桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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32 心打

新都と旧市街を繫ぐ、冬木の大橋。

 

その橋の下で、二人は初めてあった時と同じように、

 

 

 

対峙していた。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

初めて対峙した時と同じように対峙している。

 

だが、致命的なまでに違うことがいくつもあった。

 

刃夜のマスターである、幼子の桜がいないこと。

 

そして二人の表情と感情。

 

 

 

相手に抱いた感情だ。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

一方は憎悪と憎しみを込めた鋭い瞳を。

 

もう一方はその瞳を受けて、挑戦的に高圧的に……

 

 

 

だがそれ以上に戦意を宿し、戦闘意欲と興奮を宿した瞳で……

 

 

 

英雄王、ギルガメッシュは小僧である刃夜の視線を……

 

 

 

受け止めていた。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

互いに言葉はない。

 

大橋より降りてきたギルガメッシュは、刃夜が立つ同じ大地に足を踏み下ろした。

 

対峙した刃夜はその好戦的な戦意と殺意以外に何もなく、

 

手にただ一振りの打刀……夜月だけを手にして……

 

ギルガメッシュを睨み続けた。

 

 

 

「……一つ応えろ、アーチャー」

 

 

 

仁王立ち、ただただ立ちつくしていた刃夜が、ギルガメッシュへと言葉を放った。

 

普段のギルガメッシュであれば、否応なく刃夜の言葉に耳すらも貸さず、鏖殺していただろう。

 

だが相手が刃夜であり、そして先ほどの戦闘で気持ちが昂ぶっているが故に、その言葉を流すことはせず、刃夜の問いへと言葉を返した。

 

「ほう、許す。述べるがよい、小僧」

 

この問答。

おそらく最後になるであろう問答にて、果たして刃夜が何を問うのか?

その興味でギルガメッシュは刃夜の問いを許した。

だが放たれた言葉は、度し難いほどに……ギルガメッシュの期待を裏切った。

 

「……何故……遠坂時臣を殺した?」

 

「……何?」

 

あまりにも平凡で愚鈍なその問いに、ギルガメッシュは思わず問いに答えるわけでもなく、ただただ意味のない言葉を、口にしていた。

 

「答えろ、アーチャー」

 

偽りでなく純粋な怒りを乗せたその言葉。

それ故に刃夜のこの問いが、正真正銘、気まぐれでもなく、(ギルガメッシュ)との戦闘が始まる前に聞きたいことだという事であることは明白だった。

これが自らが気に掛けていた男の……刃夜の問いであることを認識し、ギルガメッシュは先ほどまでの昂揚が吹き飛ぶほどの怒りが、胸中に荒れ狂った。

 

失望したぞ……小僧!

 

もはや言葉を交わすことですらも、ギルガメッシュの総身に怒りを吹き荒れさせるだけでしかなかった。

だがそれでも先に問いを許可したのは己自身。

故に、応えぬのは王としての矜持が許さなかった。

 

生涯最後の問いが、己のことでも、我の事でもなく……あんな愚物の誅罰の動機とは……

 

「良かろう、答えてやろう」

 

右手に宝物庫の鍵剣を握りしめ、その剣を回して……最上にして最高の剣を解錠する。

すでにこの剣を振るうのは今宵で二度目。

故にギルガメッシュは直ぐに言峰に命じて令呪の魔力を供給させた。

令呪の爆発的な魔力によって……その剣が再びこの世界に、姿を顕した。

 

乖離剣エア

 

最古の英雄王にして、あらゆる財を手中に収めた王、ギルガメッシュ。

そのギルガメッシュのみが持ちうる剣であり、彼がもっとも信頼する最強の宝具。

故にこの剣を使うのは彼自身が使うに値すると認めた敵のみだ。

先の征服王……イスカンダルのように自らが手を下すに値すると判断した男。

だが今ギルガメッシュがこの剣を抜いたのは、刃夜を認めたからだけではない。

確かに認めてはいた。

この小僧は自らが罰すべき敵であると。

だが先の問答にてその興味と余興としていた愉悦は、完全にギルガメッシュから消え去った。

期待していた分、落胆も大きい。

故に、ギルガメッシュは跡形すらも残さずに吹き飛ばすと、そう決めたのだ。

元々使う予定だった相手ではあるが、このような興の乗らぬ状況で抜くことになるとは、ギルガメッシュ自身が予想もしていなかった。

 

