桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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34 娘

……本当に来るのか?

 

それが、アインツベルンの森に向かいながら歩く切嗣の、正直な感想だった。

ドイツに到着し、アイリの体の調子を見ながら小休止し、現地で移動手段を入手。

それから騙されたつもりで切嗣は刃夜に渡された発信器……どう見てもただの鉄板のキーホルダー……に魔力を通したが、当然だが何の反応もない。

それから車を移動させて、アインツベルンの本拠地である城へとたどり着き、最終準備を整えていた。

半信半疑……というよりも正直うさんくさい以外の何物でもなかったが、アイリが薦めてくるのとないよりはましという思いのもと、刃夜の言うとおりに魔力を通した……だったが、無駄だったかも知れない。

それが切嗣の正直な感想だ。

 

「切嗣。こちらの準備は整いました」

「そうか」

 

フル武装した……ありったけの重火器、銃器に弾薬、ナイフに手榴弾を搭載したバンタイプの車の中で準備を進めていた……舞夜が、準備を終えて切嗣へと声を掛ける。

声を掛けられた切嗣も、すでに武装の準備を終えている。

聖杯戦争よりも更に重装備の出で立ちだが、それも無理からぬ事だろう。

何せ戦闘に向かない一族とはいえ、それでも千年以上の歴史を誇っている魔術の大家……アインツベルンの本拠地へと、たった三人で乗り込もうとしているのだから。

しかも目当ての品物は……第五次聖杯戦争の聖杯(イリヤ)だ。

相手からしたら死守すべき物であり、さらに言えば裏切り者である切嗣とアイリに、イリヤを渡す道理などどこにもない。

 

「舞夜、お前は基本的にアイリの護衛としてこの場に残っていてくれ」

「しかし……一人で敵陣に乗り込むなど」

「だが、アイリが満足に動けない状況では仕方がない」

 

本来の肉体……聖杯の器であるアイリであれば、アインツベルンの森では無双の力を発揮しただろう。

だが今のアイリは、肉体を移し替えた……ある意味生まれ変わった存在と言っていい。

故に魂がまだ体になれておらず、魔術回路もなくなってしまったアイリは、戦力には程遠い。

聖杯戦争を終えてから切嗣の中に仕込んだ概念礼装……全て遠き理想郷(アヴァロン)をアイリに移植することで、多少なりとも回復等に役立っているが、それでもセイバーなき今、聖杯戦争時ほどの回復力は見込めなかった。

それでも切嗣はアイリを連れてきたかった。

もう二度と会うことが出来ないはずだった母と娘だったのだ。

この奇蹟がいつまで続くかわからない。

だから……不利になるとわかっていても、切嗣は舞夜を護衛にする形で連れてきたのだ。

 

「大丈夫よ……キリツグ」

「……アイリ」

 

深い雪に足を取られながら、しかしそれでも杖を突いて地面にしっかりと立ちながら、アイリは微笑んだ。

かなり辛いはずだというのに、必死になって笑顔を振りまいて。

 

「あの人が自分から言ったんでしょう? ならきっとくるわよ」

「……だが」

「むちゃくちゃな人なんだから……きっとむちゃくちゃにするでしょうね。けど、き――」

 

きっと来る……そう言おうとしたアイリの言葉は問答無用で止められた。

 

三人がいる場所より百メートルほど離れた場所が……突如として爆発したのだから。

 

「「「!?」」」

 

突然の事だったが、切嗣と舞夜の行動は早かった。

アイリの元へ走って警護する舞夜。

切嗣は近くの太い幹の樹木を背にして……高速で雪をまき散らしながら進んでいく何かを見つめた。

やがていくらかの距離を行くと雪が飛び散るのも静まり……その何かが目に入ってくる。

そこには……

 

 

 

片膝立ちで……いくつもの刀を装備している刃夜の姿があった。

 

 

 

!? 本当に来ただって!? 一体……どうやって?

 

日本からドイツまで相当の距離……9,043km……がある。

だというのにこの不可思議な男は身一つで本当にアインツベルンの本拠地へ……切嗣に持たした発信器のそばへとやってきた。

アイリも舞夜も、片膝立ちの男が刃夜だとわかったのだろう。

三人は一度顔を見合わせて、警戒しつつ刃夜へと近寄っていく。

近寄っていっても、刃夜は立ち上がるそぶりすら見せない。

そのことにいぶかしむ切嗣だったが……近づくと理由がわかった。

 

「はぁはぁ……うっぷ……。ぐぅぅぉぉぉ」

 

口元に手を当てて、必死に吐き気を堪えている刃夜がいたのだから。

 

 

 

……今なら殺せるか?

