桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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33 聖剣

ランスロットとの決闘を終えて、セイバーが引き返そうとした時に見た、あまりに巫山戯た案内の紙。

その紙に苛立ちを覚えつつも、セイバーはその案内を疑うことなく進み……

 

切嗣のそばへ……

 

 

 

地獄の釜の底へと……足を踏み入れていた。

 

 

 

「これは……これが? 聖杯……だというのか?」

 

 

 

見上げるは闇黒の……呪詛が注がれた器。

 

目の前の呪詛に圧倒されてしまうが、それと同程度の凄まじいほどの魔力を前にすれば、答えなどとっくに出ている。

 

 

 

すなわち……世界全ての呪詛を集めたかのようなこの器が……

 

 

 

万能の願望機のなれの果てなのだと……

 

 

 

「……」

 

愕然とするセイバーの傍らで、切嗣はセイバーに掛ける言葉もなく、ただ力なく地面に腰を下ろして紫煙をくゆらせていた。

 

そのそばで……言峰綺礼が心臓を弾丸によって穿たれて、事切れている。

 

直ぐそばで自らが殺した死体があるというのに……切嗣にはあまりにも感情の起伏がなかった。

 

言峰綺礼との戦いは、まさに切嗣にとって死闘だった。

 

預託令呪による切嗣の起源弾への完全なる対策。

 

そして綺礼自身の圧倒的な戦闘能力。

 

セイバーの宝具の一つである全て遠き理想郷(アヴァロン)による、致命傷ですらも瞬時に回復する治癒能力がなければ、間違いなくこの場で死んでいたのは切嗣だっただろう。

 

また戦闘中に綺礼が一瞬何かに驚くかのように隙を見せたのが大きな敗因となった。

 

 

 

だが切嗣にとって……自分に近しくもない、ただの敵が死に絶えようと、今更どうでもいいことだった。

 

 

 

この世界を……世界から地獄をなくすために動いていた。

 

いくつもの命を奪って、それよりも多数の命を救ってきた。

 

それでもこの世界から戦争は……地獄は消え去らなかった。

 

だから奇蹟に頼った。

 

 

 

だが……今その奇蹟にすら否定されてしまい、切嗣の胸にはぽっかりと、大きな穴が生まれてしまっていた。

 

 

 

もしも……切嗣がたった一人であった場合……

 

 

 

下手をすればこの場で命を捨てていたかも知れない。

 

 

 

だが……行動には責任が伴うのだ。

 

 

 

行動したからには……その責務を最後まで果たさなければならない。

 

 

 

強制的にでも責任を取らせる存在が……

 

 

 

 

 

 

「お……どうやら役者は揃ってるみたいだな」

 

 

 

 

 

 

二人が黒く染まってしまった聖杯の前で絶望している中で、実にあっけらかんとした態度で……

 

 

 

鉄刃夜がその場に姿を表した。

 

 

 

その右手に……

 

 

 

大聖杯よりも更におぞましい呪詛を漂わせた……

 

 

 

超野太刀、狩竜を手にして。

 

 

 

 

 

 

 

あらあら、まぁまぁ、おやおやおや……何というか、予想通りの反応だなぁ……

 

ギルガメッシュとの死闘を終えて、刃夜は直ぐに柳洞寺の地下深くにある、大聖杯の元へと飛んできて、変わり果てた聖杯の姿に絶望している二人組を見つけて、心の中で静かに黙祷していた。

 

まぁ……二人とも本気で聖杯に願いを託そうとしていたわけだからな。しょうがないか

 

同じような願いを、刃夜も願ったことがあった。

過去に戻れるならば?

あの子が生き返られるのなら?

だがそれは出来ないのだ。

出来てもしてはいけない。

そうわかったから。

いくつもの出会いと別れ。

いくつもの経験と後悔。

自らに関わっててくれた全ての人が、それを教えてくれたのだと……刃夜は長い修行の中でわかった。

 

だがそれだけではなく何よりも……

 

 

 

自らの目的のために力を貸してくれたランスロットのためにも……

 

 

 

刃夜は、今道を踏み誤ろうとしているセイバーを、助けなければいけなかった。

 

 

 

「つい先ほど、俺は黄金の鎧を纏ったアーチャーと戦い、勝利した」

 

 

 

「何?」

 

 

 

「イレギュラーなサーヴァントであるが、まぁ残るサーヴァントは俺とセイバー……お前だけなんだがどうする? 戦うか? といっても……」

 

 

 

実に挑戦的な言葉をセイバーへと向けた刃夜だったが、そんな必要はないと言うように、唸りを上げている大聖杯の姿を見上げて……肩をすくめた。

その唸りは、すでに器が満ち足りていることを……聖杯自身が告げていたのだ。

 

「必要なさそうだがな」

「……これが」

「さて、セイバーどうする? 俺は前にも言ったが聖杯に興味はない。別段お前と戦う必要性も感じてないため、もしも欲しいなら聖杯を譲るのもやぶさかではないが?」

 

その言葉に思わず驚き俯けていた顔を上げるが……直ぐにセイバーはその顔を曇らせる。

だがそれは無理からぬ事。

目の前の「物」。

これだけの魔力が充ち満ちた器であれば、聖杯であるということは間違いがない。

だが、凄まじい魔力よりもより激しく感じる憎悪と怨念。

 

これほどの「力」を有した物に願いを請うた場合……一体どのようにその願いが叶えられるのか?

