桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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今回割と真面目に刃夜が外道w


申し訳ない
昨夜は飲み会であげる余裕がなく一日遅れました
楽しんでいただければ


人攫い×2

 

切嗣がアイリに外の世界を見せるという約束を果たせないことを謝罪し、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の鞘を切嗣へと返した。

その後、アイリと舞夜が、互いの心情を吐露していた。

 

互いに、互いの思いと心で、切嗣の事を想っている、二人の女性が。

 

「舞夜さん。あなたがキリツグに伝えて。私の言葉で慰めてあげて欲しいの」

「善処はしますが……それは戦いが終わった後になるかと。予断を許せる状況ではありません。彼も、私も、気を抜くことなど出来ませんから」

 

油断していなかったと言えば嘘になるだろう。

先ほどまで魔術的な戦闘力の高い切嗣がいたのだから。

また決して強力なものとは言えないが、それでも結界がきちんと張られていた事もあった。

だから大丈夫だと思っていた。

 

だが、そんな物など、何の意味もないものだと思える存在がいたのだ。

 

 

 

「残念だが……そんな悲しい願いを叶えさせる訳にはいかないなぁ?」

 

 

 

土蔵で互いの内面を吐露していたアイリと舞夜の耳に、そんな声が響いて二人は驚きのあまりに体を飛び上がらせた。

といってもアイリはほとんど体が動かなかったが。

しかし歴戦の勇士と言っていい舞夜の行動は早かった。

直ぐに自らが肩にかけているキャレコ短機関銃を掴み、声がした方へと向ける。

だがその時にはすでに遅かった。

銃口を相手へを向け終えるその前に、舞夜の鳩尾に刃夜が手にした打刀の鞘尻が突き刺さり……舞夜は意識を失った。

 

「あなたは……ジンヤ!」

「よう、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。息災で何より」

 

いつからここにいたの!?

 

動くことも出来ないため、倒れた舞夜の介抱も出来ず、アイリは歯がみするしかない。

だがその歯がみする力さえもほとんどなく、アイリはただ力なく刃夜を睨み付けることしかできなかった。

今までもよくわからない行動をしていた刃夜だったが、舞夜やアイリに直接手を出してきたことはなかったため、悪い人間ではないと思っていたのだが、しかしそれでも二人の会話を黙って聞かれて気分が良いはずもなかった。

その心境を十分に理解ししているのだろう、刃夜は困ったように苦笑しながら、素直にわびた。

 

「秘密の女子会に勝手にお邪魔して悪かったな。そして会話を盗み聞いたことも謝罪しよう」

「謝れば許されることではないと思うのだけれど?」

「その通りだ。必要なこととはいえ、忍び込み会話を盗み聞いたことは弁解のしようもない。だがお前らがどういう存在なのか……衛宮切嗣にとってどんな存在なのかを確認したかったのでね。話を聞かせてもらった」

「キリツグの……ですって」

 

イレギュラーな敵対者から聞かされる、切嗣という言葉。

それは戦闘に疎いアイリであっても良くないことであるというのは、重々理解できた。

その切嗣に何か伝える手段はないかと、何とか上着のポケットに入れてある携帯電話へと手を伸ばそうとする。

 が……サーヴァントの魂をいくつも吸収し、人としての機能がほとんど失われたアイリの行動を刃夜が妨害できないわけもなく、上着からあっさりと携帯電話を取られてしまった。

 

「……一体、何が目的なのかしら?」

 

何も出来ない自分に歯がみしながら、アイリは精一杯の抵抗として、刃夜を睨み続けた。

その眼光を真っ向から受け止めながら……刃夜はこう答えた。

 

 

 

「アイリスフィール・フォン・アインツベルン。貴様のその魂、もらい受ける!」

 

 

 

その言葉と同時に、刃夜が舞夜にやったのと同じように、アイリの鳩尾に鞘尻で殴打し……アイリの意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 

あ~~~~~~やだやだ。精神分身体で見てたから絶対まともな人生送ってないとは思ってたけど……ここまでとは

 

土蔵にいる二人の女性を意識を刈り取って、刃夜は深々とため息を吐いていた。

必要なことだからこそ、刃夜は霞皮の護りを使用して土蔵に忍び込み……前と同じ手段で、舞夜が土蔵に入ったのと同時に忍びこんだ……二人の話を最後まで聞いたのだ。

刃夜自身も当然だが理解していた。

今の自分の行動が、決して褒められた事ではないと。

そしてはっきりいってしまえば、刃夜自身もこの二人……特にアイリスフィール・フォン・アインツベルンに対して自分が執着する理由が全く理解できなかった。

何故ここまでしてまでこの女性を助けたいと思うのか?

