桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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一瞬間違えて30.6.19 22:32にあげちゃいましたw
中身変わってないのであしからずw


聖杯の黒い泥と陰

それは巨大海魔との戦闘が空けた翌朝。

 

 

 

遠坂時臣は、懊悩していた。

昨夜見た「物」が忘れることが出来ず……考え事ばかりを繰り返していた。

それは言峰璃正の死を告げられた後も続いていた。

確かに璃正が死んだことは悲しむべきだった。

だがどうしても昨夜見た物が忘れられなかった。

また多大な干渉は盟約反古となってしまうが、それでも何とか桜のことを調べようとしていた。

 

以前からコンタクトを取ろうとしている間桐臓硯とは一切連絡が付かず、残された間桐の家の人間に至っては魔術を使用できないため、コンタクトをとることすら叶わなかった。

 

 

 

一体……桜はどんな状況に置かれているんだ?

 

 

 

あのイレギュラーなサーヴァント……刃夜が必死になって何かをしていた。

その刃夜が宣戦布告をした台詞……桜の為であることは容易に想像できた。

容易に想像できた要因が「アレ」であった。

それでも時臣は愛娘のためを思って間桐へと出したのだと……以前ならばまだ割り切れたかも知れない。

 

だが雁夜の態度がどうしても心に残り続けた。

 

凡俗でしかないはずの雁夜に見逃されたという事実が。

 

己は間違っていないのだと……そう信じたくて半ば必死になって時臣は桜のことを調べようとしていた。

 

 

 

その様子を……自らのサーヴァントが見ているとも気付かずに。

 

 

 

以前からつまらない男とは思っていたが……ここに来て狂うとは、度し難いほどにつまらん男だな、こいつは

 

 

 

こうして必死になっている自分に気づきもせず、ただ自らが知りたい答えのために必死になって奔走する姿を辟易しながら、アーチャーは時臣を見つめていた。

元々真面目すぎるというよりもおもしろみがない人間だとは思っていた。

だが初めから臣下の礼を取られていたため、アーチャー……ギルガメッシュとしても無碍にするつもりはなかった。

だがアーチャーにとって大事なことは、愉悦と業を楽しむことが出来る存在なのだ。

愉悦も業もなく、ただただ魔術師足らんとするこの遠坂時臣という存在のことを、アーチャーが好きになる理由はなかった。

 

だがそれでもこの苦悩と懊悩がどの様な方角に向かうかで、時臣に対するギルガメッシュの評価が決まる。

 

 

 

迷い、悩み、彷徨う

 

一つの答えを求めて苦悩する様とその哀れさは、実に人間らしく、愚かと言えた

 

だがその苦悩の果てにどのような結末を見せるのか?

 

 

 

どのような答えを……導き出すのか?

 

 

 

故にギルガメッシュは時臣が必死になっている様を、実に愉快そうに見つめていた

 

 

 

ちなみにそのとき当の刃夜が何をしていたのかと言うと……ケイネスとソラウを匿い協力を取り付けた後、大量の料理を作っていた。

ケイネスとソラウが準備に奔走……ちなみにその前にある程度ケイネスの体の治療を施した……している際に、自分は最低限の目標を達してライダーと宴会をしていた。

その姿を仮に時臣が見られていたら心底侮蔑されていたことだろう。

 

もっとも、その程度では刃夜としてはへでもなかっただろうが。

 

また雁夜は自らも考え事をしていた。

最大の障害であった臓硯を刃夜が殺したことを聞いて、心底安堵したのは間違いなく雁夜だろう。

そのためサーヴァントとして現界しているはず(・・・・・・・・)の刃夜がいなくなった事を考えて、色々手続きを調べていた。

そして何よりも……自分が時臣を倒し自らの我執を手放したことで、今後自分がどう生きていくのかも考えるようになった。

 

それだけの余裕が出来たというべきだろう。

 

ちなみに雁夜の兄である鶴野にも臓硯を殺したことは伝えてあった。

最初こそ鶴野も信じなかったが、それでも虫が完全に消えたことで信用したらしく、心の底から安堵していた。

そしてその際外道な男が、今後雁夜と桜の生活費の援助を命じていたりする。

最初こそ渋っていた鶴野だが、しかし臓硯を殺してくれたことを考えれば安い代金だと思い、今後の援助を約束した。

これにより、雁夜の陣営は資金的にも問題がなくなったと言える。

 