 

想像に難くないと言っていいだろう。

絶対に良くないことが起きると……誰もがわかるほどの憎念だったのだから。

これによく似た……否、刃夜はこれとは比較にならない存在のことをよく知っている。

そしてその力がどのような結果をもたらすのかも、よく知っていた。

 

後一押しか……

 

聖杯が憎悪に染まっていた。

セイバーが事実上聖杯を手にしていながら、自らの願いを叶えようとしないのはそれも要因の一つなのだろう。

だがそれ以上に……セイバーには以前とは違い、聖杯を使うことを躊躇っている嫌いがあった。

その様子を見れば、ランスロットがうまくやったのだと、刃夜は直ぐに判断して……礼の意味も込めて、セイバーへと言葉を掛けた。

 

「バーサーカー……ランスロットと戦ったはずだ」

「……」

「その際、あいつはなんと言った?」

「……それは」

「別段答えなくていい。だがセイバー……これだけは教えて欲しい」

 

一人の異質な存在……サーヴァントとして、刃夜は敵であるセイバーへと言葉を投げかける。

 

 

 

「ランスロットの言葉は……お前に何も変化をもたらさなかったのか?」

 

 

 

わかっていてあえて……刃夜は確認の意味と、そしてセイバーに再度ランスロットの言葉を認識させるために、そう問うた。

 

自分(アーサー王)を憎んでいたこと

 

自分(ランスロット自身)を憎んでいたこと

 

 

 

そして……

 

 

 

自分(アーサー王)の元で……戦えたことが誇りであり

 

 

 

 

 

 

喜びだったのだと……

 

 

 

 

 

 

(ランスロット)はそう言い残して、消滅していった。

 

これで初めて、ランスロットは英霊達の集う場所へと心から行くことが出来ただろう。

 

 

生前の自らの行いで、狂うことでしか己を弔うことが出来なかった……騎士が。

 

自らを助けてくれた騎士。

 

そして自らが利用した騎士。

 

ならば自らが利用したそのせめてもの恩返しとして……

 

 

 

刃夜はこの場でセイバーを正さなければならない。

 

 

 

それが、幾人もの人に出会い

 

幾人もの人と別れ

 

そして幾人もの人から様々な物を授かった自らの役目であると……

 

 

 

刃夜は思った。

 

 

 

 

 

 

まぁランスロットに借りを返さなきゃならないってのも大きな理由だが

 

狩竜の鞘の先端を左手で持ち、長大な超野太刀を肩に乗せたまま、刃夜は静かにセイバーへと歩み寄っていく。

 

「あいつが仮初めの今際の際で……何を言ったのかは俺にはわからない」

 

ただただ淡々と……刃夜は自らの想いと言葉を口にする。

 

「だが、俺が無理矢理狂気を剥がしたあいつは、ただの人だった」

 

「……人?」

 

「そうだ。どこまで行っても、例え英霊だろうと、人は最後まで人であることを止められない。それこそ……自らをどれほど嫌悪し、憎悪したとしても」

 

自らの記憶を思い出す。

 

自らが救えずに滅んでしまった村。

 

自らが救えずに……死してしまったあの子。

 

それらに対する情が深いほどに……失った時の絶望と、それらを壊した者に対する憎悪は果てしなく、恐ろしく深かった。

 

だから狂った。

 

殺した。

 

だがそれでも……最後まで自ら(刃夜)刃夜(自ら)でしかなかった。

 

ランスロットだって同じなのだ。

 

どれだけ卓越した技術と力を有しても一人の人間なのだ。

 

 

 

それは当然……騎士王であるセイバー……

 

 

 

アーサーである……アルトリアも。

 

 

 

「俺もお前のことはほとんど知らない。王として国を治めていた位しかわからない。だが王として国を治めていたのなら、絶対に接したことのある人々……民がいたはずだ」

 

民。

その言葉を聞いて、セイバーの脳裏に映るのは、民の流血によって出来た血の川。

そしてその川原には砂利の変わりとでもいうよに……幾百、幾千の民達の死体があった。

死体の民達の顔はそのどれもが、怨嗟の表情を浮かべて事切れていた。

死の間際まで……何かを呪っていると、そう言っているかのようだった。

 

つくづく、私は王になるべきではなかったのか?

