その日のウェイバーの起床は早かった。
朝に起きて間もなくに、自分が寄生している……誤字ではない……老夫婦に帰りが遅くなることを告げると、必要な物を求めて新都へと向かった。
寝袋や食料品、医薬品、更に使い捨てカイロなどを大量に買い込み、とんぼ返りのように深山町へと戻る。
そして少々血生臭がかすかに残る芝生へと足を踏み入れて……先ほど購入した鰻卵丼を食し始めた。
そして実に珍しいことに……そのそばにライダーの姿がない。
だがそれも無理からぬ事だったのだ。
二夜連続に、自らの切り札である固有結界を発動していたのだから。
必要な魔力が枯渇しかかっているのだ。
そのため一晩経ってもライダーが現界しないことに違和感を覚えたウェイバーは、ライダーを召喚した魔法陣があるこの場所へと、赴いていた。
「何で黙ってたんだよ?」
『いや、余は生粋の魂喰らいであるが故になぁ。下手をすると命すらも奪いかねんのだ。それよりも、坊主、それはうまいのか?』
「自らの事よりも食べ物が優先なのか!? お前は!? ……まぁ正直に言ってまずいよ。日本の食文化も底が知れるな」
「よろしい! その言葉!!! 俺への挑戦状と受け取った!」
まるで独り言のように、虚空に話しかけている……といっても霊体化しているライダーと会話しているのだが……ウェイバーの耳にそんな大声が響いた。
周囲に先ほどまで誰もいなかったはずだというのに、響いた言葉と……何よりいくら会話していたとはいえ、自らのサーヴァントであるライダーが全く気付かなかったことで焦った。
だが、相手を見てすぐにその焦りは疑問へと変わった。
「……えっと……ジンヤだったか? なにしてんだよ?」
思わずウェイバーがそう問いかけてしまうくらいに。
ウェイバーの言うとおり、自らのそばへといつの間にか忍び寄っていたのは刃夜だった。
桜を片腕で抱き、もう片方の腕は……何故か台車を引いていた。
しかも台車の後ろに更にもう三台の台車が紐で結ばれて牽引されている。
計四台。
一台目は大量の風呂敷に包まれている何かが置かれており、二、三、四台目はビニールシートで覆われている。
二代目は角張っている山盛りだが、三、四代目は正真正銘山盛りの何かが積載されている様子だ。
「なに、ちょっとライダーに詫びをしにきたんだ」
詫びって……どういうこと?
ウェイバーは刃夜の言っている意味がわからず、首を傾げるしかなかった。
敵対しているはずのサーヴァントである刃夜と、ライダーが現界すらも難しいほどに消耗している状況で対峙しているというのに、少々危機感に欠けている言っていいかもしれない。
だが刃夜が戦闘をする気がないというのは、その荷物を見なくてもわかる程に、刃夜からは一切の敵意を感じられなかった。
そんな刃夜は台車からシートを取り出して地面へと敷いた。
そしてその最中に、小さな小瓶を取り出してシートに座らせた桜に、一口瓶の中身を舐めさせた。
「うぅ……おいしくない」
「ごめんな桜ちゃん」
……何してんだ、こいつ
意味不明でしかない刃夜の行動に、さすがに呆れ始めたウェイバーへ、刃夜は桜へと中身を一口飲ませた瓶を投げ渡す。
「とりあえずライダーが現界しないことにはどうしようもないからな。それは魔力回復薬だ。毒じゃないから飲んでくれ」
何を言って――
敵からの施しであり、飲食物を口にするなど普通で考えればあり得ない。
だが刃夜は自らのマスターであり、幼子である桜に一口それを呑ませたばかりだ。
つまり自らのマスター……それも幼子……で毒味役をさせるという、普通のマスターであれば侮辱にも等しいことを行ったのだ。
さすがにこれを飲まないわけにはいかなかった。
『坊主。これを飲まなかったらさすがに男が廃るというものだぞ?』
「誰も飲まないなんて言ってないだろう!? 飲むよ!」
飲もうとしていた矢先に自らのサーヴァントからも言われて腹が立ったが、少し疑ってしまったのは事実なので、少々焦りつつもウェイバーは渡された瓶の中身を飲み干した。
ドロドロの黄色い液体を。
っ!? なんだこ!?