「あまりにもつまらぬかったからだ」

 

「……何?」

 

ギルガメッシュの答えに刃夜が顔を歪めた。

それは理解できない者が浮かべる疑問の表情。

それを認識して、更にギルガメッシュは落胆した。

興も、愉悦も……何も理解できない小僧だったのだと。

 

「我を呼び出し、忠節を持って接したが、それだけの男だ。我を最後に供物にするつもりだったという話を聞き、少しは見応えがあると思ったが、あのような馬鹿な面を晒して死ぬような男……我の興味にはない」

 

「……なるほど」

 

地の底より響き渡るかのような……それほどまでに低い声だった。

思わずギルガメッシュが、眉をひそめるほどに。

そしてこの暗がりの先に……一度俯けた顔を上げた刃夜の顔を見て……

 

 

 

ギルガメッシュはほくそ笑んだ。

 

 

 

「どうやら……絶対に斬らねばならない相手のようだな」

 

 

 

憎悪と怒りに塗れたその表情。

左手に持った打刀の鯉口を切って抜刀し、その切っ先をギルガメッシュへと向けて構える。

 

鋭き刀の刃と、それ以上に鋭い怒りの感情を露わにしたその視線。

 

その表情はギルガメッシュに興を乗らせるのには十分な顔だった。

これほどの純粋な怒りをぶつけてくる男は、過去ギルガメッシュの記憶にもそうは居ない。

それも当然だ。

何せギルガメッシュは自他共に認める英雄王。

数多の財宝と強大な力と魔力を有した英雄王だ。

そんな存在に刃向かえる存在など普通はいるわけがない。

確かに普通とは言い難い小僧ではあったが、それでもここまで純粋な憎悪を向けてくるのはなかなかに、愉快なことだった。

 

そして今からこの小僧を挽き潰すと考えれば……それなりに興が乗った。

 

だがそれ以上に……

 

 

 

我の期待を裏切り、不快にさせたのは万死に値する!

 

 

 

右手に掴んだ己の最強の剣。

 

三つに分かれた剣身が唸りを上げて世界を引き裂かんと回り始める。

 

期待を裏切ったが故……そして己の怒りを収めるために、最初から加減はなしの全力の一撃。

 

その溢れんばかりの魔力と、剣から溢れでる圧倒的な力に、刃夜の顔が歪んだ。

 

だがすでに遅い。

 

乖離剣エアは唸りを上げて、ギルガメッシュの号令を待っている。

 

その相棒に答えるように……ギルガメッシュは天高く掲げていたその剣を振り下ろした。

 

 

 

「消え失せよ小僧! 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」

 

 

 

全てを……それこそ空間すらも引き裂く最強の力。

 

ギルガメッシュの最強の剣。

 

周囲に存在する風を巻き込んで超高速で回転し、圧縮による真空波にて空間すらも引き裂く……間違いなく最強の剣だ。

 

地獄を識るもの。

 

原初の地球よりこの世界に存在し、あらゆる「死の国」の原点とも言えるその生命の記憶の原初の光景を刻みつける、究極の一。

 

この剣を防ぐことは普通であれば不可能だ。

 

 

 

だがその不可能を覆すことが出来る男……否……

 

 

 

覆すことが出来る究極の一を持った存在が……

 

 

 

 

 

 

ここにいたのだ。

 

 

 

 

 

 

!? なんだアレ!?

 

それがギルガメッシュの究極の剣が唸りを上げて力を練り上げた姿を見た、刃夜の正直な思いだった。

だがこの「空間すらも引き裂く」力によく似た力を知っていた。

故に……刃夜の選択肢は一つだった。

 

自らがもっとも信用し……

 

もっとも愛用し……

 

もっとも信頼し……

 

 

 

そして……ある意味でもっとも憎悪する刀を地面へと突き立てて……

 

 

 

気力と魔力を最大に練り上げて夜月へと纏わせる。

 

 

 

そして、内に秘めたその力を解放した。

 

 

 

「刃気! 刃魔! 解放!」

 

 

 

力強く吐き出されたその言葉に応じるように、夜月の刀身が光り輝き不可視の壁を造り上げる。

 

そして荒れ狂う力と、不可視の壁が……

 

 

 

激突した。

 

 

 

!!!!