 

そう思った……そのとき、刃夜は言葉を放った。

 

「確かに国が滅んだことで、お前を恨んだ民はいただろう。だがセイバー……俺に教えてくれ」

 

こちらを見ろと……刃夜はそんな想いを込めて、言葉を放つ。

 

「自らの国が滅んだことで、安らかな滅びを望んだ王」

 

その想いが伝わったのかはわからない。

だがそれでも……顔を歪ませたままではあったが、それでもセイバーは顔を上げて、刃夜の眼を見た。

その瞳に……刃夜や限りなく真剣な想いを込めて見つめ返して

 

 

 

こういった。

 

 

 

「お前の民は……ただの一度もお前の事を、自らの王だと……認めてくれたことはなかったのか?」

 

 

 

!?

 

その言葉に導かれるように……セイバーの記憶の蓋が開かれる。

后との婚姻のとき。

ブリテンの王であるアーサーが后を迎えた時の、祝いの列の中で。

 

喜んで飛び跳ねている子供がいた。

 

乳飲み子を抱えながら、笑顔を向けてくる女がいた。

 

酒を手に、赤らめた顔で祝辞を叫ぶ男がいた。

 

年老いて満足に体を動かすことが出来ないというのに、笑顔で手を振る老人夫婦がいた。

 

 

 

何百……何千と……

 

 

 

みんなが自らと、ギネヴィアの婚姻を、祝福してくれていた。

 

 

 

「国が滅んだのだ。その際守れたなかった王に対して民が憎悪を抱くのは……無理からぬ事だろう。だがそれでも、お前が民を不幸にするために国を治めていたはずではないはずだ」

 

 

 

そう……ただただ必死だったのだ。

 

周辺国の敵。

 

貧困による飢饉。

 

天からの災害。

 

その全てから何とか民を……国を守ろうとした。

 

だがどれだけ力を尽くしても、うまくいかなかった。

 

 

 

だから(・・・)滅んだのだ。

 

 

 

セイバーの政治手腕が要因の一つでもあることは間違いない。

 

だが他にも滅んだ原因というのはいくらでもあるのだ。

 

決してセイバー……アーサー王だけが(・・・)原因で滅んだのではない。

 

 

 

「お前は最後まで民のために戦った、国のために戦った。汚職などしようと思えば、王であるため簡単にできただろうに。そんなお前だから円卓の騎士という、最強とも言える騎士達が集った。民達が祝福をした」

 

 

 

清廉潔白で騎士として完璧だったアーサー王に憧れて来た騎士達は大勢いた。

 

そして誰もが、アーサー王の下で騎士としていられることを誇りに思っていたのだ。

 

だから……

 

 

 

「もう……王としての自分を許してやれよ。セイバー……アーサー王よ」

 

 

 

「私が……私を許す?」

 

 

 

「そうだ。うまくやれたかも知れない。うまくできなかったかも知れない。だがすでに起こってしまったことをやり直せない。そして仮にやり直せたとしてもやり直しちゃいけないんだ。もしもやり直すと言うのなら、お前は民や騎士達が自らに向けてくれた信頼を……民達の笑顔を奪うことになるんだぞ?」

 

 

 

「!?」

 

 

 

やり直すと言うことは、それの全否定に他ならない。

 

悪いことも。

 

良いことも。

 

その全てを根こそぎ……「価値のなかった物だった」と、自らと自らに関わってくれた人々を裏切ることになるのだ。

 

だから……それだけはしてはいけないのだ。

 

人は一人で生きているわけではない。

 

ならば、その全ての結果は、関わった全ての人が受け入れなければならないのだ。

 

 

 

「これを聞いてなお、お前が聖杯にやり直しを……過去の改変を願うというのなら……」

 

 

 

殺意を

 

悪意を

 

放出せず

 

刃夜はただセイバーへと眼を向けて……

 

 

 

淡々とこういった。

 

 

 

「俺はお前を軽蔑する」

 

 

 

止めるでもなく、諭すわけでもなく

 

ただただ軽蔑をする。

 

刃夜ならば力づくで止めることは簡単だろう。

 

だがそれではダメなのだ。

 

セイバー自身が、己の意志で選択をしなければ。

 

それではセイバーが救われない。

 

ランスロットが全身全霊を賭けて挑んだ相手が……死んでしまう。

 

だから刃夜は想いが届くと信じて……セイバーから決して眼を逸らそうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

……許す……か

 

 

 

いつからだろう?

 

王であったのが自分でなければ良かったと思ったのは?

 

いつからだろう?

 

自分が自分を許せなくなったのは?

 

 

 

いつからだろう?

 

 

 

騎士と民が離れていってしまったのは?

 

 

 

 

 

 

いつからだろう?

 

 

 

 

 

 

自分が国を救えなかったと思ったのは?