味の強烈さに一瞬顔をしかめるが、それはすぐに驚きと感動に変わった。
何せその液体を飲んだ瞬間に、凄まじいほどの活力が体に満ちたのだから。
それと同時に凄まじいまでの魔力で満たされたことに気付いた。
「こ、これは!?」
「魔力回復薬だな。まぁ正しくは活力剤だけど……効力は一緒だろ」
活力剤って……これが!?
先ほど栄養ドリンクで驚愕していたウェイバーからしたら、これはもはや魔力そのもののだった。
魔力を液体にして飲んだ、と言ってもいいほどに。
それほどまでに体に魔力が溢れている。
それこそライダーが現界するどころか、戦車で空を飛び回ることが出来るほどに。
「これでライダーも現界出来るだろう。ライダー、同じものお前にも渡すから実体化して飲んでくれ」
「ずいぶんと気前がいいな? どういう風の吹き回しだジンヤよ?」
「先にも言ったが、キャスター戦での詫びだ」
ライダーが現界し、刃夜から投げ渡された小瓶を受け取り、一気に呷る。
ライダーも魔力の回復に驚きつつ、刃夜に問うた理由が「詫び」だった。
二人とも意味がわからないとわかっているのか、刃夜は苦笑しつつ、姿勢を正して静かに頭を下げた。
「!?」
「どうしたジンヤ? 何故頭を下げる?」
「すまない。巨大海魔との戦闘で、俺は全力だったが、本当の全力ではなかったんだ」
「む? そりゃどういう意味だ?」
頭を下げられたライダーは、静かに刃夜を見下ろす。
その静かな迫力に、ウェイバーは言葉を発することが出来ず、成り行きを見守るしかなかった。
その雰囲気を察してか、桜も何も言えないようだった。
刃夜はそれがわかっているのか、頭を上げるとただ静かに、ライダーへと……征服王イスカンダルへと瞳を向けた。
「俺は自らのマスターを救うために動いていた。そしてあの巨大海魔がおそらく……最初で最後のチャンスだった」
「……ふむ」
「故に戦闘を行いつつも力を温存しなければいけないため、巨大海魔に手こずる結果となった。そのせいでライダー。お前に過度な負担を強いてしまった。その詫びに来たのだ」
ウェイバーは刃夜の台詞で、冬木教会でキャスター討伐のために集まった使い魔の中で唯一、単身乗り込んできた刃夜の台詞を思いだしていた。
自らのマスターを救う為だと。
その目的のために、刃夜は巨大海魔とは別の行動を行っていたという。
確かにウェイバーも少々気になっていた。
巨大海魔が、セイバーの宝具で消されるそのとき……つまりライダーの固有結界が消え去ったそのとき、刃夜の姿はどこにもなかったのだから。
しかし刃夜は何をしていたのかまでは語らなかった。
ただ確かな意思の込めた瞳を、ライダーへと向けるのみだった。
「一つ聞かせよ。ジンヤ」
「あぁ」
「無事に役目を果たせたのだな?」
それは確かな問いかけだった。
それこそ、王からの問いであるというように。
その二人の光景を見て、ウェイバーの胸に何か痛みが走ったが……そのことについて考える前に、刃夜その問いに答えた。
「あぁ」
刃夜のその答えに、ライダーは静かに、だがはっきりと頷き……破顔した。
「ならばよい! 貴様は己がすべき事を行い、それを果たした。それなら何も問題はなかろう!」
快活に笑みを浮かべて、ライダーはそう豪快に笑った。
その様子にウェイバーは呆気にとられていたが、何故か胸にもやもやした感情が宿った事に、気付いていなかった。
「してジンヤよ。まさかこれで終わりとは申すまいな?」
問答は終わったとでもいうように、ライダーは刃夜の肩を叩きながら、刃夜の背後にある台車数台に乗った大量の何かに、目を奪われている。
そのライダーの様子に苦笑しつつ、刃夜は大きく頷いた。
「無論だライダー。ちょうどこちらのやるべきことも終わったのでな。お祝いもかねて盛大にやろう!」
