、パンに載せるための卵サラダ等をそれぞれが好きに取り合って食べるスタイルだ。

大皿に盛られているため、毒を混ぜるのも難しい。

それをアピールしているのだろう。

またパンにしたことで、二人とも体が不自由になっていても食べやすいという配慮なのだろう。

 

何故ここまでする?

 

純粋に朝食を振る舞われ、さらには一夜の寝床まで用意されて、ケイネスの頭を疑問で一杯だった。

だがそれも当然だろう。

間違いなく聖杯を巡る敵同士だったのだから。

当然だが、刃夜もその辺わかっているため、食事をしながらケイネスの疑問に答えた。

 

「安心しろ。無償って訳じゃない」

「!? 何が目的だ?」

「いや、ちょっと手伝って欲しいことがあってな。それに対する前払いだよ」

「手伝う……だと?」

「とりあえず食え。毒も入ってないし、手伝うことが難しいとか出来なかったとしても、代金なんかも請求しない。その程度で困る程、金がない訳じゃない」

「それを刃夜が言うのはお門違いな気がするがね」

 

黙々と食いながら、刃夜の言葉に雁夜はぼそりと致命的な口撃を仕掛けてきた。

さすがにそれには刃夜も反論できなかった。

 

「……すみません、調子に乗ってました雁夜さん。お金出してもらってありがとうございます」

 

ヒモである……といっても桜と雁夜の体の治療や、食事の用意、勉強や料理の手ほどきなどしているため、ヒモという表現は語弊があるが……ため、低姿勢になるしかなかった。

 

「……気持ち悪いからさん付けやめろ」

「雁夜おじさん、いつもありがとう」

「雁夜おじさん、いつもありがとう(声真似)」

「桜ちゃん、良いんだよ気にしないで。刃夜……さすがに切れるぞ?」

「うん、悪い。今のは俺も「ないわ~」と思った」

「全然似てなかった」

「だな、桜ちゃん」

 

そんな三人の下らないやりとりを見ながら、ケイネスは更に懐疑的な目を刃夜へと向けるが、しかし先ほどよりはましになっていた。

一応要求があることである程度は納得したのだろう。

そしてそれ以上に、目の前の料理に引かれていたことも事実だった。

 

「ケイネス。大丈夫よ……。殺すつもりならきっともう殺されているもの」

「ソラウ……」

「私とあなたにとって……いいえ、私達三人にとって、この人は恩人のはずよ。恩人からの要求を断るような狭量ではないでしょう?」

 

さすがにソラウにそう言われては返す言葉もなかったらしい。

添えられたソラウの左手の優しさを感じながら……右手の平をなくしてしまったソラウの右腕に優しく触れた。

 

「心配しないでくれソラウ。君の右腕は直ぐにどうにかしてみせる。私の体も、なんとかなる」

「そうなの?」

「あぁ、協力を仰げる魔術師がいる、それに頼めば――」

「その話……詳しく聞かせてもらえないか?」

 

何?

 

先ほどまでのひょうひょうとした態度とは打って変わって、刃夜が真剣に聞いてきているのがケイネスとしても直ぐに理解できた。

だがとりあえず飯を食う話になり、一通り朝食を終える。

そして刃夜は全ての事情を……ケイネスへと話した。

 

一人の女性をどうにかしたいこと。

その女性が、どうやら普通の人間ではなくホムンクルスの存在であること。

ホムンクルスの肉体から魂を抽出し、別の肉体に植える必要があること。

 

この三点を話されてケイネスはふむ、と……小さく頷いていた。

 

「出来るか? 悪いが俺は前にも話したが並行世界の人間で、魔術はからっきしだ。並行世界の魔術的なものはある程度使えるが、それでも人形とかから魂を取り出すなんて高度な技術は俺にはない」

「そんなことが出来るのか? というか、どうしてそこまでやる必要があるんだ?」

「何故かはわからんが、しなければならないと思う俺がいる。それだけが理由だ、雁夜」

 

首をひねっているが、それでも自分の気持ちを否定する気はないらしく、刃夜まっすぐにケイネスへと目を向けていた。

おそらく先ほどの会話でケイネスの力が頼りになると、刃夜もわかっているのだろう。

逆に言えばそれに縋るしかないとも言えた。

そして刃夜の読み通り……ケイネスは今の話を聞いてほとんど問題ないことがわかった。

 