 

 

 

 

 

 

ただただ必死だった。

 

何とか救おうとした。

 

だがそれでも救えなかった。

 

民が離れて行き、

 

騎士が離れていった。

 

やがて反乱が起きて、国が滅んだ。

 

豪華絢爛に繁栄する必要はない。

 

ただ安らかな国を造りたかった。

 

それだけの一心で駆け抜けたのだ。

 

 

 

確かに滅んだ。

 

 

 

確かに衰退した。

 

 

確かに……消えてしまった。

 

 

 

だが……それに至るまでの経緯が全て間違っていたわけではないのだ。

 

 

 

刃夜が言ったように、民の全てが自分とギネヴィアの婚姻を心から祝福してくれた事があった。

 

 

 

卓越した技量を持った騎士達が……自分の元で剣を振るい、国を守りたいと集ってくれた。

 

 

 

それに何より……最後のランスロットの言葉……

 

 

 

 

 

 

円卓の騎士として、貴方の元で戦えたのが……私にとって何よりの誇りであり、喜びでした

 

 

 

 

 

 

全く曇らぬ、やわらかな笑みで紡がれたその想い。

 

友の……臣下のその言葉を……

 

 

 

なかったことに(国の救済)……出来るのか?

 

 

 

 

 

 

出来ない……か……

 

 

 

 

 

 

今でも迷っている。

 

もしかしたら聖杯が呪詛に満ちているのは、何かの間違いなのかも知れない。

 

もしくは悪しき者に使わせないために、あえて憎悪が充ち満ちていると見せかけているのかも知れない。

 

そう考えることも出来る。

 

だが仮にそうだとしても……

 

 

 

もうセイバーには……

 

 

 

 

 

 

国を救う事(裏切る事)は……出来ないと……

 

 

 

 

 

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

こっちは大丈夫か……

 

セイバーから剣に握る手の力が抜けていくのを……刃夜は明確に察していた。

それが諦めによるものではなく……出来ないのだとそう認識したのだと。

セイバーの問題も片付けた。

ならば、最後の後始末は、正規の聖杯関係者でなければならない。

 

『いつまですねている?』

 

刃夜はぼそりと……風の力を使って切嗣にそう問うた。

その言葉に、やる気がなさそうに顔を上げて……切嗣は刃夜を見た。

 

『聖杯以外……世界の救済以外にもやるべきことがあるんだろうが? いつまで呆けていやがる?』

「聖杯……以外?」

 

『妻と舞夜はどうするんだ? ここでくたばるまで座り込んでいるのか? そのつもりならはっ倒してつれていくか……どうせ死ぬつもりなら二人も直ぐに後を追わせてやろうか?』

 

「!?」

 

その刃夜の言葉で……切嗣は残してきた者達を思い出す。

 

舞夜。

 

アイリスフィール。

 

 

 

そして……イリヤスフィールを。

 

 

 

『世界の救済が無理だとわかったなら……自分が責任を負った事柄はきちんと片付けろ。それが責任ってものだろう?』

 

 

 

イリヤが……待っててくれてるんだっけ……

 

霞みがかり、何も考えることが出来なかった頭が……思考を始めた。

聖杯戦争が始まる前に、アインツベルンの城に置いてきた自らの愛娘を思い出す。

母親がもう帰ってこないと言われても……それでもなお気丈にも自分とアイリを送り出した、愛おしい娘を。

そう、自分は約束したのだ。

必ずイリヤを迎えに行くと。

 

なら、この場でくたばるわけにはいかないのだ。

 

世界の救済が出来なかった。

 

おそらく(切嗣)はこれからも地獄の日々を歩むことになるのだろう。

 

 

 

世界を救うことが出来なかった己自身を呪う日々を。

 

 

 

だがそれがイリヤから逃げ出す理由にはならない。

自らが妻を持ち、娘を抱いた……その夫として……

 

父として

 

まだ、くたばるわけにはいかなかった。

 

 

 

僅かだが……それでも瞳に灯火のような炎を宿して……

 

切嗣が立ち上がった。

 

そして希望を託そうとしたなれの果て……地獄の大釜を見下ろすことが出来るくぼみの縁まで、足を運んだ。

 

その隣に……セイバーが並んだ。

 

「……」

 

「……」

 

最後に至っても、二人に会話はない。

 

だがそれでも二人の胸中に宿す想いは一緒だった。

 

静かに、切嗣は令呪の刻まれた右手を掲げる。

 

 

 

そして……セイバーへ最後に向ける言葉を

 

 

 

紡いだ。

 

 

 

「衛宮切嗣の名の許に、令呪を以てセイバーに命ず」

 

 

 

セイバーの魂に直接働きかけるその言葉(呪文)

 

その呪いの言葉を……セイバーは拒むことなく素直に受け止める。

 

纏っていた風が……聖剣の鞘が払われて、地獄の大釜に新たな光が生まれる。

 

その光は地獄の大釜から発せられる呪いの光を隅々まで照らし、浄化するかのように……

 

 

 

地下空洞全体を光で埋め尽くす。

 

 

 

「宝具にて……」

 

 

 

最後の一言を呟く前に……今ままで積み上げてきた屍達の姿が脳裏をよぎった。

 

まるで今すぐこちらに来いと……

 

死した自分達と同じところまで誘っているかのようだった。

 

 

 

世界を救うために殺したのではなかったのか?