そう言いながら刃夜は一台目の台車に乗せられた、いくつもの布に包まれた何かを、レジャーシートの上へと載せて……その布を開いた。
その布の中身は……五段重ねの巨大なお重だった。
しかもそれが数にしておよそ40。
段数で言えば200にもおよぶ膨大な数だ。
そしておそらく何かしらの力を使っていたのだろう。
布をとくと同時に、凄まじいほどおいしそうな匂いが、辺り一帯を支配した。
「ほっ!? これはよもや」
「俺が造った大量の料理だ。更に当然……」
「酒もあると言うことだな!?」
これ以上ないほどの喜びようで、ライダーが刃夜にそう問うた。
その問いに刃夜は応えるように……手から酒瓶を出現させてはシートにおき、出現させてはシートに置いておく。
一升瓶にしておよそ二本。
だが、とりあえず出現させただけのようで、まだまだあると見て良いだろう。
さらに台車には瓶ビールが二十ケースほど置いてあった。
他にも水やオレンジジュース等の清涼飲料水が瓶詰めがケースで五。
一体何十人で宴会をするのかと言うほどの、料理の量と酒の数がシートに並べられる。
「行くぞ征服王! 胃の貯蔵は十分か!?」
「良かろう! 貴様の料理! この征服王イスカンダルが直々に征服してくれようぞ!」
ドカッとシートの上に座り、ライダーは喜色満面にそう宣言した。
その対面に刃夜が座り、持ってきていた巨大な枡をライダーに渡した。
意図を読み取り、ライダーは刃夜へとその枡を掲げた。
刃夜はライダーの枡に注いだ後、自らも枡を持ち酒を注いで……枡を打ち付け合った。
「では、大いに騒ごうぞ!」
「あぁ、望むところだライダー!」
「「乾杯!」」
そして盛大に宴会を始める。
ちなみに今現在は真っ昼間である。
置いてけぼりで話が進んでいたことと、何よりも先ほどまでの静かな迫力のある問答は何だったのかと……そういう気持ちで支配されたウェイバーは……
「なにやってんだよぉぉっぉぉぉぉ!?!?!?!」
と、同じく大声を上げるのだった。
だが、その程度で酒の入った子供のような大人と、酒と料理が好きな仙人もどきの二人を止められるはずもなかった。
さらにそこで予想外の事が起こった。
ライダーは刃夜と杯を交わして直ぐに……刃夜に問うた。
「刃夜よ、貴様は先ほど余に詫びをすると……確かにそう言ったな?」
「……言ったが? 気にくわなかった?」
確認された事で、自らの行動がライダーを不快にさせたのかと、刃夜は思わずそう問いを返した。
だがライダーが怒るわけがない。
怒っているわけではないが……少し考えがおよんでいなかった。
ライダーがニヤニヤと、実におもしろいことを思いついたと言うように笑みを浮かべているのを見て、刃夜に少し悪寒が走った。
「それでは足りん、足りんぞジンヤ!」
「何?」
そしてその笑みを横から見ていたウェイバーにも……嫌な予感を悟らせたが、そのときにはすでに遅かった。
「出でよ! 我が無双の軍勢よ!」
「ふぁ?」
「ちょっおま!?」
刃夜が間抜けな声を上げ、ウェイバーが驚愕に目を剥くが時すでに遅し。
照りつける灼熱の太陽。
晴れ渡る蒼穹の空。
僅かに凪ぐ程度の風が、暑い灼熱の空気を泳がせている。
先ほどまで確かにちょっとした木々に囲まれた芝生の上にいたのだ。
そしてその灼熱の砂漠には、場違いなレジャーシートに座った刃夜と桜、ライダーとウェイバー。
そしてライダーの背後には……数えるのがばかばかしくなるほどの人間がいた。
ライダーの固有結界、
それを発動させたのだ。
本来であれば警戒して然るべきだろうが……しかし警戒する理由がなかった。
何せ臣下は誰一人として、武器を手にしておらず、更に鎧も着ていなかったのだから。
何よりライダーの臣下の表情には、確かな敬愛の笑みが浮かんでおり、その笑みを自らの王と刃夜へと向けていた。
「何してやがりますかおまえはぁ!?」
