桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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28 最後の昼

前夜が……明ける。

 

本来であれば第五次へと続き、幾人もの生を狂わせた聖杯戦争。

 

 

 

数百人の命を奪った。

 

 

 

一人は壊れて、壊して……最後に救った少年に救われた男がいた。

 

 

 

壊されて、壊れて……壊れたことに気付かぬままに「人」が抜け落ちた少年がいた。

 

 

 

そして誰よりも

 

 

 

嬲られ、

 

 

 

犯され、

 

 

 

全てを踏みにじられた少女がいた。

 

 

 

本人も当然だが、意識して行ったわけではない。

 

 

 

何せ本人は、当たり前だがこの世界の先のことなど知るはずがないのだから。

 

 

 

だが、その存在は誓ったのだ。

 

 

 

その全てのしがらみを切り裂き、その少女を救ってみせると。

 

 

 

その最後の戦いが……始まるその日の昼間。

 

 

 

 

 

 

その存在は……

 

 

 

 

 

 

「さて、今日のお昼は……ふわふわっの、とろっとろのオムライスだ!」

「やった!」

「……うわ、うまそう」

 

呑気に昼飯を作っていたりする。

しかも刃夜としてもかなり力を入れたのか、少し額に汗を滲ませていた。

当然だが、刃夜が調理したのだから、調理の仕方に問題などあるわけもない。

さらに食材も、莫大な金と長年の経験に培われた人心掌握術で、八百屋の店主や地元の農家、畜産業の人々と直接交渉して、最高の食材を仕入れていたりする。

その二つにさらに刃夜が「桜」と「雁夜」のために心を込めて……手間暇かけて作った料理だ。

故に……

 

「おいしい!」

「……うまい」

 

まずいわけがあるはずがない。

 

「そうだろう、そうだろう。出来れば家庭菜園で作った俺の野菜で作りたかったが……さすがに無理だった」

「家庭菜園にしては、本格的すぎるだろ……あれ」

 

本気で悔しがっている刃夜に呆れた視線を向けながら、雁夜は次に庭へと目を向ける。

そこには改築時、草刈り程度しか手入れされていなかった庭はなく、土興しを行われ、更に畜産業の糞や枝葉、米ぬかなどを練り込んで堆肥を作成していた。

堆肥を作るにはそれなりの日数がかかるのだが、しかしそこは一応「英霊」として存在する刃夜は伊達じゃなかった。

風の力、霞の力、炎の力……それら全てを使用して、一両日で堆肥を作成して、作物を育てていた。

その作物の育て方も異質……というかまねできない……超高速で動いて分身もどきを作って労力を惜しまず手をかけている。

さすがに作物……というよりも育てている植物が普通(・・)の植物なので、当然だが一週間も経たずに収穫などできるわけもない。

だが、それでも刃夜のマネをして、一緒に嬉しそうにはしゃぎながら土いじりをしている桜の姿を見ている雁夜としては、苦笑するしかなかった。

そして桜に誘われるままに雁夜も一緒に土いじりをしているのだ。

あまり人のことを言えなかったりする。

そして刃夜の料理を味わいながらも、さすがにそれなりの付き合いになってきたために……雁夜も刃夜の行動を見抜いていた。

だが問いただす前に、刃夜から話を持ちかけられたため、その鋭さもある意味で無意味となった。

 

「おそらく……というか今宵、終わらせる」

「……終わらせる?」

 

食後、朝には遅く、昼には早い……そんな時間に、刃夜は桜と雁夜を居間に集めて、お茶を飲みながらそんなことを言い出した。

一瞬刃夜の言葉の意味がわからなかった雁夜だったが、しかしそれでも少しでも考えればわかることだった。

 

終わらせるとはすなわち……聖杯戦争に他ならなかった。

 

「終わらせられるのか?」

 