だが、この女性を……アイリスフィール・フォン・アインツベルンの顔を見ると、脳裏に浮かんでくるのだ……。

 

 

 

まるで雪の精霊の様な少女の……満面の笑みが……

 

 

 

脳裏に浮かぶ顔を何とか捕らえて記憶を総ざらいしても、刃夜にはその脳裏に浮かぶ少女の顔に覚えがなかった。

だが何故か感じるのだ。

 

自らの魂が叫ぶのだ。

 

 

 

絶対に……何とかしなければいけないと。

 

 

 

不思議な感覚だったが、しかし刃夜はその自らの思いを否定せず……こうして行動していた。

意識を失い、倒れているアイリと舞夜を風の力で浮かせて、懐から一枚の手紙を取り出して、床へと捨てていく。

 

「さて……それでは人攫い開始~」

 

自分の気分を少しでも上げるためか、刃夜は努めて道化っぽくそう言って、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

定時連絡が来なかったことで、舞夜とアイリに何かあったと判断し、切嗣は慎重な足取りでアイリを潜伏させている古びた武家屋敷へと向かっていた。

遠くから屋敷を確認し、侵入者がいないと判断したが、それでも隙を見せないように家へと入り、直ぐに銃を取り出してゆっくりと土蔵へと近寄り……中へと入る。

しばし土蔵を調べたが罠が仕掛けられている様子もなかった。

そして切嗣は……落ちているメモに気がつき、目を通した。

 

 

 

 

『衛宮切嗣。お前の女人二人は預かった。返して欲しくば夜の柳洞寺まで手ぶら&単身で来ること』

 

 

 

 

 

 

切嗣が土蔵へと訪れる少し前。

それは刃夜の武家屋敷にて行われた。

庭の一角に、魔法陣。

その魔法陣の中心部に、横たわされたアイリスフィール・フォン・アインツベルンと、無味乾燥とでも言うべきか……何の特色もない人形がアイリスフィール・フォン・アインツベルンの横に並べられていた。

そしてその魔法陣に歩を進めるのは……驚くべき事にケイネスその人だった。

といっても、完全に体が回復したわけではないのか、そばに寄りそうソラウに体を支えられながらだった。

それでもなお足を引きずっていたが、それでも車いすで移動していた事を考えれば驚異的な回復だろう。

しかしケイネス本人としては、この回復は半ば屈辱的なものだった。

 

色んな意味で

 

しかし一度行うと盟約を交わした以上、それを反古するのは貴族としてのプライドが許さなかった。

そして何とか必要なだけの魔術回路を回復させて、こうして儀式を執り行っていた。

 

「すごい……こんな大魔術を行使するなんて」

「……綺麗」

「確かに……マジですごいな」

 

雁夜、桜、刃夜は、そんなケイネスの様子を縁側から興味深そうに眺めていた。

といっても、三人とも魔術については素人以下なので何をやっているのかはさっぱりわからなかった。

だが刃夜はある程度は理解していた。

そしてそれがどれほど高度な事を行っているのかも。

故に、刃夜は誇張なく演技でもなく、純粋にケイネスのことを称えた。

その三人の抽象的なほめ方が、ケイネスとしては不満ではあったが、しかし刃夜からの賛辞の言葉は嬉しかったようだった。

僅かに口角を上げて笑みを浮かべソラウに支えられながら、ケイネスは魔術を行使した。

 

 

 

 

 

 

アイリ、舞夜……

 

心の焦りとは裏腹に……切嗣は慎重に長い石段を上っていく。

手ぶらでこいと要求されたが、懐に忍ばせることが出来る起源弾を撃つためのトンプソンコンテンダーを持ってきている。

また腰に小さなナイフを隠し持っており、完全に刃夜の言うことを聞いていない。

 

あのイレギュラーな存在相手に……果たして起源弾が通じるかどうかはわからないが……

 

切嗣はそう思いながらも、表に不安や焦りを出すことなく、泰然とした態度でゆっくりと階段を上っていく。

セイバーを連れてくるなという要求があったため、切嗣はセイバーを呼び出すこともなかった。

最悪は令呪を使用することも考慮していた。

セイバーは今も街を散策しているだろう。

そして山門へとたどり着き、懐からタバコを取り出して火を点ける。

ゆっくりと紫煙を吸い込んで吐き出し……切嗣は単身で柳洞寺へと足を踏み入れた。

探す必要性はなかった。

あるわけがない。

何せ探し人である刃夜は、隠れもせずに柳洞寺の山門からまっすぐに伸びている、参拝所のところにいたのだから。

いくら夜とはいえ、柳洞寺の静けさは異常だった。

その静けさは自然と不気味さを醸しだし……刃夜をより恐ろしくさせている。

 