当然だが、この状況になってウェイバーが咆えないはずがない。
あまりに驚きすぎて声が声になっていなかったが、それでも彼の叫びを止められる者は誰もいなかった。
「せ、せっかく回復したのに!? いきなり切り札使ってどうすんだよぉぉぉ!? しかも、戦う気がないだろう!? なんで使いやがりますかお前ってやつはぁぁぁぁ!?」
「まぁ、落ち着け坊主。これには余にも考えあっての」
「考え……か」
刃夜はため息を吐きながらそんな言葉を漏らした。
そしてその言葉の口調で、ライダーが何を言わんとしているのかわかったのか、大いに肩をすくめていた。
だがそれはどちらかというとライダーに向けたのではなく、自らに向けたかのようだった。
その仕草でライダーも刃夜が自らの意図をきちんと察したと理解したのだろう。
ライダーは再度嬉しそうに笑っていた。
それは悪戯が成功した子供のような笑みで、どこか憎めなかった。
「貴様は確かに詫びに来たと言った。詫びを求める気はなかったが、貴様の心意気は良い。素直に受けよう。だが……詫びをするというのであれば余一人ではない。そうだな?」
「あぁ……」
刃夜が巨大海魔と一緒に戦ったのは、何もライダーだけではない。
もしも詫びを入れるというのであれば、確かにライダー一人に詫びを入れるのはおかしな話なのだ。
「貴様の気遣いは確かに嬉しい。余も、そして余の臣下も貴様の事を好ましく想っておる。しかし余と貴様はまだ聖杯を求めて争う好敵手だ。一方的な施しは受けるわけにはいかん」
「そうだな……」
「魔力を過剰に回復されては、余が納得出来ん。詫びるというのなら……貴様の料理と貴様の心。この二つで十分だ」
「で……でも……」
言っていることはもっともだった。
だがそれでもせっかく回復したというのに、わざわざそれを宴会を行うためだけに魔力を消費するのがウェイバーとしては納得が出来なかった。
だがこの場でそれを言うのが憚られて……口を紡いだ。
「さてジンヤよ。貴様の心は確かに受け取った。だが……余と余の臣下。満足させることが出来るかな? それなりの量を持ってきたようだが……果たして?」
「さすがだな、征服王。俺の持ち物を見て、よくぞ気がついた」
その挑発的な物言いに、刃夜も好戦的な笑みを浮かべて……左腕に魔力を回した。
左腕に淡い鋼色の光が灯り……それに呼応するように、後方の二、三、四番目の台車のビニールシートが外れて、下の荷物が露わになった。
そこには……
「……キャベツ?」
ウェイバーがちょっと間抜けな声を上げたが、それも無理からぬ事だろう。
大量のキャベツがあった。
当然だがキャベツだけではない。
キャベツ、巨大なラムの肉塊、卵、むき身のエビ、中華麺、山芋、小麦の袋。
それら全てがまるで見えない糸で釣られているかのように、宙に浮いて来た。
そして薄い茶色の水が入ったペットボトルも浮いてきて……刃夜のそばへと来て漂った。
「秘技! 分身もどき!」
自らのそばに飛来した大量の食材達を、いつの間に手にしたのかぎらりと鈍く光る鋼色の包丁で、瞬時に細切れにした。
そして宙に浮いたペットボトルの中身の水を出す。
左腕に紅の魔力の灯火が宿り、瞬時に沸騰させる。
更に風の力を用いてそれらを混ぜ合わせて……薄い茶色の水は出汁……タネを作り上げる。
大量に浮いたそれを……再度どこかからか取り出したお玉で一定の量を取り出して、宙へといくつも浮かせていく。
その宙に浮いたタネが平べったい円形に変化して……瞬時に良い焼き加減の狐色に染まった。
誰がどう見ても……非常においしそうなお好み焼きだ。
ラム肉にエビ、そして中華麺でボリュームがある。
食い応えはもちろん、漂う臭いから考えて味も抜群だろう。
「はぁ!!」
そんな芝居がかった声を上げて、刃夜が更に左腕を振るって……台車から大量の割り箸と紙皿を飛来させた。