以上のような理由から、聖杯戦争は続いていたが……ある意味もっとも余裕があるのはバーサーカー陣営だろう。

雁夜が聖杯を求めた理由は桜の解放であるため、すでに聖杯を求める理由はない。

刃夜は最初から聖杯に興味はない。

そのため他の陣営に比べれば心に余裕はあった。

 

「まぁ、まだまだやることあるんだけどな」

「いきなりどうした刃夜? 変なこと呟いて?」

「独り言」

 

 

 

 

 

 

そして、時臣は最悪の選択をしてしまった。

 

狂った上でなお……それでも自分で決めた選択をすればまだ救われたのかも知れない。

 

だがそうはならなかった。

 

結論として時臣は刃夜を「存在しない存在」として扱ってしまったのだ。

 

時臣としては娘の存在よりも聖杯の方がより大事な物であると思ったのだ。

 

迷いもした。

 

だがしかし魔術の深奥を目指し、進む者としては修行は厳しいものであると……自分を偽ったのだ。

 

また自らが使役するサーヴァントが、扱いこそ難しいといえど、実質英霊最強(・・・・)存在であるギルガメッシュなのだ。

 

刃夜がイレギュラーな存在で推し量るのが難しいというのもあったが、それでもギルガメッシュが負けることはあり得ないと考えたのだ。

 

故に時臣はセイバー陣営へと話を持ちかけて、ライダーとバーサーカー陣営を倒した後に聖杯戦争の決着をつけることをアインツベルンへと持ちかけた。

 

 

 

その思考とその行動……迷ったまま進んでしまった姿

 

 

 

自らを偽ってしまった「偽物」を

 

 

 

ギルガメッシュがどのように見ているのかも考えずに。

 

 

 

令呪という絶対命令権。

 

一画消費してしまったとはいえ、それでもまだ二画あった。

 

時臣は最後には令呪でギルガメッシュを自害させる魂胆のため、実質後一画しか使えないが、それでも令呪があればこそ、時臣はギルガメッシュをどうにか出来ると踏んでいた。

 

だが、それも自らが信じていた弟子と、自らが使役しているアーチャーの裏切りにより……自らの家でその生涯を終えた。

 

 

 

 

 

 

「それで……体の調子はどうなんだ、アイリ?」

 

古い武家屋敷の居間で、切嗣はそうアイリへと問いかけていた。

ある程度改装こそしたが、それでも今回の聖杯戦争時のみ使えれば良いと認識しているため、最低限しか改修されてない。

寒さをしのげるが、その手入れの行き届いてない姿と、最低限の調度品しかないことも相まって、ものすごく寒々しい雰囲気を醸しだしている。

だがそんなことは今はどうでもよかった。

アイリの隣には同じように布団で横になっている舞夜がいて、その直ぐそばに心配そうに座っている切嗣とセイバーの姿があった。

ただ切嗣も、セイバーも舞夜も、アイリの体を心配していた。

だが、アイリ自身は体の不調を全く感じ取れていなかった。

 

「全く問題がないわ……。むしろ以前の体よりも調子がいい位だわ」

 

今の布団の上で横になりながら、アイリは手を伸ばして弱々しく手を握ったりする。

体をぎこちなく動かすその姿では、とてもそうは思えなかったが、しかし嘘を言っているようにも見えなかった。

間違いなく体にまだ慣れていないのだろう。

だがそれも当然だ。

魂を抽出し、別の無垢な体に移し替えたのだから、魂と体がまだなじむはずもなかったのだ。

魂を新たな体に移し替えたということは当然だが、切嗣もセイバーも舞夜も理解できておらずわかっているわけもない。

だがそれでも切嗣にはアイリの肉体が別の物になっていることは理解できた。

 

何年も夫としてアイリを見てきた切嗣だけは。

 

だが肉体を別の物になっていると理解できたとしても、その「理由」を、切嗣は推測することが出来ない。

 

 

 

一体……どうして

 

 

 