 

 

 

世界を救う手だてを壊すことがお前の正義なのか?

 

 

 

 

 

 

裏切るというのか?

 

 

 

 

 

 

そう問うている様だった。

 

 

 

 

 

 

あぁ……そうだ……

 

 

 

 

 

 

全てが空っぽになった気持ちだった。

 

悲しみもない。

 

怒りもない。

 

もう何もかもがなくなってしまったかのようだった。

 

求め続けた奇蹟に裏切られて……

 

世界を救うことが出来ないとわかってしまった。

 

がらんどうの……ただの生ける屍になってしまった気分だった。

 

 

 

だが……それでも……

 

 

 

確かに自分の手には、残された者がいる。

 

 

 

会いに行かなければいけない娘がいる。

 

 

 

だから……切嗣は……

 

 

 

今まで世界を救うために……多数のために犠牲にしてきた少数の人々全ての憎念に対して……

 

 

 

こう呟いた。

 

 

 

 

 

 

裏切るとも……

 

 

 

 

 

 

裏切るとは少し意味が違うかも知れない。

 

それでも……自らが長年抱いていた夢を裏切る事には間違いがない。

 

だが……裏切るしかないのだ。

 

これだけの憎悪と力が解き放たれれば、どのようなことが起きるのか容易に想像が出来る。

 

だから、裏切るのだ。

 

何せ衛宮切嗣は……

 

 

 

 

 

 

僕は……世界を救う……

 

 

 

 

 

 

正義の味方を目指した……優しい男なのだから。

 

 

 

 

 

 

最後まで貫くことが出来なかった……壊れてしまった、失ってしまった

 

 

 

信念の言葉。

 

 

 

その響きは犠牲になった……切嗣に殺された者からすれば実に陳腐で巫山戯た言葉だった。

 

 

 

だがどれだけ憎念に否定されようと、切嗣はこの信念を……

 

 

 

その屍達を再び殺して……切嗣は最後の言葉を口にした

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯を破壊しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

令呪にて下された、絶対の命令。

 

だがその命令をセイバーは抵抗することなく心から、自らが行うべき事だと理解して、その剣を振り上げる。

 

輝ける命の奔流。

 

数多の生命が抱いた希望の剣。

 

 

 

約束された(エクス)!!!!」

 

 

 

その名を……

 

 

 

 

 

 

勝利の剣(カリバー)!」

 

 

 

 

 

 

あふれ出る極光。

 

その光は先ほどよりも眩い光を放ち……大聖杯を破壊し……

 

 

 

セイバーを呪いから解き放っていた。

 

 

 

 

 

 

「やった……のか?」

 

光が収まり、先ほどまでの憎悪が薄れているのを感じて、切嗣は聖杯を無事に破壊できたことを確信した。

 

だがそれで全てが丸く収まったのかどうかわからず、切嗣は極光によって見ることが出来ない目を必死に懲らして、辺りの様子をうかがった。

 

特に変化がないように見受けられた。

 

だが……とてつもない凄まじいまでの何かを感じ取って……上を見上げて……

 

 

 

絶句した。

 

 

 

 

 

 

「何だ……アレは……?」

 

 

 

大聖杯があった地獄の釜の中心部の真上。

 

そこには暗闇よりもより深き、より黒き

 

 

 

漆黒の穴があった。

 

 

 

その穴が別のどこかに通じた何かであると……切嗣は本能的に察していた。

 

そしてその穴から……濁流のように黒き何かが溢れだし……

 

 

 

下にある地獄の大釜を満たしていく。

 

 

 

「馬鹿な……」

 

 

 

聖杯は確かに破壊した。

 

だが……その中に満たされていた何かは、それでは殺すことが出来なかったのだと、切嗣は察したのだ。

 

確かに大聖杯を壊しても、それはあくまでも外側……文字通り器を壊したにすぎない

 

壊された事によって器に満ちていた何かがあふれ出すのは……至極当然と言えるかも知れない。

 

 

 

そのあふれ出す何かが……到底人の手に余るものでなければ、ただ座視していれば良かった。

 

 

 

だがそんな生やさしいものでないことは……誰の目にも明らかだった。

 

 

 

 

 

 

「そんな馬鹿な!?」

 

 

 

 

 

 

あふれ出す黒泥。

 

大釜へと注がれていくだけで……その黒泥がどれほどの力を有しているのか、魔術師である切嗣にはある程度肌で感じ取ることが出来た。

 

だがその全てを感じることは出来なかった。

 

あまりにも巨大すぎて、全てを感じるなど不可能だと……切嗣はそう思った。

 

このままでは一体どのような災害が起こるのか……想像も出来ないほどに。

 

 

 

奇蹟(万能の器)に裏切られ

 