だが……ケイネスには刃夜の頼みに答えるための気持ちがなかった。

 

恩もある。

 

義理もある。

 

だが、勝者とも言える刃夜に対して何か力を貸すという行為を……ケイネスは納得できそうになかった。

 

だがケイネスだけではないのだ。

 

この場にいるのは。

 

 

 

「力を貸してあげましょう、ケイネス」

 

 

 

そう、ケイネスがもっとも大切であると断言できる、ソラウが。

 

 

 

「ソラウ……」

 

 

 

「この人が困っているのは間違いない。あなたもプライドが許さないのかも知れないけど……けどその気持ちを抱くことが出来るのも、この人のおかげでもあるわ」

 

 

 

「それは……そうだが……」

 

 

 

「それに先にも言ったでしょ。これはあなただけの問題じゃない。私たち三人の問題でもあるの」

 

 

 

三人とは、ケイネスとソラウ……そしてランサー事、ディルムッドの事だ。

 

先の切嗣の奸計で殺されそうになったのは、この場にいるケイネスとソラウだけではないのだ。

 

あのまま刃夜が妨害しなければ、三人は間違いなく何の望みもなく、死ぬだけの運命だったのだから。

 

そして、ソラウがランサーの名を出したことで、ケイネスはランサーに対してソラウが抱いた……恋慕の気持ちを思い出す。

 

 

 

「ソラウ……君はまだ、ランサーのこ――」

 

 

 

ランサーのことを思っているのか? そう問おうとしたケイネスの口を、ソラウが左の人差し指で強引に塞いだ。

予想外に触れられた事で思わず頬を赤らめたケイネスだったが、そのソラウの寂しげで優しげな笑みを見て……固まった。

 

 

 

「確かにランサーに恋をしたのかも知れない。初めて感じた心から湧き上がる衝動に、抗わなかった」

 

 

 

「……」

 

 

 

「でもあのときわかったの……。命の危機に瀕し、聖杯戦争を投げ出してでも、私を取ってくれたあなたがいてくれたから」

 

 

 

「ソラウ……」

 

 

 

「確かに恋をしたのかも知れない。でもそれは恋でしかないわ。まだあなたに対してどう接すればいいのかわからないのが、本当のところなのだ。でもあなたといたいと……私は思っているわ」

 

 

 

その言葉はケイネスに驚きと喜びをもたらした。

自らが惚れているのは重々自覚していたが、それでもソラウが自らに対して惚れているとは思っていなかった。

だからこそ、今の台詞は何よりも嬉しいものだったのだ。

 

 

 

「……別に構わんが、人前でラブラブするのはどうなんだ?」

 

 

 

ぼそりと、だが風の力を使ってはっきりと二人に聞こえるように、刃夜がそんな言葉を漏らしていた。

だがその表情がニヤニヤと実にいやらしく笑っているところを見ると、からかっているだけなのだろう。

だがケイネスとソラウは慣れてない恋愛的な行動ということに気付いて相当恥ずかしかったのか、二人とも顔どころか耳まで真っ赤にしていた。

そんな様子を雁夜は少々疎ましく、そして桜はどうやら恥ずかしく思えたのか、少し顔を赤くしていた。

 

少々気まずくなりながら……気まずかったのはケイネスとソラウだが……先ほどの話へと戻った。

すなわち……アイリスフィール・フォン・アインツベルンを救うための話だ。

刃夜も隠す必要はないため、アイリの事を話していた。

といっても、致命的な秘密などは明かしていなかったが。

そして刃夜からの願い……アイリの魂を分離すること……に対してケイネスはこう答えた。

 

「おそらく可能だろう」

「マジか!?」

 

ケイネスの言葉に刃夜は驚きと喜びを隠せなかったのか、思わず大きな声を上げていた。

何故敵陣営の存在をここまで気遣うのかわからないケイネスはいぶかしんだが……そこまで気にしなかった。

 

「だが、今の私では無理だ」

「……体的な意味でか?」

「……あぁ」

 

この状況では嘘を言うだけ無駄だと判断したのだろう。

ケイネスは素直に自分の弱みを晒した。

といっても、ケイネスとしては体をどうにかする伝手があるからこそ、こうしてさらけ出すことが出来た。

また刃夜が相手であるということもあるだろう。

間違いなく命の恩人であることは、ケイネスもわかっているのだから。

しかしそのケイネスに対して刃夜はあっさりと

 