割り箸は全てライダーの配下の眼前に飛来し、紙皿も同じように飛来した。
配下達はそれを何も臆することなく手に取った。
良い焼き加減のお好み焼きが宙を舞い、皿に飛来する前にいつの間にかマヨネーズとソースを混ぜ合わせたタレが巨大な水玉のように浮いており、お好み焼きが次々と片面をソースにつけて飛翔する。
そしてその皿に次々と……乗せられていった。
目の前で行われた事があまりにも信じられなくて……すごすぎる魔術のようなことをしているのに、やっていることがあまりにも馬鹿げているから……ウェイバーは叫ぶことも忘れてぽかんとしていた。
大量の割り箸や紙皿に、大量の調理前の食材。
どうやら刃夜も配下に料理を振る舞うことになると、想定していたのだろう。
桜は刃夜のそばで刃夜が行った調理を必死に見て技を盗もうとしていたが、当然だがマネは出来ない。
「舐めるな、征服王」
「ほう?」
「俺の数百年の修行を舐めるなよ? 貴様の臣下程度の人数で音を上げるほど、俺は甘くはないぞ?」
まだまだ焼けるぜ! と言わんばかりに次々宙に置かせた食材を調理しながら刃夜が咆えた。
すでに三桁におよぶ程の数のお好み焼きが宙に浮いてスタンバイしている。
皿に紙コップも用意されて、空になった一台の台車に整然と置かれており、酒が注がれるのを待ち望んでいるかのようだった。
「その意気やよし! 者ども! 我らと刃夜の真剣勝負! 臆せず征くぞ!」
「「「然り!」」」
「ではいただきます!」
「応よ!」
「「「然り!」」」
そして大宴会が始まった。
「おいしい」
「全くだな、ジンヤのマスターよ! おいジンヤ! 貴様一体どういう生活をおくったのだ? この料理は余が今まで食してきたなかでも極上の料理だぞ!」
「ジンヤどの! これは何という料理ですか!?」
「経験値が違うんだよ! 経験値が! 残したら許さなんぞ! お好み焼きだ! ラム肉……羊だから食える奴は多いだろうが、宗教的に肉がダメな奴がいたら言え! 野菜オンリーで焼いてやる!」
「なんと!? そこまでの配慮を!? さすがジンヤ殿。我らが王が欲するだけはありますな!」
「無意味に持ち上げるな! 残したら殺すぞ!?」
「ほう、手合わせが出来ると?」
「そういうのは今はナシ! 飲んで食って騒ぐだけ!」
「刃夜おじいちゃん。からあげとって」
「おう食べろ桜ちゃん。だけど野菜も食べような」
「うん!」
「いや、だからさ……」
「おいジンヤ! 酒をつげい! とことん飲もうぞ! 余を酔わせたくば今の三倍はもってこい!」
「良いだろう、とことん付き合うぞ! 三倍どころか六倍だってあるわ!」
「貴様と余でちょうど半分か! それでは足りぬのではないか!?」
「違いないな!」
「「「我らの分は!?」」」
「全貯蔵量絞り尽くしても構わん! 好きなだけ飲め!」
「「「「「だぁ~~~~はっはっはっは!」」」」」
「だから人の話を……」
「何だくわんのか坊主? ジンヤの料理は本当に絶品だぞ! 食わんというのなら余が全て平らげるが?」
「食べるけどさ! でもお前ら敵だろ!? もっとそれらしくしろよ!」
ウェイバーの言い分も間違ってなかったが……しかし目の前の料理の誘惑に負けて口にすると言っている時点で、ウェイバーも人のことは言えなかったりする。
そしてしばらく大騒ぎの宴会が繰り広げられた。
砂漠のために暑いはずだが……そこは刃夜が風の力でどうにかしていた。
ライダー達は慣れているだろうが、桜はへたすれば倒れてしまうからだ。
これだけ便利な能力扱いをしているのだから、能力自身が怒るのも無理からぬ事かも知れない。
だがそれでも、この宴会は非常に楽しげであり、実際に楽しかったのだ。
戦争を繰り広げているはずの存在が……仲むつまじく朗らかに。
しかもいつのまにか木で出来た酒樽がいくつも出現しており、その中身を皆がうまそうに飲んでいた。