 

 

 

おそらく無理だとわかっていた切嗣だが、そう思えてしまうほどに今の刃夜は隙だらけで……非常に弱々しく見えた。

 

「はぁはぁ……う、ぐぅぅ……」

 

必死に吐き気を堪えながら……刃夜は黄色い液体の満たされた小瓶を取り出して、一気に中身を呷った。

すると……

 

「復活!」

 

と、小気味よく体を動かしながら、刃夜が立ち上がった。

その様子を……三人は茫然と見つめていた。

 

「あたなも、そんな動きするのね?」

「む、アイリスフィールか。まぁな。呪いみたいなもんだな」

 

何の呪い?

 

と三人が同時に心の中で思ったがしかし、誰もそれを口にすることはなかった。

立ち上がって体の調子を確認し終えた刃夜が、背後のうっそうとした森……アインツベルンの城へと繋がる森を見やった。

 

「さて……大層な結界が張ってあるが、まぁ問題なかろう」

「……大貴族とも言えるアインツベルンの結界を前にしてすごいな」

 

半分皮肉も交えて、切嗣は刃夜へとそうこぼした。

だがそんな皮肉など問題ない。

というよりも……切嗣も刃夜のことをまだ甘く見ていたと言っていいだろう。

何せこれからする刃夜の行動に……度肝を抜かれることになるのだから。

 

「さて、二人の娘を助け出すわけだが……アインツベルンは良くも悪くも魔術師?なるものの大家でしかない。いわば本当に悪の家ってわけじゃない。故に……問答無用で突貫するのは俺の本意ではない」

「? ならどうするんだ?」

「こうするんだ」

 

切嗣の当然の疑問にただ一言そう答えて……刃夜は、風翔の力を用いた。

 

 

 

「魔術の大家! アインツベルンへと告げる!」

 

 

 

森全体を震わす程の大声が……響き渡った。

それは森の木々に留まっていた鳥たちが一斉に飛び立つことで把握できた。

だが、そばで聞いている三人の鼓膜は破れることなく、ただただ刃夜が大声を上げているようにしか見えなかった。

だが少しでも魔力を感じ取れれば理解できた。

刃夜が何かしらの力を利用しているのだと。

 

「俺の名は、第四次聖杯戦争に召喚された、第八騎目のイレギュラーサーヴァント、クラス名開拓者(フロンティア)、鉄刃夜!」

 

朗々と、淡々と……刃夜はただただ作業をこなしていく様な簡単な感じに、言葉を並べた。

 

「大聖杯は俺が昨日、完全に破壊した! 故にもう聖杯戦争を開催することは叶わない!」

 

数百年に及ぶ奇蹟を成就させるための儀式を破壊したと宣う男。

切嗣も直に刃夜の実力を見ていなければ鼻で嗤っていただろう。

だが切嗣は当然知っている。

この目の前で口上を述べている男が……どれだけ恐ろしい存在かと言うことを……。

 

「こちらの要求はただ一つ! イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの身柄の引き渡しだ!」

 

だがそれでも宣戦布告する理由が思い浮かばない切嗣としては……わざわざ敵の警戒度を上げる理由がわからず、内心で頭を抱えていた。

そんな切嗣の心情など知ったことかと……刃夜は言葉を続ける。

 

「一分待つ! その間に何かしらの反応を示さない場合は要求を拒否したものとみなし、強硬手段をとる! よく考えて欲しい!」

 

一通り好きにしゃべった刃夜は一つ、ふぅ……と吐息を吐いて、三人へと振り返った。

 

「さて、一分だが作戦を話す」

「作戦? そんな物が?」

 

「おう。作戦名は「戦って戦って、戦い抜いたら最後にイリヤを奪い取っていたのは僕だった」……作戦だ」

 

「「「……」」」

 

もはや開いた口がふさがらない……といっても誰も口を開けてはいなかったが……様子の三人。

 

「不満か? 類似品の……「逃げて逃げて逃げ抜いたのに、最後は結局捕まった」作戦よりはましだろう?」

「「「……」」」

 