 

 

 

物言わぬ何かが……悲鳴を上げたかのような音が響いた気がした。

 

だがそれは鼓膜を震わす音ではなく、もっと別の概念的な悲鳴であるために、二人の鼓膜を震わすことがなかった。

 

けれど……その悲鳴は確かに二人の体を打っていた。

 

 

 

ぐっ……きつい……

 

 

 

だがそんな聞こえもしない悲鳴の事など、今の刃夜には考える余裕はなかった。

 

百年単位でため込んだ刃気と刃魔。

 

その全てを解放し、さらに……己にとって禁忌とも言える力に手を出したのだ。

 

 

 

全てを守る……否……

 

 

 

刃夜の生を縛りつける……絶対の守護防壁。

 

 

 

初めてこれが発動したのは破壊神と相対し、破壊神から放たれた衝撃波を受け止めるだけでなく霧散させた、究極の壁。

 

僅かながらもその力を引き出すことが出来るようになった刃夜だったが、これを使用するのはつまり未だ己が未熟であることに他ならなかった。

 

だがそれでも使わないわけにはいかなかった。

 

まだやるべきことを果たしていない。

 

過去の因縁も。

 

今の約束も。

 

 

 

そして……己がすべき事柄も。

 

 

 

何一つ果たしていない。

 

だから使わざるを得なかった。

 

暗殺することも不可能ではなかった。

 

だがそれでもどうしても聞かなければいけない事柄を聞くために、こうして一騎打ちの形となった。

 

理由を聞いたところであの愚か者が帰ってくるわけではない。

 

だがそれでも……殺された理由を教えることが出来る状況にはするべき責務があった。

 

桜を……

 

時臣も救ってみせると言った……

 

 

 

刃夜には。

 

 

 

だがその結果がこれだった。

 

自らのうかつさに少々思うところがあったにはあったが、それでも刃夜としても勝算もなくこの問答を行ったわけではない。

 

 

 

先の戦闘で、凄まじいまでの魔力の奔流を感じ取った!

 

 

 

イスカンダルが展開した固有結界から漏れ出た圧倒的な力の奔流。

 

固有結界すらも突き抜けて魔力の波動を感じさせたその威力は当然、生半可な物ではない。

 

だが、それだけ強力であれば当然、それだけ凄まじいほどの魔力が必要となる。

 

最強の防壁を使用しての魔力切れ。

 

それを刃夜は狙っていた。

 

そしてその隙を狙い、刀蔵から別の得物を出してアーチャー……ギルガメッシュを殺す。

 

 

 

そのつもりだった。

 

 

 

 

 

 

「何だ、その小細工は……」

 

 

 

 

 

 

刃夜のこのあまりにも消極的であり、

 

王である自らの決定をただ長引かせるだけの愚鈍な行動。

 

そして何よりあまりにも侮辱に等しい行為に、ギルガメッシュの怒りは頂点へと達した。

 

 

 

「失せよ! 小僧!」

 

 

 

怒りに呼応するように、更に乖離剣エアが唸りを上げて更にその強大な力を発揮する。

 

その瞬間に……

 

 

 

!?

 

 

 

目の前の不可視の壁が……

 

 

 

夜月の絶対防壁に、幾重ものヒビが走った。

 

 

 

!? ば……馬鹿な!?