「ところでジンヤ。貴様あの黒いのとそのマスターはどうしたのだ?」
「あぁ。ちょっと無理させたから、今日は休憩するように言ってある。だから留守番させている。飯はきちんと作ってきた。桜ちゃんが」
「作ったっていっても……卵焼きとお味噌汁だけだよ?」
「いや桜ちゃんが作った料理で喜ばないはずがない」
桜が少し恥ずかしそうにしているが、だがそれでも褒められた事が嬉しいのか、桜は頬を赤らめながらはにかんでいた。
その肴になる話題に、ライダーが飛びついた。
「ほう。貴様のマスターも料理を行うのか?」
「あぁ。俺の料理の弟子の1人だな」
「料理のだと? 貴様……他のことでも弟子がいるみたいな口ぶりだな?」
「まぁそういうこったな」
「本当におもしろい奴だなぁ、お主は。全く飽きさせん奴だ」
豪快に飯を食らい、酒を飲み干す姿は圧巻と言って良かった。
だがそれ以上に嬉しそうに食べるものだから、見ている方も幸せになれる……そんな食べ方だ。
大量の料理はみるみるうちになくなり……そして酒もほとんどを飲み干した。
大量に作られたお好み焼きも全て消化されて、最後にはちょっとした争奪戦となっていたりする。
ウェイバーも少々飲まされたため……お酒は二十歳になってから!……飲み慣れていないのか目を少々回して眠りについていた。
桜もお腹がふくれて眠くなったのか、レジャーシートの上で丸くなって寝ていた。
そんな桜に上着を掛けて風邪を引かないように……当然桜の周囲の温度は力で調整している……配慮する。
やがて全ての料理が尽きていき、臣下達の詫びを終えると、ライダーは
皆この飲み会が終えるのを名残惜しそうにしていたが、それでも去り際に刃夜に好戦的な笑みと戦意を向けて去っていった。
そして元の芝生の上へと、四人は返ってきた。
食い散らかされた物は綺麗に台車に詰まれており、きちんと片付けるつもりなのだろう。
ライダーは最後の一杯を飲み干す前に、刃夜へと問いかける。
「ジンヤよ。お主に聞きたいことがあるがかまわんか?」
「何だ改まって? 別に構わないが? 答えられないことは答えないぞ?」
「構わん。ではジンヤよ。お主が作った料理と酒は実に見事であった」
「お褒めにあずかり光栄で」
「酒を作るのは簡単なことではあるまい? それもこの酒はかなり上等な酒だ。料理もそうだったが……並々ならぬ修練をしたのか?」
何故そんなことを聞いてくるのかわからない刃夜だったが、しかしライダーが……イスカンダルが真面目に問いかけていることに気付いて、刃夜も真面目に答える。
「俺は並行世界の人間で、様々な並行世界で修行を行ってきた。その際自らの世界とは全く異なる世界も多かった……というかそんな世界がほとんどだ。故郷の酒を飲めるようになりたかったから、貯蔵及び熟成するための蔵を造った。むろんそこに収める酒もな」
「では次に……ジンヤ。貴様は巨大海魔との戦闘でこういったな? タントウ?なるものの制作費を余に要求する……と」
「言ったな」
別段嘘をいう理由がなく、答えられる質問であるため、刃夜は素直にライダーの質問へと答える。
「すると何か? 貴様が振るっていたあの馬鹿でかい刀や、いくつも投擲していた小剣などは、お主が自ら作ったのか?」
「あぁ」
刃夜はそう良いながら左手を軽く握って、簡素な鞘に収められた打刀を出現させて鞘から抜きはなった。
それは今まで刃夜が出現させて使っていたどの刀よりも美しく、圧倒的な力を感じさせた。
刃夜はその刀を納刀し、ライダーへと手渡した。
ライダーはその刀を受け取ると、同じように静かに抜き放ち……その刀身に見ほれていた。
「これほど見事な刀を……ジンヤよ。お主が作ったのか?」
「あぁ。俺の生涯の命題は刀の鍛造と料理だ。そいつは俺の中でも傑作の部類だ」
最高傑作ではないと申すか!?