かわいそうな人を見る眼になってしまうのも……無理からぬ事だろう。

そんな三人の顔を見て……刃夜も少し気まずかったのか、顔を背ける。

 

「すまん……ちょっとテンションがおかしな事になってるらしい」

「……しかし警戒させて本当に大丈夫なのか?」

 

刃夜の阿呆な発言はスルーして、切嗣は刃夜へと問いただす。

切嗣としては何とかイリヤが奪還できればアインツベルンなどもはやどうでもよかった。

娘を本気で心配しているのは父、母共にだったので、アイリも少々不安そうな瞳を刃夜へと向ける。

その二人の視線には逆らえず……刃夜も一つ溜め息を吐くと、真面目な顔でこう述べた。

 

「安心しろ。お前らにも、そしてイリヤスフィールという子供も……誰一人として、お前らには傷一つ負わせん」

 

そうはっきりと述べると、刃夜は再度振り向いて……森を見据えて、

 

 

突如二人に分裂した。

 

 

 

といっても分身の術など便利な術は覚えていないので、ただただ高速で動いて分身しているように見えているだけだが……。

どうやら話している内に一分経過したらしい。

そして刀を上へと上げて……

 

 

 

叫んだ。

 

 

 

左&右「俺の刀が震えて唸る!」

 

 

 

左「子供を救えと!」

 

 

 

右「轟き叫ぶ!」

 

 

 

……高速で動く二人の刃夜は、まるで本当に二人でいるかのように……それぞれがそれぞれの動作をしている。

一人は刀を上げて、もう一人は右手を前に突き出して力強く握ったり等々。

そして、その二人がまるで踊りを踊るかのように互いの手を繫ぎあい……それぞれが正面から手を繫ぎあい、それぞれが刀を持った手を振り上げて、

 

叫んだ。

 

 

 

左「空破(くうは)!」

 

 

 

右「崩穿(ほうせん)!」

 

 

 

そして二人で握りしめたまま高く上げた刀に……雷光が纏われ、その刀を振り下ろした!

 

 

 

左&右「雷閃剣(らいせんけん)!」

 

 

 

雷光が空を裂くほどの長さに伸びて……アインツベルンの森を結界毎、一刀両断した。

その瞬間に雷光は収まり、そして刃夜も一人に戻った。

 

「な――!?」

 

あまりに馬鹿げた攻撃だったが、攻撃その物も馬鹿げたていた。

何せアインツベルンの結界を斬り裂いたのだ。

魔術の大家アインルベルンの結界を。

確かに戦闘に不向きな一族ではあるが、それでも千年以上の歴史を持つ魔術の貴族だ。

生半可な結界ではないのは間違いないのだ。

だがそれを刃夜は問答無用で切り裂いた。

それによって……敵の警戒度も跳ね上がったことは間違いない。

 

「安心しろ」

 

切嗣とアイリの不安を正確に把握した刃夜は振り下ろした刀……雷月を鞘に収めて刀蔵へとしまいつつ、振り返って力強く頷いた。

 

「イリヤスフィールの元には、俺がもっとも信頼する最強の存在を、すでに護衛につけた」

 

その言葉には、限りない力強さと、確かな信頼があった。

故に、不安に思いつつもその言葉を信じるしかなく、三人はただ黙って刃夜の言葉を聞いた。

 

「俺たちはただただ向かい来る敵を殺さずに戦闘不能にしながら進んでいけばいい。切嗣は……自分でどうにかしろ。アイリスフィールと舞夜は俺が引き受けた。二人は固まって行動しろ」

 

そう言いながら刃夜は悠々と、森の中へと入っていく。しかもその際に歩きやすいようにするためか、刃夜が通った足下の雪が溶けて地面がむき出しになっている。

これなら杖を突いたアイリスフィールも歩きやすいだろう。

しかも切嗣のことは守らないと言いつつも、三人が並んで歩くことが出来る幅の道を造っているので、三人とも守る気があるのが見え見えだった。

 

……本当に大丈夫なんだろうな?

 

ここまで来た上に、しかもここまで出鱈目なことをされては信用するしかないが、それでも万が一にもイリヤに何かあったら絶対に許すことは出来ない。

故に切嗣は一人で先行しようかと動こうとしたがその瞬間に……

 

!!!