 

 

 

この世界に……第四次聖杯戦争に参加して初めて……

 

 

 

刃夜が真に瞠目した。

 

 

 

この不可視の防壁は、絶対の壁。

 

今まで一度も破られたことはなく……

 

破れるはずのない……究極の壁。

 

 

 

そして……

 

 

 

刃夜自身が壊さなければいけない……

 

 

 

呪いの壁なのだ。

 

 

 

その防壁が破られた。

 

 

 

絶対の信頼と……

 

 

 

絶対の憎悪の対象である……

 

 

 

夜月の防壁を。

 

 

 

 

 

 

なるほど……俺は再度見誤った訳か……

 

 

 

 

 

 

先のイスカンダルとの決闘。

 

あのとき確かに自らが最初に出現させた刀で勝てると踏んだ。

 

だが結果ははじき飛ばされた完全なる敗北。

 

あの場ではイレギュラーな自体が起きたことで刃夜が逃げ出したために、うやむやとなった。

 

だが本人も言っていたがアレは間違いなく刃夜の敗北。

 

そしてその敗北を覆す機会も……

 

あの快活で豪快な笑顔の男と再び勝負をすることも……

 

 

 

もう出来ない。

 

 

 

 

 

 

ならば……!!!!

 

 

 

 

 

 

刃夜は刃気、刃魔の解放を止めて立ち上がり……その両手を左の腰へと持っていく。

 

刃気、刃魔の力が失われて、更に防壁にヒビが入る。

 

未だ破ることが出来ぬ防壁に苛立ちを感じ……ギルガメッシュが吼えた。

 

 

 

「こざかしい! 小僧ごときが……我の決定を拒むか! 失せよ小僧!」

 

 

 

 

 

 

あぁ……拒むさ

 

 

 

 

 

 

ギルガメッシュの怒りの声が聞こえてきた気がした。

 

だから刃夜はそれに対して心で拒んだ。

 

受け入れる訳にはいかないのだ。

 

死ぬわけにはいかないのだ。

 

この世界ですらやらなければいけないことが多いというのに。

 

約束も果たさなければいけない。

 

 

 

何よりも……

 

 

 

 

 

 

斬らねばならないやつらがいる!

 

 

 

 

 

 

腰に回した両手の指を僅かに握り込む。

 

まるで見えない棒状の様な物が……抜刀する刀があるかのように。

 

その瞬間に……刃夜の左腕からいくつもの燐光が灯った。

 

 

 

「光嘶き閃く、雷の精霊よ……」

 

 

 

淡い青白い嘶きの様な光。

 

 

 

「霞み全てを溶かす、蝕の龍よ……」

 

 

 

淡い紫の禍々しい光。

 

 

 

「凍てつく風を吹かす、鋼の龍よ……」

 

 

 

淡い鋼と凍てつく風の光。

 

 

 

「全てを燃やす紫炎の龍妃に、全てを壊す紅炎の龍王よ……」

 

 

 

連なるように光り出す、淡い紫と紅の焔の光。

 

 

 

「そして……全ての命の息吹を司さどる、老山の龍よ……」

 

 

 

灯る全ての燐光よりも大きく、優しさを感じさせる無色の淡い光。

 

 

 

その全ての光が集まり一つになって……

 

 

 

刃夜の前腕から伝うようにして左の手のひらへと移動していく。

 

 

 

そして……その左手の光を、力強く握り込んだ。

 

 

 

その瞬間に、その光が伸びていき……刀の形を形成する。

 

 

 

 

 

 

「夜月の防壁を破ったお前ならば……こいつの試し斬りには申し分ない……」

 

 

 

 

 

 

ぼそりと……呟かれたその言葉。

 

小さき声。

 

取るに足らない小僧であり、自らを苛立たせた逆賊。

 

王の決定を受け止めず、ただただ無駄に時間だけを浪費させる愚か者。

 

見えぬ防壁の先で……何かをしていることは、当然だがギルガメッシュは気がついていた。

 

 

 

何だ?

 

 

 

凄まじいまでの魔力の波動を感じて、ギルガメッシュの怒りの中に、疑問が生じる。

 

そして乖離剣エアの魔力放出を止めぬままに、刃夜の手元に顕れようとしている何かを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

「  、  」

 

 

 

 

 

 

 

刃夜が何かを呟いた。

 

その呟きと同時に光りが収まり……

 

 

 

「それ」が姿を顕す……

 

 

 

ひび割れた不可視の壁は……まるでひび割れた鏡のように……

 

幾重にも刃夜の姿を映し出した……

 

だが……不思議なことに……

 

ギルガメッシュの瞳には……ただ一振りの刀しか……

 

彼自身の意識に入ってこなかった……

 