その足下には……目を閉じている自らの妻である、アイリスフィール・フォン・アインツベルンが横たわっていた。

さらにまるで見えない十字架に磔にされたかのように、宙に舞夜が浮かんでいた。

どちらも意識がないように見えた。

舞夜は意識を失っているだけだと、呼吸していることですぐにわかった。

だが……アイリは動いている様子は見受けられなかった。

 

 

 

「ほう? てっきりセイバーを連れてくると思ったが……本当に一人で来たのか?」

 

 

 

胡座を掻いて座りながら羊皮紙の表紙の本を読んでいる刃夜が、切嗣へと目も向けずに淡々とそう言った。

憎悪に満ちた目を切嗣は刃夜へと向けるが……しかし努めて冷静になりながら、切嗣は刃夜へと問いを投げかけた。

 

「聖杯が目的ではないくせに……どうして二人を連れ去った?」

 

アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

その正体は英霊達のサーヴァントの魂という純粋で強大な魔力を回収し、その魔力で生成される聖杯そのもの。

聖杯戦争が始まって以来、アインツベルンが聖杯を用意してきたが、第四次聖杯戦争では第三次の失敗を経験し、聖杯という器に意思を宿した。

それがアイリスフィール・フォン・アインツベルン。

魔力がなければ聖杯としては機能しないが、しかし器であることは間違いがなかった。

だがその事実を知っているのは一部の人間のみで、途中参加の刃夜が知るはずもない。

なのに何故アイリを攫ったのかが切嗣には理解できなかった。

更に舞夜を攫う理由が欠片もない。

聖杯が望みではないため、アイリを攫う理由がない。

アイリを攫う際に舞夜が妨害しようとしたのかも知れないが、それでも手間をかけて攫う理由がない。

舞夜に至っては殺せばいいのだから。

そんな疑問が渦巻く切嗣に……刃夜は予想外の言葉を口にした。

 

「そうだな? 信じないだろうが……お前をどうにかするためだよ」

「……何?」

 

言っている意味が理解不能だった。

何故敵である刃夜が自らの事をどうにかするのか理解できなかった。

本を勢いよく閉じたことで小気味のよい音が、二人の耳朶を打つ。

本を懐にしまうのと同時に、刃夜は懐から拳銃を……グロック17を取り出した。

それは舞夜が持っていた拳銃。

その拳銃の銃口を自らへと向けるかと思った切嗣だが、それは非常にゆっくりとした仕草で……宙で磔にされている舞夜へと向けられた。

その意味など考えるまでもない。

 

「! ま――」

 

待て、そう叫ぶ前に発砲音が一つ。

大腿部へと向けて撃たれたその弾は外れることなく、舞夜の体に怪我を負わせる。

 

「―!」

 

痛みによって強制的に目覚めさせられ、舞夜は苦悶の表情を浮かべた。

だが悲鳴を上げることはなかった。

いや、もしかしたら上げているのかも知れない。

唇をきつく噛みしめていた。

咄嗟に動こうとした切嗣だったが、どうにかして体を押さえつけた。

目下刃夜のそばには人質が二人。

距離もあるため、切嗣の魔術である固有時制御を発動させても、二人の救出は難しかった。

自らの体内にはすでにアイリから返却されているエクスカリバーの鞘、全て遠き理想郷(アヴァロン)が体内にあるため、固有時制御を通常と違い四倍加速まで可能であると、切嗣は踏んでいた。

だが、四倍速で迫っても、救出出来ると微塵も思えなかった。

 

どうする!?

 

切嗣が高速で思考を巡らせる中、刃夜は至極ゆっくりと、今度は舞夜のふくらはぎへと銃口を向ける。

そして再度止めるも間もなく第二射が放たれる。

乾いた音が響いて、その音に反応するように、舞夜が体を震わせた。

 

「さて? その反応から察するにそれなりに大切に思ってはいるみたいだな」

 

何……?

 

切嗣自身は気付いていなかったが、その表情は先ほどまでとは打って変わって、能面の様な無表情ではなく、顔を憎悪に歪ませている。

必死になって表に出すまいと自らを律していた切嗣だったが、さすがに目の前でいたぶられている様子を見て冷静ではいられないようだった。

 

魔術師殺しとして悪名を響かせている、衛宮切嗣が。

 

道具として舞夜を扱っている……本人はそう思っていた。

実際その通りに接してきており、また舞夜自身も同様だった。

だというのに、手が白くなるほどに手を握りしめるのは何なのか?