雁夜が疑問の声を上げるがそれも当然と言えた。

何せ聖杯戦争は別のサーヴァントとの生き残りを賭けた戦いだ。

最後の一騎まで戦うという、表向きのルールしか知らない雁夜だが、それでも現時点で正式なサーヴァントは四騎残っており、イレギュラーな刃夜も含めれば五騎だ。

刃夜とバーサーカーが戦うことはおそらくないだろうと、雁夜も思っていたがそれでも残り三騎。

その全てを打倒しなければ聖杯戦争は終わらない。

確かに刃夜が強いのは雁夜も十分理解していたが、残り三騎の英霊を単独で倒せるとは思えなかった。

刃夜としてもやろうと思えば出来なくもなかったが……しかし刃夜の目算が正しければ、刃夜が後戦うのはおそらく一騎のみだった。

 

その「一」が……べらぼうに大変そうだが……

 

内心で盛大にため息を吐いている刃夜だったが、しかし桜の手前それをするわけにはいかないので、刃夜は無表情を保った。

その桜がいるということも……今の刃夜にとっては急ぐ理由になった。

 

急ぐ理由はないが……幼子だからと隠すのがいいというわけではない。だが戦争中に話すのはちょいと……な

 

己の力量不足に歯がみするしかなかったが、それでも起きたことを巻き戻すことは刃夜にも出来ない。

故に……少しでも自分に出来ることをしようと刃夜は決めたのだ。

そして刃夜は一度お茶をすすって心の整理をしつつ、言葉を続けた。

 

「始まった以上、終わることは間違いない。ならばこれ以上被害が大きくなる前に、終わらせなければならない」

 

確固たる意志を持って、刃夜はそうはっきりと口にした。

その表情は……今まで見たこともないほどに力強かった。

刃夜としてもかなり苦戦を強いられるである相手がいるのだからそれも当然だった。

 

というか、ちょっと不安だな……アレに勝つのは。まぁ負けることはないとは思うが……

 

不安に思う気持ちは確かにあった。

だがそれでも刃夜には負けない理由があった。

その理由へと、刃夜は視線を向けると……少々不安そうに刃夜を見ていた瞳を見つけた。

 

あれま、さすがは桜ちゃんだ……いやこの場合、俺が未熟と言うべきか?

 

数百年の修行をしているにもかかわらず桜に不安を与えてしまったことに刃夜は内心で反省し、素直に桜に詫びていた。

 

「怖がらせちゃったかな? 大丈夫だ桜ちゃん。俺は絶対に戻ってくる」

「……本当?」

「必ずだ。当然五体満足で。まだまだ俺にはやらなきゃならないことが山積みだからな」

 

少々大げさに肩をすくめながら、桜に笑いかけている。

だがそれでも不安をぬぐうことが出来ないのか、桜は不安そうに刃夜を見つめていた。

まだまだ未熟だな……と、内心で猛省する刃夜だったが、しかしそれでもこれ以上刃夜としても、桜の不安を取り除くのは難しいと思っていた。

人の心に敏感な桜ということもある。

だがそれ以上に刃夜自身も、絶対的な自信がなかったのだ。

あの黄金の英霊を相手にして……無事で済むのか?……と。

 

勝つことは出来る。

 

だが今まで見せた武器以外にも、何か絶対の一を持っていると、刃夜は確信していた。

そしてその一が……とてつもない物であるということも。

 

だがまぁ……やるしかないんだけどな

 

内心でそう愚痴りながら、刃夜はさらに内心で深々とため息を吐いていた。

 

そしてそれと同時に……自分が醜い感情を抱いていることも十分に理解していた。

 

個人的に恨みがある訳じゃない。

 

自分が万能でないことも理解している。

 

八つ当たりと言われても、刃夜としては強く言い返すことは出来ないだろう。

 

だがそれでも刃夜は絶対に殺さなければいけない相手がいた。

 

 

 

あちらもこちらを意識しているようだしある意味でちょうど良かったか

 

 

 

何故か最初から目をつけられていた。

 