「ならお前も治療しよう」

 

と、ケイネスがある程度は予想しつつも、しかし言ってくるとは思えなかった言葉を口にしたのだった。

 

「治療だと?」

「あぁ」

「……それはその男と同じようにと言うことか?」

 

聖杯戦争開始時よりも、回復しているのはケイネスもわかっていた。

だがその治療を……かなりの高度な治療を平気で敵であった者に施そうとする刃夜の思考が、ケイネスにはわからなかった。

 

「必要なことはするまでだ。そしてそれとは別に頼みたいこともある」

「……それは抜き出した魂の新たな器の話か?」

「さすがだ。話が早い」

 

そう言いながら刃夜が取り出したのは、拳ほどの大きさの宝石の原石だった。

だがそれを見て、ケイネスは瞠目した。

宝石自体が見事なこともあったが、その石に秘められた膨大な魔力の波動を感じ取って驚いていた。

 

「魂の器。これが代金で足りないか?」

「代金……だと!?」

 

ケイネスはその申し出に再度驚いた。

確かにケイネスが自らの肉体と、ソラウの右腕にと思っている物は、間違いなく一級品であるため安くはない。

だがそれでも決して手が出せないものではない。

刃夜が取り出した宝石の原石の価値とは、比べるべくもなかった。

 

「先にも言ったが、この件に関しては俺は俺のために動いている。故に出費などは全く惜しまない」

「そんなにすごいのか? 確かに綺麗だけど」

「だね。すごい綺麗」

 

これだから魔術に疎い人間は……

 

自らの目的のためとはいえ、法外な報酬を出そうとしている刃夜と、宝石の価値を全く理解していない雁夜と桜に対して内心で辟易していたが……それでも宝石が欲しくないと言えば嘘だった。

 

ちなみに、この宝石は天閃石(レビテライト鉱石)と呼ばれるものだった。

 

だがここに至っても、ケイネスは手を貸すのを渋っていた。

確かに報酬も破格であり、自らの技量であれば不可能ではないと思っていた。

そんなケイネスの心境を正確に見抜いていた刃夜は……居ずまいを正し、正座して床に手をついて、深く深く頭を下げた。

 

「!?」

「刃夜……お前」

 

「ケイネス……いや、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト殿。どうかあなたの比類なきその技量で、俺を助けてください」

 

刃夜の行動に、ケイネスだけでなく雁夜も驚いている様子だった。

圧倒的存在である刃夜が頭を下げるというのは、それだけ衝撃を伴うものだった。

刃夜の力を重々に知っている雁夜からしたら目を疑う光景だろう。

だが刃夜としては必要であるため行った行為なので、別段頭を下げることを嫌う理由はなかった。

 

それにこの類の……プライドの高い人間ってのは頭を下げないとダメな奴は多いからな

 

と、ケイネスのことを正確に見抜いていたりする。

さすがに肉体的年齢が若いとはいえ、精神年齢は年の功というべきなのだろう。

また、プライドの高い人間のため頭を下げなければならないという打算的な行動だったが、ケイネスの力が必要なのは事実なので、刃夜としては本心から頭を下げて、お願いをしていたりする。

そしてその読み通り、ケイネスの協力を刃夜は取り付けたのだった。

 

といってもまずケイネスを運動させることから始まったのだが……。

 

そしてケイネスの伝手を使って、近日中に体を入手する手筈を整えた。

といっても、もともと体に負傷を負った際にすでに段取りをつけていたので、すぐに届く事となった。

翌日の朝、日本に届く手筈となっていた。

 

「なるべく急いだ方が良いのは間違いがない」

「やはりか?」

「お前の話が本当であれば、おそらく次にサーヴァントが失われれば魂が持たない。明日にでも行うべきだ」

 

 

 

「オーケーだ。なら明日は人妻を攫いに行くとしよう」

 

 

 

この発言だけ聞くと実に危ない言葉を、刃夜は何の臆面もなく発するのだった。

 





いいかいみんな

改めて言うぞ

ケイネスは優秀


そう言うことだw


当日追記
N-N-N様、誤字報告ありがとうございました!
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