その理由は考えるまでもないだろう。

そんな切嗣のちぐはぐな態度と接し方と反応を見て……刃夜はため息を吐いていた。

 

「これが世界を救済すると宣う愚か者か」

 

「――何?」

 

その言葉に、切嗣は反応した。

別段馬鹿にされたことに対して反応したわけではない。

世界を救済するという言葉に反応したのだ。

その言葉に意味を考える前に……刃夜は今度はその銃口を、舞夜の頭部へと向ける。

向けられただけで引き金に指をかけてはいない。

だが、その指はトリガーガードの中にあり、いつでも引き金が引けることを如実に語っている。

 

 

 

「さて世界の救済を望む者よ」

 

 

 

「見ての通り俺の手元には二人の人質がいる」

 

 

 

 

 

 

「どちらか一人を選べと言われたら、お前はどちらを選ぶ?」

 

 

 

 

 

 

この問答を、切嗣は何の迷いもなく選択しなければいけない。

 

一人はアイリスフィール・フォン・アインツベルン(聖杯の器)

 

一人は久宇舞夜(補助機械)

 

自らの願いを叶えることが出来るはずの万能の願望機。

 

自らの願いを叶えるための補助機械。

 

もしも真に世界を救済するのであれば、迷う事すらないはずだ。

 

彼は……切嗣は今までそうしてきたのだから。

 

少数を犠牲にして、多数を救う。

 

一殺多生という考え方。

 

その思考で、切嗣は今まで戦ってきた。

 

この憎悪と地獄を内包した……世界で。

 

最初は……幼い頃には出来なかった。

 

自らが思いを寄せていた少女を殺すことが出来ず……島が一つ消失し、自らの父を殺した。

 

そしてそこからが衛宮切嗣の……今の衛宮切嗣の始まりだった。

 

様々な戦場を駆けめぐった。

 

何度も殺した。

 

より多くの命を救うために。

 

より多くの命を助けるために……非道とも取れる手段も淡々としてのけた。

 

少数の命を切って捨ててきた。

 

飛行機の乗客全てがグールと化したために……乗客の唯一の生き残りだった自らの母親と思っていた女性ごと、旅客機を撃墜させたことすらあった。

 

多数の人々を救うという……「正義」の行為。

 

もしも全ての事情を知り得たのなら、誰もが切嗣の行動を称賛しただろう。

 

少数を犠牲にして、大勢の命を救ったのだから。

 

だが切嗣は耐えられなかった。

 

耐えられるわけがなかった。

 

こんな正義があっていいはずがないと叫びたかったのだ。

 

その人のことを……殺したいと思ったことすらなかった。

 

確かに自らの父を殺しに来た人だった。

 

だが、彼女は自らを育ててくれた。

 

彼女が自分のことをどのように思っていたのかはわからない。

 

だが少なくとも切嗣は慕っていた。

 

母親だと思っていたのだ。

 

だがそれでも……たった一人の存在のために、多くの人が犠牲になることを見過ごせなかった。

 

だから殺したのだ。

 

殺すしかなかったのだ。

 

その正義の代償に去来した痛みを歯を食いしばって耐えるしかなかった。

 

だから求めたのだ、聖杯を。

 

 

 

万能の願望機を。

 

 

 

もうこんな思いはごめんだと。

 

こんな世界はもうたくさんだと。

 

万能の願望機で、全てを救うために。

 

そのために戦っている。

 

そのための最後の血の犠牲だった。

 

確かに切嗣の聖杯戦争の戦術と戦略は非道と言えた。

 

だがそれでもその行いはちぐはぐだった。

 

ケイネスを殺すためにホテル事爆破を行うという行為も、宿泊客と従業員を避難させた。

 

本当に殺すつもりであるのならば、避難させる事もない。

 

最後に聖杯という願望機で、人間全てが救われるのならば、一殺多生と考えれば良いだけなのだ。

 

だがそれをしなかった。

 

否出来なかった。

 

 

 

喪う者を……手に入れてしまったがために。

 

 

 

故に、切嗣は即断出来なかった。

 

道具として接してきた。

 

舞夜もそう動いていた。

 

ならばこの状況下で選ぶのは間違いなく妻であり、願望機であるアイリを即決出来なければならない。

 

だが……それが出来ない。

 

 

 

なぜなら……今でこそ悪逆非道の手段で戦ってはいるが……

 

 

 

衛宮切嗣という人間は……優しい性格をしているのだから。

 

 

 

その切嗣に……刃夜からの問答に迷っている切嗣に、舞夜は小さく頷いた。

 

痛みの苦悶を何とか抑えつけて……舞夜は自らを捨てろと……

 

そう切嗣へと言っているのだ。

 

その舞夜の行動が……切嗣を再び「機械」へと戻らせた。

 

その刹那の瞬間に……

 

 

 

「結局……こうなったか」

 

 

 

刃夜が落胆したように深々とため息を吐いて……その引き金を引いた。

 

 

 

!!!!