ライダーは刃夜の言葉に納得すると同時に、衝撃を感じた。
鍛造と料理。
実際に料理を食らい、鍛造した刀を見て、更に傑作の刀をこうして手に取った。
さらに刃夜自身の人柄と戦闘技能。
王としてのイスカンダルが……欲しいと思うのは当然といえた。
さらに……
「ちなみにジンヤよ。貴様、いくつもの刀を出現させたりしておるが……数はいかほどあるのだ? また刀しかないのか?」
「総数はそれなりにある。刀以外に剣も作ってたりするが……刀に比べれば微々たるもんだな」
そう言いながら、刃夜はライダーに渡した刀を刀蔵にしまうと、それとは別に簡素な鞘に収まった直剣を取り出した。
サイズ的にライダーが持てばちょうどいいサイズだ。
それを再度ライダーに手渡して、刃夜は言葉を続ける。
「基本的に刃の武器を作る。日本の槍とか薙刀とか短刀にナイフ。まぁ他の武器も作れなくはない。メイスとか金棒とか。鎧も作れるが……まぁ一番得意なのは刃物だな。刀か剣」
「具体的な数は? そう……たとえば余の軍勢に、武具を行き渡らせることは可能か?」
「……そちらの軍勢の総数がわからんから何とも言えないが、さっき宴会で騒いでいた連中だけなら問題ない。ちなみに最強の鎧は遙か遠くにあるし、俺以外に着れないから渡せないし渡すつもりもない。新たに鎧を作るならその限りではないが」
さすがにこの問答で、ライダーがどのような意図で自らに問いをしてきているのか、刃夜も気付かないわけがなかった。
だがそれでも、刃夜はまっすぐに見つめて問いを投げかけてくるライダーに対して……同じように真剣に答えていた。
「サーヴァント、
「……」
「余の友となって、余に仕えぬか?」
「……何?」
その問いは少々意外だったのか、刃夜から疑問の言葉が漏れ出ていた。
「貴様の鍛え上げた刀、そして剣は、実に見事な出来映えであった。それこそ神代の武具にも遅れをとらんだろう」
「そら褒めすぎだ」
「いや、余は嘘は言わぬ。そして貴様の料理も、実に見事だった」
「……」
「そして貴様が鍛え上げた武具が余の軍勢に行き渡らせることが可能というのは、余にとって実に魅力的なことだ」
「魅力的?」
軍勢に行き渡らせるというのはてっきり数がどれほどかと問うてきていると思った刃夜だったが、しかしどうやらそういう意味ではないと判断し、話を聞いた。
「余は、今再び、この世に生を受けて、今度こそ、この世界を制覇するという野望があるのだ。もしその隣に貴様がいたのなら、これほど心強い事はあるまい」
「何故だ?」
「簡単な話だ。貴様の実力、人柄、そしてその技量と能力。どれをとっても申し分ない。さらに貴様が持つ武具を余の軍勢に装備させれば間違いなく強力な軍となる」
「だが今ライダーが持っている俺の剣は、あのアーチャーが持つ武具よりは劣るぞ? なにせただの鉄の剣だからな」
小さく肩をすくめながら、刃夜はライダーの言葉にそう返した。
それはライダーも十分にわかっていたことだった。
ライダーはアーチャーの正体が……英雄王ギルガメッシュであることにすでに気付いていた。
仮に気付いていなかったとしても、あれだけの宝具を持ち得ている存在であるため、ライダーとしてはギルガメッシュも欲しいと思っていた。
それでもライダーは……イスカンダルは刃夜も欲しいと思ったのだ。
自らが手に持つ剣を鍛え上げる技量を有した……刃夜を。
「そんなことは問題にならん。余が貴様を欲しいと思ったが故に、余はこうして貴様に問うておるのだ」
「……」
「更に言えば、前にも同じような事を言ったが……貴様は己という存在のことを、まだよくわかっておらんようだな?」
「ほう?」
そのライダーの挑発的な発言に、刃夜は興味深そうに言葉を返す。
刃夜の反応に満足げに頷きながら、ライダーは言葉を続ける。
「余が貴様を欲しいと思ったのは、何も武具に料理と酒の腕前だけではない。先にも言うたが貴様の人柄もあってのことよ」
「人柄?」
「そうだ。貴様には他者を惹きつけるものを持っている。以前に窮地に落ちいった国の姫を紹介されたと言っておったな? 救国というのは確かに偉業だが、それだけで王が自らの娘と一緒に王位を渡すわけがない」