浮かぶのは疑問のみだ。

アイリの様子と、切嗣自身がアイリの体を見ても、肉体に何か呪いや罠などが仕込まれている様子はない。

自分が見落としている事も大いに考えられると切嗣も思っているが、アイリの体があまりにも普通すぎて、とてもそんな不純物が入り込む余裕はなかった。

さらに言えば……

 

「舞夜。お前も体に不調はないか?」

「問題ありません。ペイント弾を撃たれた箇所はまだ痛みますが……それでも一晩寝れば活動出来ると思います」

 

舞夜を生かす理由もわからなかった。

生かすのを百歩譲っていいとしても、磔にして痛めつける理由がまったくわからない。

 

その理解が出来ない行動をしたのが刃夜であるため、更にその疑問に拍車をかけている。

 

先ほどの刃夜とのやりとりを、切嗣は思い出す。

アイリの魂が抜かれて空になった聖杯(アイリの抜け殻)を手中に収めて、宙に磔にしている舞夜を痛めつけていた刃夜。

二人を攫うことでも理解出来ない行動だというのに、アイリの魂を抽出して新たな肉体に宿す。

舞夜を痛めつけながらも、殺さずにいたことが、更に理解に苦しんだ。

 

一体、何がしたいんだあのイレギュラーなサーヴァントは

 

だがちゃっかりと聖杯(アイリの抜け殻)を持って行っているのが、少々気になっていた。

普通であれば聖杯を欲したからこそ持っていったと考えるが妥当だ。

相手が普通の敵であれば、切嗣も直ぐにそう判断を下して、聖杯の奪還に動いただろう。

だが、聖杯を奪った存在があのイレギュラーなサーヴァントである刃夜なのだ。

今まで聖杯をいらないと言い続けていた刃夜が、ここに来て聖杯(アイリの抜け殻)を持っていったために、刃夜が何をしたいのかが切嗣には全く理解できない。

聖杯を欲しないというのがブラフであったとも考えられたが、とてもそうは思えないと、切嗣は自らの考えを否定していた。

 

 

 

『そうだな? 信じないだろうが……お前をどうにかするためだよ』

 

 

 

先ほど柳洞寺での刃夜の言葉が、切嗣としては更に理解が出来なかった

 

何故敵でしかない自分をどうにかしようとするのか?

 

更に切嗣だけではなく、アイリに舞夜まで救おうとするのが理解できない。

 

考えても、どれだけ考えても、切嗣には刃夜の行動がわからなかった。

 

 

 

といっても、刃夜自身

 

 

 

「なんかなんとかしなきゃいけない気がする」

 

 

 

と、その程度の理由で動いており、また一部を除いて聖杯戦争に参加している人間については、刃夜自身が嫌いでないためなんとかしようとしているだけなのだ。

はっきりいって刃夜自身にも大した理由がないと言えるだろう。

そのため刃夜の行動の意味を考えるだけ無駄なのだが……敵である切嗣がそんなことわかるはずもない。

 

 

 

またこの「考えさせる」という事はある意味で刃夜の狙い通りだったりする。

 

 

 

だがそのことを切嗣がわかるはずもなく、ただただ答えを出すことが出来ない疑問に頭を悩ませる。

しかしそれも直ぐに無駄だと判断し、初期の目的を優先する。

 

聖杯を勝ち取り、世界に平和をもたらすという、その目的を。

 

 

 

「舞夜、とりあえず僕が警戒を行っておくからアイリと一緒に休んでおけ。明日はアイリの警護を頼む」

 

 

 

決定事項としてそう告げて、切嗣は反論も意見も許さず、さっさと部屋を出て行って外へと向かっていく。

セイバーに声をかけることもしない。

さすがに慣れてきたとはいえ、不快にならないわけはなく、顔を僅かに歪ませていたが、それでもセイバーも切嗣に声をかけることはなかった。

 

「切嗣が許せない? セイバー」

 

そんなセイバーの心情を察してか、アイリが何とか口を動かして、セイバーへと問いかける。

体に問題がないことは間違いないと、セイバー自身も判断していたが、しかしそれでも余り無理をさせるのはセイバーとしても本意ではなかった。

だが、この心優しいアイリが無理をして話しかけてきてくれたのだから、それに返答をすることをしないのもどうなのかと、セイバーは一瞬話をすべきか悩んだ。

そんなセイバーの心情を明確に察して、アイリは返事を待たずに言葉を続けた。

 