 

 

 

乾いた音が響く。

 

それと共に……舞夜の頭から赤い液体が飛び散り、その首を力なく落とした。

 

 

 

「!!!!」

 

 

 

その瞬間には動いていた。

 

舞夜が作ってくれたその一瞬の間で、切嗣は右手の令呪に命じた。

 

 

 

「来い! 我が傀儡よ!」

 

 

 

そう叫ぶと同時に、自らも懐に手を伸ばしてトンプソンコンテンダーを取り出していた。

 

そしてセイバーが令呪による空間転移で柳洞寺へと出現する。

 

突然の召喚のため、セイバーにとっては完全なる不意討ちだった。

 

だが召喚されて自己の状況を認識したその瞬間には……セイバーも状況を把握した。

 

 

 

目の前に……外道がいるのだと。

 

 

 

「ジンヤ! 貴様!」

 

瞬時に見えない剣を出現させて、爆発的な疾走で刃夜へと斬りかかった。

 

それと同時に切嗣も走りだし、アイリの救出を行う。

 

刃夜はそれでも動くそぶりすら見せなかった。

 

だが、セイバーの剛剣を、刃夜は驚くことに左腕でつかみ取った。

 

胡座を掻いて座ったままの姿勢であるにも関わらず、セイバーの突進を左腕のみでその衝撃と突進力を受け止めたのだ。

 

更に切嗣の眼前に紫の炎が一瞬灯った。

 

その瞬間には小規模な爆発が起きる。

 

固有時制御で傷を負うことはなかったが、切嗣は後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

刃夜のその左腕には、淡い紅の炎と淡い紫の炎が灯されていた。

 

 

 

何だと!?

 

 

 

さすがにセイバーも自らの渾身の一撃が、座ったまま受け止められるとは思っていなかった。

 

その驚きの表情を向けてきているセイバーに、刃夜は言葉を紡ぐ。

 

 

 

「主従揃って……実にどうしようもない願いを抱いているよな、お前らは」

 

 

 

「何だと?」

 

 

 

再度剣を振りかぶろうとしたセイバーだったが、しかし刃夜が剣を離さなかった。

 

そのためセイバーに一瞬の隙と停滞が生まれる、そのセイバーに……刃夜はこう断言した。

 

 

 

「正反対とも言えるくせに、間違った望みを抱いているのは、主従共々なんだな?」

 

 

 

!? 何故私の願いを!?

 

刃夜の言葉に嘘がないことが……自らの願いを知っているのだと、セイバーは理解できた。

何故知っているのかがわからなかった。

だがそれでも知られても不思議ではないと、セイバーは自らを叱咤した。

聖杯問答で自らの願望を話したのだから、知ること自体は不可能ではない。

あの場にいたのは自身とアイリ、ライダーとそのマスターにアーチャー。

アサシンもいたがあの晩に消滅したため除外した。

ならばライダーから聞き及んだと考えが至るのは、別段難しいことではない。

実際、刃夜はセイバーが予想したとおり、ライダーからセイバーの望みを聞いていたのだから。

 

先日の飲み会……宴会問答にて。

 

故に、刃夜は行動する。

 

セイバーを……口撃する。

 

 

 

「亡霊が過去のやり直しを願うのが、果たして正しい行いか? 騎士王」

 

 

 

何!?

 

 

 

その言葉に反論する前に、刃夜が掴んでいた剣をセイバー事遠くへと投げ飛ばした。

切嗣も体勢を立て直して、刃夜へとトンプソンコンテンダーを向けている。

サーヴァントとマスターという、二対一の状況であっても刃夜は涼しい顔で言葉を続けた。

 

「願望機で世界を救う。願望機で自らの国の救済」

 

おどけるように肩をすくめて、刃夜は見下すように顎を上げて、二人にこう断言した。

 

 

 

「はっきり言って、度し難いほどの馬鹿だな。二人とも」

 

 

 

「……」

「貴様……王としての私を侮辱するのか!」

「するに決まってるだろ、過去の亡霊が万能の願望機で過去の改竄を願うなど……あって良いことなのか? お前の国が滅んでからどれだけの年月が流れたと思っている?」

「……どういうことだ?」

 

 

 

「過去を改竄する……それは結果を変えると言うことだ。その影響がどうしてこの現代に影響しないと思うんだ?」

 

 

 

「!? ……それは」

 

 

 

「仮に聖杯によってお前の故郷が救われたとしよう。だがその改変がより大きな悲劇を生むかも知れないと……何故わからない? 更に言えばその滅びの運命を受け入れた人々の胸中を……たった一人の貴様の我が侭でなかったことにするというのか?」