最初は刃夜としてはどうでもいい存在だった。

 

だが今はそうも言ってられない。

 

自分が納得するためにも、刃夜はあの黄金の存在を……

 

 

 

英雄王ギルガメッシュを殺すのだと……誓っていた。

 

 

 

その後は刃夜も注意して、態度に出さないように注意していた。

 

桜を不安にさせるのは当然だが、刃夜の本意ではないからだ。

 

だがそれでも桜が怖がっているのは刃夜もわかっていた。

 

そしてその恐怖を払拭するのが難しいことも。

 

だから刃夜がやれることはただ一つだ。

 

その恐怖を現実の物にしないこと。

 

ただそれだけだ。

 

 

 

そのために……刃夜は再び外道になると誓った。

 

 

 

 

 

 

卑怯と言われようとなんと言われようと……俺は、この子を守る

 

 

 

 

 

 

胸に宿した恐怖を必死になって隠しながら、自らが作った料理を食べて笑顔を見せている桜を見れば、外道になる程度のことなど、刃夜にとっては瑣末事だった。

 

 

 

必ず殺す……

 

 

 

胸に宿した滾る思いをしまい込みながら、刃夜は力を練っていく。

 

それが己に出来ることならば。

 

だがそれでも、外道だけで終わるつもりは、刃夜にもなかった。

 

 

 

「見つけたか……?」

 

 

 

昼ご飯を終えると、刃夜は庭に出てぼそりとそう問いかけた。

 

それは独り言ではなく、確かな問い。

 

問いかけであって、問いかけではない……ただの確認だった。

 

その証拠に……現界したバーサーカーの表情には……

 

 

 

一切の迷いのない、確かな強い意思を宿した瞳が刃夜を射貫いていた。

 

 

 

「正しいかどうかはわからない。だが……私の思いは確認した」

 

 

 

「ならそれでいいだろう。俺もお前の戦いが出来るように、力を貸す。故に、お前の力を貸して欲しい」

 

 

 

「あぁ。わかった」

 

 

 

二人のやりとりは短かった。

 

だが二人は互いに互いの内心の事をある程度理解している様子だった。

 

当然……刃夜がどのように考えているのかも。

 

 

 

……構わない。我が王と戦えるのなら

 

 

 

刃夜の狙いを騎士であるバーサーカー……ランスロットは理解していた。

 

だが刃夜がただただ目的のためだけに、自分を利用しようとしているつもりではないのは理解していたのだから。

 

 

 

ある意味で刃夜の目的のために動いているのは間違いないのだが。

 

 

 

さて……もう一つやらなきゃいけないこともあるわな

 

 

 

深々と溜め息を吐きながら、刃夜は昼飯の片付けを桜と雁夜の二人に任せて、とある老人の家を訪問していた。

といっても家の近くに来ただけで、家の中に上がる込むことはしない。

だが、近くに来れば自ずと出てくる存在がいることはわかっていた。

故に、刃夜は気配が付いてきていることをきちんと把握した上で、すぐそばの話が出来る交差点へと足を運んだ。

 

「昨夜は申し訳なかった、征服王」

「自ら負けを認めておきながら余をすっぽかして消えるとは、なかなか度胸のあることしていくな、ジンヤよ?」

 

周囲に誰もおらず、誰も見てないことを確認し、刃夜が虚空へと声を掛ける。

それと同時に現界してライダーはニヤニヤと、実に嫌らしい笑みを浮かべて刃夜へとそう文句を言っていた。

といっても、それほど怒っているわけではないのだろう。

その嫌らしく見えつつも快活に笑っているのがその証拠だ。

だが当然だが、すっぽかされたこと自体を不快に思っていないわけがなかった。

刃夜もそれがわかっているからこそ、こうして一人でライダーの元へやってきたのだろう。

苦笑しつつ素直にわびた。

 