これは王であるからこそライダーはよくわかっていた。
生まれながらにして王の資質を持ち、王として育ち、王として生きたライダーの言葉には、信憑性が大いにあった。
そして当然だが……ライダーは自らの考えが間違っているとは思っていなかった。
そしてこの場合、その考えはあたっていたと言っていい。
「貴様に王位を譲りたいと思ったからこその言葉だ」
「……なるほど」
「貴様には確かに人を惹きつける魅力がある。現に余の臣下も、貴様のことを好いている者は大勢いる。といっても、余の臣下は生粋の武人が多いため貴様の強さに惹かれているというのが実情だが」
はっはっはと、快活に豪快笑いながら、ライダーはそう刃夜に言い聞かせた。
その言葉に刃夜は反論を返さない。
いや、おそらく返せないのだろう。
ライダーのことを見つめて、真摯にその言葉を受け止めていた。
「改めて問おう。ジンヤよ」
「余の友として、余に仕える気はないか?」
ライダーの……イスカンダルの真剣な思いであると、誰もがわかった。
刃夜は当然として……その場にいたウェイバーも容易に理解が出来た。
自らのサーヴァント……ライダーが刃夜を心から欲していることに。
この問答に……ウェイバーは歯がみしている自分に、最初は気付くことができなかった。そして知らず知らずの内に、体に力を込めている事にウェイバーは気付いていなかった。
横になり、背を向けている状況で手を握りしめていた。
その握りしめた拳に気付いて初めて、ウェイバーは悔しいという気持ちを抱いている自分に……
気付いた。
三度にわたって問われたライダーからの……
征服王イスカンダルからの問い。
その問いに対して、刃夜は静かに……答えた。
「断る」
ただ一言、簡潔に、そう返していた。
それに対してライダーは何も言わなかった。
すぐに刃夜が言葉を紡ぐとわかっていたのかもしれない。
「お前ほどの男にそこまで必要とされて嬉しく思う」
「……」
「だが俺は自らに課した命題がある。それを極めるために俺は生きている」
「俺が心の底から望み、心の全てを賭けて挑むのは、我が命題のみ」
「故に申し訳ないが、征服王イスカンダル。あなたの申し出は受けられない」
まっすぐに……そして真摯に、刃夜はライダーへとそう返した。
「まぁもっとも。ただの友であるというのであれば、俺としては歓迎だがな」
そう言って刃夜は最後に枡に残っていた酒を飲み干した。
それに続くように、ライダーも枡に残っていた酒を飲み干し……こう告げた。
「よかろう。ならばその貴様の命題……余が簒奪してくれようぞ!」
「……はぁ?」
さすがにこの返答は予測できなかったのか、先ほどまでの真剣な声とは違う、実に間抜けと言える言葉を漏らしている刃夜がいた。
その刃夜に、刃夜同様先ほどの真剣な問答はどこへやら、ライダーが快活な笑みを浮かべて刃夜へと挑んだ。
「余は征服王であるが故、貴様が拒むというのであれば、我が覇道をもって貴様を奪うまでだ」
「……どういう意味だ?」
「貴様のありように余は敬服をもって挑む。余の征服は……奪い、侵すこと。貴様を侵し、王として貴様を魅せることが出来るか……」
「その勝負と言うことか? 剣を交えて」
「然り」
刃夜の問いに、ライダーはただ一言そう返した。
ライダーの顔には、実に挑戦的な笑みが浮かんでいた。
その言葉と笑みに……刃夜も笑って、答えた。
「良いだろう征服王イスカンダルよ。我が信念と命題に賭けて、貴様の簒奪、阻止してくれる」
男は言った
「人攫いの時間だぜ!」
内心憂鬱だったがそれでもそれを感じさせないほどのハイテンションで行動開始
男は駆けた
潜り込んだ
盗み聞きした
襲った
意識を奪った
攫った
縛り付けた
傷つけた
それを超えた先にある、安価な青いシートの上に安置された真実とは!?
次回
桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者
人妻と女性をさらう一人の開拓者(仮)
男は宵月の下、外道となる
ご期待くださいw