 

 

刃夜の言葉にセイバーははっとなり、逡巡するように顔を伏せる。

だがそれでもセイバーは顔を上げて刃夜を睨む。

その反応で刃夜はセイバーの胸中と悩みをそれとなく察する。

 

悩んでいるのだと……

 

それがわかればセイバーに対して刃夜がこれ以上する必要性はなかった。

 

 

 

刃夜「は」……だが。

 

 

 

「そしてそんな事も考えられない愚か者よりもさらに馬鹿な奴が衛宮切嗣、お前だよ」

 

 

 

そのセイバーを捨て置いて、刃夜は吐き捨てるようにして、切嗣へと言葉を投げかけている。

切嗣はその刃夜へトンプソンコンテンダーを向けたまま微動だにせず、表情も変えなかった。

 

まぁこの程度でどうにか出来たら苦労はしないか

 

そんな二人の態度を鼻で笑いながら……刃夜は最後に、こう述べた。

 

 

 

「確かに万能の願望機だったのかも知れない。だがそれが果たして今もそのままなのか? 本当に真の意味で願望機たり得ているのか? そんな反対の結果も想定しておくことだな?」

 

 

 

立ち上がり、手を広げて静かに言葉を紡いでいく。

 

 

 

「人は確かに理性を持ち得ているがそれでも動物……有機質生命体であることに変わりはない。その軛がある以上……決して争いはなくならない」

 

 

 

手を広げたまま、刃夜は静かに目を閉じた。

 

何かを思い起こしているのだろうか?

 

 

 

「そんな生命体が真に平和になるのにはどうすれば……いや、どうなればいいのか?」

 

 

 

ただ紡がれる言葉には一切の感情が含まれていなかった。

 

無味乾燥な……まるで機械が読み上げるているかのような、そんな声だ。

 

 

 

「そうなってしまった存在が……果たして人なのか?」

 

 

 

だがその声が……不気味なほどに静まりかえった柳洞寺と、天空から注がれる月光のせいで、実に妖しい雰囲気を醸し出す。

 

 

 

「人「間」なのか?」

 

 

 

二人を睥睨するように……目を薄く開いて、刃夜は二人を見つめた。

 

 

 

「いや、そうなっても生きているのならばまだ幸せなのか?」

 

 

 

見つめた後に再度目を閉じて、実に芝居がかった仕草で肩をすくめて首を静かに横に振る。

 

 

 

「変わり果てたその願望の力……それがどのような結果を及ぼすのか?」

 

 

 

最後にすくめていた肩を戻して柏手を一つ。

 

 

 

小気味の良い乾いた音が響いて……刃夜が最後の呪いを口にする。

 

 

 

 

 

 

「それを……覚悟しておくことだな?」

 

 

 

 

 

 

そんな言葉と共に……刃夜の姿が薄れていく。

 

この消え方は以前にランサーと戦った時と同じ消え方であると、セイバーは察して直ぐに刃夜へと斬りかかった。

だが肉薄して振り下ろした剣は虚しく空を切るだけだった。

 

呪詛の様な言葉が消えていく。

 

切嗣とセイバーの胸中に……

 

 

 

決して消えない呪いとなって。

 

 

 

ジンヤ!!!!

 

 

 

問いかけられた言葉と、刃夜の外道な行動。

二つが相まって、セイバーは刃夜という存在を測りかねていた。

子供を助けたこともあった。

刃夜の幼いマスターを助けるために尽力している事も知っている。

ランサーとの決闘を果たさせてくれた恩義もあった。

決して嫌いになれない存在だというのに、こうして自らを苦しめるような所業を行う。

 

わからない

 

それがセイバーの刃夜に対する素直な思いだった。

 

 

 

 

 

 

変わり果てたその願望の力……それがどのような結果を及ぼすのか?

 

 

 

この言葉が、どうしてか切嗣の頭から離れなかった。

セイバーとランサーとの決闘の時……切嗣がケイネスを殺そうとした時にも似たような言葉を口にされて、どうしてかその言葉が、切嗣の心の中でずっと居座っていた。

 

その口調は、まるで聖杯がどんなものであるのか、知っているかのような口ぶりだった。

 

普通ならば何を根拠に言っているのかと……一顧だにしない言葉だ。

だが何故がその言葉を切って捨てることが出来ない。

その言葉が……ただの出任せではないという確かな重さと想いがあった。

 

「キリツグ……アイリスフィールとマイヤを……」

 

セイバーも同じ気持ちなのだろう。

先ほどの刃夜の言葉と、舞夜を慮った沈痛な面持ちで、切嗣へとそう言葉をかけていた。

その言葉に反応は返さずに、切嗣は刃夜がいなくなったことで地面に崩れ落ちた舞夜の元へと歩き……その体を抱き上げて、驚いた。

 

「……生きている?」

 

宙から落ちたことでうつぶせで倒れていた舞夜を抱き上げると、確かな暖かさと命の脈動を感じ取り、切嗣は驚いた。

慌てて胸に手をやれば……確かな鼓動が切嗣の手に返ってきた。

そして先ほど撃たれた頭へと手をやり、その赤い液体に触れて……その赤い液体の正体を察した。

 

血糊……だって?