 

悪寒が背筋を通り抜けて、切嗣の動きを封じた。

歴戦の戦士であり、そして今の己にとってもっとも大切な存在を助けに行こうと……必死になっている切嗣を止めることが出来る者など、当然だがこの場では一人しかいない。

 

……

 

抵抗すれば下手をすれば意識を刈り取られかねないと判断し、仕方なく切嗣は刃夜の後ろについていくことにした。

不要だったかも知れないが、それでも殿のために最後尾へと回った。

 

当然、相当人数のホムンクルス達が迎撃に向かってきたのだが……それについては語るまでもないだろう。

 

殺して欲しくないというアイリの希望の元、刃夜は全てを軽くあしらって先へと進んでいった。

 

 

 

何だというのだ!? あの巫山戯た存在は!?

 

アインツベルンの最高権力ユーグスタクハイト……アハト翁は歯が砕けんばかりの力で歯ぎしりしてしまっていたが、そのことに本人が気付いていなかった。

それほどの怒りを覚えていたからだ。

それも当然といえた。

冬木に向かわせた配下達からの報告で、存在自体は把握していた。

そして冬木の聖杯を破壊したということも、信じがたい事だが納得していた。

 

だが、大聖杯を破壊されたというあり得ない話と……

 

突如として飛来した第八騎目のサーヴァントが、宣戦布告をしてきた挙げ句結界を破壊されたのだ。

 

怒り心頭になるのも無理からぬ事だろう。

しかも今も迎撃に向かわせたホムンクルス達が、全く歯が立たないという報告も上がってきていた。

この状況に至っては聖杯であるイリヤをつれて逃げるという選択肢以外にあり得ない。

大貴族であるアインツベルンが。

手駒に裏切られて事もあり、その中は憎悪で渦巻いていた。

だがその憎悪も……

 

 

 

『……』

 

 

 

連れ出そうと訪れたイリヤの寝台がある部屋へ足を踏み入れて……そのイリヤを守護するように寄り添い淡い光を放つ幻獣を見て、ほんの一瞬だけ怒りと憎悪が頭から抜け落ちた。

だが、それも一瞬ですぐにその幻獣を排除しようと考えたが……不可能だと直ぐに察した。

 

白く輝く白亜の体。

 

青き小さな稲妻を発する体毛。

 

蒼い螺旋の角を額に宿した……幻獣。

 

この場にいれば魔術師であれば……いや、ただの人であってもその姿を見れば誰もが納得するだろう。

 

この獣は……幻想種の幻獣であると。

 

 

 

『……』

 

 

 

その幻獣は何もすることなく、ただただイリヤに寄り添っているだけだ。

だがひとたび悪意と害意を抱いて行動すれば、その雷でたちまち攻撃されるのは目に見えた。

故に、アハト翁はこう告げるしかなかった。

 

「イリヤスフィール。こちらに来なさい」

 

 

 

 

 

 

大きな声が聞こえた。

その声が聞こえたと同時に……大切な人が近くまで来ていることに、イリヤは気付いていた。

 

「キリツグと……お母様だ!」

 

まだ魔術も満足に扱えないがそれでもここはアインツベルンの本拠地。

魔術など使えなくてもイリヤは感じ取っていた。

切嗣が約束を守ったのだと。

そして……もう会えないと言われていた母親に、再び会うことが出来るのだと。

その喜びに逆らうことなく、入り口へと走ろうとしたそのとき……

 

 

 

!!!!

 

 

 

轟音と共に、城が一瞬だけ揺れた。

その揺れに驚いて、イリヤは一瞬目を閉じてしまう。

そして目を開けた次の瞬間に……

 

 

 

『……』

 

 

 

自らのそばに淡く、暖かな光を放つ幻獣がいた。

その幻獣が自らを見下ろしてくるその目を、イリヤは真っ正面から見返した。

 

なんて綺麗な子なのだろう?

 

なんて純粋な暖かさなのだろう?

 

なんて安心できる子なのだろう?

 

初めて見て、そして初めてそばにいるその存在に、イリヤ自身も魅入られたように、見上げていた。

 

 

 

『……このままここで待っていましょう』

 

 

 

「あなたは……だれ?」

 

 

 

『私はキリン。ジンヤの要望に応えて、あなたを守りにきました』

 

 

 

「守る?」

 

何から守るというのか?