 

 

奇蹟(世界の救済)を裏切り

 

 

 

奇蹟(正義の味方)を破壊した

 

 

 

だというのに、災害が……天災が起こることは防げないのかと……

 

 

 

切嗣が絶望しかけたそのとき……

 

 

 

 

 

 

「待ってたんだよ……この瞬間をなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

憎悪が溢れだし……怨嗟の声が響くまさに地獄の一部であるこの地底の底の底で……

 

切嗣は自らの横でそんな言葉を放った男の横顔を見て……自らの目を疑った。

 

 

 

そこには……この世全ての悪が凝り固まった化身のような……

 

 

 

 

 

断じてただの「人」ではない……

 

 

 

 

 

 

黒き何かを纏った魔人が

 

 

 

 

 

 

いたのだから。

 

 

 

いつの間にか持ち替えた右の手で手にした超野太刀を掲げて……魔人は嬉々として飛び上がり……

 

 

 

恐るべき事に黒泥が溜まりつつある地獄の釜の中心部の底に向かって突貫したのだ。

 

 

 

「まっ!?」

 

 

 

止める間などあるわけもなく

 

止めることなど出来るわけもなく……

 

切嗣は黒泥へと飛び込んだ刃夜を茫然と見ることしかできなかった。

 

 

 

 

刃夜が飛び込んで……僅かな時間が過ぎて……

 

 

 

切嗣は悪寒とも恐怖とも言える何かが体に走ったことを感じ取った。

 

その瞬間には何も考えることなく体が勝手に動いていた。

 

地獄の大釜を見下ろせる釜の縁から、少しでも大釜から離れるように……振り向いて全力で走った。

 

そして次の瞬間に……

 

 

 

!!!!

 

 

 

巨大な何かが破砕するかのような音と共に……地獄の大釜より突如として、巨大な氷の塊が出現していた。

 

しかしそれも一瞬で、出現した巨大な氷塊が再び一瞬にして消滅した。

 

消滅したのはその巨大な氷塊を覆い尽くすような巨大な炎が猛ったからだ。

 

地獄の大釜が一瞬にして灼熱の大地と化す程の高熱。

 

まるで地獄の炎が出現したかのようだった。

 

 

 

一体……何が……

 

 

 

しばし大釜から離れて様子を見守っていた切嗣だったが……しばらく何も起きないことを確認し、再び大釜の縁に足を運んで大釜の底を見下ろした。

 

 

 

そこには……超野太刀を地面に突き刺して、仁王立ちしている、

 

 

 

鉄刃夜がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

あーーーーーーーーすっきりした

 

 

大聖杯から漏れ出した黒泥を全て狩竜が吸収し、更にすでに閉じられた穴の先すらも喰らい尽くし、その莫大な怨念と数十年ため込まれた魔力制御を刃夜は行った。

怨念は全て狩竜に吸い込まれて、さらに臓硯を苦しめることになる。

ちなみに臓硯は狩竜の中に魂を吸収されて、怨念の大海の中の一粒として今も苦しんでいたりする。

また吸収した魔力については、刃夜が貯蓄できるだけの魔力を吸収した後は、大聖杯の基部に刻まれていた魔術式を破壊するために使用された。

 

具体的には……

 

魔術式を凍結

 

凍結後、術式と凍結した巨大氷塊を破砕

 

破砕した後、周囲全てを紅炎で完全消滅

 

となっている。

 

さて……後は方々の後片付けか

 

盛り上がった釜の縁で茫然としている切嗣の気配を感じ取りつつ、刃夜は荒れ狂っていた体内の調整を何とか終えて……切嗣のそばへと跳んだ。

 

「何を呆けてるんだ?」

「……貴様……本当に人間か?」

「一応ね。このやりとりはいささか飽きた。さて……衛宮切嗣、これからどうするんだ?」

「これから?」

 

この先の事を考えていなかった切嗣は……その問いに答えることが直ぐには出来なかった。

聖杯戦争は完全に終わった。

狂ってしまった聖杯は刃夜によって破壊され、中に溜まっていた魔力や黒い何かもすでにこの世界からは消滅した。

 

だがそんな過程よりも……残ってしまった重大な事実がある。

 

世界を救うことが出来なかったという……事実が。

 

切嗣も、あの聖杯に願いを言えば、とんでもない自体になるとわかってはいる。

だがそれでも

 

この世界を救う手だてがもうないのだと……諦めるしかない事が、悲しかった。

 

けれど……先に言われた刃夜の言葉

 

 

 

世界の救済が無理だとわかったなら……自分が責任を負った事柄はきちんと片付けろ。それが責任ってものだろう?