「ランサーとの戦闘時に、切嗣がランサーのマスター達に何をしようとしてたのかは、私もきちんとわかってる訳じゃないわ。けれど、これだけはわかってあげて。切嗣も……舞夜さんも、決してあなたを貶めようとしているわけではないの。ただ、自らの心から欲した願いのために聖杯を求めている。ただそれだけ」

 

ランサーとの戦闘時……廃墟の奥から出てきたケイネスと、婚約者のソラウ。

そして自らのマスターである衛宮切嗣。

敵対しているはずの二人が共に廃墟から出てきたのだ。

それもイレギュラーなサーヴァント、刃夜に半ば脅される形で。

刃夜の様子と脅した時の言葉と、引きずってきた婦人の様子から、切嗣が己にとって快くない手段を用いようとしていたのは、容易に想像できる。

刃夜が手を回したためにランサーとの決闘を無事に行うことが出来たが、問い詰めて切嗣は何も言ってくれなかった。

一晩が経ち、アイリと舞夜が危機的状況に陥ってなお、切嗣はセイバーとは口をきこうとしなかった。

 

「アイリスフィール、私は……」

 

セイバーとしても、どうすればいいのかわからないのだろう。

セイバーも、あのときのやりとりは、切嗣が外道ともいえる手法を用いようとしたことは、ソラウの様子を見れば一目瞭然だった。

だがそれでも、切嗣が聖杯を求める理由を知ってしまっては、余り反発することも出来ない。

 

セイバーも切嗣も……互いに、確かな理由と己にとって間違いない信念の元に、聖杯を欲している。

 

だというのに、これほどまでに相容れないマスターとサーヴァントの二人組は、聖杯戦争の中ではこの二人しかいなかった。

 

 

 

アイリとしても、これは頭の痛い問題でもあった。

 

自らの夫のことを愛しているし、信じたい。

 

そしてそれと同じくらいに、この優しくも不器用な騎士の事を好ましく思っていた。

 

二人の架け橋として行動していたが、今は体が思うように動かず、フォローをすることが出来ない。

 

命あるこの身だが、満足に動くことも出来ないこの状況は、アイリとしても実に歯がゆかった。

 

 

 

「……」

 

 

 

舞夜はこの状況では何も言えない。

 

自らの役目を全うできなかった舞夜としては、自らに発言権があるとは思っていなかった。

 

だが当たり前だが、舞夜が刃夜を相手にしてどうにか出来るわけがない。

 

故に……アイリはただ僅かに顔を横に向けて、同じく横になっている舞夜へと笑いかけた。

 

確かに何も出来ない。

 

だがそれでも生きている。

 

 

 

本来であれば死んであろうことは、アイリも舞夜もわかっていた。

 

 

 

だからこそ、互いに命があることが喜ばしかった。

 

特にアイリは……今朝の話で、舞夜のことを以前よりも好ましく思ったからなおさらだった。

 

互いに、新たな夢が、出来たのだから。

 

 

 

「舞夜さん……あなたも、無事で……良かった」

 

「マダム……」

 

 

 

必死になりながら、自らを慰めようとしてくれるアイリに対して、舞夜もぎこちなかったが、それでも同じように笑いかけた。

 

友と言うには、生まれも育ちも違いすぎる。

 

それどころか、そもそも同じ「人」という種族ですらもない。

 

だがそれでも、二人は確かに互いのことを心配し、大切に思っていた。

 

だから、二人は新たに誓った。

 

切嗣を勝たせてみせると。

 

それで切嗣が救われるのならば……と。

 

 

 

だが、その願いは叶わなかった。

 

 

 

叶えさせる訳にはいかないために、全力で妨害する存在がいたからだ。

 

叶えさせるわけにはいかないという確固たる理由があるわけではない。

 

だがある程度、聖杯と言う物がどのようなものなのか……刃夜はすでに気付き始めていた。

 

 

 

それを知るのは、そう遠くはない。

 

 

 

 

 

 

 






投稿日追記
神羅様 誤字報告ありがとうございました!

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