 

手に触れた紅い液体の感触は、触れ慣れたくなかった血の感触ではなかった。

そしてその臭いも鉄の臭いではなかった。

当然だがその頭部に触れてみても……弾丸による穴が開いていることもなかった。

間違いなく生きているのだと……切嗣は安堵の息をこぼしていた。

そしてさらに気付いた。

 

……何かが?

 

触れた胸にある違和感。

舞夜の胸ポケットに何かがしまわれていることに気付いて……切嗣はその違和感を取り出した。

それは一枚の紙。

紙に記されたのは……柳洞寺の裏手の沼へと誘う言葉だった。

罠である可能性はぬぐえなかった。

この紙を胸にしまい込んだのは、間違いなく刃夜だ。

だがあれほど外道な事をしていた刃夜が、舞夜を殺したように見せかけたにも関わらず、舞夜を殺していなかったのだ。

故に、切嗣はまさかと思った。

舞夜を優しく地面に横たえて……直ぐに切嗣はそばのアイリへと駆け寄る。

アイリの元へと駆け寄り、生命として活動していないことを認識して……直ぐに寺の裏手へと走った。

突如として走り出した切嗣に驚きながら、しかし舞夜が死んでいないことにセイバーも直ぐに気がついた。

そのセイバーを置き去りにして切嗣は走り……刃夜が残したと思われる紙の場所へとたどり着き……

 

 

 

驚愕した。

 

 

 

「……アイリ?」

 

安物のブルーシートの上に横たわる、純白の姫君。

先ほど柳洞寺の参拝の場所に横たわっていたアイリとうり二つだった。

無論服装は違った。

だがそんなことなど瑣末事である違いがあった。

先ほどのアイリと……アイリだったものと決定的な違いが。

 

呼吸をしているのだ。

 

苦しげでもなく、無理矢理でもなく。

 

 

 

ただただ……穏やかに眠っているだけというように。

 

 

 

そのアイリへと、切嗣はゆっくりと歩を進めて跪き……その頬に触れた。

触れれば壊れてしまうそうだった。

だが壊れていない。

生きているのだ。

 

万能の願望機として死ぬはずの運命しか与えられなかった……

 

 

 

アイリスフィール・フォン・アインツベルンが。

 

 

 

「アイリ……」

 

慈しむかのように、愛おしい者の名を呼んだ。

その言葉で目を覚ましたのかアイリがうっすらと目を開き……そばで跪く切嗣へと目を向けて、本当に嬉しそうに穏やかに笑った。

 

「キリツグだ……」

 

その声は今まで聞いてきたアイリとは少々違う声色だった。

もっと正しく言えば、まともに発音が出来ていなかった。

体も満足に動かせないのか……細かく震える手を必死になって伸ばして、自らの夫の頬に触れようとしてくる。

だが思うように体が動かないようで、途中で力を失ってしまう。

その落ちそうになった手を……切嗣が大事な者を握りしめるように優しく、けれど確かな意志と優しさを込めた力で握りしめていた。

 

「アイリ……なのか?」

「そうだよキリツグ。私だよ。あなたの妻の、アイリです」

 

震えていた。

嗄れていた。

うまく言葉になっていなかった。

だが確かに横たわる女性は……アイリは。

自らの意思と思いで、切嗣にそう言葉を返したのだ。

体から発せられるもの、声、体の要所要所。

所々確かな違和感を覚えた。

だがその存在が間違いなく自らが愛した妻であると……アイリスフィール・フォン・アインツベルンであると。

切嗣は理解した。

 

「アイリ!」

 

力も満足に込めることが出来ない手を、切嗣が力の限りに握りしめる。

本当に大切な者を感じたくて。

その力に痛みを感じているはずだった。

だがまだアイリも体の自由がきかないのと同じで、まだ体に慣れていないのだろう。

そしてそれ以上に、自らの安否に涙してくれる切嗣が愛おしかった。

 

「泣かないで、キリツグ。私はここに……あなたのそばにいるわ」

「……あぁ、そうだね」

 