 

 

 

いかなければいけない。

娘の元へと。

 

 

「僕は……一度アインツベルンの城に行く」

「ほう?」

「なんとしても……イリヤだけは……」

 

縋る訳じゃない。

依存する気もない。

 

だがそれでも……娘との約束だけは守らなければ。

 

 

 

うん! イリヤは我慢するよ。キリツグのこと、お母様と一緒に待ってるよ

 

 

 

もう母に会うことが出来ないと……そう聞かされても笑顔で送り出してくれたイリヤ。

 

 

 

いくつもの約束を……誓いを破ってきた。

 

だから、この約束だけは守らなければいけない。

 

それこそ……世界を敵に回してでも。

 

 

 

世界を救うと願った祈りの分まで。

 

 

 

「そうか。ならこれを渡しておくわ」

 

切嗣が一種の覚悟を決めている状況だったが、そんなこと刃夜にとって知ったことではない。

 

切嗣がどのような想いを抱いていようが関係がない。

 

 

 

ある意味で……刃夜にとってここからが本番なのだから。

 

 

 

「これは……?」

 

刃夜が投げ渡して来た物を思わず受け取ってしまう切嗣が、手にした物を見て疑問符を浮かべる。

手にしているのは「守」と刻まれた小さな鉄の板。

一部に穴が開いており、そこに紐が通されて提げられるようになっている。

 

「発信器」

「発信器だって?」

「俺限定のな」

「?」

 

言っている意味が理解できないのは当然だったが、次の台詞で切嗣は驚愕した。

 

「娘助けにいくんだろ? なら助っ人は多い方が良いだろう? 敵陣に乗り込んで攻め入る前にそれに少しだけ魔力を通してくれ。アインツベルンは……ドイツだっけ? 単純計算……二時間ほど待ってくれれば加勢する」

 

……何を言ってるんだこいつは?

 

先ほどまでの畏怖や恐怖といった感情とはまた別の感情……

 

こいつ大丈夫か?

 

という、少々残念な感情が切嗣の中に生まれた。

言っている当人は大真面目であり……強迫観念にも似た何かに突き動かされている感じだった。

だが……刃夜はその強迫観念に逆らうことはしなかった。

何故かはわからない。

 

絶対に手助けをしなければいけないと……。

 

そう思ったのだから。

 

切嗣も刃夜が嘘でも酔狂でもなく本気で言っていることがわかったのだろう。

だが本気だとわかっても、それを受け入れる理由がない。

確かに聖杯戦争は終わったが敵同士だったのだ。

アイリと舞夜を使って切嗣をだましたのは事実だ。

故に信用できないと言われたら刃夜としても反論できなかっただろう。

また切嗣が単体でアインツベルンに単身で挑んでも、イリヤの救出は不可能ではない。

だが……時間がかかることは間違いなく、その間イリヤに何をされるのかはわからない。

二つに一つ。

 

……どうすべきだ?

 

悩むのはある意味で当然と言えた。

そしてその当然なことを、刃夜が気付かないはずもなく、切嗣の迷いを打ち払った。

 

「娘を迎えに行くのにお父さんだけでは子供がかわいそうだろう? お母さんも一緒の方が良いんじゃないか?」

「!? それは……」

「つーか悪いけど……これは脅迫だぞ?」

「脅――!?」

 

脅迫とオウム返しの様に言葉を放とうとした切嗣は……口を止めるしかなかった。

何せ先ほどまで数メートルは離れていた刃夜がいつの間にか距離を詰めて……切嗣ののど元に短刀を突き出しているからだ。

頸動脈が切れるように……僅かに腕を曲げた状態で。

ここに至って切嗣は理解した。

 

この申し出を断れば……目の前のこの男は今この場で自分を殺すのも辞さないのだと……

 

「どうする?」

「……」

 

その言葉に対して、切嗣は首を縦に振る選択肢しか残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

「ただいま!」

「! お帰りなさい!」

「お帰り……刃夜」

 

また刃夜も桜に寂しい思いをさせていたので、一度帰宅し桜と雁夜に全てが終わったことを伝えた。

聖杯を掴むことは出来なかった雁夜だったが、桜のために欲したので、今後聖杯戦争が行われないことなど正直どうでも良いことだった。

 

というよりも……

 

「……聖杯戦争って終わったんだよな?」

「終わったというか終わらせたというか……。大聖杯は木っ端微塵にしたし、中身は俺と邪神がおいしく戴きました」

「じゃ……邪神? ……なら何で刃夜、お前がまだいるの?」

 

若干失礼な物言いに取れなくもないが、そう思ってしまうのも無理からぬ事だろう。

イレギュラーとはいえ、サーヴァントとしているはずの刃夜が、英霊を召喚するための大聖杯がなくなった今、存在していることの方がおかしいのだから。

 

「イレギュラーだからじゃない? というか最初に言ったが俺はまだ死んでない。魔力供給とかも受けてないからそのせいじゃないか?」

「……そう言う物なのか?」

「というか、まだいくつもやらなきゃいけないことあるから消えるに消えない」

「やること?」

「まぁ当分厄介になるから、よろしく」

「それはまぁ……問題ないけど」

 