 

 

何だ……あれは……

 

 

 

怒りもなく……

 

驚きもなく……

 

ただただ茫然としていた……

 

静かに抜かれ、姿を表した白刃……

 

幾重にも写るその刀……

 

まるでひび割れた鏡は……

 

その刀を映し出すためだけに存在するかのように……

 

その刀を映し出していた……

 

 

刃渡り二尺五寸……

 

 

 

均一に反った刀身……

 

 

 

刃にはまるで、焔のような二つの波紋の皆焼が、その刀身を飾っていた……

 

 

 

身幅も重ねも、通常の刀よりもより大きく、太く……

 

 

 

その力強さを訴えかけているかのようだ……

 

 

 

柄、鍔、鎺、鞘……

 

 

 

そのどれをとっても、絢爛さとは程遠く、実に質素な佇まいだ……

 

 

 

だがその刀からギルガメッシュは……

 

眼を離すことが出来なかった……

 

 

 

白刃が……閃く……

 

 

 

不可視の壁を……

 

膨大な引き裂く力すらも……

 

全てを……斬り捨てて……

 

 

 

……何?

 

 

 

ただただ茫然と、ギルガメッシュは目の前で起きた出来事を反芻した……

 

全力で打ち抜いていた天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)が消失していた……

 

驚くには驚いたが……

 

それ以上に意味がわからなかった……

 

否、何が起こったのかはある程度は理解していた……

 

だが今まで感じたことのない理解不能なことが、自らの胸中に渦巻いていたため……

 

他のことなどどうでも良かった……

 

 

 

そして次に物事を認識した時には……

 

 

 

すでに刃夜が、刃夜自身の間合いにギルガメッシュを捉えており……

 

 

 

ギルガメッシュの前で、その刀を大上段に構えていた……

 

 

 

!?

 

 

 

すでに振り下ろす寸前のため、ギルガメッシュに出来ることはそうなかった……

 

故に、手に持った乖離剣エアを盾にするようにして……

 

頭上に振り上げることしかできなかった……

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 

 

 

 

 

裂帛の怒号……

 

その言の葉に負けない程に総身の膂力全てを練り上げて……

 

振り上げた打刀を……

 

 

 

袈裟斬りに振り下ろした……

 

 

 

 

 

 

「一閃!!!!!」

 

 

 

 

 

 

それは全てを斬り裂いた……

 

振り上げた乖離剣エアの剣身を……

 

身に着けた黄金の鎧を……

 

 

 

そしてギルガメッシュを……

 

 

 

全てを斬り裂きながらも……

 

 

 

その刀には一切の曇りも、毀れも……

 

 

 

 

 

 

なかった……

 

 

 

 

 

 

先ほどまで轟々と吹き荒れていた大気と、軋みを上げていた空間の悲鳴が嘘のように……

 

刃夜とギルガメッシュがいる公園は……

 

静まりかえっていた……

 

 

 

吐息すらもこぼさず……

 

 

 

僅かな時間ではあったが……完全なる静寂が二人を包んだ……

 

 

 

「っ!」

 

 

 

だがそれも直ぐに、刃夜が止めていた吐息を吐き出したことで、音が生まれた……

 

数回ほど荒い呼吸を繰り返し、刃夜が呼吸を整えた……

 

 

 

これは……一体……

 

 

 

目の前で、剣を、鎧を……

 

何より自らの肉体を斬り裂いたその刀がなんなのかという疑問に……

 

ギルガメッシュは思考を支配されていた……

 

 

 

「それは……なんだ?」

 

 

 

故にこの問いも、意識して問うた言葉ではなく……

 

自然と紡ぎ出された言葉だった……

 

 

 

「エアを超える剣など……宝物庫にはない……」

 

 

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

古の都の王が所有した全ての財を……武具を収める究極の宝物庫。

 

ギルガメッシュが射出する武具は、その全てが宝具の原点であり、比類なき究極の武具だ。

 

比類なき究極の武具であるが故に、彼が死した後に、宝物庫より散らばった武具達が数多の英雄達の手に渡り、その伝説を造り上げていった。

 