「昨夜は突然帰って申し訳なかった。ちょっと緊急事態が起きてな」

「まぁ別段かまわんが。あのときは間違いなく余の負けだろう」

「だが……」

「言うなジンヤよ。確かに貴様の言い分も一理あるのだろうが、それでも余が納得出来ん」

 

反論は許さんとばかりに、ライダーはその巨大でたくましい肉体で腕を組んで、刃夜を軽く睨みつける。

刃夜としてもこの問題を長引かせたくなかったので、ちょうどよかったといってよかった。

そしてそれ以上に、刃夜もライダーも……高ぶっていたのだろう。

終わりが近いことをそれとなく察して。

故に未だ敵である互いがあまり話すことはないと、二人は言葉にせずともわかっていた。

故に話は長くなくすぐに終わる。

 

刃夜が詫びの品を渡して終わった。

 

 

 

夜が更けていく。

 

そして刃夜は動きだす。

 

不安そうにしている桜を限りない優しさで宥めて……眠りにつかせた。

 

そして刃夜、雁夜、バーサーカーの三人は動き出した。

 

己が胸に抱く目的のために。

 

 

 

二人組は静かな寺の参拝所へ。

 

 

 

刃夜はその深奥へと向かって……器を置いた。

 

 

 

そしてその器を置いた先にある……巨大な地獄の大釜を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

これが大元か……。こんな邪悪な物で何を叶えるって言うんだか

 

 

 

 

 

 

地獄の大釜に呼応し、手にした超野太刀が疼き、嘶く。

 

さらに超野太刀から伸びる呪詛の黒き渦が、野太刀を持つ刃夜の右手に絡み付いていく。

 

 

 

早く喰わせろと……

 

 

 

そう吼えているかのように、その黒き渦は赤黒く明滅していた。

 

その黒き波動を受けつつも、刃夜はただ静かにその地獄の大釜を見つめて、鼻で嗤った。

 

この場にいるのは刃夜のみ。

 

故にその嗤った対象は他の誰でもなく、刃夜自身に向けられた物だった。

 

 

 

どうやって説得というか、正気に戻そうか考えてたけど……考えるまでもなかったな、こりゃ

 

 

 

鼻で嗤った後、乱暴に自らの頭をかきむしり……そして盛大にため息を吐いた。

 

どうやら心底自分の事に呆れている様だった。

 

だがそれでも、手間が省けたのだからそれは歓迎すべき事なのだろう。

 

切り替えるためか、それとも抑えつけるためか……刃夜は右手で握った狩竜で自らの右肩を軽く叩き、一つ小さく頷いた。

 

 

 

「さて、準備は整った。これより俺は外道となり、修羅となろう」

 

 

 

軽々しく言ったその言葉は、言葉だけであればただの軽い文字の羅列にしかならなかっただろう。

 

だが、その場に他の誰かがいて、刃夜の表情と、言霊に込められた凄烈な感情を少しでも感じ取れれば、誰も笑うことなど出来なかっただろう。

 

 

 

もしかしたら無意識のうちに感じ取っているのかも知れない。

 

今宵の戦いが刃夜にとって、生涯忘れる事が出来ない戦いになるのだと。

 

 

 

自らの信念の命題を賭けた戦いになるのだと。

 

 

 

地上に戻り、刃夜は柳洞寺の山門へと足を運び……その左腕に強烈な紅い焔と、紫の焔をが灯った

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯戦争最後の夜の幕開けだ! 盛大に、派手に行こうか!」

 

 

 

 

 

 

誰に聞かせるわけでもなく、刃夜は一人大声で叫び……左腕を空へと伸ばす。

 

 

 

その刃夜の動きに合わせるように……紅と紫の焔が天へと走った。

 

 

 

季節外れの花火が上がる。

 

 

 

残っている全ての聖杯戦争の参加者を招き入れる……呪われた火の花。

 

 

 

 

 

 

そして最後の夜が訪れる。

 

 

 

 

 

 

五百年に及んだ……聖杯戦争の最後の夜が。

 

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