涙を流している事に気付かず……ただアイリが生きているという事実が嬉しくて、子供のように何度も何度も、アイリの名を呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

その様子を……刃夜は柳洞寺の屋根の上から、見下ろしていた。

 

 

 

……壊れている……いや壊れてはいないのか? やはり俺の行動は間違っていなかったようだな

 

アイリの命に涙する切嗣の姿を見て、刃夜は心底呆れるように深々とため息を吐いていた。

 

だがそのため息はどこか切嗣のことを哀れんでいるかのような吐息だった。

 

だがそれも当然といえた。

 

何せ刃夜も切嗣と同じ経験を有しているのだから。

 

地獄のような……地獄そのものの戦場をいくつも駆けてきた。

 

現代の世界だけではない。

 

並行世界のあらゆる戦場を越えてきた。

 

人同士の泥沼の戦。

 

人と別生命体との戦。

 

様々な経験をして乗り越えてきた。

 

怪物と戦い。

 

神と戦い。

 

他にも様々な存在と戦った。

 

故にわかるのだ。

 

切嗣がどんな気持ちを抱いたのかも。

 

どんな凄惨な経験をしたのかも。

 

故に切嗣の望みを全否定する気にはなれなかった。

 

刃夜もそう望んだことがあったのだから。

 

 

 

だがそれはしてはいけないのだと……気付いた。

 

 

 

自らの経験と……自らを生かしてくれた人々からの贈り物だった。

 

 

 

だからその贈り物を受け取った者として……切嗣へ贈る者を消すわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

刃夜はアイリを攫うと、ケイネスに助力を請うて、新たな器にケイネスが抽出した魂を……アイリの魂を新たな器へと移し替えた。

 

純粋たる魂に、純粋な何の色もない肉体に写すことで、その器はアイリスフィール・フォン・アインツベルンへと変化した。

 

柳洞寺の参拝所に横たわっていたのは、アイリスフィール・フォン・アインツベルンの魂が抽出された後の、聖杯の器だった。

 

そして当然だが舞夜も殺していない。

自らが調合した血糊の弾丸で殺したように見せかけたのだ。

切嗣を目覚めさせるために。

切嗣を推し量るために。

当然だが舞夜の足に撃った二発の弾丸も血糊の弾丸であるため、殺傷能力はない。

だが血糊の弾丸とはいえ、頭部に撃たれたため意識が飛ぶのは必然といえた。

意識を取り戻した舞夜にネタバレ……本物の弾丸に撃たれていないこと……されるわけにはいかなかったので、風翔の力で舞夜の口を封じていたりする。

また柳洞寺の異常な静けさも当然刃夜が犯人であり、モンスターからはぎ取った睡眠袋の中身を風に乗せてばらまき……柳洞寺の住人を強制的に夢の中へと誘っていたのだ。

また読んでいた本も、雰囲気作りのために羊皮紙のカバーをつけただけのもので、中身の本は「お父さんのための女の子の育て方」という育児本だったりする。

 

 

 

そしてついでに言えば刃夜が行ったこと……切嗣を推し量るために舞夜に行った所業……は、間違いではなかったがやり方は決定的に間違えている。

 

 

 

ぶっちゃけ外道そのものだった。

 

 

 

やれやれ、こんな事したくなかったんだが……まぁいいか。別段あいつらに嫌われても問題ないし

 

 

 

と、自分の行動をきちんと自覚していたが、余り反省している様子は見受けられなかった。

大げさに肩をすくめながら立ち上がり、曲がっていた腰を伸ばして……ふとその意識を地下へと向ける。

 

さてと……本当にろくでもない物みたいだな、聖杯ってのは

 

顎に手をやって、少々考え事をしているようだった。

だが考えたところで地下にあるものをどうこうできるわけがない。

行動しなければ何も変わらないのだから。

刃夜が一人屋根の上に立って思案していると、セイバーに支えられながら、舞夜が切嗣と合流する。

そして取り残された聖杯の器が……その内面で活発に脈動し始めたその何かを感じ取りながら、刃夜は鼻を鳴らしていた。

 

……どうやら、俺がどうにかしなければいけないのはまだまだあるみたいだな

 

自らがこうしてこの世界に召喚された理由をようやく理解して、刃夜は肩をすくめて力を使う。

柳洞寺の参拝所で横たわっている、もはや聖杯としての機能しか残されていない器を……宙に浮かせる。

 

 

 

さて、駄賃としては破格と言うべきか……まぁとりあえず戴いていこう

 

 

 

飛び降りて宙に浮いた聖杯と並び、その姿を薄れさせていく。

 

 

 

そして今度こそ、刃夜は柳洞寺を後にした。

 

 

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