ふんっ、実に下らん男だった
胸のむかつきを洗い流すかのように、アーチャー……英雄王ギルガメッシュは冬木教会の地下にある言峰の部屋でワインを飲んでいた。
先ほど言峰と結託し、遠坂時臣を……己のマスターだった男を殺したばかりだ。
別段、時臣を殺したから苛立っているわけではない。
人を殺すという行為はギルガメッシュにとってただの作業でしかない。
それも自らが価値がないと決めた存在に、ギルガメッシュの感情が波立つことなどあるはずもない。
では何故こんなにも苛立っているのか?
それがわからないことで、ギルガメッシュ自身が苛立っていた。
だがそんなことなど瑣末事であることだと、ギルガメッシュは直ぐにその感情を切って捨てた。
聖杯戦争もすでに半分ほどのサーヴァントが消えた。
それに伴いマスターも半分ほどの数となっている。
通常であれば最後の一組になるまで終わらない聖杯戦争だが、綺礼から聞いていたがそんなことは関係なかった。
ギルガメッシュ自身も感じていたのだ。
もうじき聖杯戦争が終わると。
何故そう感じたのかはわからない。
そしてそのわからないという感情は、ある存在へと向けられる。
鉄刃夜という……意味不明な存在へ。
何故ここまでギルガメッシュが刃夜に執着するのか?
それはギルガメッシュ自身にもわかっていないことだった。
最初に見た時は、冬木教会で周囲の聖杯戦争参加者に喧嘩を売っている姿だ。
そしてその後直に見に行き、新都と旧市街とを結ぶ大橋の直ぐそばで生意気にも、ギルガメッシュを相手に啖呵を切って見せたのだ。
あそこまでただただ侮蔑もなく、純粋に……怒りの感情をぶつけられたのはギルガメッシュも久しぶりの体験だった。
その印象が強かったというのは間違いなくあるだろう。
だが、本当にそれだけなのか?
戦闘を行った際の違和感を覚えたことは、ギルガメッシュも否定できなかった。
あのときは子供がいたからその気になれなかったとも考えた。
それもあるがそれ以上に何かがあるとしか思えなかった。
その「何か」が
刃夜にあるのか?
自分にあるのか?
それすらもわからない。
そのわからないことが、ギルガメッシュの心をいらだたせていた。
そう……わからなかったのだ……
優れた知識と洞察力を有し、相手の本質を見抜くだけの頭脳を持ったギルガメッシュが……
この俺が、あんな小僧ごときに心を乱すとはな……
自らの心の高ぶりを思って、ギルガメッシュは軽く鼻で笑った。
そう高ぶっていたのだ。
自ら臣下の礼をとっていた、取るに足らない存在……遠坂時臣を殺したことも間違いなく関係しているだろう。
別段血に飢えるような戦闘凶ではない。
だが、それでも自らの気持ちが高ぶっているのを自覚するには十分すぎた。
征服王イスカンダル。
騎士王、アーサー王。
そして……鉄刃夜。
たった七騎しか存在出来ないはずの聖杯戦争で、これだけ自らを愉しませる存在が出てくると、一体誰が予想できたか?
だがギルガメッシュとしては三人に対する対処は変わらない。
逆賊は誅殺し、あの哀れな女は自らの所有物とする。
これは決定事項だった。
その最後の戦いまで……あと少し。
ギルガメッシュもそう感じていた。
否、聖杯戦争に参加している誰もが、もう長くはないと自覚しなくとも感じてはいただろう。
そう感じた原因が……ナニであるかもわかっていなかった。
だがそれでも感じたのだ。
凄まじいまでの魔力の波動を。
地下に蠢く……悪意の塊を。
それが破裂すればどのような悲劇が起こるのかも知らずに。
変化していると……堕ちていることも知らずにその力に自らの願いを託そうとしている。
唯一変化に気付いていた存在は、地の底で蠢く悪意の塊とは比較にもならない怨念の中を、悠久の時間をさまよっている。
しかし知り得ているだけで意味がなかった。
唯一気付いていたその存在も、変化にこそ気付いているが、悠久にも等しい時間に狂わされて、どうすることも出来なかった。
地獄の釜の蓋を開けて、中身をどうにか出来る存在が一人だけいた。
「いた」というよりは、おそらく喚ばれたのだろう。
桜だけでなく、聖杯に。
聖杯に宿った……一人の女性に。
当然だが本人は全くわかっていない。
本人にしてみれば、やることはただ一つだ。
それに付随していくつものやらなければいけないことが増えていた。
だがそれでもやってのけるだろう。
そのために……鉄刃夜は、刀を振るっているのだから。