それがイリヤにはわからなかった。

ここは自分が住んでいる場所だ。

両親がいなくなってしまったが、それでもメイドのホムンクルス達のことをイリヤは好いていた。

そして怖いけれど、それでもアハト翁も嫌いではなかった。

だから一体誰から守るというのはわからなかったが、それでもアハト翁が迎えに来たことで何となくイリヤもわかった……。

 

アハト翁は、自分から切嗣とアイリを奪うつもりなのだと……。

 

「イリヤスフィール。こちらに来なさい」

 

いつも以上に厳格にそう言われても……イリヤは動かなかった。

動きたくなかった。

動いてしまえば……アハト翁のそばに行けば、もう会えなくなるとわかったから。

 

「その幻獣が何かをする前にきなさい!」

 

『……あなたの父と母がもうすぐ、迎えに来ますよ』

 

そしてイリヤの不安を和らげるように優しく光を放ちながら、幻獣……キリンがイリヤを庇うように一歩前に出る。

だから……イリヤは初めてアハト翁の言葉に逆らった。

 

「嫌だ」

「こっちに来なさい! そいつが何をするかわからない!」

「こんなきれいな子が、ひどいことなんてするわけない! この子がキリツグとお母様がここに……イリヤを迎えに来てくれるっていってる! だからイリヤはここにいる!」

 

例えどれほど厳格であろうとも……両親を求める幼子の思いを断ち切らせるのは難しかったのだろう。

しかもアハト翁がキリンと危険な存在だと言うのも、イリヤとしてはいやだった。

だから今まで逆らったことがなかった存在に初めて逆らった。

そのとき……

 

「邪魔すんぞ~」

 

そんな呑気な声を上げながら、超野太刀を肩に乗せながら部屋の入り口から入ってきた男……鉄刃夜がそこにいた。

その姿には憤りも疲労も何もなく……ただただ散歩に来たとでも言いたげな様子だ。

そしてそのあまりにも余裕綽々な様子は……攻められている側から見たら腹立たしいことこの上なく、憎悪を抱くには十分すぎる。

数百年と生きるホムンクルスの憎悪は、一般人であれば卒倒するほどの圧力を伴っていたが……当然刃夜にとっては涼しい風にもならなかった。

 

「「イリヤ!」」

「!? お母様! キリツグ!」

 

そしてこの場に来て、アハト翁も、刃夜もキリンも……そんなことなど心底どうでもいいと思う二人がいて、二人はその自らの気持ちに逆らうことなくキリンのそばにいるイリヤと走っていった。

そしてイリヤも、満面の笑みを浮かべて二人に向かって走っていく。

 

「!?」

 

当然その瞬間を狙って邪魔をしようとするアインツベルンの者達がいたが、それは刃夜とキリンが殺意と圧力をもって強引に動きを封じた。

 

「イリヤ! イリヤ! あぁ……また会えるなんて!」

「お母様! 会えないって言ってたのにまた会えて、嬉しい!」

「イリヤ……。無事で良かった」

「キリツグも! きちんと約束を守ってくれたんだね!」

 

姿形が多少なりとも以前のアイリとは違うのだが、それでもイリヤにとっては魂がアイリである以上、そんなことなど関係ないのだろう。

舞夜はそんな三人を微笑みながら眩しそうに見つめていた。

そしてその舞夜を……刃夜が横目で盗み見て、内心で溜め息を吐いていた。

 

……やること本当に多いな、俺

 

もう一つやることが増えたことを認識して、刃夜は肩をすくめていた。

そしてその仕草は、アインツベルン達を激昂させるのだが……その次の瞬間には刃夜が殺意を再び放ち、動きを止めた。

 

「キリン。すまないが首飾りになって四人の護衛を頼む。空港行くまでには俺も合流する」

『わかりました』

「俺は少々こいつらを懲らしめて四人に手を出させないようにしておく」

「あなたは……だれ?」

 

アイリと切嗣に抱きしめられながら、イリヤは見たことのない人物であり、不思議な雰囲気と力を宿した存在である、刃夜のことを見つめて呟いていた。

本当にただの呟きであり、イリヤとしては問いかけたつもりはなかった。

だが、刃夜にはその言葉はしっかりと聞こえており、イリヤに対して笑みを浮かべて、こういった。

 

 

 

「俺か? 俺は鉄刃夜だ」

 

 

 

 

 

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