だがこの宝物庫の恐ろしいところはこれだけではない。

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)は人類の知恵の原点であり、あらゆる技術の雛形を収集しているということだ。

 

遙か過去……

 

遙か彼方の未来の物であっても、全てが保管されているのだ。

 

だが、今この僅かな時間にギルガメッシュが調べても、宝物庫には今刃夜が手にした刀と同等の物は存在しなかった。

 

当然だが「刀」自体は数多の数が存在していた。

 

だが、それでも刃夜が手にした「刀」はどこを探しても見あたらなかった。

 

 

 

「何だ……その刀は? 何故、我の宝物庫に存在しない物が……ここに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? あるわけないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そのギルガメッシュの疑問に対して、刃夜はいぶかしげな表情を浮かべながら、ただ一言ばっさりと斬り捨てた。

 

当然だが、刃夜は王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)がどのような物であるか認識している訳もない。

 

さらに言えば、刃夜は目の前のギルガメッシュ……アーチャーが……

 

人類最古の英雄王「ギルガメッシュ」であることすらも認識していない。

 

振り下ろした姿勢を正し、刃夜は何の変化もしていない手にした刀を一つ振って、左の腰に下緒(さげお)によって固定してある鞘に収めた。

 

そして下緒(さげお)を外して、鞘を左手に持ち……言葉を紡ぐ。

 

 

 

「前にも献上は断ったはずだが? しかもあの時の刀ではない「こいつ」が、貴様の宝物庫?にあるわけがないだろう」

 

 

 

侮蔑もなく、憤りもない。

 

ただただ淡々とした事実を述べているだけの様子だった。

 

 

 

「こいつは今の俺が打てる最強にして最高の刀」

 

 

 

鞘を握る指に力がこもる。

 

その刃夜の想いに応えるように……その刀全身から、燐光が発せられた。

 

 

 

「あいつら二人を……いつかぶった切るために造った究極の一振り」

 

 

 

自ら鍛造したと言いながら、その刀へと視線を投じている。

 

その見下ろした刀の先にいる何かを見据えているかのように。

 

刃夜が見据えているその先がなんなのか?

 

思わず抱いたギルガメッシュのその想いに反応するようにして……

 

 

 

ギルガメッシュの瞳がとある「人物」を写しだした……

 

 

 

勝手に……

 

無造作に……

 

 

 

 

 

 

気付かないうちに導かれたかのように……

 

 

 

 

 

 

ギルガメッシュは、己が今眼にした「人」を見て……

 

 

 

 

 

 

全てを理解した……

 

 

 

 

 

「く……くくくく……」

 

 

 

思わずというように、ギルガメッシュが声を漏らす……

 

突然の事に俯けていた顔を上げて、ギルガメッシュへと視線を投じた刃夜だったが……

 

目の前の男……英雄王ギルガメッシュは……

 

 

 

 

 

 

「は~~~~~はっはっはっは!!!」

 

 

 

 

 

 

ただただ……

 

 

 

笑っていた……

 

 

 

快活に……

 

 

 

朗らかに……

 

 

 

純粋に……

 

 

 

心から……

 

 

 

おかしそうに……

 

 

 

 

 

 

 

なるほど……そう言うことか!?

 

 

 

 

 

 

笑っているのは理解したからだ……

 

刃夜の刀が一体「何」に対して鍛えられた刃なのか?

 

何故、刃夜の行動に苛立ちを覚えたのか?

 

何故、刃夜の事を気に掛けていたのか?

 

 

 

その全てを……

 

 

 

 

 

 

かつて道化がいた

 

泥より造られて人になり、人ですらないその道化は、神の子の隣に並び立っていた

 

だが身の程を弁えないその傲岸不遜な行いは神々の怒りを買い、その命を落とした

 

 

 

生涯ただ一人の友

 

 

 

同じだったのだ

 

【人】の身で在りながら

 

神を越えようとしている

 

神に挑んでいる

 

 

 

愚か者である……【道化】

 

 

 

そう、刃夜はギルガメッシュからしてみれば生粋の【道化】でしかなかった

 

だが、自らの目の前にいる男はただの【道化】ではなかった

 

間違いなく【道化】であり、愚かでもある

 