雁夜としても、刃夜がいてくれた方が心強いので困ることはない。

とりあえず桜と雁夜については刃夜としても何ら問題はなかった。

 

 

 

最後の夜が明けて……切嗣は直ぐに旅支度を始めた。

まだ新たな体に慣れていないアイリではあったが、しかしイリヤの救出は急を要すると判断し、切嗣は舞夜をアイリの補佐として同行させて直ぐにアインツベルンの城へと赴くことにした。

刃夜はそれを確認し、いつでも動けるように準備を進める。

そしてその準備を進める前に……とある家へと、一人で赴いた。

 

「……朝早い時間に突然の来訪、失礼します」

「……いえ、大丈夫です」

 

遠坂時臣が妻と長女……凜を避難させている隣町の家へと。

まだ少々早いのため、凜はまだ眠っている。

時臣の妻……葵は、少々驚いていたが、しかし雁夜と行動を共にしており、凜を救ってくれた刃夜のことを、少々警戒しつつも疑うことなく家の中へと招き入れた。

そのことに刃夜は心から感謝しつつ……リビングに招き入れられて、頭を下げた。

 

「……どうしたんですか?」

「……申し訳ない。約束を守ることが出来ませんでした」

「!? それは……つまり……」

「桜ちゃんは無事だが……時臣を救うことは、叶いませんでした」

 

刃夜から時臣の死を告げられて、葵は言葉を詰まらせた。

だが、声を荒げることも、崩れ落ちることもなかった。

しかしやはり動揺はしているらしく……ソファーに寄りかかって、何とか体を支えている程度だった。

刃夜は支えることを手伝うこともなく、ただただ頭を下げ続けていた。

 

……気丈な人だ

 

刃夜は何とか体勢を立て直してソファーに座り込んだ葵を気配で察して……素直に感心した。

自らの伴侶が死んだことを突きつけられてなお、取り乱すことをしなかったのだから。

 

「……頭を上げてください」

 

何とか絞り出すように刃夜に葵はそう言った。

しばしそのままでいたが、このままでは話が進まないため刃夜としても仕方なく、頭を上げた。

そこには……何とか涙を出さないように、必死に時臣の妻として……魔術師の妻たらんとしている葵の姿がそこにあった。

 

「時臣さんと貴方は……敵同士だったのですよね?」

「はい」

「貴方が殺した訳でもなく……雁夜君が殺した訳でもないんですよね?」

「はい」

 

葵の問いに、刃夜は真摯に何より嘘偽りなく答えた。

それだけが聞きたかったのか……葵はその後は静かに刃夜に礼だけを述べた。

しかし、それでは刃夜の気が済まなかったので、何かしら役に立つと言い刃夜は遠坂のセーフハウスを後にした。

少し整理する時間も必要だろうから。

 

 

 

そして刃夜は自らに課した責務を全うしようと行動を開始する。

だが……何をするにしても刃夜としても金が必要なわけで……

 

「申し訳ない雁夜。金くれ」

「……今度は何に使うんだ?」

「再度のリフォームとかその他諸々」

「リフォーム? また? 何で?」

「必要な武家屋敷がもう一件あるからな」

 

刃夜にリフォーム先の家を聞いて雁夜としては一瞬出し渋ったが、しかし刃夜がどうしても必要だと聞かないため、折れる形で雁夜は刃夜にお金を渡した。

そしていくつものリフォーム建材の材料を買いそろえ、夜になったため家に帰り夕食を三人で食べて、桜を寝かしつけると……発信器から反応があった。

 

「お、着いたのか。ちょっと賭けだったが」

「またぞろ今度は何をするんだ?」

 

刃夜と二人で静かに晩酌をしていた雁夜は、心底呆れながら刃夜へと視線を投じる。

そこには……酒を飲み僅かに赤らめて、上機嫌につまみと酒を味わっていた男の姿はなく……見ている雁夜の背筋が寒くなるほど鋭い戦意を漲らせた戦士がいた。

 

「すまない雁夜。ちょっと出掛けてくる。明日……まぁどんなに遅くとも明後日には帰ってくるわ」

 

武装を出現させて準備を行いながら、刃夜が家を空けると言ってくる。

その言葉に雁夜は驚いた。

聖杯戦争が終わったため命の危険はないだろうが、それでも刃夜が何日も留守にするなど思いもしなかったからだ。

 

「そんなに? どこに行くんだ?」

「ドイツ」

「はぁ?」

 

何故日本の裏側といって良いほどの距離にあるドイツが突然出てくるのか?

そもそもドイツにどうやっていくのか?

ドイツに行くのに一日二日でいけるわけがない。

まさかドイツ村なのか?

等々、雁夜には一瞬にしていくつもの疑問が渦巻いたが、刃夜はさっさと準備を整えると……

 

「じゃ……行ってくる」

 

と、止める間もなく、本当にどこか近所にでも出掛けてくるとでもいうように……消えた。

 

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