けれどもその愚かさも……この刀と同じようにここまで練り上げ、鍛えた

 

 

 

その結果が、今の斬り裂くという結果になったのであれば話は別だった

 

 

 

()道化】でありながら、【道化()】を越えた者

 

 

 

それが

 

 

 

「鉄刃夜」

 

 

 

という存在だった

 

 

 

 

 

 

「全く、不敬な小僧よ。よもやここまで我の決定を否定するか」

 

 

 

 

 

 

刀の献上

 

 

 

そして刃夜の誅罰

 

 

 

王の絶対の意志を持って下されたその審判を……刃夜は最後まで否定し続けた

 

 

 

 

 

 

「受け入れる訳にはいかないからな」

 

 

 

 

 

 

「だがよい……許そう」

 

 

 

 

 

 

しかし【道化】であってもこの存在はギルガメッシュにとっては、どこまでいっても小僧でしかない

 

故にこの男の生き様は、ただの愚かな小僧が足掻いて、藻掻いていているにすぎない

 

この小僧の存在自体は、尊くもなく、眩いものでもない

 

 

 

ただ【道化】でありながら越えようとする愚か者

 

 

 

淀むことなく自らの化かした道を貫けるのか?

 

 

 

ただその結末だけが……

 

 

 

ギルガメッシュにとって興味あることであり……

 

 

 

 

 

 

この小僧に対して向ける、唯一の感情だった

 

 

 

 

 

 

「貴様のその道の行く先を……見ていてやろう」

 

 

 

 

 

 

そう呟きながら、ギルガメッシュは魔力の塵となって消滅した。

刃夜のその眼と脳裏に……

 

 

 

呪いにも似た憎たらしい笑みを……

 

 

 

焼き付けて……

 

 

 

 

 

 

「……ふんっ」

 

だがその笑みを刃夜は一つ息を吐いただけで斬り捨てた。

手にした「刀」を両手を突き出仕手、刀蔵へと封印する。

 

そして刃夜は再び柳洞寺へととって返す。

 

 

 

まだ最後の仕上げが残っているのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




宝具名  「     」
ランク  ?
種 別  対?宝具 人越兵装
レンジ  1
最大捕捉 1人

刃渡り  二尺五寸(約75cm)
種 類  打刀


刃夜が自らの目的のために、自ら鍛え上げた究極の一振り。
刀身の強靱さ、刃の鋭さ、どれをとっても今まで鍛え上げてきた刀の中では最高峰の出来。
刃夜にとっての最高傑作の刀であるいみで最強の刀なのだが、この刀は良くも悪くもただの「刀」でしかない。
あらゆるものを斬ることができるが、鉄の塊でしかないのだ。

刀を「越えた」存在でありながら、刀「以上」の事は出来ない。

そんな(宝具)だ。






今回ギルガメッシュとの戦闘において使用された得物だが、今回の勝利については純粋に相手が「ギルガメッシュ」だからこそ勝利できたという点を忘れてはならない。


聖杯戦争においては知名度というのが大きな戦術的、戦略的優位性を持つ。
セイバー……アーサー王が聖剣エクスカリバーを自らの宝具で不可視化していたのも、ひとえに優位であるのと同時に「弱点」でもあったからだ。
知名度があるために、一般的に知られており調べれば弱点を探ることが出来る。
しかし無名の英雄の場合は伝承や伝説がないためその心配もない。
だがその場合は知名度による戦力の強化を得ることが出来なくなる。
イスカンダル……アレキサンダー大王や、アーサー王に比べれば、ギルガメッシュの認知度は第四次聖杯戦争次においてはそこまで高くない。

また当然だが、ギルガメッシュが「サーヴァント」だからこそ刃夜が勝てたというのが最大の理由といえる。
当然だが霊体である彼らに生前ほどの力があるわけがない。

知名度

サーヴァント

この二つの要因が大きく勝敗を分けたのは間違いない。

だがそれでも……



生命としてただの「人」でありながら、英霊をただの刀で斬り裂いたという事実は、間違いない。

また刀についても、あくまでも「今」の刃夜の最高傑作であるため、これよりもさらに上質な刀が生まれる可能性も大いにあり得る。


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